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第七十九話 情緒纏綿


 俺たちは今、自宅付近を歩いている。


 俺が引っ張られる形で……。


「沙耶、どこに向かっているんだ?」


 沙耶に連れられて、俺たちは外へと出たわけなのだが……。


 どこに連れていかれているのか全く分からないのだ。


「……沙耶さん、どちらに向かっているんですか?」


 しかも、さっきから聞いているのに無視し続けられている。


「あの~……」


 先程の抱き枕を聞かなければよかったかな?


 そのせいで怒らせてしまったのかもしれない……。


「複雑な感情だな……」


 沙耶を怒らせてしまっていたのならば、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいである。


 だがしかし、今俺の手は沙耶に握られているのだ。


 それはつまり、俺の心拍数が否が応でも上がってしまう。


「どうしたほうがいいのだろうか……」


 今の状況を打破しなければという気持ちと、それに相反する気持ちがせめぎあっている。


 どうしたほうが今の状況にとって正解なのだろうか?


 誰か教えてくれはしないものだろうか……。




 そう様々なことを考えていると、沙耶はふと立ち止まる。


「ここは……?」


 気づくと俺たちは、綺麗な川が流れている土手の下にまで来ていた。


 ん~、俺の処刑場ではないことを祈るばかりだ。


 嫌なことを考えていたが、しかし沙耶が穏やかに話し始める。


「ここはね、昔私と翔夜が魔法の練習をしていた場所なの」


「ここが……」


 なんと、この場所は俺たちが魔法の練習をした場所だった。


「さっきはちょっと取り乱しちゃってごめんね……。落ち着きたくてずっと無視しちゃってた……」


「いやいや、こっちこそ申し訳ない……」


 お互いに申し訳なさそうにして頭を下げ、謝罪をする。


 しかし少したって、なにがおかしかったか俺たちもわからないが、クスッと二人して笑った。


「私はちゃんと魔法を使うことができなくて、泣いてばっかいたの」


 二人で並んで歩きながら、沙耶はぽつぽつと語っていく。


「私のお父さんとお母さんは魔法を使えるのに、どうして自分は使えないのって……」


 確かに両親ができるのに自分ができないというのは、自分自身のことより周りからの目が痛いよな……。


 俺も見た目という意味で視線が痛いよ……。


「そんなとき、翔夜が魔法をわかりやすく教えてくれたの」


「俺が?」


「うんっ」


 おっと、まさか俺に人様に魔法を教えることができたとは。


 それも、今俺が勉強を教わっている沙耶に教えたとは……。


 人って人生何があるかわからないもんだな~。


 いやマジで。


「今思い返してみても、当時から翔夜はおかしかったね」


「ん?」


 それはどういうことだ?


「ふふっ……」


 笑いを隠すそぶりを見せ、しかしそれは隠す気もないのだろう。


 とてもいい笑顔で、俺の前へと出て振り返る。


「だって、あの時から大人たちよりも強い魔法を使えていたんだもの」


 まぁ、神の使途ですから!


 なんて言えるわけもなく。


 だがそれでも、昔の俺よ……いろいろとグッジョブ!


 そして沙耶が歩みを止めたため、俺も立ち止まる。


「それでね、魔法を使えるようになって……私はあることを翔夜に言ったの」


「あることって?」


 昔のことは綺麗さっぱりなくなっているため、何を言われたのか知らない。


 思い出すことも不可能だろうから、他人から言われなければ過去のことは本当に知らない。


 だが沙耶から言われるそれは、とても予想外であった。



「ずっと一緒にいてほしい……って」


「それは……」


 昔の俺よ、なんて羨ましい……。


「魔法の練習をしていて、そして一緒にいて楽しかったの」


 確かに沙耶は魔法を使っているときは楽しそうにしているし、俺といるときは笑っているな。


「子供のころだから、深くは考えていないで言ったんだと思う」


 誰とでもそのように対応していたから、沙耶はそういう優しい人なんだと思っていた。


 そして俺と一緒にいたいというのは、安全であるからだと思っていた。


「だけど今は違うよ」


 しかし、その沙耶の性格の要因の一部は俺で、その俺に損得抜きにして一緒にいたいといってくれていた。


「私は、翔夜と一緒にいたいと思ってる」


 そして今も、その答えは変わっていなかった。


「お、俺も……一緒にいたいと思ってる……!」


 言葉に詰まりながらも、俺は何とか答えることができた。


「何かあれば沙耶をすぐに助けたいし、それに何より……」


 思考が停止しそうではあるが、それでも言葉を紡ぐ。


「俺は沙耶のことが、す……大切に思っているから……!」


 なんで、なんで俺は『好き』の一言も言えないんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!


 こんの根性なしがっ!!!


「嬉しい……ありがとうっ」


「こ、こちらこそ……」


 それでも、その言葉が嬉しかったのか、沙耶はとてもいい笑顔で礼を言ってくれた。


 そんでよく俺はちゃんと会話を成立させているな!


 さっきから緊張で頭が真っ白になりそうだよ!


