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第七十七話 身から出た錆

今回は少々長めです。


 先生を縛り終えた俺たちは、結奈たちがいる元へと戻った。


「あれ、由乃(よしの)は?」


「もう大丈夫って思ったらしいから帰ったよ」


「そうか」


 生体感知魔法で脅威となる者はいないか索敵するも、特にこれといって引っかからなかったので由乃が思っているように安全なのだろう。


 それに今なら、俺たちがいるしな。


「それで、その人たちは?」


「あー、こいつらは……」


 俺が安心して沙耶の隣に腰を下ろすと、沙耶はある方向を指さして俺に聞いてきた。


 その指さす方向には、あのクソ女神の置き土産である三人が転がっていた。


「あれっ、この人たちって……!」


 エリーが三人を見て立ち上がり、ホルスターから二丁のリボルバーを引き抜く。


 その者たちに構えて警戒するが、しかし俺は急いで説明する。


「いや、何かこいつら、この組織に洗脳されていたっぽいんだよね!」


「えっ、そうだったんですか?」


「そうそう、だから一応連れて行こうって思って……」


 正直苦しい言い訳だが、しないわけにもいかない。


 クソ女神のお願いということで、俺たちは彼らと友達にならなければいけないのだから。


 ぶっちゃけあのクソ女神からの願いなんぞ聞きたくもないのだが、あれほど悲壮感に染まっていたクソ女神ははじめてだったので、一応聞いておかないこともないと思って仕方がなく、本っ当に仕方がなく聞くことにした。


「ですが、どうしてこの場所に?」


 頑張って説明しようにも、ここに連れてきたのはあのクソ女神であるため、俺にはどうしてもこの現状を説明するすべを持たない。


 つまり……。


「クソ女神めぇ……!」


 呪詛のように怨念でも籠っていそうなほど怒りを込めて小さく呟くことくらいしか、今の俺にできることはない。


 変な置き土産を残してくれやがったクソ女神を呪い殺してやりたいと思うと同時に、しかし今はエリーの質問に答えなければいけない。


 どうしたものかと内心焦るも、助け船は突如としてやってきてくれた。


「まぁまぁ、この三人のことはともかく、一旦この場所を出よう」


「そ、それもそうだな!」


 咄嗟に機転を聞かしてくれた結奈のおかげで、なんとか難を逃れられた。


「え、あの……そうですね、まずはこの場所を移動しましょう」


 何か言いたそうにしていたが、しかしこの場所に留まることは危険と判断したのだろう。


 俺たちに同意して、ずっと構えていたリボルバーをホルスターに収めた。


「それじゃあ、三人は僕たちで担いでいくから、沙耶とエリーはちょっと待っててね~」


「その僕『たち』って言うのは、俺と怜のことなんだろうな……」


「だろうね」


 いやまぁ、沙耶とエリーにやれとは思っていないけど、最初からやる前提で話を進められると何だか不服である。


「私たちは手伝わなくていいの?」


「そうですね、私たちも何か手伝いますよ」


「……まぁ、そんな状態だし大丈夫だよ~」


 不服そうにしている俺とは対照的に、沙耶とエリーは自ら手伝おうとしてくれた。


 なんていい子なんだろうと思うと同時に、しかし結奈が二人の足を指さし、そして俺たちは気が付く。


 沙耶とエリーが少し震えていることを。


 そういえば二人とも、ずっと同じ姿勢でいたな。


 それはつまり、まだ動くことが難しいのだろうか。


「あっ……ごめん……」


「す、すみません……」


「あー気にしなくて———」


 いいよ、と言おうとしたのだろう。


 しかし俺はその言葉を遮って結奈に食い掛かった。


「おいコラ結奈ぁ、今沙耶を傷つけたなぁ?」


「おっとまさか今ので怒るとは思わなかった」


 沙耶の隣を離れ、俺はすぐさまその結奈へと詰め寄る。


 おいおいおいおい、まさか結奈が沙耶を傷つけるなんて思わなかったぞ?


 まぁ結奈が沙耶を気遣ってそう言ったことは理解できる。


 しかしだ、それでも沙耶を傷つけていい理由にはならん!


「あのね、二人は正義感の強い子なんだから、あれくらい強く言わないと手伝おうとするでしょ?」


「まぁ、二人ともいい子だからな……」


 俺にしか聞こえないような小声で話してくる。


「今回は、僕が今悪役になってあげたの」


「……う~んと?」


 沙耶が


 しかし、結奈の言わんとしていることがわからない。


「つまりね、いま落ち込んでいるところを慰めに行ったら、好感度抜群じゃない?」


「ふむ……」


 なるほど、そういうことか……。





「まずは手伝ってね?」


「くそぅ!」


 そっと何気ない感じで沙耶の元へ向かおうとしたのだが、結奈に襟首をつかまれてしまい行くことが出来なかった。


 どうして……どうしてこういう時にお前は邪魔をするんだよぉぉぉ!


