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第五十七話 再来


 明けましておめでとうございます。


 今年も何卒宜しくお願い致します。



 かなり近い場所から上がった火球を、俺たち全員は視界に収めた。


 確かあれは、自身に危険が及んだ時に上げるものだったよな。


「どこかのグループが危険だと判断したのか?」


「早速脱落者が現れたね」


「言い方言い方」


 結奈に注意はしたが、確かにそのとおりである。


 危険が及んで助けを求めているということは、もうこれ以上続行することが出来ないということである。


 自分たちはまだできます!と先生に言ったところで、それを聞き入れてくれる先生はいないだろう。


「助けたほうがいいかな?」


「協力することは禁止って言っていたじゃん」


「助けることと協力することは違うような……」


 だが、今近くで誰かが助けを求めているのに虫をするのは違うと思う。


 だから俺は助けに向かったほうがいいのか考えたのだが、結奈に止められてしまった。


 助ける行為と協力する行為は違うと思うのだが、それでも俺の行為が先生に協力したとみなされてしまっては、グループのみんなに迷惑をかけてしまうだろう。


 なので、行くことを断念した。


「それに、先生も駆けつけるから大丈夫だよ」


「そうか……」


 沙耶もそう言って俺を励まそうとしてくれている。


 だが、やはり心配なので千里眼で火球が上がったところを視てみることにした。


 協力しているとみなされないようにするには、俺がそこに行かなければいいのだから、千里眼ほど適切な魔法はないだろう。


 本当に危なかったら、俺が透明化でも何でもして向かえばいいしな。


 そして、みんなに隠れて千里眼を発動しようとしたその時———。


「———おーい、助けてくれー!」


 火球が上がった方向から、五人組の男女が必死にこちらへと走ってきていた。


 恐らく火球を上げたグループなのだろうが、どうしてそんなに助けをも飲めているのだろうか。


 というか、なんだか見たことがあるような……。


「あれは……えっと、確か……」


「……クラスメイト……だよね?」


「二人とも、どうしてクラスメイトのことを覚えようとしないの?」


「「関りがないから」」


「そういうところだけ息ピッタリだね……」


 見たことがあるやつらだなと思ったが、どうやらクラスメイトであったらしい。


 沙耶に言われるまで、俺も結奈も忘れていたよ。


 まぁ、クラスメイトと言われても名前がわからないし、関りも全然なかったわけだから、俺が知らないのも無理はないと思う。


 普通、関りがない人のことを覚えたりしないよね?俺と結奈だけってことはないようね?


「お願いだ、助けてくれ!」


「私たち、あれに追われているの!」


「あんなのに勝てるわけないんだ!」


「先生も来ないし、私たちだけじゃあどうにもならないの!」


「頼む、倒してくれ!」


 そんな見知らぬ彼らから、どうにかしてほしいと言われてしまった俺たちであったが、全員が助けるか決めあぐねていた。


 先程俺が助けに向かおうとしていた時に、その行為が協力とみなされた場合、失格となってしまいかねないと判断したのだ。


「追われているって言われても……」


「協力はダメって言っていたし……」


「どうする?」


 今助けを求められたからと言って、直ぐに助けようとは思えないのだ。


 名義上は俺がリーダーなので、俺が判断すべきことなのだろうが、しかしここはみんなに判断を仰ぐことにした。


 勝手に助けてみんなに迷惑をかけるなんて御免だからな。


「……まぁ、(なす)り付けられたって言えばいいんじゃない?」


「お前は平然とエグイことを言うな……」


 結奈はいつも通りの無表情で、助けを求めているグループに対して無慈悲なことを言ってきた。


 結奈が言っていることに少々引いてしまいはしたが、よくよく考えてみればとても合理的である。


 こちらとしては、先生が来るまでこいつらと関わらなければいいのだ。


 それでも目の前で助けを求められてしまえば、高校生相手に助けないということは酷であろう。


 そのため、その打開策としては最適なことであろう。


 とはいっても、ひどいと思われても仕方のないことなのだがな……。


「それじゃあ、とりあえずその魔物は倒す方向で行こうか」


「まぁ、仕方がないよね」


 見捨てても良かったが、しかし沙耶の前でそんな真似をして失望されてしまっては俺のメンタルが持たないので、本当に面倒くさいが助けることにした。


 魔物といっても、先程倒した黒いライオンと同じだろうし、俺一人だけでも問題ないだろう。


「責任は翔夜がとるし、気楽に行こう」


「いつ俺が責任を持つことになったんだ?」


 助ける方向でまとまったことはいいが、どうして俺が責任を取らなければいけないのだ?


 いやまぁ俺がリーダーだから仕方のないことなのはわかる。


 しかし、グループで活動しているのだからみんな一緒に責任を負うという発想にはならないのだろうか?


