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第五十六話 雑魚狩り


 森へと入っていった俺たちは、他のグループと鉢合わせにならないように歩き続けた。


 途中で出会った魔物を片っ端から片付けていけばいいだろうという意見になり、俺たちは何も考えずに歩いている。


 辺りは策に覆われているから、ずっと歩き続けていればいずれは反対側の策に出会うだろう。


 そうしたら引き返せばいい。


「しかし、ここは本当に安全なのか?」


 自分たちが今歩いているこの場所は、例え策に覆われていると言っても、中にいるのは魔物である。


 流石に俺たちが戦ったシルバーアントのようなものは出ないのだろうが、それでも相手はただの動物ではなく、一般人からしたら脅威となる魔物である。


 何匹も一か所に押し寄せてしまう事態になったら、確実に破られてしまうのではないのか?


「学校が管理しているから、安全な森だよ」


「魔物がいる時点で安全じゃないような……」


 沙耶はそれほど心配した様子はないが、学びの場に魔物がいる時点で安全とは程遠いんだけど?


 みんなも俺と同じ意見を持っていると思っていたのだが、どうやら気にしているのは俺だけであった。


 なに、魔物ってお手軽に管理できる生き物なの?


 ……そういえば、俺も使い魔を二人ほど使役しているから、実質同じようなものか。


 じゃあ安全だな!


「みんな学園長が調教してあるから問題ないって言っていたよ」


「……学園長すげぇな」


 付近から確実に苦情とかあっただろうに、どうやって管理することを許されたんだろうか……。


 会ったことはないけど、絶対すごい人なんだろうな~。


「そういや、ここにはどんな魔物がいるんだ?」


 辺りを見ながら、俺はみんなにどういった魔物が出るのか聞いた。


 適当に探しているふりをしているだけだったので、どういった魔物が出るのか知らなかったのだ。


 もしかしたら擬態する魔物が出るかもしれないから、見逃してしまっているかもしれないし。


 ……いや、結奈が見逃すはずがないか。


「大体は獣系統の魔物がいるそうですよ」


「お、それは先輩から聞いた情報?」


「はい。演習前に先輩が先生に内緒で教えてくれました」


「優しい先輩だね」


 エリーが情報を教えてくれたが、以前風紀委員に入っていると言っていたから、そこから教えてくれたのだろうと予想が付いた。


 案の定そうだったのだが、よく先輩からそう言ったことを聞けるよな。


 前世の俺は、聞こうとしたらどうしてかみんな俺を避けていこうとするからな~。


 あれ、どうしてだろう……なんだか切ない気持ちになってきたぞ?


「翔夜はなれそうにないね」


「ちょくちょく俺を馬鹿にしてくるけどさ、喧嘩売ってんのか?」


 俺がエリーに感心していると、当然の如く結奈が俺のことをからかってきた。


 一応これでもリーダーになってしまっているので、先頭を歩いていた。


 なので、振り返って一番後方にいる結奈のもとに行き問い詰めた。


「そう思っている翔夜の器が小さいだけ」


「そうか喧嘩を売っているのか、だったら今すぐにでも買ってやろうじゃねぇか!」


 道が舗装されているわけじゃないから、後ろ向きで歩くの大変なんだけど、結奈に喧嘩を売られてしまっては買わないわけにはいかないだろう!


 今すぐにでも大気圏まで吹っ飛ばしてやろうか!?


