第五十二話 勘違い
予約掲載時間を間違えてしまい、このような時間に投稿することになってしまいました、すみません。
家を出る前に、沙耶から薬局に行きたいと言われていた。
魔力過多症の患者であった沙耶は、週に一度魔力生成を抑制する薬を服用しているのだ。だが、最近その薬が切れてしまったので、買い物ついでに買いに行きたいと言ったのだ。
もちろん俺は、沙耶がどういった理由でそうなったのかとか、それは俺の輸血で治ったことなんだぞとか、そんな馬鹿なことは言わない。
「ここが薬局か」
「そうだよ。ここが私がいつも言っている薬局、『桃源郷』だよ」
先程買い物をしていたショッピングモールを少し離れた場所に、そこにこじんまりとした店が構えてあった。
確かに名前には薬局と書かれているが、どちらかと言うと武器屋といった面持ちであった。
ここ、本当に薬局なんだろうな?
「なんだろう、ここを薬局と思えないし、それにその名前を薬局につけちゃいけないと思う……」
ここまで話しながら歩いてきたが、ここは人通りもあまりないし、それに薬局と思えないような外見をしているから余計に心配である。
しかもその名前だと、俗界を離れた世界っていうことであの世を連想しそうなんだけど……。
「本当に大丈夫なのか?」
「なにが?」
とはいっても、沙耶がいつも来ているということだし、恐らく何も問題はないのだろう。
外見はともかく、働いている人はいい人だろうと思いたい。
「こんにちは~」
沙耶はいつも通りに、しかし俺はおずおずといった様子で入っていった。
不安しかないけど、沙耶が普通に入るから多分大丈夫だろう。
しかし、この扉があの世の門でありませんように……!
「あぁ、沙耶ちゃん?」
「中舘さん、お久しぶりでーす」
だが、そんな心配は杞憂であった。奥からとても優しげな声が聞こえてきたので、怪しいということは一切なかった。
恐らくここで働いている薬剤師だろう、これから俺もお世話になるかもしれないし、挨拶をしておかないとな。
いや、俺がお世話になるなんてことはないな……。だって神の使徒だし。
「久しぶりだねー」
「おぅ、すごいインパクトだな……」
挨拶をしようとして本人の顔を見ると、しかし現れたのはとても危険な香りが漂う人物であった。
いや別に顔が悪いとか怖いとかそういう問題ではないのだ。
寧ろ俺みたいな誰がどう見ても怖いというような顔の方がよかっただろう。
……べ、別に俺は悲しくないし!
「確かに、最初は驚くよね」
「僕、人前で話すの恥ずかしいからね……」
そう言って、中舘さんと呼ばれた薬剤師さんは恥ずかしそうに照れていた。
違う、そうじゃない。そういう問題ではないのだ。彼は客を相手にするにもかかわらず、顔を隠しているのだ。
「だからって、薬局でペストマスクっていうのもどうかと思う……」
しかも、よりにもよってペストマスクで、である。
確かにペストマスクは空気感染を防ぐという目的でつけられていたが、それでも見た目はとても不気味である。
「でも、すごくいい人なんだよ?」
「そういう問題じゃないんだけど……」
どうして沙耶は平気で相対していられるのだろうか?確かに昔からということで付き合いがあるだろうが、それでも最初は怖くて近づくことすらできないだろうに。
近くに怖い奴でもいて、慣れてしまったのか?
あ、俺か……。
「沙耶ちゃんはいつものやつ?」
「はい、いつものやつをお願いします」
沙耶はここに来たら買うものは決まっているのか、ペストマスクさん……もとい中舘さんは手慣れた様子でいた。
そしてこっちをチラチラ見るのはやめてほしい。マスクを着用していても分かるくらいに挙動不審なんだが、あからさますぎるだろう。
「……それで、その……。隣にいる怖い人は……?」
「おっとすごいブーメランだ」
「翔夜失礼だよ」
どうやら俺のことを怖がっていたのだが、しかしそれは自分にも言えるということを分かっていないのか?