「ていうか、僕が助け船を出したことに感謝してほしいくらいなんだけど?」


「あーそうだったな。助かった」


「なんか感情がこもっていない気がする」


「気のせい気のせい」


 あの時確かに助け船を出してもらったことには感謝している。


 しかしなぁ、俺が沙耶の元へ行くことを阻んだ直後に言われても、感謝する気持ちが薄れてしまうのは致し方ないと思うんだ。


「それじゃあ、僕がこの女を運ぶから、二人は男をよろしく」


「へいへい」


「わかった」


 結奈は双子の女の方を、怜は双子の男の方を、そして俺は化け物だった男を運ぶことになった。


 それぞれ背中に担いで、沙耶とエリーが座っている場所へと行く。


「……チッ」


「えっ……?」


 どうして今結奈は舌打ちをしたの?


 もしかして……その女の胸が背中に当たっているからか?


「結奈さん?」


「胸が大きい奴はみんな不幸になってしまえばいいのに……」


「なんか不穏な言葉が聞こえたんだけど!?」


「アイデンティティが貶されるってことなんだろうね……」


 そんな恐ろしいこと言います!?


 自ら背負ったのに、そこまでキレるの!?


「もう降ろせよ、俺が背負うからさ」


「……変態」


「なんで!?」


 どうして俺が貶されなければいけないんだよ!


「じゃあ転移するから、みんな翔夜に触れてー」


「……変なことしないでよね?」


「しねぇよ!?」


 結奈はいったい俺のことをなんだと思っているんだよ……。



 沙耶やエリーが腕にと、各々が俺に触れていく中、結奈だけは少しおかしなところに掴まっていた。


「結奈さん、あなたが掴んでいるのは私の首ですよ?」


「そうだけど?」


「俺を殺すつもりなの?」


「そんなことはいいから、早くして」


「そんなことで片付けていいことじゃないと思うんだけどなぁ……」


 どうしてかわからないのだが、結奈の指が俺の首に少しめり込んでいるんだよ。


 なんでなの、チョット痛いんだよ?


 まぁ一応転移するけどさぁ!



 俺は千里眼を発動し、そして転移魔法を続けて発動する。


 瞬時に変わる風景。


 それを見て、女子たちがそれぞれ感想を述べる。


「早業だね~」


「転移って、すごいね……」


「ですね……」


 だが、俺たちは悠長にしていられない問題がある。


 それは……。


「よし、それじゃあ今のうちに逃げ———」


「逃げられると思っているのですか?」


「デスヨネー」


 転移して直後に今一番見つかりたくない二人が目の前へと現れ、俺たちの逃走を阻止した。


 その二人は、俺たちに待機するように言っていた、中舘さんと琴寄耀さんだった。


「まったく、あなたたちは———」


 耀さんによる説教が始まってしまった。


「私たちはあなたたちのことを思って———」


 生体感知魔法で確認していたのは、地下の施設で局所的にしか見ていなかった。


 しかも千里眼で見たのは転移する場所だけ。


 そのため、俺は転移する場所の近くに誰かがいるかわからない状態で転移しまったのだ。


「今回は運がよかったものの———」


 沙耶たちをすぐさま恐怖心から遠ざけたいという思いが先行してしまったために起こってしまったことだな。


 まぁ、怒られることは確定していたし、問題の先送りにしかならなかっただろうけど。



 というか、話長くない?