「翔夜、後ろ」


「ん?」


 俺に喧嘩を売っていた結奈が、突然俺の後方を指さしていた。


 また俺を騙そうとしているのかと思いはしたが、それでもやはり気になるので再び振り返った。


 そして振り返った先には、黒くしたライオンのような生き物がいた。


「なぁ、あれが魔物か?」


「そうだね、あれも一応魔物だね」


 禍々しいオーラを放っているので、一目で魔物であるということがわかった。


 そのため俺たちは先程まで緩んでいた気を引き締めた。


 まぁ、結奈ほどではないがな。


 しかし、シルバーアントを見たあとであるため、ここにいる五人はそれほど緊張した様子はなかった。


 寧ろ俺からしたら可愛く見えてしまう。


「倒したほうがいいんだよな?」


「そりゃあ、演習だしね」


 大きさはライオンより少し小さいくらいなのだが、普通だったら臨戦態勢になると思われる。


 しかし、シルバーアントの時も思ったのだがどうしてもこのグループは戦力が過剰すぎるのである。


 どれだけの力で倒したほうがいいのか悩むが、しかし放置するわけにもいかないので周りに聞いた後で一気に近づいた。


「……よっ」


 身体強化も何もしていない普通の状態で、黒いライオンのような魔物にデコピンを繰り出した。


 普通の身体能力でかなりの状態なのだが、それでも目の前のライオンが反応できないほどには早く動くことが可能である。


 本気を出していないでこの程度なのだから、当然結果も分かりきっている。


「……よっわ!」


 デコピンをしただけであるのに、後方に吹っ飛んでいって動かなくなった。


 恐らくデコピンをした感触から、頭部が陥没してしまっているのだろうな。


 血を流して屍をさらしてしまっているが、これはもう少し手加減をした方がいいかもしれないな。


「まぁシルバーアントを倒した後だとね~」


「いやでも、学生ってこんな雑魚を相手にすんのか?」


 学生といっても、ここは魔法師育成機関であり魔法師の卵がごろごろいる場所だ。


 そんな奴らが、例え初めての演習だったとしてもこの程度の敵を相手にするのだろうか?


 いや、人には得手不得手あるから、もしかしたら後方支援に特化している人とかいるかもしれない。


 だから、一概に雑魚というのはそういう生徒に失礼だとは思うが、俺からしたら肩慣らしにもなりはしない。


「普通のライオンより動きも素早いですし、力も強いのですよ?」


「それを雑魚って言っている翔夜はすごいね~」


「普通はあそこまで早く動くことは出来ませんけどね……」


「まぁまぁ、翔夜だし」


 目の前にある屍を通り越して、俺たちは再び歩き始めた。


 というかみんな、そんなに俺を褒めたところで何もでないぞっ!


「こんなん誰だって一発で倒せるだろ」


「私たちならね。でも、他の学生はそうもいかないかもしれないよ?」


「……ここってエリート校なんじゃなかったのか?」


 屍は放置でいいのかと疑問に思いつつも、新たな疑問が浮上したので思考の片隅に追いやった。


 魔法師育成機関であるこの高校は、当然魔法技術について学ぶことが周知の事柄である。


 しかもこの高校は国で一番を誇っている魔法技術に特化した高校である。


 それなのに、この程度の魔物に後れをとることなんてあり得るのか?


「魔法と勉強が他の人よりできるだけの一般人だからね~」


「辛辣だね……」


 先程得手不得手があるとは言ったが、それはグループで補えば問題ないだろう。


 怜の言う通り結奈は辛辣なことを言っていると思うが、しかし魔法も勉強もできるのであれば一匹くらい倒せるのではないのだろうか。


 たかがライオンより強いというだけで、魔法を使える俺たちが一発で倒せないものなのか?


「実戦を経験したことのない人が大多数を占めているんだよ」


「俺らみたいに実践を体験しておけばよかったのにな」


 ゴールデンウィークを利用して、いちご狩りなんてしておけば慣れることだってできただろうに。


 普通はシルバーアントとか出ないだろうし、それに係員たちがいるから安全も保障されているしな。


「普通はしないよ。わざわざ学校で出来ることを施設まで行ってしないでしょ」


「そういうもんなのか……」


 俺にはよくわからなかったが、つまりあれだろ?


 トレーニングルームが学校にあるのに、わざわざお金払ってまでジムに行く必要はないってことだろ。


 確かにそれなら理解できるな。


 言ってしまえば、今回の演習は魔物狩りを体験するようなものである。


 それならばわざわざ施設に行く必要もないな。


「それで、いつまで狩りを続ければいいんだ?」


 結奈が言っていることを俺なりに理解できたので、演習の最終目標を聞いた。


 流石にすべての魔物を狩るまで終わりません、なんてことはないだろうから、ある程度狩ればいいのではないのだろうか?