確かに俺は薬局とはこれから先も縁がないと思っているやつだが、それでも一応は客だ。そこまであからさまに怯えなくてもいいと思う。
病院の人たちだってもう少し隠そうとしてくれていたぞ?
「もしかして、彼氏?」
「ち、違いますよ!幼馴染の翔夜です!」
彼は少し考えて、一つの答えに行きついた。そして迷わずにそう答えた。
他人から見てそう見えるのかな?……やっぱそう見えちゃうのかな!?そう見えることは必然なのかな!?
だけど、そんなはっきりと否定しなくても……。
「あぁ、君が噂の翔夜君かぁ」
「……噂?」
脈なしかな~……と少々ナイーブに思っていると、中舘さんは気になることを言った。
俺ってそんなに噂されるほど、俺は悪名高くないはずだぞ?だってまだ何も、やらかしたことがまったく周囲にバレていないしな。
……もしかして、怪しい人物とかそいう理由で噂になっていたりしないよな?前世ではそうだったらか、ちょっと心配である。
「いっつも沙耶ちゃんの話に出てくる———」
「———ちょ、ちょっとやめてください、本人の前で!」
「ごめんごめん」
中舘さんがすんごい聞き捨てならないことを発言した。しかし、直ぐに沙耶に止められてしまってほとんど聞くことが出来なかった。
これは確認する必要あるな……。いったいどんなことを話していたのだろうか……?
「いつも俺の話ししているのか?」
「そ、そんなことより!薬を早く下さい!」
「う、うん。直ぐに持ってくるね!」
俺の質問を無視して、中舘さんに詰め寄るように薬を持ってくるように頼んでいた。そしていそいそと後ろの方に消えていった。
そんなに話を断ち切ってまで早く薬が欲しかったのだろうか。
だが、沙耶よ。そのセリフだけを聞くとただの危ない人だぞ?
「さ、沙耶。あのさ———」
「———他に買うものとかあったかな~?」
先程の中舘さんのセリフが気になり、もう一度聞こうと沙耶に尋ねようとした。
だが、俺の発言など聞こえていないかのように周囲にある薬剤に意識と目がいってしまった
本当に聞こえていないのか、それとも聞こえないふりをしているのかは定かではないが、どちらにしろ俺の発言は届いていないということなので、とてもつらい。
「やばい、泣きそう……」
多分これ以上聞こうとすると、嫌われてしまいかねないのでやめておこう。
あと俺の涙腺、頑張れ!
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「しかし、ここにはいろんなものがあるんだな」
俺の涙腺が崩壊しかかっていたが、何とか耐えて俺も沙耶と一緒に辺りを見渡した。
そして、よく見てみるとわかるのだが、様々なものが置いてあった。前世で見た薬局よりも、品数は段違いである。
もちろん、置いてあるのは空箱なのだが。
「そうだよ。ここは珍しさで言えばこの国で一、二を争うくらいの薬局なんだよ?」
「こんな辺鄙な場所にあるのにすごいんだな」
これだけの品数があるのなら、先程のショッピングモールに構えても良さそうなのだがな。
しかも一類や二類、三類だけでなく、日用品もしっかり完備してあり、これならいろんな客層に必要とされると思うのだが、どうしてこんな場所に店を出しているのだろうか。
近くっていうほど近くには病院なんてなかったはずだが、本当にどうしてなんだ?
「従業員さんがさっきの店長の中舘さんともう一人だけだから、ここにあるくらいがいいんだと思うよ?」
「あぁ、あの人が店長だったのか……」
あの人が店長だったのか……。大丈夫なのか?
「雇えばいいのに」
しかし、薬剤師が立った二人しかいないのでは、この店が回らないだろう。
いや実際にそれで回しているのだろうが、それでも薬剤師を雇えばもう少し利益が見込めるんじゃないか?
雇えない理由でもあるのか?
