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第八十話 尻拭い


 黒塗りのベンツに乗せられて、俺たちはどこかへと連れていかれる。


 これ、はたから見たら誘拐しているなんて思われないよな?


 いやまぁ、全然疚しいことなんてしていないから警察が来ても問題なんだけどね。


「そろそろ機嫌を直してくれないかな……?」


「いつも通りですよー」


 運転をしているペストさん……もとい中舘さんは、俺の機嫌が悪いと思っているのか、どうにか宥めようとしていた。


 別に俺は怒っていないんだけどな?


 ただ、先程のやつを邪魔した罪を認識してくれればそれでいい。


 いや怒っていないよ?


 だって俺、中身は大人だもん!


「ほ、ほら、耀ちゃんも謝って……」


「私、悪いことしていないので」


「どうしてここで頑固なの!?」


 バックミラーで後ろを見ると、その俺たちの時間を遮った張本人は、我関せずといった様子で窓の外を見ていた。


 もう少し申し訳なさそうにしてほしいんだけど、まぁ俺も大人だ。


 寛大な心で見てやろうじゃないか……。


 あと、中舘さん上司じゃないの?


 可哀そうに思えてくるんだけど……。


「あ、あの、沙耶ちゃん?」


「……ふんっ」


「やっばい、僕の心が折れそう……」


 見向きもせず、沙耶も沙耶で外を見ている。


 不貞腐れたような態度で、中舘さんを無視しているのだろうか。


 というか、何今の反応?


 さすがの沙耶でもさすがにそれはいけないと思うぞ。


 普段ならもう少し丁寧な対応ができたんじゃないのか?



 でも沙耶に甘い俺がなぜ沙耶を否定しているかって?


 そんなの、決まっている。





 反応が可愛いせいで俺の心臓が持ちそうにないからだよ!


 何今の反応!?


 今までに見たことがないぞ!


 もしかして俺を殺しにかかっています!?


 にやけるのを耐えるのに必死だわ!


「もうそろそろ出会うんだから、いつも通りに……ね?」


「い、いつも通りですよー」


「私もいつも通りですー」


「ペストさんはしっかり運転してください」


「二人はそっけないし、耀ちゃんは冷たいし、僕もうそろそろ泣いちゃうよ!?」


 俺は外を見ながら感情を露わにしないように、沙耶は不貞腐れたように、耀さんは無情に答えた。


 本当にさ、中舘さんって耀さんの上司なんだよね?


 どうして敬われていないんだろうか……。


 あと俺はそっけないのではなく、感情を抑制しているんですよ。



「着いたよ……」


「……薬局?」


 そうこうしているうちに、目的の場所へと着いたらしい。


 だがその場所は、俺たちが知っている薬局『桃源郷』だった。


「そっ、僕のお店~」


 持ち直したのか、いつも通り元気に車を降りて店へと向かっていく。


 いや、空元気かな?


「こっちこっち~」


 店の中へと案内し、俺らを奥の部屋へと連れていく。


 特に変わった様子はないが、生体感知魔法では三人の反応があった。


 恐らくは件の三人だろう。


「入るよ~」


 そういって中に入ると、以外にも別の人物がいた。


「あれ、結奈に怜、エリーまでも……」


「どうしてここに?」


 なんと件の三人ではなく、俺たちと一緒に沙耶救出に向かった三人だった。


「たぶん一緒の理由じゃないかな?」


 あぁ、なるほど。


 学校に行くんだもんな、確かにこの三人も知っていなければいけないな。


 でもね、今日じゃなくてもいいじゃんか……。


「これから連れてくるけど、物騒なことは禁止でお願いね?」


「ん~、相手の出方によるかな~」


「ホント、お願いね……」


 俺たちだって、再び攻撃してくるようならば、それなりの対処をしなければいけない。


 まぁそんなことになっても、ここは中舘さんたちがいるから万が一もないだろう。


「それじゃあ、連れてくるから待ってて」


 そう言い残して、中舘さんと耀さんは部屋を出ていった。



「それにしても、翔夜は大丈夫だったの?」


「ん? どうして俺なんだ?」


 出て行ってすぐに、結奈が俺を心配してきた。


 普通心配するなら沙耶だと思うんだけど、なぜ俺?


