第六話 上げてから落とす
みんなが俺の使い魔を呼ぶことを楽しみにしているようだが、俺はみんなよりかなり楽しみにしている!だって使い魔だぜ?俺が呼んだら現れてくれるんだろう?
つまり、俺のことを少なからず信頼してくれているということだ!今まで俺は、動物に触れようものなら威嚇して吠えてくるし、仕舞には噛みついてきたりするし!人間も含めていろんな動物に警戒されてきたんだ……!
それが今!俺のことを信頼してくれる使い魔がいる!なんて素晴らしいことなんだ!以前の俺、よくやったな!
さてさて、いったいどんな動物なんだろうか?いや、動物じゃなくて魔物という可能性もあるな。どちらにしても、楽しみすぎて早く会いたいぜ!
「来い!」
右手を前に掲げて叫んだ……のだが、一向に何も現れる気がしない。いったいどうしたんだ?まさか、ボイコットか?いやいやまさかな、そんなことされたら俺泣いちゃうよ。……違うよな?
「うーん、久しぶりだから名前を呼んであげないと出て来ないのかな?」
沙耶が頬に手を当てながら考察していた。なるほど、つまり拗ねているわけですね。なんだなんだ、可愛いところがあるじゃないか!そういうの好きだぞ俺は!
「ふむ。あー、二人の名前はなんて言うんだ?」
こればっかりはわからないから、沙耶に名前を聞くことにした。使い魔は俺が名前を忘れていることに怒ったりはしないよな?怒っていたら許してくれ!記憶喪失になったのはあのクソ女神のせいなんだ!
「んとね、鈴ちゃんと未桜ちゃん」
「鈴と未桜か。いい名前だな」
俺はネーミングセンスはないから、きっとここにいる誰かがつけた名前なんだろうな。
「そりゃあ、翔夜がつけた名前だしね」
「おぅ、マジか……」
俺が名付け親だったのか。エミ〇アとか〇リヤっていうアニメ関連の横文字の名前にしているかと思ったんだけどな。ちょっと残念だが、これはこれでいい名前だ。
自画自賛じゃないからな?記憶があった頃の俺をほめているんだからな?
「それじゃあ呼びますかね。」
さて、出鼻をくじかれはしたが、使い魔の名前も分かったことだし、呼び出しますかね。再び右手を構えて、俺の使い魔の名前を呼ぶ準備をした。ちなみに右手を構えることに意味はない、雰囲気だ。
「来てくれ、鈴、未桜!」
名を告げると、目の前に幾何学模様の二つの魔法陣が現れた。二つの魔法陣は、お互いに淡い銀色と金色に光を発しており、そこから同時に二人現れた。方や十二歳くらいの、白を基調としたゴスロリな銀髪の少女。方や十八歳くらいの、狐の尻尾が生えた巫女服の金髪の少女。
「あるじ、ひさしぶり」
「主様、お久しぶりです」
銀髪の少女はボーっとした様子で俺に抱き着いてきて、金髪の狐っ娘はしかつめらしく謹厳とした様子で、俺にお辞儀をしてきた。
……え?
俺は目の前の光景が信じられずに、目元を擦ってもう一度目の前を見た。ダメだ、さっきと同じ光景だ。
あるぇ?使い魔って動物とかだと思っていたんだけど、普通に人の姿をしている。俺の認識が間違っていたのか?
しかも結構可愛いな!おい、以前の俺よ。犯罪は犯していないんだよな?誘拐とかじゃないんだよな?いや、狐っ娘がいる時点で人じゃないんだろうことは薄々感づいているけどさ。しかも尻尾が九本だし!
「あるじ、どうしたの?」
何も言わない俺を疑問に思って、上目遣いで問いかけてきた。おぅ、なんだこの可愛い生き物は。いやいや、相手は見た目は小学生だぞ?これは恋とかそういうものじゃなくて、父親が娘を見るような、そんな感じのはずだ!決して犯罪とかそういう類のものではない!
そんなことよりも、なんか言わないと。二人とも心配そうな様子でこちらを見ている。でもな、なんて言うべきかな?記憶がないことは言わないといけないけど、突然伝えていいものか。どうしたものかね~。
「あ、そういえばあるじ。いまきおくないんだよね~?」
「そうでしたね。申し訳ありません、困惑させてしまって」
ふぁ!?え、なんで知ってんの!?俺まだ言ってないよね?心を読む魔法でも使っているんですかね?俺は今、猛烈に驚愕しているぞ!?