「いや、ほら、本人がね……」
「あぁ……」
気まずそうにしている沙耶の思っていることは理解できた。
つまり、あんなに人見知りが激しい人が、他に従業員を雇うなんてことは出来ないのだろう。
それは仕方のないことだ。
だけど、もう少しマスクのデザインは考えようよ……。
「ん、翔夜に沙耶さん?」
「あ、怜だ」
「いちご狩りぶりだね~」
薬を二人で見ていると、入り口の方から声をかけられた。
そちらに目をやると、怜がこちらに手を振りながらこちらにやってきた。
「どうしたんだ、こんなところで?」
「それはこっちのセリフだよ。翔夜って薬局とは無縁じゃない?」
「その言葉そっくりそのまま返してやるよ」
俺と怜はどちらも神の使徒である。そのため薬局のお世話になるなんてことはないのだ。
だから怜にここへ来た理由を聞いたのだが、どうやら喧嘩を売られてしまったようだ。
まぁもちろん、沙耶がいるのでそんな安い挑発には乗らないがな!
「俺は沙耶の付き添いだ。そっちは?」
「あぁ、僕は———」
「———いちごでも食いすぎて腹でも壊したか?」
「違うよ……。僕は翔夜じゃないんだからそんなことにはならないって」
「俺だってそこまで食い意地張らねぇよ!」
お返しとばかりに少々冗談を言ったのだが、逆に俺が意趣返しされてしまった。
俺って口論するとどうしても負けるな。どうしてだ?
「それで、どうして薬局へ?」
「それはね———」
「———怜、どうしたの?」
「ん?」
「その人は?」
怜の発言をえぎって、入り口の方から見目麗しい金髪の女性が入ってきた。とはいっても、顔は少々幼い顔立ちをしているので、恐らくは俺たちと年齢はそんなに変わらないだろう。
だが、怜とはいったいどういった関係なのだ?
「紹介するね、この人は———」
「———怜、私が守ってあげるから後ろに下がってて!」
「え、ちょ、何か勘違いしていない?」
俺の目の前で、怜は女性に抱き着かれる形で引き寄せられた。
身長は怜よりも少し高いくらいなので、丁度顔がその豊満なものへと埋もれていた。
俺の担任ほどではないが、それでもたわわに実っているそれに、怜は顔をうずめているのだ。
「そして翔夜からの妬んでいるような目が怖い」
男だったら誰だってそういう目を向けるだろう。滅茶苦茶羨ましいのだ!
だが、だがしかし!俺はそれを言葉では言わない!なぜなら、そばに沙耶がいるからである!沙耶のいる一からでは、俺の顔は丁度見えない。
なので、俺は全力で怜を睨む!
「私の怜に何か用ですか?事と次第によっては、ただでは済ませませんよ?」
「私のってことは……!お前、一足先に彼女を作りやがったな!?」
いったいその女性は誰なのかと
「あー、そっちもそっちで勘違いしちゃったか……」
「しょ、翔夜。店の人の迷惑になるから喧嘩しちゃだめだよ?」
「わかってるよ。ただちょっとお話しするだけだよ」
先程まで浮かべていた憎しみの籠った表情を戻し、無表情で怜の彼女らしき人物に近づいていく。
これは少々お話をしないといけないな。
「ねぇ、この人は———」
「———怜、私この人とちょっとお話しするからちょっと待っててね!」
そういい、怜の彼女だと思われる人物も、表情を変えずに俺に近づいてきた。
「ん~、どうしてこう何度も僕の発言が妨げられるんだろう……」
怜は怜で、話を聞いてくれないことに嘆いていた。
わかるぞ、その気持ち。先程俺も体験したからな。
とても憎いとは思っているが、それだけは同情しよう。
「それで、あんたは怜の何なんだ?」
お互いに手を伸ばせば届きそうなくらいに近づいたとき、俺は相手に尋ねた。
初対面だが、どうしても敬語を使う気になれなかった。
醜い嫉妬だとわかっているが、それでも納得できるものではないのだよ。
「私は、怜の一番です!」
「なるほど……」
恥ずかしがる様子はなく、後ろ誇らしげに言った。
「ずっと一緒にいるほどに仲がいいのです!」
「な、なるほど……」
まるで自分たちがどれほど親しい間柄なのかを見せびらかすように、怜の元に戻り腕に抱き着いた。
俺のメンタルへのダメージが……。
「一緒に寝たりもしているのです!」
「ぐふっ……!な、なるほど……」
「暴露されている僕にもダメージが発生しているんだけど……?」
会心の一撃を見舞われた。
いちご狩り以降会っていなかったが、まさか彼女を作ってあまつさえ一緒に寝ていたとは……!
