第六十三話 裏切り
魔力というものは、自分の中にあるものを自分の意志で使うことで効果を発揮する。
その魔力は、他人がどうこう出来るはずがないのだ。
そして、無理矢理他人の魔力を使おうものなら、その素体となった人間はただでは済まないだろう。
そういう事例が今までなかったわけではない。
悲惨なものへと変化してしまっているため、一刻も早く沙耶を救出しなければいけない。
「あー、話が見えてきた」
「え、今ので?」
焦燥の念に駆られている俺は、沙耶とその死者蘇生が結びつくのか、全然理解出来ていなかった。
しかし結奈にはどうやら、今のことだけで何か理解することが出来たようだった。
「つまりね、その死者蘇生魔法を行うには、膨大な魔力が必要になるわけ」
「……ほう?」
なんかわかりやすく言ってくれたようなのだが、俺にはこれでも理解出来なかった。
理解できていないからか、結奈に変わって今度は怜が呆れながらも説明してくれた。
「……翔夜、沙耶ちゃんの魔力は他の人よりも、尋常ではないほどあるんだよ」
「それはわかる」
確かに怜の言う通り、普通の魔法師の平均よりも何倍もの魔力を持っているからな。
しかし、それでどうして沙耶なんだ?
「それで、何で沙耶なんだ?普通に考えるなら、俺や怜を連れて行った方がいいんじゃないか?」
膨大な魔力が必要になるのであれば、普通に考えたら俺や怜を連れ去っていくはずだろう。
魔力測定で装置を破壊してしまったからな!
それで判断したんだと思うんだけど、それだと俺や怜ではなく沙耶を連れ去った理由が本当にわからない。
明らかに俺たちの方が魔力が多いことは確実なのに、なぜだ?
「たぶん、蘇生対象が女性なんじゃないかな?」
「……ん?」
「同じ性別じゃないとできないと判断したんだと思う」
「くそったれが……!」
俺もなんとなくで使えることがわかるから理解出来るんだが、この魔法に対象者の性別なんて関係ない。
ましてや人を生き返らせるために他の人間を使うというのは、本末転倒ではないか。
先程まで収まっていた苛立ちが復活してきたぞ……。
「ようやく翔夜でも理解出来た」
「おい、俺でもってどういうことだ!?」
こんなシリアスでも俺のことをからかうことを忘れないのは、流石と言えるよ……。
いや、もしかしたら結奈なりに俺のことを気遣っているのか?
……それはないか。
「それで、沙耶は何処にいるの?」
「おい無視するな……といいたいが、それは俺も気になることだな」
結奈が代表して、俺たち全員が聞きたいことを聞いてくれた。
俺たちはこれから沙耶を助けに行かなければいけない。
であれば、場所を知っている二人に聞くほかない。
「……もしかして、助けに行くつもりなの?」
「そのつもりです」
「四人で?」
「行きます」
俺たちの実力ならば、どんな敵であろうとも脅威とはなり得ない。
神の使徒が三人に、この国随一の高校の次席である。
十分というか、過剰と言ってもいいだろう。
しかし……。
「ダメです」
やはり、沙耶の場所を答えることを拒否すると思った。
「あなたたち子供に危険な場所に向かってほしくないからですよ」
至極当然な答えだな。
「大人として、それは看過できません」
例え俺たちがどれだけの力を持っていようとも、たとえその力を理解できたとしても、大人の責務として教えることは出来ないだろう。
俺たちは全員が高校生一年生なのだから。
「これから私たちがその地下施設へ行き、沙耶ちゃんを助けに行ってきます」
「だから、君たちには待っていてほしいんだよねー」
「そんなこと……」
俺はこういわれることが予想出来ていたし、元々千里眼を使って必死に探すつもりだった。
神の使徒が本気になって探せば、見つからないことはないと思っていたからな。
「そんなこと、できるわけないじゃないですか!」
「うぉ……!」
だが、そのようなことを感情的に受け入れることが出来ない人が一人。
エリーが初めて、声を荒げた。
「私の大切な友達がいなくなったんですよ!?」
今まで見たことのない彼女の姿に、俺たちは呆気にとられていた。
沙耶ほどの友人は今までいなかったのだろう。
あれほど、他人にやさしく友人を大切に思ってくれる人物である。
「それを、指をくわえて待っていろって言うんですか!?」
そんな大切な友人がいなくなったとなれば、普通の高校生であれば声を荒げて反抗してもおかしなことではない。
寧ろごく自然なことであり、来るなと言われてそれを理解しろというほうが無理な話だな。
「ちょ、エリー落ち着いて……」
「……確かにもっともです」
ようやく彼女を落ち着かせようと、結奈が彼女の傍らに行き宥めた。
そしてそのことを理解出来たからこそ、エリーの発言を否定はしなかった。
「ですが、相手は人殺しを平気で行う異常な集団です」
しかし、大人である彼女が感情で物事を推し量ることなんてするはずもなく。
「そんな輩がいる場所に、送り出すことなんて出来ません」
エリーが感情的に訴えたとしても、彼女からしたら到底受け入れられるものではなかった。
「それでも……!」
「まぁまぁ、ちょっと落ち着いてって」
「結奈さんは落ち着いていられるんですか!?」
「ダメだよ、翔夜が落ち着いているのに僕たちが感情的になっちゃったら」
「で、でも……!」
今にも目の前の二人に飛び掛かりそうになっているエリーを、結奈は手を握ってどうにかこうにか宥めていた。
というか、どうしてそこで俺が出てくるんだ?
