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第五十八話 転移魔法


「だけど、これは異常事態だから今すぐに先生に知らせた方がいいかもしれないね」


 この場で正常に判断することが出来るのは、俺たちのグループの五人だけであろう。


「そうだ、早く先生のところに行こう!」


「急いで先生に会おう!」


「でも、先生は何処にいるの!?」


 今目の前で恐怖に支配されてしまっている彼らには、正しく物事を判断することなんて不可能であろう。


 もちろん俺たちが正しく判断できるかと言えば、確かにそれは本当に正しいかはわからない。


 しかし、先程俺が目の前でシルバーアントを倒したにもかかわらず、未だに恐怖している彼らに比べればしっかり考えて行動することが出来る。


「すぐに駆け付けるって言っていたんだから、意外と近くにいるんじゃないかな?」


「じゃあ、適当に入り口に歩いていればいいか」


「そうだね」


 それに、このグループには沙耶とエリーがいるのだから問題ないだろう。


 二人ならば常識的な判断をすることが出来ると信じている。


 俺に普通とか無理だからな!


「それじゃあ、行くか」


 ここにとどまる理由がなにもないので、俺は歩いてきたであろう方向へと向かって歩き始めた。


 未だに怯えている奴もいるが、流石に俺らと一緒にいないと不安なのか、訝しげではあるが歩き始めた。


 しかし、その方向は俺とは正反対の方向であった。


「翔夜、逆……」


 べ、別にちょっとこっちに用があっただけだし……。ちょっとシルバーアントが死んでいるかもう一度確認するために見ただけだし……。


 だから、俺を置いて行こうとするのはやめてくれないかな?


「方向音痴」


「千里眼使ったら間違えないし」


 結奈は当然の如く俺のことを馬鹿にしてきた。


 しかし、どうして結奈は先程から沙耶の近くにいるんだ?


 もしかして俺への当てつけか?


「なんだか、さっきから沙耶の近くにいるのな」


 本当に俺への当てつけであったら、ぶん殴ってやろう……。


『翔夜、わかってないの?』


『なにがだ?』


 俺が声をかけると、結奈は念話で俺に話しかけてきた。


 誰にも聞かれたくないことなのかな?


『以前のいちご狩りで女王アリが狙っていたのは沙耶なんだよ?』


『……えっと?』


『つまり、今回現れたシルバーアントも沙耶を狙っているかもしれないってこと』


『なるほど、そういうことか』


 結奈はどうやら今回シルバーアントが俺たちを襲ってきたのは、再び沙耶を狙ってきたものではないかと疑っているようだった。


 普通に話したら沙耶を不安にさせてしまうから、結奈は念話で話しているんだな。


 確かにあの時も沙耶が狙われてしたし、それに今回のシルバーアントもあの時と同じ奴だろうし、そう考えるのは自然な事か。


 だから、結奈はそれを危惧してさっきから沙耶の近くにいるのか。


『……考えすぎってことはないか?』


『だといいんだけどね……』


 ただの勘違いで、ここにシルバーアントが現れたことが偶然であった可能性もある。


 あの時現れたシルバーアントはいちごを狙っていたように、ここにも甘味な果物などがあるかもしれないし、沙耶が狙われていると断言するには早計であろう。


 現に最初に狙われたのは、俺たちではないわけだし。


「ま、待ってくれ!」


「ん、どうした眼鏡君?」


「細沼だ!」


 俺たち二人が沙耶を再び不安にさせないために念話で会話をしていると、シルバーアントに襲われていた五人の内の一人、眼鏡君が歩き始めた俺たちを留めた。


 いったいそんな慌てた様子でどうしたんだ?


「それで、いったいどうしたんだ?」


「いや、さっき僕が火球を空目がけて放ったから、恐らく先生が直ぐに来るだろう」


「……だから、ここで待っていようと?」


「そうだ!下手に動くと危険な目にあうかもしれないからな!」


 必死に俺たちに動かないように訴えかけてくる眼鏡君。


 しかし、俺たちがここに留まる理由は全くない。


 なのにどうして俺たちを個々に引き留めておきたいんだろうか?