これは後でどうだったか改めて聞く必要があるな。
結奈を交えてな!
「怜、てめぇ……。先に大人の階段を上りやがったな……!?」
「何あの今までに類を見ないほどに、憎しみに満ちた目は……」
俺は今までにないくらいに嫉妬の炎に燃えていた。目から血を流しているのではないかというくらいに、目の前が真っ赤であった。
そう思っているだけで、実際はそんなことはないのだろうが、それでも魔力は微妙に漏れていた。何時ぞやの結奈が右腕に纏っていたもののようにどす黒い魔力が。
「だから、怜に対しての狼藉は許しません!」
そんな俺に警戒心を増して、怜を後ろにかばうようにして俺を睨んでいた。
もう沙耶と怜がどうしようかとハラハラしていることなんて知ったことではない!
この醜い憎しみをどうにかしない限り、俺は怜を睨み続けるぞ!
「待って待って、お互いに勘違いしているって!」
「どこが勘違いなんだ!お前はこんなにも綺麗な彼女を自慢しに来たんだろう!?」
「怜、この怖い人からいじめられているんでしょう!?今から私が怜に近づく危険を排除してあげるからね!」
怜が止めようと俺たちの間に入るが、そんな発言が興奮状態にある二人に影響することはなかった。
俺も目の前の女性も、お互いがお互いを睨んで一触即発の危険な状態だった。
もちろんここに迷惑をかけるつもりはないが、これは話し合いでどうにかなりそうもない。
まぁ、俺は沙耶が強くやめるように言ったらやめるんだけどな!
「二人とも違うって!まずこっちは僕の姉さん!そしてこっちが僕の友達!」
「「……えっ?」」
はてさてこれからどうしようかと憎しみながらも悩んでいると、怜から驚きの発言が飛び出してきた。
「だから、二人が思っているようなことは何一つないの!」
「……マジか」
「……そうだったの」
俺たちは、怜の顔を見た後にお互いの顔を見た。
先程までの憎しみはいったいどこに行ったのか、俺たちは素っ頓狂な表情でお互いを見つめていた。
そして……。
「あー、えっと……。先程は失礼な言動をしてしまい申し訳ありませんでした」
「こちらこそ。私も早とちりをしてしまって、怜の友達に失礼なことを言ってしましました。申し訳ありません」
お互いに申し訳なさそうに頭を下げて謝った。俺に至っては先程まで使っていなかった敬語を使い深々と頭を下げた。
思い返してみると、俺は序盤からかなり失礼な態度で接してしまっていた。例え友達の姉であったとしても、もう少し礼儀をわきまえて接するべきだった。
今更だけど、すんごい後悔している。
だってヤクザ顔に、弟を守ろうと必死だったんだから、本当に申し訳ないことをしてしまった……。
あとで菓子折りとか持って行った方がいいだろうか?
「……えっと、修羅場はどうにかなった感じかな?」
「ホント良かった……」
ずっと間近で俺たちの行く末を見守っていた沙耶と、俺たちの間に入って勘違いを修正した怜は、お互い胸をなでおろしていた。
俺たちは確かに周りから見たら一触即発しそうな危険な状態だったけどさ、流石に手を出したりしないよ。
そんな憎いからって女性に手を挙げてしまったら、沙耶からいったい何を言われるかわからないからな。もしかしたら嫌われてしまう可能性もあったわけだし。
「もう終わったかな?」
そんな俺たちを見守っていた人がもう一人。店長が、沙耶に頼まれた薬を手にこちらを覗いていた。
しかし、やっぱりそのマスクは不気味だよ!




