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第八十三話 逃げることは恥じゃない


今回は少々短いです。



 この世界はファンタジーである。


 そこで俺はファンタジー物なら確実に『そういう仕様になっているもの』というものがあると、どうしてそうなっているのだと、ずっと思っていたことがある。



 それは、女子の制服である!



 なぜ彼らは傍目も気にせず胸元をさらすことができるのだ!


 普通に考えればそんなこと不可能なはずだ!


 考えてみればそれは、胸元を全員が露出することを強制されているという、なんともおかしな話である。


「翔夜~」 


 そして主人公よ、どうしてお前はそれを見ても平然としていられるのだ!


 身近に胸元を晒した美少女がいるのだ。


 どんな人間であれ男であるならば、そこに目が行ってしまうことは必至!


 なぜそこに目がいかず普通にしているのだ!


 見ろよ胸元を!


 チャンスを逃すなよ!


「しょ、翔夜~?」


 ……そうじゃなくてもだな、もう少しくらい動揺したり反応してあげてもいいと思うんだ。


 いや、もしかしてそれがモテる主人公のパッシブスキルなのか?


 余裕をもって、胸元を見ないで、ラッキースケベにすべてを託しているということなのか!?


 そう考えるならば、前世彼らはいったいどれほどの徳を積んでいたというのだ……!


「しょうや~?」


 ……まぁとにかくだ、俺が一体何を言いたいのかというとだな。



 この世界は胸元露出していなくてよかったぁぁぁぁぁぁ!!!



 って思っていたんだ……。


 だって胸元を露出している制服だったら、俺絶対沙耶の胸元見ちゃうもん!


 だけど見ていることがバレたら嫌われることは確実だから、目つぶしでもしているんじゃないかなって思ってる。


 そして胸元を露出している女子の中で、胸が大きい奴はまだいい。


 だって結奈みたいな人たちにとっては……ねぇ?


「そろそろ戻ってこないと、首刎ねるよ」


「俺は罪人かっ!」


 わかったよわかったよ、現実逃避はもうやめますよ。


 初めて告白されてどうしていいかわからなくて現実逃避していましたよ。


 でもそれは仕方のないことでしょうよ!


 だって初めての経験なんだもん!


「あー、なんだ、あのぉ……まずどうして俺なんだ?」


 いきなりだったし、こういう時どういった反応を示すのが正解かのかわからない。


 なので、一応どうして俺に告白をしてきたのか問いたださなくては……!


「その、顔が好み……」


「…………え~っとぉ?」


 この子は何を言っているのだろうか?


「この子は何を言っているのだろうか?」


「俺の心の中を読むんじゃねぇよ……」


 結奈に心の中を読まれてしまったと思ったが、本人は本心からそういったようだった。


 普通に考えてみれば、確かに俺の顔が好みなんて言う奇特な奴はいないだろう。


 本当に、彼女の頭か俺たちの耳を疑うものだ。


「ごめん、もう一度いいかな?」


 聞き違いかもしれないし、もう一度聞いてみた。


 だが……。


「えっと……顔が好み。かっこいい」





「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 



 いや、初めて言われたぞ!? かっこいいって誰だよ! 自分で言われていることだけどさ、絶対見ている人物間違っているんじゃないのか!? 君のお兄さんのほうがイケメンですぜ!? だけどまぁありがとう!


「どうしてこれがかっこいいなんて幻想を抱だいてしまったの?」


「おう喧嘩売ってんなら買うぞこの野郎」


 かっこいいなんて言われたことは前世も合わせてないけどさ、今目の前で言われたんだからその事実を受け入れろっての。


「ねぇなんで翔夜なの翔夜は怖い顔だし付き合う必要はないんじゃないもう少し考えたほうがいいと思うよもっと他にいい人がいいと思うよ」


「ちょ、そこまで貶さなくても……」


 あの……結奈に貶されるなら別に何とも思わないけど、沙耶に言われるとちょっとキツイっすよ。


 俺泣いちゃうからそんな貶さないで!


「でも、昨日の今日だよ?」


「そうですね。どうして翔夜さんだったのでしょうか?」


 金髪二人組も、奈那がどうして俺に告白をしてきたのか甚だ疑問だったようだ。


 ここで告白について何も疑問に思っていないやつは、目の前の奈那とそれを見つめる陸だけだろうな。


「えっと、ひとめぼれ」


「おっとっと?」


「……本当にどうして、それが翔夜なんだろうねぇ?」


 二人の疑問に対する答えは、どうやら単純なものであった。


 いや別に理解できないわけではないよ?


