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第七十一話 蘇生理由


「いやちょっと待って、なんで先生がここにいるの!?」


 名前を覚えられていなくて悲しんでいるところ悪いんだけど、それ以前にどうして先生がこんな場所にいるんだ?


 ここは沙耶を誘拐した連中のアジトなんだぞ?


「もしかして、教師陣が助けに来たとか?」


 沙耶の言っている通り、それくらいしか考えられることはない。


 沙耶が……というか俺たちがいなくなっていることは、もう他の人たちにも知られていることだろう。


 なら、先生たちが俺たちを探しに来ていると考えても不思議なことじゃない。


「にしても、意外と早く来るもんだな?」


 だけど、中舘さんたちが恐らくまだたどり着いていないというのに、先生が先に来るなんてことはあるのだろうか。


 いや、他にも先生がここにいる理由はあったな。


「いえ、違いますよ」


「……では、どうして?」


 沙耶の問いを先生は否定したが、俺と沙耶はなんとなく予想はしていた。


 ここに先生一人でいる時点でおかしく、しかも刀と脇差を腰に差しており、そして手榴弾や何かしらの術式が組み込まれた超非合法としか思えないような重機関銃を背負って武装をしている。


 いったいそんなものを持っている教師がどこにいるのだろうか。


 まぁそれを持っている理由ならば、答えることは簡単だ。


 どこかの、非合法なものを取り扱っている組織に(くみ)しているのだろうな。


「それは、僕もこの組織『アポストロ教』の人間だからですよ」


「久しぶりに聞いたな、その名前」


「アポストロ教……」


 先生は俺たちの信頼を裏切るようなことを口にしたその名は、目的のためならば何でもすると言われている組織。


 そんな組織の構成員だったとは、誰も予想は出来なかっただろう。


 学校で見ているだけならば、先生は至って真面目な優しい人物であった。


 名前は忘れていたけど……。


「まさか纐纈君たちが助けに来るとは思っていませんでしたが、まぁ好都合ですね」


「……どういう意味だ?」


 先程から腕を後ろに組んで、余裕綽々とした態度で俺たちと会話をしている先生は。


 だがそんな先生とは対照的に、俺たちは最大限に警戒をしなければいけない。


「あなたにも私の実験に付き合ってほしいということですよ」


 先生の企みは知っている。


 しかしここは敵組織のど真ん中。いつ沙耶に攻撃の手が及ぶかわからない。


 ならば会話をしながらも、先生以外にも警戒していなければいけない。


「死者を、生き返らせるんだったか?」


「えっ……」


 驚いた様子でいるのは沙耶だけで、先生は少し口角を上げるだけだった。


 俺は中舘さんたちから聞かされていたから知っていたけど、沙耶は誘拐されてしまったから知らないのは当然として。


 どうして先生は、そんな嬉しそうな表情をしているんだ?


「おや、知っていたのですか?」


「小耳にはさんだだけだがな」


 まるで、俺がその事実を知っていたかのような、不気味な笑みを浮かべている。


 その表情を見て、俺は前へ出て沙耶を隠すような位置に立った。


 油断してしまって沙耶を連れ去られないように、もう二度と同じ過ちを繰り返さないように。


 というか、あんな武装している人なら最初に出会ったときに沙耶の前に出るべきだったな……。


「そうですよ、私の目的はそこにあります」


 組んでいた手を広げて、こちらへと近づいてくる。


「それこそが、私がこの組織に入った理由なのですから」


 ある一定の距離まで詰めると、先生は再び手を後ろへと組み、つらつらと語りだす。


「ですので、この間テロリスト集団を学校に招いたとき、その困難に乗じて沙耶さんを誘拐するつもりだったんですよ」


「あいつらを呼び込んだのはあんただったのか……」


 高校とはいえ、俺たちの通っている学校は日本屈指の魔法高校である。


 そんな高校に、テロリストたちが易々とは入れたことはずっと疑問に感じていた。


 もしかして学校の誰かが手引きをしたんじゃないかって思っていたけど、まさかこの先生だったとは思わなかったな。


「纐纈君の件を利用させていただきました」


「くそっ!」


 あれは確かに俺が原因だったのだが、まさかそれを利用されていたとは。


 本当に、自分の行いには気を付けないといけないな……。


「ですが、纐纈君が張った結界のせいで触れることすらできませんでしたよ」


「……ハッ、ざまぁみろぉ!」


 全くそんなこと意図していなかったけど、結果的に沙耶を守れたんだからよかった!


 結界張っておいてホントによかったよ!


 グッジョブ、俺!


「その後も実験に使ったシルバーアントも、その女王アリも、翔夜君によって倒されてしまいましたし」


「あれ先生が消しかけたのか……」


 もしかして、あの時見えた人影は先生だったのか?


 なるほどそれなら、異常に発生したシルバーアントの理由が説明できるな。


「しかもあの魔法によって私すら危なかったんですからね?」


「す、すみま……いやそれ俺は悪くなくない?」


 というか、アポストロ教って魔物で実験とかしていたんだな。


 そりゃそうか、蘇生魔法を使おうとしているんだもんな、いろいろと非合法なことをしているのは自明の理か。


「今回だって強硬手段に出たというのに、こうやって組織の場所に助けに来るんですもん」


「沙耶を助けるのは最優先事項なんで!」


 今までのは俺たちが近くにいたから深追いせずに済んだのだ。


 だけど今回は沙耶が連れ去られてしまったのだ。


 ならば、助けに行くのは当たり前のことなのだよ!


「もうあなたは東雲さんのストーカーなんですか?」


「そんな不名誉な呼び方をするんじゃない!」


 なんて酷いことを言うんだ。


 俺が沙耶のストーカーだと?