「はぁ……」


「な、何だよ」


 だが、彼が怯えているのかどうかはこの際置いておいて、その発言にはため息しか出て来ない。


「お前、馬鹿だろ」


「な、なんだと!?」


 確かに一般人ならば、普通は下手に動くことは身の危険を高めてしまうと考えてこの場に留まろうとするだろう。


「考えてもみろ、お前が火球を放った場所からここはそう離れていない。そしてさっき俺がシルバーアントを地響きがあるほどに力強く倒した」


「……それが、どうしたんだよ」


 だがしかし、俺たちは戦う力を持っている魔法師見習いである。


 戦う力があるのであれば、まずはこの異常事態が起きている森林から抜け出すこと重きを置いて行動するべきだろう。


「あー、つまりな、今先生がここにいない時点で、先生側にこちらに来れない原因があるってことだよ」


 しかも俺たちはシルバーアントを歯牙にもかけないほどに強いのだ。なおのことここに残る理由が見つからない。


「簡単に言うと、先生が直ぐに来れないなら、ここにいても意味がないってこと」


 どんな敵が来ても返り討ちにすることが出来るのだから、こちらから動いても問題はない。


 そのため、先生と合流するために入口へと移動しようとしているのだ。


「……そ、そんなこと、ただの予測でしかないじゃないか!」


「いや、予測を立てることは大事だぞ?」


 俺だって何も考えずに行動しているわけじゃない。


 シルバーアントがやってきたときから先生がこちらに来ていないことには疑問に思っていた。


 この森林について何も知らない俺たち学生が話し合ったところでそこまで有意義な答えが出るとは思わない。


 ならば、個々の事情に詳しい先生に聞くのが得策であろう。


 もちろん、この異常事態を報告ないし情報共有するためでもあるがな。


「な、なんか翔夜が真面目なこと言っている……」


「なぁ結奈よ、流石に俺のことを馬鹿にしすぎじゃないか?」


 ちょっと俺が真面目に話したらこれだよ……。


 普通のことを言っているだけなのに、どうして結奈に馬鹿にされなければいけないんだ?


 確かにちょっと眼鏡君にはいいイメージがないから否定的に、そして論理的に接したかもしれないけどさ、でもそこまで俺に真面目なイメージを抱いていないのかな?


「翔夜って、考えることできたんだね」


「おい怜、東京湾に沈めるぞ?」


「怖っ!」


 怜までどうして俺のことを頭の悪い奴みたいに扱うのかね?


 別に普段から勉強は出来ていないけどさ、それは考えなしってわけじゃないんだよ。


 こういう時くらいはちゃんと考えているっての。


「さっきから火球があちこちで上がっていますし、先生が来ないのは必然だと思います」


「あ、ホントだ」


 いつもの様子だと思ったのか、俺が少々問題発言をしたにもかかわらず、エリーは木々の間から見える幾つもの火球を視界に収めて、俺の発言に肯定してきた。


 俺のエリーが見ている方向を見てみると、弱弱しいながらも上へと向かっていく火球がいくつか見えた。


 あと、怜が『翔夜ってもしかして本当にやっているんじゃあ……』とか言っているけど、本気にしないでくれ。


 俺はそんな非道なことはしないから!


「これはもう演習中止だね~」


「評価はどうなんだろうか?」


 これだけ火球が上がっているのであれば、恐らく他の場所でもシルバーアントが現れているのだろう。


 そんな異常事態が各所で発生しているのであれば、今回の演習の評価はなくなってしまうのではないか?


「まぁ、僕たち学生は大丈夫じゃない?」


「予想外のことだし、それは後で先生方が話し合うと思う」


「とりあえず、まずは先生と会わないとね」


 怜と沙耶は演習については大丈夫だと思っているらしかった。


 結奈もそんなことよりもといった様子で、沙耶と一緒に入口に向かって歩き出した。


 確かに、演習については俺たちが心配することでもなかった。


 いやさ、どうしても前世では大学生だったから評価とか気にしてしまうんだよね。


 単位もギリギリで取得していたから、余計にね。


「ねぇ、どうしよう……」


「これ以上はもう……」


「くそっ、出来ればここにとどめて油断しているときにしたかったが、仕方がない……」


「一人でぶつぶつ言って、大丈夫か?」


「いや、相談しているように見えたけど……」


 俺たちが歩き出したのだが、どうやら他の五人はその場で動こうともしていなかった。


 五人が何かぶつぶつと言っているのだが、いったい何を言っているのだろうか……。


 そんなところで話していないで、俺たちと入り口まで行こうぜ?


「くそっ、くらえっ!」


「は……?」


 眼鏡君は、いきなりいつぞやの黒炎弾を発動した。


 それは俺たちに向かって放つつもりらしく、今にも発射しようとしていた。


「ぐはっ!」


「おぉ、お見事」


 しかし、流石にそんな暴挙を逃すほど、うちのグループは愚かではない。


 結奈が瞬時に黒炎弾を消滅魔法で霧散させ、軽く眼鏡君を殴り飛ばした。


「これくらいなら翔夜も出来るでしょ」


「まぁな」


 鼻血をまき散らしながら吹っ飛んでいった眼鏡君は、すぐ後ろの気に激突して転がるのをやめた。


 顔面にクリーンヒットしたし、あれは結構痛いだろうな……。


「だけど、いきなりだな」


 痛がっている様子でいる眼鏡君を可哀想と思いつつも、どうしていきなり黒炎弾なんてものを放とうとしていたのだろうか?


「一応聞くけど、どうして今『黒炎弾』を発動しようとしたの?」


 あの魔法があればシルバーアントにだって対抗できただろうに、それをなぜ俺たちに向かって放とうとしたのだろうか?