「いや、ほら、沙耶を危険にさらしてご両親に怒られなかったのかと」


「よくわかったな、ついさっきぶん殴られてきたばかりだよ」


「「「えっ!?!?」」」


 確かに俺は今日、母上様より愛の鞭をいただきました。


 それはもう、壁に穴が開くほどの強いものをいただきましたとも。


 あれほどのものを息子へと行う母親は地球上を探してもいないのではないだろうか……。


「だけどどうしてわかったんだ?」


 しかし疑問だ。


 俺の頬には傷一つどころか腫れてさえいない。


 なのに、俺が殴られたということがわかったんだろうか。


「翔夜が……ねぇ?」


「どういうことだ?」


 意味深に沙耶へと視線を移し、そして口角を少し上げた。


 それにいったいどんな意味があったのか俺にはわからない。


「つまりそういうことだよ」


「どういうことだよ!」


 だが、それで他のみんなは理解したのだろう。


 納得した様子で俺に同情を寄せてきた。沙耶以外が。


「おばさん、そんなことを……」


 只々、沙耶だけは俺のかあさんが俺を殴ったということに驚いていた。


 まぁそりゃそうか、普段はそんなことしない人だからな。


「お待たせ~」


 俺たちを待たせていた中舘さんと耀さんが戻ってきた。


 二人を連れて。


「ほらほら、自己紹介っ」


 中舘さんはその二人の背中を押し、褐色肌の男女はためらいながらも言葉を発する。


「えっと……双子の兄で、土岐陸って言います……。その、よろしくお願いします……」


「私は、その妹で……土岐奈那って言います……。兄と同様、よろしくお願いいたします」


 言葉が詰まりながらも、何とか言い終える。


「よ、よろしく」


 俺たちを見つめるその赤い瞳は、その妖しさからは感じることのできない別のものを感じた。


 それはまるで、俺たちにおびえているかのようなものだった。


「まぁ警戒するのもわかるけど、仲良くしてやってよ」


 しかし俺らも警戒しないわけにはいかなかった。


 よろしくといわれて、はいそうですかとはいかない。


 つい先日まで敵対しており、お互いに命を賭けて戦ったのだから。


 いやまぁ、俺は全く賭けていないけど……。


「あなたは何様なのでしょうかね」


「ん~、仲介者?」


 入り口で俺たちを見ている二人は、だがいつでも動くことができるようにしていた。


 もしもの時は、彼らが対処するのだろうな。


「あの、あともう一人は?」


「あぁ、彼はこの二人の執事ってことにしておいたよ」


「なる、ほど?」


 しっかりとは理解していないが、立ち位置は俺のところにいる宮本さんと同じにしたのだろう。


 そのほうが体裁はいいのかもしれないし、中舘さんたちがそうしたのだから俺は何も言うまい。


「その……」


 二人して、バッと土下座をした。


 俺が沙耶の家出していたものと同様に、綺麗なものであった。


「あの時は、ごめんなさい!」


「私たちは、言われてやった。けど、あなたたちを傷つけた……」


 とても申し訳なさそうに、二人は俺たちに謝罪してきた。


「俺らは生きる術がわからないからやった。逆らったらまたぶられると思ってやった……」


「あそこを破壊してくれて、ありがとう……」


 そして謝罪とともに、感謝を述べた。


「あなたたちとは仲良くやっていきたい……。いい、かな?」


「私からもお願いします……」


 これから俺たちと高校生活を送っていくのは知っている。


 ここに来る前に説明され、そしてあのクソ女神からも言われている。


 この二人に返す言葉は確かに決まっている。


 だけど……。


「結奈よ、正しい答えを教えてくれ」


 それは俺の独断で決めていいものなのかと、結奈に助けを求めた。


 こういう時なら、結奈だってまともな答えを教えてくれるはずだ。


「ひざまずいて俺の舎て———」


「お前に聞いたのが間違いだったよ! 何が舎弟だよ! んなもんいらんわ!」


 聞いた相手が間違っていた。


 そうだよな、危険がなければ結奈は確かにふざけたりするよな。


 もうこれは、自分で答えるしかないか……。


「あー、別に俺らは無事だったし、怒ってないよ」


「それじゃあ……」


 頭を上げ、俺たちを見る目に光が宿ったのが見えた。


「あぁ、これからよろしく」


「ありがとう……!」


「いやだから、頭を上げてくれ」


 再び二人は顔を下げてしまい、その頭を上げようとしなかった。


 余程嬉しかったのか、二人とも顔に満面の笑みが浮かんでいた。


「そうだよ、翔夜は怖いけど、大丈夫だよ」


「沙耶さん、それはフォローのつもりですかね?」


 二人が未だに怯えていると思っているのか、沙耶はどうにか顔を上げようとしてくれた。


 しかしね、そんなこと言わないでほしいのよ……。


 まるでそれを沙耶から言われているようで、俺悲しくなっちゃう……!



