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第六十八話 忌々しい力


今回も三人称視点で行きます。


そして今回は少々分量が少なくなっていますが、ご了承ください。




 結奈と怜の二人と別れた翔夜とエリーは、だがここでも足止めを食らいそうになり、翔夜を先に行かせエリーは見えない敵と対峙していた。


 いや、本当に対峙している事すら危うい。


 なぜなら、敵が見えないのだから。


「何か、先程翔夜さんの叫び声らしき声が聞こえたのですが……気のせいですね」


 通路の奥から叫び声が聞こえたような気がしたが、エリーの知っている翔夜が敵に後れを取るわけがないと、少し考えてしまった嫌なものを、首を振って頭から取り払う。


「ともかく、私はどうにか敵を見つけなければ……」


 辺りを見渡し、何か手掛かりのようなものがないか探す。


 だが、特にこれといってめぼしいものは何もなかった。


 あるとすれば、敵がやってきたであろう通路への扉だけだろう。


「破壊力抜群の翔夜さんを先に行かせてしまいましたが……」


 ここで少々後悔することになる。


 翔夜の火力があったのならば、この場所でも多少無茶を効かせて敵を見つけられたかもしれない。


「いったいどうやって攻撃しましょうか?」


 敵を見つけられなければ、そもそも攻撃を当てることなどできない。


 しかも、エリーは次席とはいえ、使える魔法は水魔法のみときた。


 もちろん身体強化魔法も使えないわけではないのだが、しかしここではほとんど役に立たないだろう。


「沙耶さんは翔夜さんが来てくれることを望んでいるでしょうから、結構無理矢理行かせてしまいましたね」


 ここに助けに来た、翔夜以外の三人が理解していたこと。


 沙耶はいったい誰に助けに欲しいと願っているのか。


 それは当然、翔夜である。


 しかし当の本人は、そのことに気が付いてはいないわけなのだが。


「時折攻撃を仕掛けてくるのですが……」


 誘拐された友人に思いを馳せていたが、再度開始された攻撃を見やる。


 水の結界にて攻撃を防いで入るのだが、しかしその攻撃された箇所を見ても敵の姿はない。


 この結界が破壊されることなんてないという、絶対の自信があるからこそエリーは平常心を保っていられる。


 しかも結奈からもらった文字通り守ってくれるお守り付きである。


 これほどのものがあれば、たとえ一人であろうとも問題なく戦うことが出来る。


 そう自分に言い聞かせて、ホルスターから取り出したリボルバーを、攻撃してきた箇所へと数発撃つ。


「撃ってみても、当たっていませんね」


 だが、それでも敵に攻撃が当たるようなことはなかった。


 魔力弾は空を切り、後ろの壁に当たった。


 撃ち出したものは弾丸ではなく魔力であるため、通常のものよりも高威力であった。


 その証拠に壁には凹みが出来ており、人体であれば命を危ぶまれてしまうものであることは明らかだった。


「透明化する魔法を使っているのかと思うのですが、この様子だと……」


 当初、エリーは敵が透明化の魔法を使っていると思っていた。


 翔夜もそう言っていたし、エリーだってその考え以外は思いつかなかった。


 だが、先程の攻撃で透明化以外の魔法も使っているのではないかと考えた。


「当たった気配はなし、ですか」


 今度は二丁同時に発砲したのだが、またもや当たった様子はなかった。


 後ろの壁が酷い有様になってしまっているが、ここで透明化だけではないと確信を得られた。


 エリーの放つ魔力弾は、速度が本物の銃弾並みに早い。


 それなのに当たらないということは、神の使徒のような超動体視力と超身体能力がなければ躱すことなど不可能である。


「なら、全方位ならばどうですか!」


 より確信を得たいと思い、エリーは自身の周りに拳大の大きさの水球を生み出した。


 そしてその水球を使い、全方位へと同タイミングで攻撃を仕掛けた。


 できればこの攻撃で敵に当たってほしいと願うものの、結果はエリーの予想した通り。


「当たって……いませんね」


 何かに当たった様子もなく、ただ壁に甚大な被害が出てしまっているだけであった。


「これでは、本当に時間稼ぎになってしまいます」


 翔夜には時間稼ぎをすれば、後ろから二人がやってくるから問題ないと。


 エリーはそのようなことを言ったが、内心は誰の力も頼らず自らの力で敵を倒したいと願っていた。



 演習を行うグループで、自分だけが置いて行かれているような気がしていた。


 みんな様々な魔法を使い、しかもそれがかなりの高威力を発揮するものばかり。


 神の使徒は仕方がないにしても、沙耶も魔力がかなり多いため劣等感を少なからず抱いていた。