「なんで俺が記憶喪失だって知っているんだ?」
流石に気になって俺が疑問に思っていることを、出来るだけ平然とした様子で聞いた。詰め寄って聞くと引かれてしまうと危機感を持ったから平然としたぜ。女の子に引かれるのはもう懲り懲りだからな!はぁ……。
「それは、前回主様が私たちをお呼びになった際、次に呼ぶときは記憶がなくなっているからと仰っていたからです」
鈴が結構すごいことを平然と言ってきた。それってつまり、以前の俺は記憶がなくなるということを事前に知ることが出来たと言うことだろ?以前の俺、半端ねぇな。
「俺は未来予知でもできたのか?」
これは聞いておかないと。今の俺に出来ることと出来ないことをはっきりしておくことは大切だからな。いくら神の使徒だからって、流石にできないことだってあるだろう。
「はい、主様は局所的にですが、未来を見ることが出来ると仰っていましたので」
あぁなるほど、局所的なのね。そりゃあ未来視とかそんなにポンポン使えていたら、俺は事前に記憶喪失になるということがわかっていたってことだから、今の俺が記憶喪失になることはなかったんだよな。
そう思うとなんだか複雑な気持ちだ。
「それは、すごいな」
だが、それでも俺は感嘆するよ。局所的とはいえ、未来を見ることが出来るっていうのは、危険などを事前に知ることも出来るんだもんな。
それに、局所的にはだが、テストの問題を盗み見ることも可能ってことだもんな!あー、いや、故意的にはしないぞ?ほんとほんと。
「まぁ確かに、今の俺には以前の記憶がない。だけど、それでも俺の使い魔としていてくれるなら、よろしく頼むよ」
使い魔の二人を見据えて俺は微笑みかけた。ここで断られたら俺泣いちゃうから、断らないでね!
「いいよ~」
「私は、もとより主様以外に仕える気などありません。こちらからもよろしくお願い致します」
二人とも表情が変わらな過ぎて感情が全然読み取れない。でも、言葉ではしっかり仕えるくれると言ってくれたし、嬉しすぎて泣きそうですよ。
「ありがとう!」
俺は満面の笑みを浮かべて、礼を言った。もう俺はとっても嬉しいです!あぁ女神様、クソ女神なんて言ってごめんなさい。会ったら感謝こそすれ、殴りはしません!こんな素晴らしい人たちのもとへ、俺を転生させてくれてありがとうございます!
「それじゃあ改めて、みんなで料理を食べましょうか!」
母さんが手を叩き、俺たちに言ってきた。いや、父さんと母さんよ、先に食べないでくれ。いやね、早く食べないと冷めちゃうのはわかるよ?でもさ、今いい感じになっているんだからさ、もう少し待っていてくれないかな?道理でさっきからなんか音するなーって思っていたんだよ。
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あれからみんなで楽しく食事をした。それはもうパーティーみたいだったけど、こんなに大勢で食べるのは初めてだったから、結構楽しく食事が出来たよ。
食事をしながら聞いた事なのだが、鈴の本来の姿は大きな九尾なのだそうだ。まぁそれは薄々感づいてはいたけど、俺が本当に驚いたのは未桜だった。
未桜は蛇型の銀色の竜なんだそうだ。しかも、正確にはわからないが、全長五十メートルはあると本人は言っていた。いやいや、デカすぎはしないだろうか?俺の頭の中はラオ〇ャンロンが思い浮かんでいるよ。いや、言い得て妙かもしれないな。
そして、鈴と未桜は普段は中国の山の奥深くにいるんだそうだ。そこには人も入り込んでこないから、のんびりできるんだそうな。たまに暇になって勝手にこっちに来ることもあって、以前の俺を困らせていたという。なんか微笑ましいな。
俺が使い魔を召喚したから、ついでに沙耶も使い魔を召喚すると言った。確かに俺だけ召喚して、沙耶が召喚しないとなると、仲間外れにしているようになってしまうな。
というか、沙耶も使い魔を召喚できたんだな。どうも、使い魔はここにいる面々では俺と沙耶しか召喚できないそうだが、それでもすごいことなんじゃないだろうか?