「……ふんっ!」


 先程まで痛がっていたのだが、結奈が近づいて行ったら反抗的な態度を示してきた。


 それに結奈は腹を立てたのか、頭を踏みつけて地面とキスをさせていた。


「……翔夜、ちょっとこいつの急所蹴っ飛ばして」


「なんで俺にやらせようとするの!?」


 確かに反抗的な態度をされてはムカつくけどさ、頭を踏みながら急所を蹴っ飛ばすというのは外道の所業ではないだろうか……。


 なぜ黒炎弾を放ってきたのか考えていたのに、結奈が金的を蹴れというのでそんな考えはどこかに行ってしまったよ!


 普通の人がやっても痛いのに、俺がやったらショック死しちゃうよ!?


「女の子にそんなひどいことをさせようと?」


「俺なら問題ない理由を教えてほしいな!」


 自分でもひどいということを理解しているのならば、なぜ俺にやらせようとしているのだろうか?


 ひどいと思っているのならやらなければいいのでは!?


 というか、それ以前にどうして俺ならいいんだよ!


「それで、どうして?」


「無視するんかい」


「……一応言っておくけど、そっちの四人も何かしようとしたら……翔夜が指を詰めるよ?」


「俺はヤクザじゃねぇよ!」


 無視された挙句、ヤクザ扱いされてしまったんだが……。


 ここでの被害者ってさ、絶対俺だよね?


 真面目になったら馬鹿にされるし、男である俺に急所を蹴っ飛ばせって言うし、ヤクザ扱いされるし……。


 もしかしなくても、これっていじめなのでは……?


 まぁ、すべて結奈から言われたことなんだけどな!


 マジで後で絶対仕返ししてやる……!


「お前らもそんなに顔を青くしているんじゃないよ……!」


 なんでそんなに怯えているんだよ!シルバーアントがやって来た時よりも怯えているじゃねぇかよ!結奈の冗談に踊らされているんじゃない!


「まぁ、でも……一応拘束しておくか」


 そんなに怯えていたとしても、眼鏡君が攻撃してきたのだから、彼らも攻撃してくる可能性もあった。


 なので、俺は結奈とは違って平和的に拘束することにした。


「『眠れ』」


 眠らせてしまえば、しばらくは起きないだろう。


 これならば、相手の体を傷つけることもなく動きを封じることが出来るからな。


 いやはや、今日の俺って頭が冴えているな!


「……魔物がいる森で眠らせるなんて、ひどいことをする人もいたもんだね」


「未だにそいつの頭を踏んでいる奴に言われたくない」


 眼鏡君のメガネが割れてしまうのではないかと心配してしまうほどに、ぐりぐりと踏みつけている結奈から非難の声が出た。


 しかし、どうせ運ぶときは風魔法で全員浮かせればいいし、それにどうして攻撃してきたかは眼鏡君に聞けばいいから、眠らせても問題ないのだよ。


 別に、何も考えていなかったわけじゃないんだからね?


 これは、計画通りに事が進んでいるよ。いやマジで。


「それで、どうして僕を狙ったの?」


「あ、狙っていたのは結奈だったのか」


「気づいていなかったの……?」


「そんな見下したような目を向けて来ないでほしいな」


 俺はてっきり全員が標的で放ってきたのかと思っていたよ。


 確かに今思い返してみると、結奈を狙っていたように思える。


 だから、そんな目で俺を見ないでくれないかな?


 地味に傷つくんだよ……。


「どうしてなの?」


 答えてくれなかったので、結奈は再び問いただした。


 というか、それはあなたが頭を踏んでいるから答えられないのでは……?


「……お前が邪魔だったからだよ」


「邪魔?」


 あ、答えられたのね。


 というか、言っていることがわからない。


 どうして彼はそんなことを言っているんだ?


 なぜ、結奈を狙ったんだ?


「それって、どういうこと?」


 黒炎弾を使えば、どうなるかなんて前戦ったときにわかっていると思っていたんだがな。


 流石の結奈でも、なぜ自分が狙われたのかわかっていなかった。


 いったい、こいつの目的は何なんだ?


「だけど、これで結果オーライ……!」


「なんだ?」


 彼は何もしていない。


 何か行動を起こそうとするならば、即座に結奈がそれを阻止しようと動くはずだからだ。


 それなのに、膨大な魔力がここに集まってきている。


「残念だったな……!」


 感覚でなんとなくわかる程度だが、他の人たちも分かっている様子であった。


 そしてそれは、魔法陣として現れることとなった。


「なっ!?」


「展開が早い!?」


 突如として、沙耶を中心として魔法陣が展開された。


「これで終わりだ!」


 そしてその魔法陣を俺は知っている。


 この世界に来てから、今まで幾度となく使っているものだ。


「転移魔法だと!?」


 そう、術者の任意の場所へと転移させることのできる魔法、転移魔法である。


「くっ!」


「くそったれ!」


 俺と結奈は同時に行動に移した。


 即座に消滅魔法で魔法陣を破壊しようと動いた結奈と、即座に沙耶を魔法陣の外へと出そうと動いた俺。


 しかし、想像していたよりも何倍も発動が早く、まるで俺たちが発動したように即座に発動してしまった。


「翔夜っ!」


「沙耶っ!!」


 あとすんでのところで、俺の手は空を切った。


「さ、沙耶ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




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