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闇堕ちのエルフ  作者: 綾部 響
第二章 猛火、渦巻く
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エルフ郷 ―相克の結末―

片腕を落とされたラフィーネは心身ともに疲労の極みと言える。

にも関わらず、彼女からその気勢が衰えない事を、シェキーナは感じ取っていた……。

 シェキーナからダメージを負い、精霊力の勝負でも押され吐血し、膝を付いていたラフィーネであったが、そのシェキーナの言葉を受けて立ち上がった。

 その表情は、正しく狂気に満ちている。

 目は血走り険相を湛え、その姿は悪鬼も斯くやと言う程であった。

 しかしその口元は僅かに……(ほころ)んでいる。

 シェキーナを睨むその眼にも風狂(ふうきょう)が浮かび上がっているものの、見ようによってはどこか楽しそうにも見えた。

 そしてそれは何も、ラフィーネだけでは無かった。


「良い顔になったわね。……せめて最期(・・)は、そうでなければね」


 相対するシェキーナの表情もまた、妖しいほどの凶悪さを帯びている。

 ただしそれも、決して余裕がある訳では無い。

 疲労をありありと浮かべるラフィーネ同様、シェキーナの頬を大粒の汗が幾筋も滴り、時折苦しそうな面持ちさえ浮かべている。


 聖霊ネネイにより光の神から力を受けたラフィーネ。

 しかしその力を使う為には、多大なリスクを必要とする。

 だがそれは、シェキーナとて同じ事であった。

 それでも今、シェキーナは口角を吊り上げて……笑っていたのだった。


 ラフィーネの咆哮と共に、イフリートはシヴァを一気に押し返した。

 そして距離を取った両精霊は、再び対峙する事となったのだ。


「……はぁ……はぁ……。流石は我が姉、シェキーナ……。最上級の精霊を呼び出し続けてその余裕……。私の方はそろそろ限界だと言うのに……お前には本当に感嘆するばかりだ……」


 心に(わだかま)った仄暗い思いを吐きだしたラフィーネが、荒い呼吸と共にそう口にした。

 思いの丈を叫び出した事で幾分気持ちが晴れたのだろうか、先程まで否定だけを口にしていたものとは違い、どこかシェキーナを認めている様な物言いであった。


「でも……このまま……でもこのまま、お前に屈する訳にはいかないっ! 私の全てをぶつけてシェキーナ……お前を……倒すっ!」


 それでも、その決意には一向に揺らぎなど無い。

 もっとも……すでにラフィーネの命運は決しており、今更その方針を変更する事など出来ないのだが。


「良い覚悟ね、ラフィーネ。それに……漸くらしい顔(・・・・)になった。私の方も、いつまでもこの精霊を維持し続ける事なんて出来ない……。だから、ラフィーネ。決着を付けましょう」