 いや、沙耶が責任を負うようなことにはなってほしくないから別にいいんだけどさ、なんか結奈に言われるとムカつく。


「若しくは翔夜が独断専行をしたってことにすればいいしね」


「俺はトカゲの尻尾か!?」


 おいもうそれは俺を見捨てようとしているよな!?もしかして、こういう時のために俺を無責任にもリーダーにしたのか!?


 まさか、本当にそんなことは考えていないよな……?


「あ、来たよ」


「無視しないでほしいなー。まぁもう慣れたけどさ」


 恒例の如く俺の発言は無視されてしまったが、俺はそんなことを気にするほど子供じゃない。


 確かに今までは気にしていたが、俺も日々成長しているのだからこれくらいならば俺だって軽く流すことが出来るのだよ!


 そんなことよりも、といった様子で俺たちは段々と大きくなってくる大きな音がなっている方向へと目を向けた。


「……おいおい、マジかよ」


 木々をなぎ倒して俺たちの元へと現れた魔物を視界に収めた。


 するとそこには、俺が予想していた魔物が存在しておらず、しかしとても最近見た魔物が存在していた。


「シルバーアントなんてこの演習に現れないんじゃなかったのか?」


 そう、俺がゴールデンウィークのいちご狩りにて、嫌というほど狩りまくったあのシルバーアントが、今目の前にいた。


「でも、実際に今目の前にいるね」


「……はて、どうしたものか?」


「とりあえず、倒しておこう?」


「ん~、それもそうだな」


 もう何度も戦った相手であるので、俺たちの中でこいつを前にして緊張している人はいなかった。


 いちご狩りを事前に体験しておいたおかげというか、それのせいというか、今俺の前で口を大きく開けて驚いている彼らのようなことになることはなかった。


「あらよっと!」


 そのため俺は特に何も考えずに、シルバーアントの頭上にジャンプしてかかと落としを繰り出した。


 そして何もなかったかのように、再び元の場所に戻って会話を再開した。


「さっきのに比べると、結構硬いな」


 蹴ってみてわかったのだが、先程デコピンで吹っ飛ばした黒いライオンよりも何倍も硬かったのだ。


「改めて見てみると、これは以前いちご狩りに行った時に現れた変異体ではないでしょうか?」


「確かに、同じだね」


「あれほど大きいやつはそうそういないだろうし、そうだろうね」


「でも、どうしてここにシルバーアントがいるんだろう?」


 地面に蜘蛛の巣を張って少々埋まっているシルバーアントを各々が観察して、そして全員が同じ答えに行きついた。


 今目の前にいるシルバーアントは、いちご狩りで狩りまくったやつと全くと言っていいほど大きさに違いがなかったのだ。


 もちろん、硬さもである。


「確か、ここは獣系統の魔物しかいないんじゃないのか?」


 この演習では、エリーの話しでは獣系統の魔物しか現れないと言っていた。


 もちろん、例年通りに行われているかはわからないが、流石にシルバーアントの変異体が現れるようなことはないだろう。


 しかも今年入学したての一年生の初めの演習に現れるのはおかしい。


「……いや、結構いるみたい」


「……あぁ、そうっぽいな」


 それなのに、俺たちの目の前で地面に埋まっているこいつを含め、その後ろからやってきているシルバーアントがここにいること自体が異常事態である。


 しかも今回は『いちご』という、彼らが誘われるようなものは一切ない。


 じゃあ、なんでいるんだ?


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「あんなに来たら、僕たちはもう終わりだ!!!」


「うるさいわっ!」


 全く、ギャーギャーやかましいっての。


 たかがシルバーアントが数匹来ただけだろうが。どうしてそんなに絶望した顔を浮かべているんだよ。


 ほれ見てみろ、俺たちのグループは誰一人として怯えた表情をしていないぞ?


「翔夜、頑張って」


「ねぇなんで俺が倒すこと前提になってるの?」


 五人とも怯えた表情を浮かべてはいないが、それは全員が戦うということにはつながらなかったらしい。


 沙耶やエリーはどう思っているかはわからないが、結奈は確実に面倒だから俺にすべて任せようと思っているんだろうな。


「まぁ倒すけどさ……」


 シルバーアントを数匹倒すことなんて朝飯前なので、別に結奈に言われていなくても俺が倒していた。


 しかし、結奈に言われるとなんだかムカつくな……。


「『紫電槍』」


 槍の形をした紫色の電光が数本、俺の頭上に浮かび上がった。


 その槍の数はシルバーアントと同じ数にしてある。


「ほれ、くたばれ」


 俺はそう言って右手を振った。


 それと同時に浮かんでいた紫電槍は、シルバーアントに知覚出来ない速さで飛んでいき、その命を瞬時に刈り取った。


「きゃー、翔夜カッコいいー」


「そんな感情の乗っていない褒め言葉を送られても嬉しくないぞ」


 結奈から心の籠っていない褒め言葉を送られたが、そんな棒読みのものを受け取っても嬉しくもなんともない。


 いや嬉しくないことはないけどさ、どうせなら沙耶からのが欲しかったよ……。


「翔夜、カッコよかったよ……」


「お、おう、そうか……」


 と思っていたら、まさか結奈の隣にいる沙耶から褒め言葉が来るとは思っていなかった。


 本当に来るとは思っていなかったので、どう反応していいか戸惑ってしまう。


 しかし、やはり嬉しいものだな!