確かにこの中で一番沙耶を心配していると言ってもいいし、それに沙耶のことを好いているし、なんなら今すぐにでも目の前の二人に情報を吐かせてすっ飛んでいきたいって思っている。
落ち着いているように見せているけど、これからどうやって沙耶に元に行くか考えているんだよ。
つまり、考えているから焦っているように見えないだけで、ここの誰よりも焦燥感に駆られています。
「耀ちゃん耀ちゃん」
「なんですか?」
「彼ら、連れて行ってもいいんじゃないかな?」
俺たちを見かねたのか、中舘さんがここにいる全員が予想外のことを言いだした。
「は、はぁ!?」
流石のこの発言には、先程まで落ち着いていた耀さんも取り乱してしまった。
誰が止めに来た人物がその発言を覆すなんて思うだろうか。
「いったい何を言っているんですか!?」
「いやだって、彼らが強いのは君も知っているだろう?」
「それはわかりますが……」
俺はこの交渉がダメだと思っていたので、一応尾行していくことも視野に入れていた。
多分それが一番早く沙耶の元につくことが出来るって思うから。
それが、相手が俺たちを目的の場所まで連れて行ってくれるというのか。
「どういったところで、何が何でも彼らは僕たちを追ってくるだろうし」
正直なところ、場所だけ教えてもらって俺たちだけで転移魔法で行ったほうが絶対速いよな~。
「それに、僕らがどう説得したところで、翔夜君だけは絶対に追ってくるだろうしね~」
おっと、俺限定なのはなんでだ?
全員ついて行くつもりだと思っていたんだけど……。
「ね?」
「……えぇ、何が何でもついて行くつもりです」
こちらを見て、確認をしてきた。
ということは、考えを読まれていたのかよ……。
でも、読まれていたからと言っても、俺たちを連れて行ってくれるのであれば問題ないな。
「翔夜君が本気になったら、僕たちじゃあ多分敵わないから」
「それなら最初から連れて行こうということですか?」
「そうそう」
俺が監視対象だからだろう、俺の実力がどれほどのものなのか理解している様子だった。
別に俺はそこまで気にしていないから、バレて問題はない。
寧ろ今は効率よく物事が進んでいくから、逆に良かったかもしれないな。
「何を言っているんですか……私たちは彼らを止めるために来たのに、それを無駄にするようなことはやめてください」
「え~」
しかしやはり常識的に考えている人は違う。
上司に言われても俺たちを止めることをやめようとはしなかった。
ということは、俺たちはついて行くことが出来ないのか。
「……チッ」
「今舌打ちした!?したよね絶対!?僕これでも君の上司に当たるんだけど!?」
「面倒な上司をもって部下は不幸ですね」
「ねぇ僕のガラスのハートが傷ついたよ!もう少し敬ってほしい!」
俺、あんなマネされたら泣いちゃいそうだよ……。
しかし、これは困ったというか、振出しに戻ってしまったな……。
いや、ついてくるかもしれないと知られてしまったから、振出しよりも戻ってしまっただろう。
今言い争っている二人は、曲がりなりにも国家機密の組織にいる人間だ。
俺たちが神の使徒であろうが、
「あなたたちが敵組織に乗り込んでしまったら、あなたたちが危険に陥ってしまうんですよ?」
「そうですね」
言い争いが終わったのか、俺たちを説得し始めた。
ぶっちゃけ、どれだけ説得されたところで俺たちは考えを改めることなんてあり得ないのだがな。
「そうですねって……死ぬ危険があるんですよ?」
「まぁ、そうかもしれませんね」
俺たち神の使徒よりも危険ではない存在はいないだろう。
沙耶がさらわれてしまった俺たちが、そんな敵地で油断するはずもない。
まぁ実際のところ、槍でも俺は死んでいなかったから死ぬことはないんだろうけどな!
