第九十二話 バレたらやばいやつ
観月先生とは一旦分かれて、それぞれの車で現地へと向かうようだった。
そのためこれから移動するために校長の車へと移動し、見たことあるような高級車に乗り込む。
「いくらかかったんだか……」
「前世のアタシが絶対に買えないほど」
「ある意味乗りたくねぇ……」
内心いろんな意味で不安な中、乗車して集合場所となっているところへと向かう。
その最中、俺はふと気になったことがあった。
「そういや、死因はなんなんだ?」
左の座席に座ってマニュアル車を運転する校長へと尋ねる。
こいつが死んでしまって、あのクソ女神に会って転生してきたという事実がある。
それはつまり……。
「多分お前と同じだ」
「……あの、白い槍か?」
「そうだ」
淡々と、興味なさげに答える。
そういえば、俺たちを転生させるときに以前にもあの槍を落として転生させていたといっていた。
つまりこいつも、あの白い槍ないしクソ女神の被害者なんだよな。
「だがそれは結果的にそうなっただけなんだけどな」
「結果的に?」
「アタシはな……死ぬちょっと前にトラックに轢かれたんだよ」
「どこのラノベの主人公だよ……」
トラックに轢かれて異世界転生は定番中の定番だぞ?
俺なんて槍が降ってきたんだぞ?
なんというかだな、滅茶苦茶不謹慎なのは理解しているんだよ。
だけど、そういう転生もしてみたかったなっていう思いもあるわけなんです。
……やっぱ轢かれるのは嫌だな。
「いやよく考えてみろって。あれは躱そうと思って躱せるもんじゃあないぞ?」
「確かにそうだが……」
魔法も超常的力も身に着けていないただの人間にトラックが突っ込んだから、そりゃあ躱そうと思って躱せるものじゃないけど……。
「渋滞で後ろからトラックに追突されたらひとたまりもないって。……即死じゃなかったけど」
「そりゃあどうしようもねぇな!」
まさか車を運転しているところにトラックが突っ込んでくるとは思わなかった。
確かに車に乗っているのなら、どれほど身体能力を持っていても躱すのは無理だな!
というか、即死じゃなかったんだな……。
「挙句の果てに空から槍が降ってくるしよぉ……」
「災難だったな。災難というより天災だけど」
「天災というか、神災だな」
「「はっはっは!」」
笑い終わり、負の気持ちがこもったため息をこぼす俺と校長。
「あの女神殺すか」
「手伝うぜ」
俺たちは阿吽の呼吸なのか、拳を合わせて誓う。
いつの日か、この手であのクソ女神の息の根を止めることを願って。
「アタシからも聞いていいか?」
「なんだ?」
話が終わり、今度は自分の番と言わんばかりに聞いてくる。
「翔夜は前世で彼女できたのか?」
「……ふぅ……あのな、ひとつ言っておこう」
ここで一つ、こいつには言っておかなければならないと思い深呼吸をする。
「世の中には、聞かなくていいことというものがあってだな……」
「アタシより生きていないやつが何言ってんだよ。聞かなくてもいなかったことくらい何となくわかるから」
「なら聞くなよばーか!」
そんな同情するような目で俺を見るな。前を見てくれ前を。
「まぁ、前世と今世を併せると六十は越しているだろう先生には———」
「併せて六十もいってねぇわ!」
「ちょっ、おい、前見ろ前!」
運転中にもかかわらず、校長は俺の胸ぐらを掴んで自分へと引き寄せる。
そのせいで、もう少しで目の前の車に追突するところだった。
すんごい失礼なことを言ったことは自覚しているけど、余所見運転してんじゃねぇよマジで!
死ぬことはなくても、俺は前世の記憶があるんだから怖いっての!
「アタシはなぁ、前世は二十後半で死んで、今もまだ二十五だ馬鹿野郎!」
「えっ!? そんな若くて校長になれんの!?」
「現に今アタシがそうだろうが」
しっかりと前を見て運転している校長を、俺は上から下まで観察するように見る。
確かに会った時から若いなとは思っていた。見た目は二十歳といっても信じられる見た目をしているからな。
しかしだ、そんな若くして校長という立場に収まることができるのか?
少し考え込み、そして一つの可能性にたどり着く。
「さばとか読んで———」
「あー、東雲に『翔夜とヤッた』って言おうかな~?」
「馬鹿なの!?!? ほんっとマジでやめてくれない!?!?」
何とんでもないことを言っているの!? 今度は逆に俺がこのクソババアの胸ぐらをつかみそうになったよ!