「それで、その後ろの三人は誰ですか?」


 ようやく説教が終わり、話題は俺たちが背負っている三人に移った。


「あぁ、この人たちは洗脳されていた人たちです」


「一応敵じゃないかなって思って連れてきました」


「……事情は分かりませんが、連れてきてしまった者は仕方がありません。私たちの方で保護しましょう」


 耀さんがこれ見よがしに指を鳴らすと、陰に隠れていた人たちがぞろぞろと現れ、俺たちから三人を引っぺがして連れていく。


 ずっといることには気が付いていたが、敵かと思っていたらまさか耀さんの味方だったとは……。


「……おい、これ友達になれるのか?」


「知らない」


 クソ女神へ。


 どうやら俺たちは、彼らと友達になることは出来るかわからなくなってしまいました。







 ===============








 俺たちはあの後、学校へと戻ることはなくそのまま自宅へと帰宅させられました。


 お二人からは先生方に説明しておくと言っていたが、本当に帰ってしまっても良かったのだろうか……。


 いや別にね、家に帰ることはいいんだよ。


 でも、それだと各々が家に帰ることになるということになってしまうわけだ。


 まぁ沙耶は一旦病院へ行った後に帰ることになると言っていたから、どっちにしろ一緒に帰ることは出来ないわけなんだが。


「翔夜」


「はい……」


 全員帰宅を命じられてしまったため、全員で沙耶に付き添うことは叶わなかった。


 俺だけ抜け駆けしようとしたのだが、それは結奈に止められてしまったため、断念するしかなかった。


 どうして毎度俺の行く手を阻もうとするのかね、アイツは。


「私の言いたいこと、わかる?」


「おおよそは……」


 一応沙耶は入院となることはなかったが、それでもあれから別れてずっと会っていないというのは心配である。


 主に俺が寂しい……。


 沙耶のことを思うのならば仕方のないことであるということは重々承知しているが、俺は今すぐにでも会いに行きたいよ。





 というか、もうそろそろ現実逃避をすることは()そう。


「もう、ホントどうして次から次へと問題に首を突っ込むの!?」


 はい、前回のシルバーアントの戦いの後と同じように、ワタクシ纐纈翔夜は絶賛家族全員の前で正座をさせられています。


 主に母さんが怒っているわけなのだが、今の俺にその母さんを止めるすべを持っていない。


 それでも、これ以上怒らせないようにしなければ……。


「いや、問題に首を突っ込んだのは今回が初めてだし、それに沙耶が誘拐されたから———―」


「沙耶ちゃんを誘拐されるなんて……!」


 あ、これ殴られるやつだ。


 前回もそうだったが、母さんは怒りが頂点に達すると体を震えさせて俺に愛の鞭をお見舞いする。


 一応避けるという選択肢もあるのだが、しかしここは甘んじて食らわなければなるまい。


 さぁ、どんとこい!


「何やってるの翔夜は!」


「ぐへぁっ……!」


 俺はわざと母さんの攻撃を食らい、そして壁をぶち破ってリビングから庭へと吹っ飛ばされた。


 ……いつも思うが、母さんはどうして身体強化魔法を使わずに俺を吹っ飛ばせるんだろう?


 もしかしたら俺がおかしいと一瞬思ったが、外野を見ていると三者三様に苦笑いを浮かべていた。


 つまり、俺はおかしくなかった。


「やりすぎだと俺は思います」


「愛の鞭です!」


 俺は庭からリビングへと戻り、再び正座する。


 というか、この抜けてしまった壁は俺が直すんですよね、わかっていましたとも……。


 あとで直しますね。


「まったく、ホントに心配したんだから……」


「……ごめんなさい」


 鞭の後は、飴がやってくる。


 力強く、しかし優しく抱擁され、俺は本当に申し訳なくなる。


 これほど俺のことを心配してくれている相手に、これ以上心配をかけたくはないな。


「もう危ないことはしないって約束してくれる?」


 ……ん~、どうしよ?


 沙耶が絡んでいたら、絶対危ないことでも首を突っ込むだろうし……。


「どうして、答えてくれないの?」


 心配をかけたくないと思った直後だけど、絶対危険な目にあいそうなんだよねぇ……。


 ここは嘘はつかずちゃんと言おうか!


「いや、あの……沙耶が絡んでいたら絶対に首を突っ込むだろうなって……」


「そんなのあたりまえ!」


「えぇさっきと言っていること違くない!?」


 あれぇ、こんな横暴な人だったっけ?


 どうしてそんな発言がコロコロ変わっているの?


「あのね、好きな女の子を守るために危険を冒すことは当たり前なのよ、ねぇお父さん!?」


「や、やめてくれ……」


 母さんの隣にいる我が父親は、同意を求められているが目を逸らして恥ずかしそうにしていた。


 いったいどんなエピソードがあったのか気になるな……。


「母さん……」


 しかし俺は、母さんの発言を聞いてあることに気が付いた。


「俺が沙耶のことを好きだって知ってたの!?」


「……まさか、知らないと思っていたの?」


 呆れ顔で、皆俺を見つめてくる。


 どうしてみんなしてそんな顔で俺を見てくるんだ!?


「はぁ、みんな知っているわよ」


「みんなって!?」


「みんなよ」


 そんなアバウトに答えなくても!


「そ、そんな……完璧に隠していたと思っていたのに……!」


「どこが……?」


 元々正座しているが、俺は足から力が抜けていくのを感じた。


 頭を抱えたくなるが、しかし俺は一つの可能性が頭をよぎった。


「ま、まさか沙耶にも……!?」


「残念ながら沙耶ちゃんには知られていないわよ」


「う、う~ん……それはそれで複雑だな……!」


「まぁ、時間の問題よね」


「そうだな」


 なんでそんな他人ごとなのだろうか……。


 いや別に知られていなかったことは嬉しいんだけど、でもそれはそれでなんだか悲しいなって思うんだ。


 複雑な恋心をね、そんな絵空事のように話さないでほしいです。


 そんな複雑な心境の中、俺の胸に飛び込んでくる人が一人。


「兄さん……」


「ゆ、結衣?」


 顔をうずめていて表情を窺えないが、体が震えているため心配をかけてしまったということは理解出来た。


 これは本当に申し訳ないな。


 それと同時に、俺のことを心配してくれてうれしく思うぞ。


「お前にも心配かけたな……」


「バカ……」


 安心させるように、結衣の頭を撫でてやる。


 落ち着いたら、あとで何か埋め合わせをしないとな……。






 結衣が落ち着き、俺から離れて自室へと駆けこんでいった。


 いったいそんなに急いでどうしたのかと思ったが、唐突に母さんから質問された。


「というか翔夜、沙耶ちゃんの両親には謝罪しに行ったのか?」


「あっ!」


 そういえば、俺が助けられなかったんだから、まずは沙耶のご両親異謝罪しないといけないよな!


「早く行ってきなさい!」


「行ってきます!」


 俺は急いで、まだ直していない穴から飛び出して沙耶の家へと向かった。


「直してから行きなさい!」


「はい……」



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