「あなたたちは、命をなんだと思っているんですか?」
「自分の命より、沙耶の命の方が大切だ!」
この世界で俺の生きる意味は、沙耶なのだから。
その沙耶がいなければ、俺は生きている意味を無くしてしまう。
であれば、助けに行くことなんて当たり前のことなんだよ。
これが、大切な者がいる者の覚悟ってやつだ。
「それでも、ここは大人である私たちに任せるべきです!」
「……わかりました」
「え、ちょ、結奈!?」
「結奈さん!?」
だがそんな俺の覚悟を、結奈は意味の無いものとして切り捨てた。
エリーも驚いているが、どうして彼らの要求を飲んだのだ?
「実際、どれだけ力があろうとも、僕たちは素人だ。そんな危険な場所に行くのは無謀なんだよ」
「いやでも、俺たちなら!」
俺たちは神の使徒である。
例え女王アリがどれだけ出て来ようとも、国家が相手になろうとも、負けることなんてありえない。
そんなバカみたいな存在であることを、結奈自身が知っているはずである。
なぜ、自らは赴きもせずに待っているということを受け入れたんだ?
「確かに、僕たちだけでは限度って言うものがあるよね」
「怜まで……」
驚きの上に、さらに同じ神の使徒である怜までもが結奈に賛同した。
これにエリーは声を出せずに唖然としていた。
俺だって、驚きすぎてどうしたらいいかわからなくなってしまった。
「沙耶が無事に帰ってくることを祈っていよう」
「……納得してくれたようで何よりです」
ようやく、といった様子で納得してくれたことに落ち着きを取り戻していた。
仕方がないんだろうけどさ、俺たちからしたら納得できるものではない。
「では、我々はこれから沙耶さんを救出に行ってきます」
外套を翻して、二人はこの森の入り口とは正反対の方向へと歩み始めた。
「くれぐれも大人しくしていてくださいね」
「はい、沙耶のことをお願いします」
そう結奈が言うと、二人は再び姿をくらませた。
隠密状態になって見えなくなったのだろうが、しかし生体感知魔法を発動している俺にはどこにいるのかがわかる。
これを追っていけば沙耶の元につくことが出来るが、しかし俺にはまず聞かなければいけないことがあった。
「おい、どうして大人しくしていることを了承したんだよ」
これにはさすがの俺も苛立ちを隠せない。
沙耶を助けに行かないとは、どういう了見なのだ……と。
「何言ってるの、大人しくしている必要なんてないでしょ」
「はっ?」
いったい何を言っているか理解できなかった。
さっきまで助けに行かないと言っていたのに、どういう手のひら返しだ?
「あんなもん、時間の無駄だから大人しくしたふりをしただけだって」
「まぁ、そうだろうと思ったよ」
「そう、だったんですか……」
怜まで、それに気が付いて結奈に乗っかっていたのか……。
「僕たちを止められると思ったら、大間違いなんだからね」
「ははっ……」
そりゃそうだよな、こいつらがどれだけ正論を並べられたところで、沙耶を助けに行かないわけがなかったな。
「そうかそうか、そういうことか……」
こいつらは一刻も早く沙耶の元に行くために、今取れる最善の手を考えていたんだ。
俺とエリーは焦りすぎていて、目先のことしか目がいっていなかったって言うわけか……。
「友達を守れなかった悔しさって言うのは、他人が理解出来るものじゃあないんだよ」
「あぁ、そうだな」
あれほど悔しいと思ったことはなかった。
また繰り返さないためにも、まずは助けに行かないとな。
「それじゃあ、つまり……」
「うん、後を追いかけていこう」
先程まで焦っていた俺たちであったが、今は沙耶を助けに行くため感情が高まっているのがわかる。
俺たちは二人にバレない距離も保ちつつ、空を飛んで追うことにした。
「待ってろよ、沙耶……」
最近ギャグが少なくなってきているように感じたので、次回からもっと多くいれて行こうと思います。




