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第九十六話 確たる思い


 部屋を少しだけ捜索し、そして置かれている資料へと目を通す。


 様々なグラフや実験結果などが書かれていた。


 しかし理系ではない俺には、いったい何のことが書かれているかわからなかった。


「主様、どうしましょうか?」


「どうするって言ったってなぁ……」


 手元の資料を見て思う。


 嫌がらせという意味では、ここにあるものは燃やしたほうがいいのだろう。


 だが、ここにシスト隊員が必要としている資料もあるかもしれないし、下手に何かしないほうがいいんだろうな。


「あるじー、ここにあるじがいるー」


「ん?」


 奥のほうから、何やら資料を持った未桜がやってきて見せてくる。


 それを見て、俺と鈴は驚愕した。


「これは……まじで俺じゃん」


「どうしてここに主様が……」


 生年月日から通っている高校まで、事細かに情報が記載されていた。


 俺の記憶がない時のものから、ごく最近の出来事まで書かれており、それが複数枚に至っていた。


「いや、ちょっと待てよ」


 未桜が持ってきた資料は、複数枚綴りが複数あった。


 二つ目の資料に目を通すと、そこには沙耶のプロフィールが載っていた。


 俺の知っていることから、知らないことまで。


 そして、魔力量までも。


「俺以外にも、沙耶や結奈、それに怜までも載ってる……」


「おー、わたしとりんものってるよー」


 かなりの厚さになるそれは、全員の特徴として『魔力量が多いこと』だった。


 つまりそれが意味するところとは、沙耶だけではなく俺たちも実験の対象となりうるわけである。


「うれしいね~」


 だが意味を知らぬ未桜には、俺たちのことが乗っているということに喜んでいる様子だった。


 これは注意したほうがいいのだろうか?



「こらっ、こんなことを嬉しがってはいけません! 私たちのことを犯罪者組織に知れ渡っているのですよ!」


「ご、ごめんなさい……」


 注意するか迷っていると、突如として鈴が怒鳴り声をあげた。


 普段凛々しい鈴からは想像ができないほど、切羽詰まったような表情で発言しているため、例え未桜でも怯えてしまっていた。


「鈴、ちょっと声が大きいぞ?」


「あっ……。も、申し訳ございません!」


 俺もすぐには声を出せずにいたが、このままでは二人の関係が悪くなってしまうと考え、鈴を少し注意した。


 しかし未桜と同じく、俺もあまり事の重大性を理解していないのだが、鈴がここまで怒るというのはそれほどのことなのだろう。


「あーいや、俺こそ事の重大性を理解していなかったな」


 例え理解できていなくても俺自身はどうにでもなるが、主として示しがつかないためしっかりしようか。


「確かに俺たちのことが知られているっていうのは由々しき事態だよな」


 俺が記憶をなくす前と後では性格に若干の違和感があると書いてある。


 ストーカー並に気持ちが悪いため、マジでこれはどうにかしたほうがいいのだろうな。


「しっかし、これはどうしたものか」


「まさか沙耶の復讐に来たのに、シスト以外にも俺たちを知っている奴らがいるということが知れるなんてな」


「ふこうちゅうのさいわい?」


「まぁ、そうともいうかな?」


 対処するにしても、まずは俺たちが知られているということを知れたのは大きい。


 そのような組織があるということと、そして俺たちが付け狙われている可能性があるということ。


 あとでみんなと話さなければいけないな。


我々(・・)のことをつけ狙う存在が、まだいるということでしょうか?」


「そうだな。もしかしたら、また同じことが繰り返されるかもしれない」


 また沙耶を誘拐されるかもしれない。


 その可能性が浮上してきてしまったが、今度はそんなことさせない。


 俺が、というよりも、俺たちが守ってやる。


 いつ何時でも、俺は沙耶を守ると決めたからな。


 まぁ今は、停戦協定というかなんというか、話せていないんだけどな……。



 だけど、鈴の言う我々ってどういう……?