 若しくは一定の時間をこの森林で彷徨い続けるとか?


「う~んと、確か魔物をグループで十匹倒せばいいから、それまでは続けると思うよ」


「たった十匹か……」


 想像していたより何倍も簡単なことであった。


 最初はなん十匹も倒さねばならないのではないのかと思っていたが、たった十匹であるため直ぐに終わりそうである。


 言われて見れば当然のことだな。


 先程結奈に言われたことを加味すれば、十匹でちょうどいいくらいなのかもしれないな。


 俺たちであれば、適当にやっても一時間もしないうちに終わらせることが出来るだろうな。


「暇だな~」


「午前と午後で分かれているから、大体十一時になったら先生が来るんじゃない?」


「あぁ、昼食の時間か」


 そういえば、一日中森の中にいるわけないよな。


 流石に昼食の時間は用意してあるのは当たり前か。


「一応言っておくけど、これも全部事前に説明されていたからね?」


「ごめん……」


 沙耶が少々困ったように、俺に注意してきた。


 エリーも怜も、口には出していないが沙耶と同じく困った様子でこちらを見ていた。


 少々申し訳なるが、しかしいつ教えられたのだろうか?


 ……恐らく朝の授業が始まる前だろうな。


 俺、大抵寝ているし。


「じゃあ、翔夜が全部倒してね~」


「じゃあってなんだよ!お前も少しは働けよ!」


 俺が聞いていなかったということに付け込んで、結奈がここぞとばかりに面倒ごとを俺に押し付けてきた。


 たかが雑魚を狩るのにグループで行う必要はないと思うが、流石にローテーションで行おうぜ?


「ほらほら、また来たよ~」


「くそっ、なんで俺だけそんな役回りを……」


 しかし、先生の話を聞いていなかったのは事実であるので、渋々ではあるが俺はタイミングよくやってきた魔物の群れに視線を移した。


「大丈夫だよ、私も手伝うから」


「沙耶ぁ……」


 そして再びデコピンを繰り出そうと準備していると、沙耶から優しい言葉をかけられた。


 沙耶ってやっぱり優しいよな。


 俺が可哀想だと思ったのか、それとも自分も演習に参加しなければいけないと思ったのか、それはわからないが、しかし俺にかけてくれた言葉はマジで嬉しいです。


「いや、俺に任せておけ!」


「うわっ、単純」


 俺はそんな沙耶に面倒ごとをやってもらうわけにはいかないので、俺一人で片付けることにした。


 結奈が何か言っているが、そんなものは無視である。


「だけど、またデコピンをするのは芸もなし、それに死体がちょっとグロテスクだからな~」


 俺がすべて倒すとは言ったものの、先程と同じような結果になることは目に見えていたので、俺は違う方法を模索した。


 沙耶に配慮して違う方法を探したのだが、実を言えば俺がただ楽をしたいだけである。


 あんな雑魚を相手に、身体を動かして倒すのは面倒なんだもん、仕方ないよね。


「仕方がない、『ショック』」


 俺の体から放たれた電気によって、魔物たちは一気に感電死した。


 魔力をコントロールしなければ、周りにいる人にまで被害が及んでしまいかねないが、今の俺ならば簡単に行うことが出来るのだよ!


「終わったな」


「呆気なかったね」


「すみません、すべて翔夜さんに任せてしまって……」


「いいんだよ、翔夜なんだから」


「お前が答えるのは間違っているからな?」


 一気に十匹以上を倒したので、これでもう演習は終了である。


 目の前には綺麗な状態で魔物の死体が転がっている。


 もうすることもないし、帰っていいのかな?


「でも、本当にこれからどうしましょうか?」


「こんなに早く終わるなんて思っていなかったしね」


 俺が早々に指定の数を狩ってしまったため、やることがなくてどうしようか迷っていた。


 俺は直ぐにでも帰ろうとか思っていたけど、ダメなのだろうな……。


 ……あれ、今何か音が鳴ったような?


「おい、あれって……」


 何か音がしたと思ってその方向へと目を向けると、火球が空へと向かって飛んでいた。




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