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第六十話 許さない

 今回はシリアス展開です。

 いつもより少なめですが、ご容赦ください。

 初めて三人称視点で書くので、何か至らない点があると思いますが宜しくお願い致します。



 転移魔法というのは、その名の通り物体をその場所から別の場所へと移動させる魔法である。


 それならば瞬間移動魔法という名前でいいのではないかと、大抵の人物は少なからず疑問に思うだろう。


 しかし、転移と瞬間移動には決定的に違うものがある。


 それは、移動先に、そして直線距離に何かしらの物体があるかどうかなのだ。


 瞬間移動魔法というものは、この世界にすでに存在している。


 しかし、瞬間移動魔法も転移魔法ほどではないが、膨大な魔力を消費して発動する。


 そして直線距離に何か障害物があったり、移動先になにか物体があれば魔法は強制的にキャンセルされてしまう。


 そのため、瞬間移動魔法を好んで使おうとする者はほとんどいない。


 対して転移魔法は、その瞬間移動魔法よりも膨大な魔力を消費する代わりに、術者が望んだものを望んだ位置に移動させることが出来る。


 たとえ直線距離に何か障害物があろうとも、空中だろうと地中だろうと、転移先に何があっても、移動させることが出来る。


 転移魔法は空間と空間を繋いで移動するのだ、途中の障害物なんて関係ないし、ましてや転移先に何があろうかなんて関係ないのだ。


 転移先に何があろうとも、転移してきたもので上書きされるため、転移者には何も影響はない。


「んぅ……」


 そのため、転移されてきた沙耶は全くの無傷の状態である。


 とはいっても、周りに何もない状態ならばただの杞憂なのだが。


「ここは……?」


 目を覚ますと、そこは先程まで沙耶がいた演習を行っていた森ではなかった。


 薄暗く、湿った空気が漂っている。


 部屋と言っていいのかわからないが、この空間を照らす一つだけの電球。そして地面に描かれている魔法陣とその台座、後はこの部屋の出入り口であろう扉以外には何もない空間。


