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第八十五話 心の内


途中主人公がいないため、三人称視点に切り替えます。



 校長室にて、俺と校長、そして屋上から俺を追いかけてきた沙耶たち。


「なに、やっているの……?」


 俺はすぐに二つのお山から手を放して、まずは沙耶にことの顛末を説明しようとする。


 しかしそれよりも……。


「まずはその禍々しい魔力をどうにかしようか!?」


 結奈が度々見せる禍々しい魔力が、沙耶の右腕へと集約し今にも俺を殴りそうな気迫だった。


 それがいったいどんな魔法なのか、それ以前に魔法なのかさえ全く分からない。


 そんなものを食らっては、流石の俺も無事では済まないのではないか?


「聞いているのは私だよ? ちゃんと話し合おうよ?」


「怖えぇよぉ! それ話し合いする気全くないじゃん! そんでなんで笑っているのに怖いんだよぉ!」


 俺今まで沙耶にここまで恐怖を抱いたことなかったぞ!? だって大抵やることなすこと可愛いとしか思っていなかったし、これからもずっとそういうもんだと思っていたんだよ!


 なのに、なんだあの笑みは!? 俺最初見たときおしっこ漏らすかと思ったぞ!? 強面がおしっこ漏らすとか相当だからな!?


「校長室でそんな魔力を出すな」


「……あれっ?」


 そんな俺の心情を知ってか知らずか、校長は指をパチンと鳴らし、沙耶の禍々しい魔力を霧散させた。


「全く……アタシと翔夜でお楽しみだったというのに、いきなり入ってくるのは失礼じゃないか?」


「全っ然お楽しみじゃないけどね!?」


 いったいどうやったらそんな芸当ができるかなんて見当もつかないが、しかし助かったと心の底から安堵しているよ。


 あと俺には沙耶がいるんだから、楽しんでいるわけないだろうが!


「それで、どうして校長の胸をもんでいたの?」


「まずは話を聞くべきじゃないかな?」


「そうですね、事情があるのかもしれませんし……」


「おいそこの三人や、俺の無罪を訴えかけていることは嬉しいぞ」


 沙耶は冷静ではいられなかったが、後ろに控えている三人は俺を擁護しようとしてくれていた。


 いや、そうだと信じたい。


 そうであってほしいと願いばかりだが。


「でもな、どうしてそんな半信半疑な目で俺を見てくるんだ?」


「君も男だからな、性欲が爆発した可能性も否めないからではないか?」


「俺はそこまで性欲ねぇよ!」


 みんな俺のことを半分ほど信じ切れていないようだった。


 というか陸よ、会って間もないお前に俺の性欲の何が理解できるのだ?


 俺は沙耶のことを好きと認識してから、ほかの女性があまり目に入らなくなってきて、その、あれだ……そのぉ……色々大変なんだぞ!


「えっと……不能者?」


「馬鹿にしてんのかこの野郎! というか、そんな言葉を覚えるんじゃありません!」


 誰だよ奈那にそんな言葉を教えたやつは!? もっとまともなことを教えろよ!


 というかだな、俺は不能者じゃねぇわ!


「お前が喋るとややこしくなるから、アタシが説明するよ」


「くっ、否定できない……」


 俺の前へと出て、そして沙耶の前まで行き何を言うか考えている。


 今度はしっかり説明して、沙耶の誤解を解いてくれよ?


「簡単に言えば、こいつは昔の教え子だ」


 説明するといっても一から十まで説明するわけにはいかない。


「アタシの気分が高まって抱き着いたんだけど、こいつはそれを引きはがそうとしたんだ」


 俺たちは転生者だったということと、前世からの知り合いであったということから、あのような対応をしてしまったのだ。


 いや、胸をつかんでしまったのは故意ではないんだが……。


「それで運悪くお前らに見つかったってわけだ」


「な、なるほど……」


 まぁとにかく、こいつは俺たちのことを詳しく説明することなく、沙耶を納得させることに成功した。


 ちゃんと納得したかというと、表情を見る限りそうではなさそうだ。


「そう、だよね……翔夜がそんなことするわけないよね」


 それでも、一応は理解してくれたのか、先程まであった気迫や恐ろしい笑みは鳴りを潜めていた。


「嫌われちゃうもんねぇ?」


「俺は沙耶に嫌われるようなことはしない!」


 屋上での出来事の後に別の女性の胸をもむって、かなりの勇者ではないだろうか。


 そんなこと、俺ができるはずもない。


「というか沙耶、どうしてここに?」


 それよりもと、俺は沙耶がノックもなしに校長室へと乗り込んできた理由を尋ねた。


 沙耶が礼儀作法を知らないなんてことはないだろう。


 れっきとした理由があるはずである。




「好きな人を聞きにっ!」


「なにその執念!?」


 前言撤回。全くちゃんとした理由ではなかった。


 そんなことで校長室にまで乗り込んでくるかな普通?