「翔夜さん、どうしてそんな早急に……」


「ん?」


 みんなが二人を向かい入れようと思っているなか、一人だけ警戒心に満ち溢れた人がいた。


「つい先日まで敵対していたのですよ? なのにどうしてそんな直ぐに仲良くしようとできるのですか?」


 エリーだけは、まだ彼らを受け入れようとは思っていなかった。


 まぁ確かにエリーのいうことも理解できる。


「あぁ、こいつらから敵意が感じられないっていうのと、誠意か伝わってきたからな」


「それだけ……」


 俺はただ自分が神の使途で、あのクソ女神から言われているっていうのもあるし、それにこいつらからは悪意を感じ取れなかった。


 エリーが悪いのではなく、直ぐに判断を出してしまった俺の方に非があるのだろう。


 寧ろそれが普通の反応だ。


「大丈夫だよ~。もし何があったとしても、もう一度倒せばいいだけだしね~」


 結奈は俺に味方し、彼らを受け入れようと説得する。


 神の使途であるということもあるが、恐らくあいつは二人の心を読んで安全だと判断したのだろう。


 俺みたいに普段から悪意を向けられる人物じゃないからな。


 そういうのには敏感ではないだろうし。


「どうしてもダメかな……」


 さてどうしたものかと頭を悩ませる。


 エリーの意思は無視できなし、かといって二人と仲良くしないわけにもいかない。


 マジでどうしましょ?


 そう悩んでいると、件の二人は立ち上がりエリーの元まで歩く。


「な、なんですか?」


 目の前まで来て、エリーはさらに警戒を強める。


 そして警戒して入り口にいる二人は、いつでも魔法が放てるように構える。


 しかし俺は全く警戒しない。


 その理由は簡単である。


「本当に、申し訳なかった……」


「ごめんなさい……」


「え、あの、えっと……」


 二人とも、攻撃する意思など全くなく、ただ謝りたかっただけということはわかっていたからだ。


 そして、本当に自分たちに敵意がないということを理解してほしかったのだろう。


 頭を下げて、どうにか許しを乞うていた。


 その体は震えており、許されなかったらどうしようなど最悪なことを考えていることは明白。


「はぁ、わかりました。私もあなたたちを許します……」


「あ、ありがとう!」


「ありがとう……!」


 だがその誠心誠意こめた謝罪に、流石のエリーも観念したようだった。


 ようやく、全員が警戒しなく、仲良く話し合いができる状態になった。


「それじゃあ今日はここまでね!」


「えっ……たった今来たばかりですよ?」


 しかしそれを遮るように、中舘さんが俺たちの話に割って入った。


「これから身体検査と学校への手配と……まぁいろいろやらなきゃいけないことが山積みなんだ」


 これからやらなければいけないことがあるなら仕方がないのだろうな。


 今生の別れというわけでもないし、明日学校で会えるのだから別にいいだろう。


「大変ですね~」


 労いの言葉というわけではないが、月並みの返答をして二人に同情した。


「どこかの誰かが三人を連れてきてしまったせいですよ」


「全く、ひどい翔夜がいたもんですね」


「おいこら、すべての罪を俺に押し付けるんじゃねぇよ!」


 確かに連れて行こうといったのは俺だけど、それはあのクソ女神が言ったからであって、それはつまり俺たち神の使途の三人は同罪だよ!


 なに俺だけに罪を擦り付けようとしているんだよ!


「謝罪もないのでしょうか?」


「あー、えっと……怒っています?」


「別に怒っていませんよ」


 そっけなく、顔をそむける。


 本当に怒っているのかもしれないと思って、再び俺は土下座しようかと思った。


 だが……。





「寧ろ……あなた方の、ほうが……ひっぐ……」


「えっ……えっ!?」


 もしかしたらそれは別の意味で土下座をするかもしれなかった。


 耀さんが、泣き出してしまったのだ。


「あー、泣かないで~! 二人の話を遮っちゃって罪悪感を感じていたんだよね~!」


「泣いてないですよ馬鹿にしないでください罪悪感なんて感じてません舐めているんですかペストさん死んでください」


「ヒドッ!」


 顔をペストさん……じゃなくて、中舘さんにうずめているため表情はうかがい知れないが、あれは泣いているな……。


 もしかしてだけど、俺と沙耶の話に割って入ったことをずっと気にしていたのか?


「あー、泣かした~」


「俺が悪いのぉ!? いやそれはホントマジでごめんなさい!」


 別にもう怒っていないし、それに俺からしたら中学生な見た目をしている耀さんを泣かせてしまっては申し訳が立たない。


 どうにか泣き止んでくれないかな?


「「阿鼻叫喚……」」


 兄妹二人ともどうしていいかわからず、ただ佇んでいた。



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