元々召喚魔法というのは、それほど簡単な魔法ではなく、国でも1%も召喚できる人はいないそうなのだ。いや、召喚魔法自体は誰でもできることなのだが、呼び出した使い魔との相性が合わないと、主従の契約が出来ないんだそうだ。
そう考えると、二人もいる俺は結構すごいんだな。しかも九尾と竜だし、流石は神の使徒といったところだろうか。
ついでに言うと、使い魔にもランクというのがあり、下位種、中位種、上位種、最上位種と分かれているそうだ。まぁお察しの人もいるかもしれないが、俺の使い魔は二人とも最上位種だそうです。
はい、なんとなく分かっていました。だって俺、神の使徒だし、そのくらい行くんじゃないかなって思っていました。ちなみに沙耶がこれから呼ぶ使い魔は上位種だそうだ。
う~ん、あの女神様の差し金か、俺の周りってぶっ壊れているよな?普通とはかけ離れているというか。
いや、俺自身神の使徒だから普通じゃないなんて今更なんだけど。だけど、俺の周りにいる人たちは美男美女ばっかだしな~。くそ、なんで俺は両親の遺伝子を受け継いでいないんだ!なんでこっちにまで来てヤクザ顔なんだ!イケメンに生まれたかった……!
話は逸れてしまったが、沙耶は『来て』と一言言ったら使い魔が出てきた。召喚された生き物は妖精だった。大きさは手のひらサイズで、黒髪黒目で黒い服を着ているが、羽はとても綺麗なエメラルドグリーンだった。
なんだろう、俺の中にある使い魔のイメージとはかけ離れていくんだけど。使い魔と言ったら動物系が主体なのかとずっと思っていたのだが、これがこっちでいう普通なのか?
そう思ったのだが、妖精を使い魔にするのはとても珍しいことなのだそうだ。妖精という生き物は、自由奔放で命令はほとんど聞かないから使い魔にすることが難しい、というのが一般常識らしい。だが、今目の前にいる妖精は大人しく両手を使って静かに食事をしていた。竜と九尾はそもそも目撃例がないそうなのだがな。
静かに黙々と食べている妖精を見て、かわいいなぁ、と思っていると、俺の視線に気が付いたのか、恥ずかしそうにいそいそと食器の陰に隠れていった。ああもう、顔がだらしなくにやけそうだよ。まったく、かわええのぅ。
ずっと見ていると、沙耶からあまり見ないようにと注意されてしまった。かわいいからずっと見ていたいと思っていたのだが、やはり怖がらせてしまったのだろうか……。
そんな様子を見ていた未桜が食事中だというのに、俺のもとまで来て膝の上に乗って食事を始めた。
もしかして他の使い魔を見ていたから、嫉妬してしまったのか?なんだなんだ、可愛い奴め!食事中だということも忘れて、可愛らしく食べている未桜の頭を撫でてあげた。
ここからでは顔をうかがい知ることは出来ないが、無理矢理どかそうとかしてこないから嫌ではないのだろう。俺って本当に愛されているんだな!
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楽しい食事が済んだあと、一旦どいた未桜がまた俺のところにトコトコ歩いてきた。あぁ、うちの子もやっぱり可愛いな。ほのぼのするわ~。
「あるじ~、これ」
そう言って、未桜は手にした手紙を俺に渡してきた。なんだなんだ?これはいったいどういうことなんだ?あれか、これからもよろしくね的な!恥ずかしいから手紙にしてということか!そんなメッセージがかかれているのか!?……はい、期待なんてしていませんよ。そう期待して裏切られるんだもんな。もう前世で経験してるっていうの!
「ん、手紙か?これはなんだ?」
決して表情に出すことなく、平然とこの手紙は何なのかを聞いた。もしかしたらもしかするかもしれないからな!
「あるじにわたしてほしいってわたされた」
「こら未桜。主様の許可なしにそんなもの受け取ってはいけません。まったく、いったいいつの間に渡されたんだか……」
おぉ、まじか。中国の山奥まで態々渡しに言ったのか。俺に渡してくれと頼んだ方、お疲れ様です。
ともかくまぁ、封を開けて読んでみるか。
『拝啓
この手紙を読んでいるあなたは以前の記憶がなくてお困りでしょう。
なぜ記憶がないかって?それはお気づきかもしれませんが、私が神の槍を誤ってあなたに落としてしまったからです。
本当に申し訳ございません。
あれはあなたを援護するつもりで落としたつもりだったのですが、私が余所見をしていたばっかりにあなたに当たってしまったんです。
ですが、それは仕方のなかったことなのです。
だって、男しかいない乱〇パーティーを見てしまったんですから!
あんなすんごいの見てしまったらもう釘付けですよ!
私あんなの見たの初めてですよ!
もう青年からおっさんまでいろんな方々がまぐわっていましたよ!
そのせいで誤って落としてしまったのですから、許してくださいね☆
P.S.顔を両親に似せるの忘れてゴメンね♪』
……俺はまだ怒らないぞ?いやさ、このくそったれな手紙を書いた相手があのクソ女神だっていう確証がないもんな。まだあいつと決めつけるのは早計というもんだ。はっはっは、俺は我慢のできる人間だ。渡してきた相手はいったい誰なんだろうかね?相手によっては情状酌量の余地があってもいいぞ?
