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第八十一話 転校生を紹介します


今回はほんの少しくらい短いです。



 あの後、何とか耀さんに泣き止んでもらい、あの場は収拾をつけた。


 特にこれと言って何か話があるわけでもなく、全員家へと帰された。


 沙耶とも家の前で別れ、連れていかれる以前の話は有耶無耶になってしまった。


 あとでしっかり耀さんに謝らなければいけないなと思うんだけど、それなら俺たちの……あれを邪魔しなくてもよかったんじゃないかなぁとも思うんだよね。


 いやね、別に怒っていませんとも。


 だけど、これから沙耶に会うんだから、ちょっと気まずいんですよ。


「どんな顔して沙耶に会えば……。普段通りでいいかな?」


 いつも通り玄関前で待っている沙耶に俺は挨拶をする。


「おはよう、翔夜」


「おはよう、沙耶」


 先程まであった不安や気まずさはどこへ行ったのか。


 沙耶の顔を見たら、もうそんなことどうでもいいかのように幸せな気持ちいっぱいである。


「そういえば昨日ね、お父さんがケーキ買ってきてくれたのっ」


「おっ、それはよかっ……お父様、ご機嫌取りにケーキは安直なのでは……」


 いつも通り、沙耶は楽しそうに俺へと話しかけてきてくれる。


 何も変わらない。沙耶の言動も、表情も。


 昨日のことがなかったかのように、何も変わらない日常。



 学校へと向かう道中は、ずっと笑顔で俺と雑談をしていた。


「ねぇ翔夜、昨日のことなんだけど……」


「なんだ?」


 だがそう思っていたのは俺だけだったようで。


 沙耶は学校が近くなってきた辺りで、歌うような小声でつぶやくように話し出す。


「あのね、言いそびれたん———」


「おーい、二人とも~」


 沙耶が顔を赤くして話しかけようとするも、俺たちの後ろから知っている声が聞こえてきた。


「結奈に、お二人さんも」


「おはよう」


「おはようございます」


 結構身構えていたというのに、どうして話しかけてくるのだろうか。


 いや、確かに結奈たちは悪くないんだけど、タイミングが悪いというか……。


「おはようさん」


「……おはよう」


 だが挨拶を返さないのは、それはそれで何かあったのかということになるため、返さないわけにはいかないだろう。


 あと普通に嫌な奴にはなりたくないんでね!


「あれ、沙耶なんだか機嫌悪くない?」


「別に……」


 そうはいうものの、沙耶の表情はあまりよくなく、先程まで話していた時とはうってかわって笑顔がなくなっていた。


「なんだか、僕に対しての視線がいたんだけど……」


 そして、結奈に対して睨んでいるようにも見えなくはない表情でいた。


 まぁ、可愛いから全く怖いなんて思わないんだけどね!


「それにしても、なんで今日はみんな揃っているんだ?」


「いやぁなんというか、今日は彼らが来る日じゃない?」


「そう、だな?」


 いつもは学校で全員に会うのだが、今回は通学途中で全員に出会った。


 なぜかと不思議に思って問うたのだが、いったいどういて彼らが来るということが全員揃っているということにつながるんだ?


「ちょっと万全を期すためというかねー」


「何警戒しているんだよ……」


 そう言っている結奈はそれほど警戒しているようには見えなかった。


 それは怜にも同じことを言えるのだが、しかしエリーは少し表情が硬かった。


 恐らくはエリーがまだ警戒しているのだろうから、結奈はそれをくみ取ってのことだろう。


「まぁ、とりあえず学校に向かうぞー」


 ともかく、心を読んでいるであろう結奈があまり警戒していないのだ。


 ならば俺たちが彼らと敵対するようなことはないだろう。


「翔夜、大丈夫だよね?」


「何かあったら、俺が守るって」


「うん、ありがとっ」


 もし暴れてしまっても、俺たち神の使徒がいるのだから問題という問題はない。


 今度は確実に、沙耶を守って見せるからな!


「あまあまですね……」


 エリーはこわばった表情を崩し呆れた様子で俺たちを眺めている。


 俺たちを見て、心の不安が消え去ったのだろうな。


 だがしかし、もちろん全く何も考えていないからな?







「流石に僕も性格悪いって思うよ?」


「自覚してる……」


 後ろから何か聞こえた気がしたけど、あいつら一体何を話しているんだ?