「俺そんなことされたら沙耶に会えなくなるよ!? そんでもってなんだかんだあって俺死んじゃうよ!?」
「じゃあアタシが言ったことはそのまま信じろ。そんで謝れ」
「大変申し訳ありませんでした……」
「よろしい」
そうだよな、今回は俺が失礼なことを言ったことが原因だもんな。謝罪することは当たり前だな。
でも、なんだか納得がいかない自分がいる。
「なんか、屈辱……!」
「ん~なんか言ったか?」
「いいえ何も」
このクソババアには、あまり余計なことは言わないほうがいいな……。
「ほれ、着いたぞ」
「ここが……ん?」
そうこうしているうちに、目的の場所へと着いたらしい。
しかしそこは、俺のような高校生が来てはいけないような場所。
「どうした、早く来い」
その建物へと入っていく校長を横目に、俺は看板を見て立ち止まってしまう。
「ここって、キャバクラだよな?」
ここは、キャバクラであった。
キャッチのお兄さんとかもいるし、絶対そうだよな?
なんか法外かと思われるような値段が書いてあるし、絶対そうだって。
そういえばこの場所にいる人たちを見ると、なんか……なんかそういう人たちがそういう人たちとそういうことしているのが目に入る……。見ちゃいけないやつだな。
一応言っておくが、俺はそういう人たちとは関わりないからな?
「そうだが、何か問題が?」
問題大有りだわ!
「俺高校生だよ!? 誰かに見られたらどうするんだよ!」
えっ、この人馬鹿なの? 普通高校生の俺をこんな場所に連れてくる?
もし知り合いに見られたらどうするんだよ!
「どうせひっどい噂あるんだから、今更どうでもいいだろ」
「ちょっと待て、俺そんなひどい噂あるのか?」
いやね、確かに噂されているのは知っているよ。
でもさ、そんな内容がひどいものがあるの?
ちょっとあとで教えてね。そんでその噂している奴教えてほしいな。
「ほれ、早く行くぞ」
「おい、俺の噂の内容はどんなのだ!」
その俺の質問に答えることなく、そそくさと建物の中に入っていく。
扉を開けて直ぐのところにカウンターがあり、その中へと校長は構わず入っていく。
俺もそれに倣ってカウンターの中へと入って行く。
「入ってすぐにカウンターに行ったから、ほとんど客を見れなかった……」
「なんだ、キャバ嬢を見たかったのか?」
「俺今客って言ったよね?」
もしかしたら知り合いがいるかもしれないじゃん。
その確認のためにそう言ったんだけど、こいつはそれを理解しなかった。
「まっ、前世で行き慣れてんだから後でくればいいだろ?」
「行ったことねぇよ! というか、来る気もねぇよ!」
後ろを振り返ることなく楽しそうに話す校長は、どんどん奥へと進み、一つの扉の前で立ち止まった。
「なんか、映画とかであるような近未来じみている扉だな」
「まぁ構造上魔力を使っているがな」
まるでSFの世界にあるかのような仰々しい扉には、指紋認証に網膜スキャン、そして魔力認証を行う。
魔力にも、指紋のように人それぞれの特徴があるらしく、このように重要な場所には置かれているそうな。
俺は初めて見たけど。
「ここが集合場所か?」
「そうだ」
その三つを終えて開かれる扉の奥に、まるで一つの部屋のような場所があった。
ソファとか机にお菓子とかあるし、誰かの家なのではと思うような場所だったが、まぁそこは別にいいか。
「やっと来ましたか、遅いですよ師匠」
「悪いな、ちょっとこいつが入るのに躊躇っていてな」
「普通ね、高校生なら躊躇うんだよ!?」
ソファには先程まで一緒にいた観月先生が、黒の軍服のような格好でいた。
スーツ姿よりもある程度ラフな格好なのに、主張するところはすんごい主張していますね。
「翔夜君久しぶり~」
「あ……纐纈翔夜さん……」
「耀さん、どうしてそんな他人行儀なの?」
ほかにも座っている人がいると思っていたが、それがまさか知っている人だったとは。
薬局で働いているペストさんと琴寄耀さんがそこにいた。
二人も黒の軍服に身を包んでいるということは、恐らくそれがこの組織の正装なのだろう。
そしてこの場にはもう二人。
「なぁ、なんで監視対象がここにいるんだ?」
「普通ぅ、監視対象を連れてくるぅ?」
初めて見る二人は、監視対象である俺を連れてきたことに抗議している。
言葉使いが荒いほうは、刃物で切られたような傷が顔にあり、もう一人の間延びしたような喋り方をしている女性は、ソファに寝転がりだらしない格好でいた。
あだ名はヤクザと引きこもりにしようかしら。
「あー……今日はこの六人に、もうすぐ来る二人とお前を合わせた九人で向かう」
「おいコラ! 俺を無視するな!」
「私もぉ、無視されるとムカつくぅ」




