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闇堕ちのエルフ  作者: 綾部 響
第1章 闇の女王
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老竜の逆鱗

ドラゴンを倒し再び合流を果たしたシェキーナとエルナーシャ達は、再び王龍の元へと向かう為に歩を進めたのだった。

 この山の森へと足を踏み入れた時と同じく、シェキーナを先頭として一行は山頂へと向かい行軍を再開した。

 一つの戦いを終えて、シェキーナに付き従う者達には目に見えて変化が現れていた。


 ―――良い方向にも……悪い方向にも。


 エルナーシャ達は、極力自然体でシェキーナのすぐ後ろを歩いている。

 しかしその実、その神経を最大限に働かせて、周囲の気配を探る努力をしていたのだった。

 先程シェキーナの言った「経験により、周囲の機微を敏感に感じる」と言う事を、彼女たちなりに何とか実践しようと試行錯誤していたのだった。

 またアエッタは、極力魔力の消費を抑えながらもより広く探索の網を広げる様に試みていた。

 彼女達の努力は、それこそ一朝一夕で出来る訳では無い。

 だがその精励は、いずれ実を結ぶ事だろう。

 何よりも、周囲に危険が潜む緊迫した状況での修練は、普段行うものの何倍も効果を得る事が出来るのだから。


 それに反してジェルマ達は、その様な事に頭が働いていないと言うのが実状だった。

 ジェルマは先程シェキーナに答えた事を考えると、何とも悔しく情けない思いに駆られてしまうのだった。

 彼は先程の場では「問題ない」等と応えては見たものの、シェキーナには確りと見破られている事を感じ取っていた。

 そしてその場では最善であると考えた答えであったが、時間の経過とともに何とも御寒い気持ちとなっていたのだった。


 シルカとメルカは、先程の事など全く気にしていなかった。

 シェキーナの言う「経験」を積むと言う事に否やは無いが、だからと言って何も起こっていない現状で何かアクションを取ると言う発想には至っていないのだ。

 彼女達も親衛隊の一員として向上心が無い事も無いが、それが何時でも何処でも……と言うタイプでは無いのであった。


 イラージュもまた、ただ山道を歩いているだけのこの状況で何かしら試してみると言う事はしていなかった。

 もっとも今の彼女には……いや、何時でも彼女はアエッタの事だけを考えており、他の事は二の次なのだが。


 セヘルもまた、何かを試みていると言う様子はない。

 彼はジェルマ達の事では無く、エルナーシャ達の事を考えていたのだった。

 彼自身、彼女達の実力を目にした事は無い。

 だからこそセヘルには、エルナーシャ達がどの様な戦いを繰り広げたのか……気になったのだった。

 特にアエッタ……彼が一方的にライバル視し、「メルルの後継者」等と呼ばれている彼女の事は、セヘルにとって無視できない事でもあった。


 この様に全く違う反応を見せた2つのグループであったが、それもそう長い時間では無かった。

 その理由は、全員の意識が前方へと釘付けになったからであった。





「……っ!?」


 ゆっくりと歩みを止めて前方を見据えるシェキーナの次にその存在(・・・・)を気付いたのは、やはりと言うべきかアエッタであった。


 シェキーナ達の随分と前方ながらその眼前には……巨石の上に鎮座している老竜(エルダー・ドラゴン)の姿があった。


 老竜が存在している事は、この山に分け入って暫くの後にシェキーナとアエッタにより確認されている。

 その事を、流石に一同の誰一人として意識しなかった事は無い。

 下位龍(ロウアー・ドラゴン)よりも遥かに強力な存在である老竜は、常識的に考えれば“出会いたくない相手”であるのだから。


「……か……母様(かあさま)……」


 その姿を確認したエルナーシャが、まるで老竜と対峙しているかのように先頭で立ち尽くすシェキーナの背中へ向けて話しかけた。

 その声は、当然と言うべきか……震えている。

 勿論、そんな心情下にあるのは何もエルナーシャだけではない。

 いや……シェキーナ以外の全員が、皆エルナーシャと同じ様な心境だった。


 それもその筈である。

 古龍エンシェント・ドラゴンを除いて、恐らくは魔獣の中でも(・・・・・・)最強クラスの生物なのだ。

 エルナーシャ達の前に鎮座するその姿は威厳さえ感じさせ、先程戦ったドラゴンやその他の魔獣とは一線を画すると言っても過言では無かった。

 何よりも、エルナーシャ達が老竜と敵対する形で対峙する事は初めてである。