 だって恋なんてものは複雑に見えて実は結構単純なものだからね。


 でも、俺そんなモテる要素ないと思うんだけどなぁ……。


「そ、そもそも! 付き合うっていうことがどういうことかわかってるの?」


「教えてもらったよ」


 沙耶も必死でその回答が信じられないものだったのか、そもそも彼女が全くの違った解釈をしているのではないかと、俺が告白された事実を否定したいようだった。


 だけど、沙耶がそんな必死になることはないと思うんだ。


 だって俺の問題だし、沙耶に関係することあったかな?


「お互いに、信頼に応えるよう約束することと言われた。そして、それには愛情表現が必要ともいわれた」


「間違っては、いないけど……!」


「本当は陸でもいいと思ったんだけど、それはダメって言われた……」


「まぁ、兄妹だしな……」


 固定観念というものがズレているため、中舘さんたちが徐々に『普通』に戻してくれているはずである。


 そのため、教えられたということはある程度は間違っていないということ。


 つまり、俺が告白されたことは彼女が好意をもって行ったということ。


「それで、答えは?」


「こ、答え?」


 告白したとは思えないほど落ち着いている彼女は、俺がずっと躱そうとしてきた返事を聞いてきた。


「私と付き合ってほしい。そして、それには同意が必要だって聞いた」


「あぁ、なるほど……」


 恐らくであるが、彼女と俺との間に恋ないし愛はほとんどないだろう。


 


 だがそれを抜きにしてもだ。


「その、申し訳ないけど……」


 この答えは、俺の中ではもう決まっている。


「君の気持ちには答えられない」


「そう……」


 俺には、この世界へ来てから好いている人がいるんだ。


 その人以外は考えられないと思っているから、この告白は断るほかない。


「ごめんな」


「大丈夫。それでも友達だから」


「……心がいてぇなぁ」


「その胆力すごいね……」


 告白を断られたというのに、奈那は全く落ち込んだ様子はなかった。


 陸も別に何とも思っていないらしく、特段変わった様子はなかった。


「理由も聞いてもいいかな?」


「……断った理由をか?」


「そう」


 だが兄であるからか、俺が断った理由を尋ねてきた。


「付き合うという行為は契約などないから実害は全くないと聞いたのだが、それならどうしてダメなんだ?」


「あぁ、そういうことか」


 そんなもの、簡単なことだ。


 確かに結婚と違って書類など用いないし、単なる口約束でしかない。


 しかし俺には、心に決めた人がいるのだ。


「俺には好きな人がいr———」


「好きな人!?!?!?」


「お、おぅ……」


 突如として、沙耶が俺へと食い下がるように近づいてきたのだが、そんなに驚くものなのか?


 というより、沙耶の様子を見るに、なんだかその事実を信じたくはないような表情をしているな。なんでだ?


「そんな人いるの!?」


「えっと、あの……」


 というよりもだな……一刻も早く離れてくれないかな!?


 その件の相手はね、あなたなんですよ!


 そんな近づくとバレちゃうから、そして興奮してきちゃうから、本当にマジで離れてくれ!


「修羅場は楽しいね」


「おいコラ、なに人の危機を楽しんでいやがるんだ」


「危機というより、チャンスじゃないかな?」


「これをチャンスと捉えることができるなら、俺はとっくにゴールインしてるわ」


 俺と同じ神の使徒は、ただ眺めて楽しそうにしていた。


 人の不幸は蜜の味というが、お前らには人の心というものがないのか?


「好きな人って誰なの!?」


「ちょ、少し離れてほしい!」


「そんな人が本当にいるの!?」


「あーもう、誰か何とかしてくれ!」


「自分で頑張って」


「頑張れないから助けを求めているんでしょうがぁ!」


 お前普段ずっと無表情じゃん!


 なんで今回はそんなにも笑顔でいるんだよ!


 久しぶりに見たなその笑顔!


 普段からその笑顔でいればもう少し俺の怒りが収まっているかもしれないぞ!?


 ……いや、そんなことはないな。





『生徒の呼び出しです。纐纈翔夜君、至急校長室まで来てください』


 この場は修羅場というか、阿鼻叫喚というか、少々ひどい有様だったのだが、校内放送という名の救世主が俺に助け舟を出してくれた。


 普段であればいったい何をやらかしたのかとか、すんごい不安になるんだけど、今回ばかりは本当に感謝しているしとても嬉しい。


 多分何かやらかして怒られるんだろうけど、この場から逃げ出せるなら甘んじて受けようではないか!


「こ、この話はなかったということで!」


「あ、ちょ、翔夜!」


 沙耶の呼び止める声を無視して俺は、一目散に屋上を後にした。



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