「そ、それでね、翔夜……」


「な、なんだ……?」


 唐突に、改まって真面目そうに話し始める。


 顔を伏せてしまっているため表情をうかがい知ることはできないが、耳が真っ赤になっていることは見て取れる。


「あの、私ね、驚くかもしれないんだけど……」


 このような状況になれば、例え恋愛に対して鈍感でひねくれていようとも、理解せざるを得ない。


「うん……」


 この後の言葉を、俺は予想できてしまう。


 沙耶はバッと顔を上げ、そして……。






「私、翔夜のことが……す———」


「ちょっといいですか?」


「「っ……!?!?」」


 この結果は誰が予想していたことだろうか。


 俺たちは突如として現れた琴寄耀さんに驚きすぎて、文字通り言葉を失った。


「二人きりのところ申し訳ないんですけど、報告があったので声を掛けました」


「び、びっくりしたぁ……」


「心臓が破裂するかと思った……」


 二人ともけたたましく鳴り響く心臓の音を鎮めるべく、結構荒めに深呼吸をする。


「というか……」


 緊張しすぎて生体感知魔法を発動していなかった俺に落ち度があるのだろうかと、そう思ってしまうが、今はそれよりも……。


「おいおい耀さんや、なんで今なんですかね? 今じゃなくてもよかったでしょ? もう少し空気というものを読んでくれませんかね? 今めちゃくちゃ複雑な心境なんですよ? わかります? 俺下手したら泣いちゃうかもしれないくらいですよ? どうしてくれるんです? 俺の今の時間返してくれません? 時間を巻き戻す魔法でも使ってくれません? 俺のこと嫌いなんですか? そんなに人が幸せになるのが妬ましいですか? ねぇねぇねぇ!」


 耀さんへと問い詰め、今の気持ちを素直にぶつける。


 人生において一番ともいえる超ビッグイベントをこの人は台無しにしたんだ。


 到底許されるべきことじゃあない!


「ちょっと怖いですので、離れてくれませんか?」


 そんな俺に対しても冷静にしているが、この人は何をしたのか理解しているのか?


「まぁまぁ翔夜くん、ちょっと落ち着いて」


「あぁん?」


「おっふ……」


 俺をなだめようとしてくれるペストさん……もとい中舘さんは俺の怒りにあてられたのか、言葉が詰まってしまっている様子だった。


「た、確かに今何も考えずに話しかけた耀ちゃんのほうが悪いけど、ちょっと落ち着いてね」


 しかしそれでも立て直し、俺を落ち着かせて自身らがここへと来た理由を話す。


「まず、君たちから預かっていた三人のことなんだけど……」


 その話す内容は、あのクソ女神からお願いされた、三人のことだった。


「特に悪意もないし、脅威にもならないということで、僕たちの監視付きで普通の生活に戻すことになったよ」


「そう、ですか……」


 正直先程の怒りと興奮は収まらないし、もっと問い詰めたいけど……。


 しかし今はこの目の前の問題について聞かなければな。


 というか、どうにもならないと思っていたけど、意外とどうにかなるもんだな。


「これから二人にあってほしいんだけど、いいかな?」


「……理由を聞いてもいいですか?」


 俺たちは当事者であるが、しかしどうして会わなければいけなんだ?


 すべてそちらで行うことだろうに。



「あの三人のうちの双子は、君たちの高校に通わせることになったんだ」


「えっ?」


「はっ?」


 えっと、危ない宗教にいた人たちだよね?


 そんな人たちが、高校に行くの?


「そんなこと、できるんですか?」


「まぁ、いろいろあってそこに落ち着いた感じ、かなぁ?」


 あーなるほど、クソ女神の力ですね、わかります。


「それで、学校で会うより事前に会っておいたほうがいいってことになってね」


「だから事情を知っている俺たちに……」


「そうそう」


 なるほど、確かに事前に知らされているのとそうでないのでは大違いである。



 というか、どうしてそんなことで今の雰囲気をぶち壊してくれてんの?


 ねぇ、どうしてくれんのマジでホントに!


「……聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」


「なにかな?」


 だがまぁ、ここは大人の対応をしようじゃないか。


 そもそもまだ機会はあるだろうからな!


「あの時は沙耶のことで頭がいっぱいだったんで聞きそびれましたけど、あなた方は初対面の時に俺を知らないふりをしていましたよね?」


「そうだね」


 俺はこの人たちと出会って……というより、この人たちが俺たちのことを監視していると知った時から気になっていたことを聞く。


「もしかして、二人以外にも身近に俺たちを監視している人っているんじゃないんですか?」


 そう、今までこの二人に出会ったことはないが、それでも二人だけで俺たちを監視し続けるということは不可能である。


「……結構鋭いね」


 表情が全く分からないから声色で判断するしかないが、中舘さんは今笑っている気がした。


「ということは……」


「うん、まだ君たちを監視している、僕たちの部隊の人たちはいるよ~」


「どうしてそういうことをペラペラと話してしまうんですか……」


 あ、もしかして今のって秘密にしなければいけないことでしたか?


 というか、そういうことなら簡単に話さないでくれませんかね?


「どうせ近々会うんだからいいでしょ?」


「え、会うの?」


「まぁそれは置いておいて、さっそく行こう!」


「え、ちょっ……」


 俺がその会う人物について聞こうと思ったが、しかし中舘さんは話を聞かずに土手を登っていく。


 仕方がないので、俺たちもついていくことにした。



 そして上った先に見える高級車があった。


「うわー、黒塗りのセダン……」


 なんか、暴力団とかが乗っていそうな車だな……。


 俺にお似合いだぜ!


 はぁ……。


「そういえば、あと一個聞いてもいいですか?」


「なにー?」


 そして今日で会ってから気になっていた、ちょっとした疑問をぶつける。


「そのマスクは外で脱がないんですか?」


「恥ずかしいから脱がない!」


 外見よりも、自分の心情を優先するそうだった……。


「こっちが恥ずかしいのに……」


 耀さんは顔へと手を当て、本当に恥ずかしそうにしていた。


 うん、その気持ち、先程からランニングや散歩をしている人たちから奇異の目で見られている俺たちも理解できます……。


 というか沙耶よ、もうそろそろ深呼吸するのをやめてもいいんじゃないか?



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