「なぁ未桜、その渡してきた人ってどんな人だった?」
冷静沈着に、何も悟られないように、もしかしたら薄ら笑いを浮かべてしまっているかもしれないが。出来るだけ表情を変えぬように、このくそったれな手紙を渡してきた奴を未桜に聞いた。もしかしたら以前の俺の悪戯という可能性もあるからな。それはそれでムカつくけど……!
さぁ、いったい誰がこんな手紙を渡してきたんだ!?
「え?う~んと、きんいろのかみで、すっごくきれいな、おんなのひとだった!」
ハイ決定。あのクソ女神だな!
「そうかそうか。教えてくれてありがとな」
「えへへ~」
それはそうと、俺に手紙をしっかり渡してくれたんだから、ちゃんとお礼を言わないとな。頭を撫でながらお礼を言うと、嬉しそうにしてくれた。あぁ、心が浄化されるようだよ。心にある醜い憤怒の炎の前では焼け石に水なわけだが。
「主様、その手紙を渡された方に心当たりでもあるのですか?」
鈴は手紙の持ち主が気になったのか、俺に問いかけてきた。ここで怒りを露にしてあのクソ女神のことを言おうか迷ったが、そういえば俺は記憶喪失だということを思い出して、思いとどまった。
「いや、ないな。よく考えてみれば、俺は記憶がないんだから、聞いてもわからなかったよ」
正直、もう冷静に受け答えする自信がなくなってきたぞ。怒りで頭の中がいっぱいだよ。
「そうでしたね」
相変わらず無表情で応答してくるな。頑張ってこの無表情を崩してやりたいな。
あぁ、どんどん思考が怒りに埋め尽くされていく。もう抑えきれないな……。
「ちょっと外の空気を吸ってくるよ」
みんなの前で怒りを爆発させる前にどこかに移動しよう。
「いってらっしゃーい」
「お供いたしましょうか?」
使い魔の二人が受け答えをしてくれたのだが、鈴はついて行きたいようだった。だけど、こんな醜い俺を見せたくはないから一緒に行くことは出来ないな。
「いや、一人で大丈夫だよ。ありがとね」
「あ、はい……」
そういって俺は鈴の頭を撫でてあげた。よく考えてみたら、今日はよく女の子の頭を撫でまくっているな。前世では考えられなかったことだ。いや、普通に考えて女の子の頭を撫でるって、プレイボーイのような気がしてきたぞ。今度からはもう少し考えれ行動しよう。
玄関を出てすぐに近くの山へと走ってきた。病院から家に帰る途中に見つけた人気のない場所だ。そこならどれだけ叫んでも大丈夫だろう。
「さて、ここなら平気かな」
そこまでたどり着き、俺は辺りを見渡した。誰もいないことを確認して再び未桜からもらった手紙を目にした。
「ここまで走ってくれば怒りとか忘れられると思っていたが、そんなことはなかったか……」
先程まで怒りを抑え込んでいたが、もう抑えきれなくなってきていた。走れば疲れて怒りを忘れられると思っていたが、全然疲れなかったためダメだったようだ。しかも、ここには誰もいないので、どんどんと怒りが内から湧き出てくるようだった。
もう理性とかそういうものがなくなってきたな……。
「はっはっは!!!もうぜってぇ許さねぇぞ!!!情状酌量の余地なんかねぇよ!!!我慢?んなもんできるわけねぇだろうが!!!今回で二度目だぞ!?!?俺に恨みでもあんのか!?!?ふざけんじゃねぇよ!!!しかも顔を似せるのを忘れただと!?!?道理で変わってないわけだよ!!!いろいろとやってくれたなぁくそったれぇぇぇ!!!神だろうが女だろうが知ったこっちゃねぇ!!!ぶん殴るだけじゃあ気が済まねぇぞ!!!今度会うことがあったらぶっ殺してやる!!!首を洗って待っとけぇ!!! 」
もう本能の赴くがままに叫び散らした。今までため込んでいた怒りがここで爆発してしまったが、移動して来てよかったよ。
こんなことを周りのみんなに聞かれたくはないからな。
「ふっふっふ……!」
不気味な声が漏れてしまった。恐らく薄ら笑っているだろうから、これは帰るまでにどうにかしないとな。
そして、俺はあのクソ女神を殺すと誓おう!殺伐としているかもしれないが、俺はいままでこれほど怒ったことがない。あのクソ女神は俺を初めてこんなにも怒らせた。俺がおまえと会うその日まで、震えて眠れ!