「それでも、目的は達成しているのでいいのでしょうが……」


 水魔法しか使えないというハンデを抱えてでも、その四人に並んで戦いたいと願うほどにエリーは努力していた。


 そんなことを四人が気にするはずもないのだが、エリー本人は気にしてしまっている。


 ここでどうにか自分一人でも問題なく敵を倒せるということを示せれば、その四人に並ぶことが出来ると証明されるのだと。


「それでは私のプライドが許しません!」


 珍しく、エリーは敵を倒すことに燃えていた。


 自身が攻撃を食らうことがなければ、もう怖いものなどないのだから。


 それならば、みんなと肩を並べられるように発起してしまうことも仕方がない。


「『海霧(かいむ)!』」


 水魔法で霧を生み出し、その霧を部屋中に充満させていく。


 この霧に殺傷能力は一切ない。


 その代わり、この霧に触れたものは何なのか、どこにあるのか、どの程度魔力を宿しているのか、その他諸々を知ることが出来るものなのだ。


 本来は暗闇でこそ真価を発揮する魔法なのだが、今回に限って言えば最適の魔法だろう。


 まずはこの魔法で敵を探し出して、そして確実に攻撃を当てればいいのだ。


 エリーはこれで敵の所在がわかると判断し、部屋の隅々まで充満させてわかったこと。



「いない……?」



 そう、何も反応はなかった。


「存在そのものを無くす魔法……?」


 そう思ってしまっても仕方のないことだろう。


 誰であれ、そこにいるのならば、形あるものならばこの魔法に反応しないわけがない。


 エリーはこの魔法で確実に敵の場所を突き止められると思い込んでいたため、表情には出していないが、内心はかなり焦っていた。


「まさか、そんな魔法あるわけありません」


 自分で言った発言を撤回する。


 この世界で存在を消すという魔法は存在しない。


 誰もそんな魔法を知らないし、使えるものも存在しない。


 あらゆる文献を見てきたエリーは、そんな魔法はないと断言する。


「ですが、翔夜さんは転移魔法を使えますし……」


 それでも、今まであり得ないと思われていた魔法があるということを本日知ったのだ。


 しかも自分の友人が使えるという事実を知ってしまっては、存在を消すような魔法が目の前の敵にあったとしても不思議ではない。


 ならば……。


「ありえないことでは、無いのかもしれませんね」


 可能性が少しでもあるのならば、一応は考えておかねばならないことである。


「移動してみても……やっぱり攻撃は当ててくる」


 場所を移動してみても攻撃がされることから、敵は一応は存在していることはわかる。


 だが、魔法に反応がないのに攻撃をされているというのは、一種の恐怖である。


 ポルターガイスト現象と呼んでもおかしくはない。


 それでもここでの役目を承ったのだから、自分の力でどうにかしたいと思っている。


「これは、困りましたね……」


 しかし、ここにきて行き詰ってしまった。


「敵の存在も、位置も、魔法も、全く分からない」


 相手の場所がわからなければ、攻撃を当てることは出来ない。


 いや、それ以前に攻撃が当たるかどうかさえも分からなかった。


「わかることといったら、見えず触れることさえも恐らくできないということ」


 わかっていることが少なすぎる上に、こちらがアッという敵に不利ということに変わりはない。


 ただ唯一の救いが、結界魔法を破壊するほどの攻撃力を敵が持っていないということだった。


「いったいどうしたら……」


 リボルバーをホルスターへとしまい、考え出す。


 自分の使える魔法の中で、このような敵に勝てる魔法。


 攻撃を当てる魔法。


 探し出す魔法。


 どの魔法を使えば最適なのか、そう悩んでいると。


『何ちんたらやっているんだ』


「なっ……!」


 脳内に、突如として現れる声。


 その声に驚き、しかし今現れたことに納得しているエリーがいた。


「どうして———」


 どうしてあなたがいるの、と問いかける前に、その声の持ち主は一言。


『———借りるぞ』


「うっ……くっ……!」


 そう述べて、エリーの体を乗っ取っていく。


 苦しそうな声を出すが、その声もだんだんと聞こえなくなり、表情も緊張した面持ちから余裕の笑みへと変わっていく。


「問題ないな」


 自身の手を開いたり閉じたりしては、しっかりと動くかどうか確認をしていた。


「さてと、仮にも俺の主・・・が困っているんだ」


 そして普段であればエリーが口にしないような言葉づかいで、何処にいるかもわからない敵を見据えるように、邪悪に口を歪め目を細める。


「助けてやらんとなぁ」



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