 そんなラフィーネの素の言葉を受けて、シェキーナもまた少しだけ(・・・・)素直な言葉で返した。

 ただしやはり、彼女の方でもこの戦いをこのまま終えると言う選択肢はなく。

 どちらかが倒れる事での決着を望んだものであった。


「はああぁぁっ!」


 気合いと共に、ラフィーネがその残された精霊力を極限まで高める。

 それと共に、猛焔の精霊(イフリート)も右手を高々と掲げ、その掌に巨大な炎の塊を顕現したのだった。

 イフリートの作り出した灼熱の炎塊は、その大きさを徐々に膨らませて行く。


「ガ……ガハッ!」


 その行為自体が、今のラフィーネにはかなりの負担なのか。

 彼女は大量の血を吐くも、それでも膝を屈することなく高めた精霊力にも揺るぎはない。


「まさに……全身全霊ね……。ならば!」


 それに呼応するかのように、シェキーナもまた精霊力を高めだした。

 それと同時に、輝氷の精霊(シヴァ)もイフリートと同じ様に右腕を掲げて掌を上へと向け、強大な氷の塊を作り出したのだった。


「……く……」


 シェキーナもまた、ラフィーネ程ではないにしろその口端から血が流れ出す。

 それ程に、この魔法は心身への負荷がかなりのものなのだ。

 それ以前に、開いた「蓋」より得た「力」の強大さとそれにかかる代償が、彼女の身体に相応なものを求めていたのだが。

 それでもラフィーネの行動に対して付き合ったのは、彼女の気持ちに応えたのか……それとも姉の意地なのか。


 今や双方の精霊が掲げる霊玉は極大に達していた。

 それも、ただ大きいだけではない。

 イフリートの作り出した炎塊はその温度を増して行き、赤を通り越して青白く発光していた。

 それだけならば、それが超高温の球体であるとは思えないほどに。

 しかし時折立ち昇る紅炎(プロミネンス)が、その物体が太陽の如き灼熱体である事を物語っていたのだった。

 それに対するシヴァの冷塊もまた、その温度を極限まで下げていた。

 白よりもなお純白なその塊は、いっそ清廉ですらある。

 互いに極限まで高めたその球塊は大きさ、そしてその威力まで甲乙付け難いものにまでなっていた。

 そしてそんなものを、シェキーナとラフィーネの双方ともが何時までも維持し続ける事など出来やしない。


 それを証明する様に、まるで息を合わせたかのようなタイミングで……2人は同時にそれを放った。


 真っ直ぐに目の前の敵へと向けて放たれたその極大霊塊は、やはり2人の中間点でぶつかり合う。

 拮抗した力は、すぐに相手を凌駕する事など出来ずに(せめ)ぎ合った。

 周囲には衝撃による力の余波が撒き散らされ、凄まじい熱波と冷波が撒き散らされる事となる。

 その力は周囲の木々や建物を炭化させ、あるいは霧氷と化して渦巻いた。





「きゃあっ!」


「うおっ!」


 凄絶な炎冷の豪波は、離れた場所でその戦いを観戦していたエルナーシャ達の元まで届いていた。

 シェキーナ達から距離があったお蔭でその勢いは随分と軽減されてはいるが、それでも周囲の木々を燃やし、凍らせるだけの威力は有している。


「……エルナーシャ様!」


 誰よりも先んじて防御障壁を張ったのは、誰あろうレヴィアであった。

 元より彼女の任務は、エルナーシャを守り仕える事。

 その能力(スキル)からなる攻撃力は勿論なのだが、盾となるだけの防御力はそれなりに有していた。

 勿論、魔法を生業としているアエッタやセヘルに比べれば、その構成出来る規模はかなり狭いものとなる。

 それでも、人一人を守るだけならば……問題ない。


「つおおおぉぉっ!」


 残念ながらその効力から洩れたジェルマは、拙い防御魔法を展開しつつ手に持つ盾を翳して、何とかその激流に耐えていた。

 彼にとって幸いだったのは。

 その殺人的冷熱波は……そう長くは続かなかったと言う事だろうか。





 更に離れた場所には郷への入り口があり、そこには負傷者を含めて多くの親衛騎士団が控えていた。

 既にレンブルム姉妹がそこには到達しており、エルナーシャの指示通り防御障壁を得意としている者たちに不測の事態へと備えるよう指示は出し終えていたのだが。


「シルカ―――これは―――!」


「メルカ―――やばいどすな―――!」


 シェキーナとエルナーシャの激突した余波がこの場へと襲い来る事を察した2人は、申し合わせたように顔を見合わせて頷いていた。


「防御障壁―――!」


「即座に展開し―――!」


 そしてすぐに、周囲の親衛騎士団員に再度指示を出した。

 ただしそう言われても、団員には理由が理解出来ない。

 呆けた顔で動きを止める団員達に舌打ちをし、シルカとメルカは協力して作り出した防御障壁を先んじて展開した。

 その背後には……保護した子供達が寝かされている。


「ええから―――!」


「とっととし―――や―――!」


 率先して行動を起こされ、更には語気を荒げてそう命令されては、他の者もそれが緊急の事態だと理解出来ない訳がない。

 親衛騎士団員たちは漸く、それぞれの場所で防御障壁を張り出したのだが。


「うわああぁぁっ!」


「あ……熱いっ!」


「手が……手が凍っちまった―――っ!」


 僅かに遅れた者やその後ろにいた者達は、襲来した冷熱波に呑まれてその身を燃やし、凍らせていたのだった。


「……あ―――あ……」


「……言わんこっちゃありまへんなぁ―――……」


 それを横目に見つつ、シルカとメルカは嘆息をついたのだった。





 シェキーナとラフィーネ、2人の力比べは簡単に決着がつく様なものではない。


「……く……」


「……ぐ……ぐぐ……」


 そしてその反動は、その力を顕現させている双方の術者へと跳ね返っていた。

 2人共、今の持ち得る力の全てをつぎ込んでいるのだ。

 それでも優劣は付かず、そのダメージは2人の肉体を蝕んでいった。


「……くく……」


「あ……あああ―――っ!」


 ラフィーネの雄叫びと共に、ぶつかり合っていた双方の攻撃魔法が対消滅を起こす。

 それは即ち、全くの互角の威力であったと言う証左に他ならない。

 一際大きな余波が巻き起こり2人を……周囲を赤と白が染め上げた。

 そして正しく全力を出し尽くしたシェキーナとラフィーネは、即座に動き出せる状況ではなく。


 暫しの沈黙がその場を支配していたのだった。


共に精魂込めた一撃は、ぶつかり合った後に対消滅を起こして消え去った。

その場には静寂が訪れ、もはや戦いが続く様な気配はない……筈であった……。

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