 ===============








「はーい、皆さん席についてください」


 学校へと来て、雑談をしているうちにホームルームの時間となった。


「まずは皆さん、私は謝らなければいけないことがあります」


 だがやってきた先生の表情は硬く、普段のぽわぽわした様子とは全くの正反対であった。


「本来であれば、演習中にあのような魔物が現れるようなことはありませんでした」


 その表情の理由は、先日にあった演習で用意されていた魔物以外が現れたというもの。


「ですが、実際に現れて皆さんを危険な目に合わせてしまいました」


 先生は頭を下げて、俺たち生徒に謝罪をした。


「これは教員である私たちの責任です。本当に申し訳ありません」


 だがそれは、沙耶を誘拐するために行われたものだ。


 そしてそれを行ったのは、実質アポストロ教である。


「それは先生の謝ることじゃねぇぞ」


「えっ……?」


 今にも泣きだしてしまうのではないかと危惧して、俺は先生をなだめる。


「だってそれは、先生は全然落ち度ないじゃん。仕方のないことだったんだって」


 もちろん全くの責任がないというわけではない。


「別に先生というか、今回のことは誰にも非はないの」


 だがそうしてしまうと、その責任は沙耶一人のものとなってしまうため、責任をなくしてしまうほうがいいだろう。


「確かに立場上謝らなきゃいけないのはわかる」


 どうしてシルバーアントがあの場所にいたのかは伏せられているが、同じ先生が起こしたことだと知っているからこそ申し訳なさそうにしているのだろう。


 そしてその生徒を危険な目に合わせてしまったことに対しての罪悪感か。


「だけど、そんな心の底から申し訳なさそうにする必要はないだろう」


 悪いのはすべてアポストロ教なのだから、先生がそんな気持ちでいる必要は全くないんだ。


「みんなも、そう思うよな?」


 クラスメイト全員に問いかけるのは、今回は誰も悪くないと、そう思わせるためである。


 というか、実際この場の人間は誰も悪くないがな! 


「言論統制」


「人聞きの悪いことを言うな……」


 俺今結構いいこと言ったと思っているよ?


 なのにどうして結奈はそういうこと言って馬鹿にするかねぇ?


「纐纈君、ありがとうございます……!」


「まぁまぁ、頭を上げてくださいよ」


 今度は感謝の意味で頭を下げたが、別に先生がそこまでする必要はないんだよ。


「それより、廊下の人を紹介してくださいよ」


「あ、そうでしたね! 実は、皆さんに紹介したい人がいます」


 生体感知魔法で廊下に二人いることは知っていた。


 もうこれ以上暗くさせないために、話を無理やりそらした。


「彼氏?」


「ち、違いますよ! 転校生です!」


 誰が言ったのだろうか。


 その一言で馬は和み、全員に笑顔が戻っていた。


 ……その原因の一端に俺はいないよな?


「皆さんも驚きのことだと思います。実際私も驚いています……」


 驚いているという割には、その表情は曇ってしまっていた。


「所詮教員は上からの指示には逆らえないんですよ……」


「ど、どうしたんですか?」


 沙耶はその先生の疲れ切った表情が気になり、おずおずといった様子で尋ねる。


 やっぱり、沙耶は優しいな!


「いえね、仕事が結構増えまして……」


「あー、なるほど……」


「なんだか、本当に申し訳ないね……」


「まぁ、それも仕事のうちと考えてね……」


 それは俺たちに関係はないと思うが、しかし原因を知っている身としては本当に申し訳なくなる……。


 恨むなら、あのクソ女神を恨んでください。


 というか、寧ろ呪い殺してしまっても構いませんよ!


「さ、さて! 気を取り直して……」


 このままではまずいと思ったのだろう。


 先生は無理やり元気にふるまい、


「どうぞ、入ってきてください」


 扉が開かれ、廊下から学校指定の服を着た褐色肌の、特徴的な赤目をした男女二人が入ってきた。


 その二人は、というか双子は、先生の隣までやってきて、全員に向き直り自己紹介を始める。


「初めまして。俺は……カイガイ?から来た……リュウガクセイ?の土岐陸って言います。これからよろしくお願いします」


「初めまして。私はこっちにいる兄の双子の妹で、土岐奈那って言います。以後お見知りおきください」


 戸惑ってはいるものの、クラスメイトたちは拍手をして二人を向かい入れる。


 元々二人は顔がいいため、逆に受け入れられないということはないだろうか、双子は顔をほころばせていた。


 やはり、自分たちが受け入れられて嬉しかったのだろうな。


「はい、ありがとうございます。転校してきた理由などは、仲良くなってから聞いてくださいねっ」


「んな適当な……」


 まぁ、先生に事情が話されているかはわからないが、それでも知っていたところで言えるわけもない。


 だから、それは生徒間でどうにかしてくれってことなのだろうな。


「それじゃあ席は、織戸さんと……あぁ、えっと、翔夜君の後ろで……」


「なんでそんな怯えたような声を出しているんですかねぇ?」


 いつも思うんだけどさ、どうしてみんなは俺のことを怖がっているの?


 俺って普段何も問題は起こしていないよね?


 いや、知られていないところで問題は起こしているけどさ……。


「これからよろしくっ」


「よろしくねっ」


「おう」


「よろしくー」


 指定された場所へと、俺たちの後ろへとやってきた二人は、笑顔で俺たちに握手をして後ろに座った。


 その様子にクラスメイトたちは驚いているのだが、それは強面(おれ)が握手をしたからじゃないのか?


 俺だって握手くらいするっての……。


「そうだ、後で話したいことがあるんだけど、いいかな?」


「いいぞ。じゃあ昼休みにな」


 陸がそう言ってきたので、俺は昼休みまで待つように言った。



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