 ジェルマ達は以前にエルス達と行動を共にし、遠巻きではあるがその姿を見ている。

 ただしその時は、まともな戦闘にはならなかった。

 あっさりとエルスがその場を収めたので、老竜も本気とはならなかったのだ。


 しかし今彼等の前に在る老竜は、その気配をまるで木石の様に変えて動かない。

 明らかに老竜のテリトリー内であると言うのに、ピクリとも動こうとはしないのだ。

 それが逆にエルナーシャ達には、無言の威迫となって襲い掛かって来ていたのだった。


「心配は要らない。エルナ……お前達は少し下がっていなさい」


 そんなエルナーシャへ、シェキーナはいつもと変わらぬ声音でそう答え指示した。


 いや……いつもと同じ……ではない。


 その眼は老竜を捉えて離さず、いつもよりも爛々と光り輝いている。


 その声はどこか喜色ばんでおり、逸る思いを必死で堪えている様にも感じられた。


 そしてその表情には……凶悪な笑みが浮かび上がっている。


 その気配を感じ取ったジェルマ達は、普段とはついぞ違うシェキーナの姿に声もなくただ言われた通り後退ったのだが。

 それを見たエルナーシャは、シェキーナに対して恐怖を覚えた……等と言う事は無かったのだった。

 ただ彼女が思い至った事はたった一つ。


 ―――母様の邪魔をしてはならない。


 ただそれだけである。

 エルナーシャは後方で控えるレヴィアとアエッタに視線で合図を送り、ゆっくりと……そして僅かに後退した。

 当然の事ながら、彼女達2人にもシェキーナの変容を目の当たりにした動揺など皆無である。


 それもその筈で、それがシェキーナの本性……その一端である事を、エルナーシャ達は既に知っていたからであった。

 何よりも、彼女達はその気勢が自分達に向けられる事は無いと言う事も確信していた。

 故に……何も恐れる事は無いのだ。


 そしてシェキーナはゆっくりと……歩を進めだした。


 それが切っ掛けだったのか、今まで彫像のように動かないでいた老竜が、まるでシェキーナに呼応するかのように動き出し、その巨大な翼を大きく広げたのだった。


 まるで……大きく羽ばたきをするかのように。


 まるで……シェキーナを迎える様に。


 一人先行するシェキーナは、老竜より凡そ20歩の距離を置いて立ち止まった。


『この地に何をしに来たのだ……エルフの娘よ?』


 老竜が、公用語ではない……「龍言語」と呼ばれる独自の言葉でシェキーナに話し掛けた。

 高い知能を有する老竜とは、この言語を用いたコミュニケーションを取ることが可能なのだ。


 勿論……老竜がそう望んでいたならば……なのだが。


「この山に、王龍ジェナザードが滞在していると聞く。今般私は、この魔界を統べる『魔王』となった。魔王は就任の報告を王龍に行う事が慣例だとか。故に私は、王龍との面会を求めるのだが」


 龍言語で話しかけた老竜に対して、シェキーナは公用語で返答した。

 シェキーナが龍言語を話せないからではない。

 長らく彼女の故郷であった「エルフ郷」の門番を買って出てくれていた老竜、グリーンドラゴンと交流のあった彼女だ。

 老竜と会話を繰り返すうちに、既に龍言語を身に着けていたのだった。


 それでもシェキーナが龍言語で応えなかったのは、相手の……老竜の土場で会話する事を嫌ったからであった。

 彼女は魔族の代表として此処へとやって来ている。

 龍族の軍門に下る訳でも、隷属を申し出る為にやってきた訳でも無い。

 あくまでもこちらの方が上……少なくとも、対等の立場である存在。

 シェキーナは少なからず、そう考えていたのだった。


 そんな思考の一辺がシェキーナの言葉に紛れ込んでいたのか。


『我が主は、今は誰とも会わぬ。ひ弱な人風情が、気安く我が王に会おうとは考えない事だ』


 老竜から返ってきた言葉は、交渉を決裂させるものであった。


「……それでも推し通る……と言うならば……何とする?」


 それを聞いてシェキーナは、やはり口端を吊り上げてそう問い返すも。


『汝が、死者の都へと足を踏み入れる事となる』


 がらりと雰囲気を変えた老竜が、今にも飛び掛からんばかりに体を傾けてそう答えた。


「それは……お前の方だろう?」


「ガアアアァァァッ!」


 シェキーナの更なる挑発と、老竜の開戦を意味する咆哮が放たれたのは、殆ど同時であった。


切って落とされた老竜との戦闘。

果たして、シェキーナは老竜との戦いに勝利する事が出来るのか!?

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