「あるじー、これ」


 疑問など頭の片隅へと追いやり、未桜が新たに持ってきた資料に目を通す。


「ん、なになに……『人間を核融合炉へと組み込む方法』、だと?」


「あ、ここに主様と沙耶様の名前が……」


 実験を行うということは知っていた。


 その魔力を目当てにするということも。


 それを、なんとやつらは沙耶をエネルギーへと組み込もうとしていたとはなぁ……。


「まさか、これほど俺を怒らせる奴らがいるなんてなぁ……」


「あ、主様……落ち着いてください」


「あるじー、おちついてー」


 意識していないが、俺の体からあふれ出てきてしまう魔力に、鈴も未桜も俺をなだめてくる。


 そうだ、俺たちは秘密裏に潜入しているのだ。


 ならば、ここで暴れてしまってはいけないな。


「……ありがとう。まだ沙耶に危害が加えられると決まったわけじゃない」


 深呼吸をして、魔力を抑える。


「別に俺は狙われても構わない。どうせ返り討ちだしな」


 俺は神の使徒だ。俺をどうにかできるのは、同じ神の使徒かクソ女神くらいだろう。


「だが問題は俺以外のやつらだ」


 沙耶の名前に、鈴と未桜、そのほかにも対処しきれるか不安な者たちはいる。


「結奈や怜のような奴らはともかく、ほかのみんなは俺が全身全霊をもって守ってやらないとな」


 沙耶を必ず守ると誓った。


 しかし、鈴や未桜が狙われているだなんて予想もしていなかった。


 ならば俺がすることは決まっている。


 二人も、主として守らなければならないということだ。


「あの、その中には私たちも含まれているのでしょうか?」


「何言ってんだ、当たり前だろう」


 守ることは当然のことである。


 俺にとっては、家族のように大切な使い魔なんだからな。


「そ、そうですか……」


「あるじー、ありがとー」


「おう」


 嬉しそうにされると、俺もうれしくなってきてしまう。



 だがそんないい雰囲気を壊す者たちが近づいてきていた。


「動くなぁ!」


「ふっ!」


「がっ……!」


 生体感知魔法にて来ることが予めわかっていたため、扉を開けた瞬間にぶん殴ってやった。


「こ、こいつ……ぐふっ———」


「安心してください、返り血が嫌だったので峰打ちです」


 後ろにいたやつにも拳を叩き込んでやろうとしたのだが、それよりも速く鈴が対処した。


「直ぐに対処してくれてうれしいんだけど、守るといった直後に守られるとは……」


「私たちは主様の使い魔です。いつ何時でもお役に立ちたいのですよ」


「そうか……。期待しているぞ」


「はいっ」


「頑張るよー」


 使い魔の忠誠に嬉しく思い、しかしもう戦闘員は倒れてしまっており、相手するやつなどいな———


「う、動くなぁ!」


「おあー」


 どこにいたのか。


 白衣を着た、如何にも研究社風然とした男は、手に持った拳銃で未桜のこめかみにあてていた。


「チッ、隠れていやがったのか」


「魔力が小さくて気が付きませんでした」


「非戦闘員だろうから、仕方がない」


 俺の生体感知魔法にも引っ掛からないほど小さな魔力って、それは生物と定義していいのだろうか……。


「あー、お前———」


「動くんじゃない!」


 適当に殴って吹っ飛ばそうとしていたのだが、少し動いただけで雄たけびを上げた。


「こ……こいつが殺されたくなければ、両手を———」


「じゃま」


 バレないように魔法を発動しようと思ったが、その前に未桜自ら拳銃を突き付けている男を吹っ飛ばした。


 それはもう鬱陶しそうに、虫を払うかのように乱雑に。


「可哀そうに……」


「命を奪おうとしたのですから、当然の報いでは?」


「あぁいや、そうじゃなくてだな……」


 壁にめり込んだ男を見やって思う。


 相手が悪かったなと。


 そして、当然の報いを受けたのだと。


「あるじー、きたないおじさんにさわられたー」


 触れられたところを上書きするように俺へと抱き着いてくる未桜。


 そんな未桜に俺は……。


「俺が未桜が見知らぬ男に触られたのが可哀そうだなと」


「なるほど」


 男の心配などするはずもなく。


 ただ未桜が可哀そうな思いをしたということで頭をなでる。


「あと未桜、おじさん全員が汚いわけじゃないからな? おじさんが未桜くらいの見た目の子に言われたら泣いちゃうからね?」


「ん、わかった」


 一応これは伝えておかないと、世の中のおじさんがメンタルブレイクして死んでしまうからな。


 高校生兼大学生の俺だって汚いって言われたら泣いちゃうもん。


「それで主様、ここにある資料はどうしましょうか?」


「……燃やすか」


 シスト隊員が必要としている資料があるかもしれない。


 だがしかし、俺の大切な未桜に嫌な思いをさせたのだ。


 俺の怒りを抑える目的も兼ねて、盛大に燃やしてしまおう。


「隠れるのはやめだ。さっさと潰してしまおう」


「承知しましたっ」


「わかったー!」


 ここの組織が俺たちをつけ狙っているということが知れた。


 しかも沙耶だけではなく、鈴や未桜にも危害が及ぼうとしている。


 それだけで……いや、だからこそ、俺がここを破壊しなければいけない。


「よいしょっと」


 壁に埋まって生死の境をさまよっているであろう男を引っこ抜き、外へと放り出す。


 そして俺は軽く火の粉を部屋全体へと飛ばし、ここの戦闘員を殴り飛ばした扉から出る。


 もちろん全員燃えないように外へと出して、だ。


「行くぞっ」


「はいっ」


「おー」


 これから破壊活動をするべく、通路を歩いていき、角を曲がると。



「「あっ」」



 しかしそこには、先程まで一緒にいた校長たちがいた。


「なんでお前は見つかるかなぁ……」


「なんで俺たちは見つけるかなぁ……」


 どちらも気まずそうに、そして観月先生だけはとてもご立腹な様子で見ている。


「……お互い、見なかったことにしないか?」


「そう、だな」


 利害が一致しているということで、俺たちは先程来た道へと戻っていく。


「どこへ行こうとしているんですか?」


「デスヨネー」


 だが、観月先生は許してくれなかった。



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