「それで、誰なの?」


「いや、それは、そのぉ……」


 その答えは、あなたです。


 なんて言えたら楽なんだろうけど、こんな大勢いる場所で言えるわけがない。


 そもそも、この思いはもっと趣というか、雰囲気が整っているところで言いたいんだ!


 あいやでも、振られたら……俺どうなっちゃうんだろうか……。


「あぁ、なるほど!」


 ここで何を察したのか、校長がニヤニヤした様子で俺と沙耶を交互に見つめて……。


「それじゃあさ、今度中間テストがあるから、それで点数が翔夜を上回ったら教えるっていうのはどうだ?」


「なんであんたが勝手に決めてるの!?」


 とんでもない提案を提示してきた。


「いいんじゃないかな?」


「怜まで!?」


 そしてその提案に、怜も乗ってきてしまった。


「いや、ここで押し問答をしていても埒が明かないし……」


「それに、こういうことはしっかりとはっきりさせておいたほうがいいと思います」


「まさかのエリーまで!?」


 残念なことに、俺の周りには敵しかいないようだ。


 でも考えてみれば、これが今ここでの最善なのかもしれない。


 代案も思い浮かばないし、仕方がないのだろうな。


「ちゃんと落としどころ見つけたんだから、あとはお前でどうにかしろ」


「あざっす……いや、元はと言えばあんたのせいだからね?」


 ニヤニヤというより、悪い笑みというのだろうか。何か企んでいるような表情で、俺へと耳打ちをした。


 その表情の意図はともかく、感謝するべきなんだろう。


 だが、その元々の元凶はこいつであるため、感謝しづらいな……。



「あれ、でもちょっと待って。俺、沙耶より頭よかったっけ?」


 感謝する以前に、まず俺は沙耶と戦うことができるほどの点数をとれていたか? 


 答えは、否である。


「まぁ、全部満点取れるように私は頑張るよっ」


「ん~俺は赤点を回避するのに必死なんだけどなぁ!?」


 ここへと入学したのは、記憶をなくす前の俺であり今の俺ではない。


 今の俺が、難関校へと必死で勉強してちょっと逃げ出そうとしていた俺が、沙耶に勝てるとは到底思えない。


 えっ……詰んだのでは?



「とりあえずこの話は終わりだ」


 椅子に座り直し、机に置いてある無数の紙に目を通していく。


 もう俺たちへの興味関心が薄れてしまったのだろう、自身の仕事をし始めた。


「ほれほれ、もうすぐ昼休みは終わりだ。全員帰れ」


 こっちを見向きもせず、校長はハンコを押して何かを書き込んだりしていた。


 そんな校長を後にして、俺たちは校長室を出て行こうとした時。


「またな、転生者たち……」


 その言葉に俺たち神の使徒は振り返り、だがそれはクソババアの思うつぼだった。


 ほかのみんなには聞こえない声量で言ったことで、誰が転生者か判断したのだろう。


「あぁそうだ、織戸と剣持は放課後、またここに来い」


「えっ……」


「なんでですか?」


 ほかに誰が転生者か知るためにやったことで、そしてそれについて二人には話があるのだろう。


「二人に言っておかなければいけないことがあるからだ」


 話といっても、ものの数分で終わりそうなことであろうが。


「ついでに、アタシと翔夜の関係について教えてやろう」


「わかりました」


「即答って……」


 怜は渋々といった様子なのに対して、なぜか結奈は行く気満々でいた。


「というか、それ教える必要あるか?」


「ある」


「こっちも即答かよ……」


 そんなに知りたいことなのか?


 今と何も変わらないから、聞いても何も面白いことなんてないぞ?


「あとで私にも教えてね」


「ちょっと沙耶さん?」


 どうして沙耶も知りたいんだ?


 まだ俺が胸をもんだことを怪しんでいるの?


 俺は沙耶一筋なんだから、そんなことあるわけないじゃん!