 ここはいったいどこなのか、上体を起こして周りを見渡そうとすると、突如として扉から男たちが姿を現した。


「目覚めていたのか」


 転移魔法は、普通ならば気を失うなんてことはない。


 普段から使っている翔夜は神の使徒であるため、どれだけ知識がなくとも魔力操作は常人よりも優れている。


 魔力を膨大に使う魔法であるほど、魔力操作技術は求められる。


 しかし今回発動した術者達(・・・)は、翔夜ほど魔力操作に長けていなかった。


 そのため、沙耶が気を失うようなことになってしまったのだ。


 もちろんのことだが、現れた男たちはそのことについて知っていた。


「……あなたたちは?」


 自分の知っている人間が誰もいなく、明らかに自分に対して友好的ではない人物が現れたが、沙耶は勇気をもって誰か尋ねた。


「ただの生贄であるお前が知る必要はない」


「いけ、にえ……?」


 ただ、この時沙耶は自分が質問をしてしまった事を後悔した。


 相手が言ったその一言で、自分がこれからどうなるのかが理解できてしまったのだ。


 自分はこれから、死ぬのだと。


「そうだ、我々はこれから前代未聞となる偉業をなそうとしているのだ」


 彼らの目は濁りきっていた。


 沙耶のことをまるで人として見ていない。


「そのためにはお前の膨大な魔力が必要となるのだ」


 確かにこれから自分たちが偉業をなそうとしているのに、それに使われるモルモットなどどうでもいいのだろう。


「そ、んな……」


 しかし、それは生贄が人間ではなく、ましてや沙耶のような未来ある少女に対しては当てはまらない。


 そんな人の道を外れたことをしてしまっている人物に、沙耶は一層恐怖心に襲われることとなった。


「大人しくしていれば、痛い目にあわさずに生贄に使ってやる」


 普段であれば、翔夜が近くにいて沙耶を是が非でも守ってくれるのだ。


 今までそうしてきていたため、翔夜が近くにいない乃至(ないし)直ぐに会えないという状態にはならなかった。


 しかしこの場に翔夜はいない。


 そんなこと百も承知だが、改めていないということを認識すると、足に力が入らないほどに戦慄してしまった。


「だが、それでも俺たちは慎重なんでね、しばらくの間拘束させてもらう」


 彼らは沙耶に恐怖心を植え付けたため、沙耶の自由を奪おうと拘束しに近づいていった。


 手足を拘束していないと、流石に少女とはいえ脱走されてしまう恐れがあったためである。


 しかし、そんなことを許すはずもなく、沙耶は何かしらの魔法を発動しようと身構えた。


 相手をしびれさせるか、それとも壁に吹っ飛ばして気を失わせるか、頭の中では共振に逆らってどうするか考えていた。


「言っておくが、魔法を使おうとしても無駄だぞ。こいつがある限り、ここで魔法を使うことは出来ないからな」


「魔法、無力化装置……」


 さらに追い打ちをかける様に、沙耶にとって最後の頼みの綱である魔法が使えなくなってしまった。


 それではもう、ただのか弱い少女である。


「少しくらい、味見しても体は傷つけることはないし、いいだろう?」


「俺たちにも少し分けてくださいよ?」


 下卑た笑みを向けられ、沙耶はこれから自分がどうなるか想像してしまう。


 乙女にとって最悪な未来しか予想できずに、涙があふれだしそうだった。


 しかしここで心が折れてしまってはいけないと思い、助けがすぐに来ると信じてなんとか耐えていた。


「翔夜……!」


 その名前を呼んだところで、現れないことは本人が一番わかっている。


 しかし心が折れそうなほどに精神状態が不安定な沙耶には、この名前を呼ばずにはいられなかった。


「うわっ!?」


「な、なんだ!?」


 助けてほしいという思いが伝わったのか、その呼びかけに答えたかのように、沙耶を外敵から守ってくれるものが現れた。


 そのため、男たちの手は沙耶に触れることなく壁に弾かれることとなった。


「結界!?」


「いったいいつ魔法を発動したんだ!?」


「知るかよそんなこと!」


「これって……」


 沙耶にはこの結界魔法に心当たりがあった。


 演習当日に結奈から渡されたお守りである。


 沙耶はそれを自身のポケットから取り出した。


「そうか、結界魔法は常時発動しているようなものだ。だから魔法無力化装置の影響を受けなかったのか……」


「結奈……!」


 ここにいなくても、自分を守ってくれている。


 その事実に嬉しくなり、お守りを抱きしめた。


 この場には自分の味方が誰もいなく恐怖していたが、しかしこのお守りがあることによって多少なりとも安心することが出来ていた。


 しかも、学年主席である結奈が作ったものであるということが、さらに沙耶の安心感を高めていた。


「ちっ、この際多少傷つけてもいい、あの結界を破壊しろ」


「「「はっ!」」


 男たちは懐にしまっていた特殊警棒を取り出し、沙耶の周りに展開している結界目がけて殴りかかった。


 しかし、そんなことを男たちが知る由もない。


「おらぁ!」


「このっ!」


 作った人物が日本一の魔法高校の首席であることを。


「くそっ、どうして破壊できないんだ!?」


 そして、この世界を破壊することを可能とする神の使徒であるということを。


「落ち着け、結界魔法は何かしらの制約があるはずだ!」


「制約……?」


「それがわかれば態々破壊する必要はない」


 結奈が翔夜に説明していたが、結界魔法は術者が何かしら決められた制約があるのだ。


 設置型の場合は殆どがこれに当てはまる。


 そのため、構築する際に組み込まれた『制約』に当てはまらなければ何も効力を発揮しない。


 しかし、翔夜には言っていない危惧すべきことが存在していた。


「……『攻撃』じゃないか?」


「なに?」


 考えていた男と太刀の一人が、ぼそっと呟いた。


「いや、アイツに対して傷つけようと思わなければ、結界も作動しないんじゃないかと……」


「そういうことか……!」


 これが結奈が心配していたことである。


 攻撃ではなければ、沙耶に触れることが出来てしまうのである。


 元々自分たちが近くにいることを前提として作られたお守りである。


「おぉ、こいつに触れるぞ!」


「い、痛い……」


 そのため、沙耶が安心していたものが再び崩壊してしまった。


「へっへ、大人しくしてればそんなに痛い思いをせずに済むぜ」


「は、離してください」


 心の上げ下げが激しいせいで、沙耶の心はもう限界を超えてしまっていた。


 涙を流し、力なく男たちに抵抗しようとしていた。


 当然のことだが、大の大人に少女が魔法なしの力でかなうはずもなく、腕を引っ張られて無理矢理立たされた。


 目の前の下卑た笑みを浮かべている男は特殊警棒をしまい、手錠のようなものを取り出した。


 身動きと魔法を封じるために警察が所持している、特殊手錠である。


 沙耶はもうダメだと、半ばあきらめかけていた。


「いやだ……」


 しかし、そんな彼女を助けられる者が一人いた。


『僕の大切な主に手を出すな……』


「えっ……」


 沙耶を掴んでいた手は、その男の腕から離れて重力に従って落ちていった。


「いってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 遅れて、男は自分の手が切れてしまったのだと認識する。


 それと同時に斬られた部分から血があふれ出てきた。


「お、俺の……俺の手がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「な、なんだ!?」


 痛みにのたうち回っている男を尻目に、他の者たちはこの状態を作り出した人物へと目を向けた。


由乃(よしの)!?」


 その人物は、沙耶の使い魔である妖精であった。



 先週は投稿できずにすみません。

 毎週投稿すると言っていましたが、あまり出来ていないような気がしてなりません……。

 私にとっての山場は超えたので、しばらくは週一投稿できると思いますので、何卒宜しくお願い致します。


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