「なに、この落差?」


「まぁまぁ、翔夜だから」


 おいそこの二人、俺に何か言いたいのか?


 今なら大きな心でどんな悪口でも受け止められる気がするぞ!


「あの、いつものことながら余裕そうですね……」


「そういうエリーだって緊張しているようには見えないけど?」


「そ、それは、翔夜さんがいるからですよ!」


「え、俺?」


 結奈と話していたエリーから、唐突に俺の名前が挙げられて驚いてしまった。


 しかし、どうして俺なんだ?


「例え女王アリが出てきたとしても、あの時のように消し飛ばしてくれると思っているから安心しているんですよ!」


「そ、そうなのか……」


「それは、逆に危ないよね……?」


「俺に同意を求めるな……」


 視線を俺に向けてきている結奈には申し訳ないが、流石に当の本人でも同意しかねるぞ?


『カタストロフィ』を放つことが出来る存在が近くにいるから安心するって、それはちょっと危ない気がするんだけどな~。


「エリー……もしかして、翔夜のこと……」


 沙耶も訝しげにエリーを見ているが、やはりあれで安心するという言葉に不安を覚えているんだろうな。


 俺と結奈も同じ気持ちだよ。


「大丈夫だよ、誰も沙耶の翔夜はとらないから」


「えっ、ちょ、ちょっと結奈!いったい何言っているの!?」


 同じ気持ちだと思っていたが、どうやら違うような気がしてきた。


「別に私は翔夜のこと何とも思っていないんだからね!?」


「わかったわかった。沙耶の気持ちはよぉくわかった」


「絶対にわかっていないでしょう!?」


 俺が話題の中心にいるはずなのに、どうしてだろうか……。当の本人が全く話についていけていない。


「あの、別に私もそんなつもりで発言したのではないのですが……。勘違いさせてしまったのでしたら申し訳ありません」


「別に勘違いなんてしていないし、それより二人のほうが何か勘違いしていない!?」


「「いえいえ全くこれっぽっちも」」


「なんで二人とも口を揃えて言うの!?」


 楽しそうな会話を目の前で繰り広げているのに、話している内容が全然理解できない。


「なんだか、楽しそうだね」


 だが、一つだけ分かったことがある……!


「……翔夜?」


「ふぅ~……俺のことを何とも思っていないのか~……」


「あぁ、また禁断症状が起こっちゃったか~」


 そう、沙耶が俺のことを何とも思っていないということだ。


「翔夜、言葉をそのままの意味で理解しないほうがいいよ?」


「好きの反対は、無関心……」


「あー、ちょっと戻ってきてー、おーい」


 確かに嫌われていないというのはいいことだと思う。


 しかしだ、俺に少しも何かしらの感情がないのなら、これからどうやって俺に好意を持たせればいいんだ……!?


「いやでも、嫌われていないならまだ可能性が……」


「可能性というか、もう確定事項だよ?」


 そうだ、俺は沙耶に嫌われていないんだ!


 沙耶は嫌った人物はとことん嫌うからな、そうでないのならまだ俺にだって可能性は残されている!


「すぅー……はぁー……、よし、大丈夫だ、問題ない」


「まぁ、戻ってこれたならよかった」


 隣で怜が何か言っていたようだが、俺には全く聞こえていなかった。


 まぁ、流石に悪口は言っていないだろうが、いったい何を言っていたのやら。


「こいつらはいったい何なんだ……?」


「魔物がいる場所で暢気にふざけやがって……」


「これが成績上位者たちの余裕ってやつなのかな?」


「翔夜ってやつは馬鹿だよね」


「おいこら、お前までそっちに行くんじゃない」


 俺たちに助けを求めにきた奴らは、俺たちが暢気に会話していることに驚いたりしていた。


 一人は憎まれ口をたたいているが、しかし余裕があるのだから少しくらい適当にやってもいいだろう。というか、君は眼鏡君か。


 あと結奈、お前はまぎれて俺に対して悪口を言うんじゃない。



 先週は投稿することが出来ずに誠に申し訳ございませんでした。

 言い訳をさせていただきますと、年末ということもあって、とても多忙な状況が続いてしまったのです。

 そのため先週の投稿は休ませていただきました。

 これからは頑張って週一投稿を続けていこうと思っていますので、前書きでも述べましたが何卒宜しくお願い致します。


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