 確かに四六時中一緒にいるような気はしなくもないが、しかし俺は沙耶の嫌がるようなことは一切していない!


 そんなことをしてしまっては、沙耶に嫌われてしまうからな!


 嫌われたら俺、生きていけない!


 ……本当に嫌がっていることをしたりしていないよな?


 少々、というかかなり不安になりながらも、俺はそのことを頭の片隅に置いた。


 だが先生からその悩みや警戒心を吹き飛ばすほどの質問が飛んできた。





「では、恋人ですか?」





「「こっ……!!!」」


 俺たち二人は、言葉に詰まった。


 いやまさかその質問が飛んでくるとは思っていなかった。


 傍から見たらそう見えなくもないのかな?


 そうだったら嬉しいんだけど、でも可能性の話だし、それ以前に先生がからかっているという線もあるしで、答えに困るな。


 沙耶も沙耶で困った様子で口をパクパクさせているし。


 これはいったいどう答えたらいいだこれは?


「いや、あの、えっと……」


 本当にどう答えていいわからず、コミュ障みたいな受け答えになってしまった。


 というかここで恋人になりたいって言いたい!


 だがしかし、本当にここで言ってしまっていいのか!?


 いや言いたいけど、こんな場所では言いたくない!


 もっとムードのある場所で、しっかりとした状況で伝えたい!


 でも、ここがチャンスだと思って言いたい!


 いったいどうすれば……!


「ま、まだ恋人じゃありません!」


「そ、そうですか……」


「そうです!」


 ようやく思考が戻ってきたのか、沙耶は普段出さないような声量でその質問を否定した。


「そんな強く否定しなくてもいいと思うんですけど……。冗談ですし……」


 やはり冗談だったのか。


 そうだよな、俺と沙耶がそんな関係に見えるわけないもんな。


 そう納得していると……。


「沙耶っ!」


「結奈!?」


 俺がぶち抜いた壁から、結奈たちがやってきた。


「よかった、翔夜もいたね」


 俺のことを発見して一応安堵している怜は、だが俺の格好を見て訝しげな表情で近づいてくる。


「って、なんで翔夜は目頭を押さえているの?」


「聞くな……」


「……まぁ、なんとなく理由は察するけど……」


 沙耶の口から『恋人ではない』と発せられたのだ。


 もうこれは涙が零れ落ちそうになっても仕方がないだろうが。


 というかよく俺は涙をこらえているよ。マジで自分を褒め称えたいよ。


 沙耶がこの場にいなかったら、絶対大粒の涙を流して泣いているな……。


「えっ、先生!?」


「皆さんも、東雲さんを助けに来たんですね」


 エリーは当然の如く驚いているが、どうして先生はさほども驚いた様子ではないんだ?


 ……あぁそうか、監視していたのだろうな。


 そういえば途中で監視室っぽいところを破壊してきたから、恐らくそこから見ていたのだろう。


「どうして、先生がここに?」


「アポストロ教の組員なんだと……」


「「「えっ!?」」」


 これには三人とも驚きを隠せていなかった。


 まさか、この先生が組員だったとは。


 まさか、この先生が沙耶を誘拐したとは。


 そんなこと、予想でき出来るものなど殆どいないだろうな。


「はい。東雲さんの魔力が必要だったので、誘拐させていただきました」


「まさか、先生が……!」


「意外だったねぇ……」


「あんな人畜無害そうな先生がねー……」


 俺たち二人もそうなのだが、やはりこうして驚くことは至極当然のことなのだな。


 普段の様子から、この先生が犯罪に手を染めているなんてこと、思うはずもない。


 それでも、今は敵として目の前に対峙しているのだ。


 五人とも警戒してしかるべきだろう。


「というか翔夜は直ぐに戻ってきてくれない?」


「心の傷はデカいんだよ……」


 だがしかし、俺だけは警戒どころか先生を見てすらいない。


 怜は困ったようにこちらを気にしているが、心に受けた傷は早々には治らないんだよ。


 それくらい察してくれ。


「いやホントそういうのいいから、ここ敵地なんだから戻ってきて」


「なんでそうも傷ついている友人をさらに傷つけようとするかな?まぁ戻ってくるけど……」


 言っていることは正論だし、間違ったことは何一つ言っていない。


 寧ろこの場では俺がしっかりする必要があるのだ。


 だけどな、もう少し言葉を選んでほしかったな……。


 好きな人から恋人じゃないって言われるって言うのは、本当に悲しいことなんだぞ?


「翔夜、大丈夫?」


「大丈夫だ、問題ない!」


 俺の顔を心配そうに上目使いでのぞき込んでくる沙耶。


 そんな沙耶に俺は笑顔で戦うことに支障はないことを告げる。


 しかしどうしてだろうか、沙耶に心配されたら急に元気が出てきたぞ?


 まさか沙耶が俺に元気になる魔法でもかけたのか?


 それほどまで沙耶は、俺を元気にするほどの力があったのか!





 はぁ、俺ってチョロいな……。


「ど、どうしてそんなことをするのですか?」


 エリーは、この場の全員が気になっていたことを聞いた。


「蘇生魔法を行う……ということを聞いているわけではないんですよね」


 蘇生魔法を使おうとしていることはこの場の全員が知っている。


 それを行う理由は何なのかということだ。


 いったいどうしてそのようなことをしようとしたのか、それを俺たちは知りたかったのだ。


 だが先生は、先程の余裕綽々とした態度から一変して、少々怒りや悲壮感を滲みだしながら答える。


「娘を……生き返らせたいんですよ」



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