 って言いたい……。


「それじゃあ、また放課後に来ます」


「それでは、失礼しました」


 今度こそ俺たちは校長室を後にして、自分たちの教室へと歩いていく。


「なぁ怜、俺沙耶に勉強で勝てると思うか?」


 隣を歩いている怜に、俺は自分の学力と沙耶の学力の差を客観的に見てもらおうと意見を聞く。


「いや、普通に負けて観念したら?」


「いやいやいやいや、負けたら俺の好きな人がバレるだろ!」


 確かに沙耶は頭がいいから、あきらめたほうがいいという意見があるのは理解できる。


 しかしだ、そんな一考もせずに結論を出すのは些か早計ではないだろうか。


 俺だって頑張れば、もしかしたら、可能性として、何かとてつもない幸運に恵まれて、沙耶よりもちょっとだけ点数が高くなる可能性があるじゃん?


 と、そんなことを考えていたが、怜は驚きの発言をした。



「東雲さんが好きなんでしょ? 別にばれてもいいじゃん」



「な、なぜお前がそれを……!?!?」


「どうして今まであれでバレていないと思っていたの……?」


 今日は何度驚けば気が済むのだろうか……!


 家族にもバレているし、もしかしなくても怜にまでバレているなんて……!


「もしかして俺って、嘘が下手くそなのか……!?」


「というより、あからさまというか、わかりやすいというか……」


 呆れた様子で眺める怜の瞳は、どうしてか沙耶のほうへと向いていた。


「はぁ……」


「何ため息なんてしているんだよ。したいのは俺のほうだっての……」


 何に対してため息をしたのかわからないが、沙耶と戦う俺のほうがため息をこぼしたいっての。


 実技試験ならともかく、筆記試験だもんなぁ。


 これから勉強漬けかって思うと、気が重いよ……。


「鈍感って面倒だね……」


「なんで俺を見ているんだ?」







 ===============







 教室へと戻った翔夜は、校長から説明された告白についてしっかりと説明し、沙耶との誤解は解くことができた。


 そして奈那も、告白したことを訂正すると、みんなの前で宣言した。


 元々みんなと仲良くなりたいと思っていただけであるため、恋愛感情などあるはずもなく。 


 そのため、血を見るような悲劇は避けることができた。



 そんなこんなで放課後。


「「失礼します」」


「さて、来たな」


 転生者であり神の使徒である二人は、約束通り校長室へと来ていた。


 校長は待ち構えていたように、仁王立ちで腕を組み、不敵に笑って待っていた。


 それはこれからのことが楽しみにしている子供のような、翔夜の友人はどんな人間なのか確かめるような、


「突然だが……お前ら、翔夜と同じ転生者だろ?」


「……はて、何のことでしょうか?」


「とぼけなくてもいい」


 だが転生者とまだ認めていないため、二人はとぼける。


 ここで認めてしまっては、どんなことに巻き込まれるか知ったことではない。


 そのために翔夜へと身代わりになってもらったのだ。


 結奈も怜も答えるつもりなど一切ないが、あの時校長の言葉に反応してしまった時から逃げ場はなかった。


「アタシも転生者だからな」


 しかしこの言葉に、二人は顔に出てはいないが内心驚いていた。


 もしこの発言が誰かに聞かれていたら?


 もしそのせいで危ない宗教団体に狙われたら?


 こんな場所で迂闊に発言してしまって、大丈夫なのかと心配してしまう。


 だが……。


「あぁ一応言っておくが、この部屋で話したことは外へは漏れないから安心してほしい」


「それはよかった、のかな?」


「口を滑らせても、僕たちが転生者だってバレないからよかったんじゃない?」


 よく辺りを見渡してみると、部屋の四隅に幾何学模様の書かれた黒い正方形の物体が置かれていた。


 二人はそれを視界に収めて、二人も多少は安心して気を緩める。


「まぁ転生者というより、正確には神の使徒なんですけどね」


「ほぉ、あの女神(・・)の使途になったのか」


 安心してポロっとこぼしてしまった怜の一言に、校長は驚いた様子などなく、昔を懐かしんでいる様子だった。


「校長先生も、転生者だったんですね」


「まだ疑っていたのかよ……」


 自ら転生者だといっても、前世からの知り合いである翔夜ではないため、二人はもしかしたらということも考えて少しは疑っていた。


「それで、翔夜との関係を教えてくれるんですよね?」


「なぜ転生者だとか、情報の共有とか、そんなことよりもアイツとの関係を知りたいのか……」


「あ、僕は情報の共有とかしたいかな~って思ってます」


 ここへ来た理由は、結奈は翔夜との関係を知るためで、怜は自分たちの知らない情報を得るためである。


 もちろん、校長も色々話すために呼んだので、別に何から話そうとも構わないだろう。


「まぁいいや、教えてやるよ」


 椅子へと座りなおして、現校長である柊雪は語りだす。


「アタシが翔夜と出会ったのは、アイツが高校生の時だったな……」




次回は、校長である柊雪の前世での話になります。


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