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第五十話 その後


 あれから俺たちは、短期間とはいえとても忙しかった。


 俺が女王アリを消してしまったことを結奈に怒られたしな。というよりもその後方一帯を消し飛ばしてしまったことも含めて怒られた。


 ただ怒られるだけならばもう慣れているからいいものの、結奈は人目を気にせずに思い切り殴ってきたからな……。


 痛かったよ……。いやマジで。


 しかしそれでも、目の前にあった危機は去ったわけなので、叱られはしたが係員たちには感謝された。自分で壊してしまったレールガンを大事そうに持っているシュワちゃんにも感謝された。


 そして、沙耶にも感謝されたよ、一応な。


 どうしてだろうか、沙耶は俺に感謝をしているはずなのに、何故か表情が曇っていた。


 女王アリ諸共後方にあったものすべてを消し飛ばしてしまったとはいえ、沙耶たちには被弾とかしていないはずだぞ?


 ……もしかして、請求をされると思っていたのかな?それで俺のことが心配になってそんな不安そうな顔をしていたのだろうか。


 だがしかし、俺はドームを壊してしまいはしたが、なんと弁償金を請求されていないのだ!


 シュワちゃんがすべて何とかするということを係員たちから聞いて、恐らく女王アリのせいにするのだろう。倒したのも不可抗力とか正当防衛とか、いろいろ理由をこじつけてどうにかしてくれるはずだ。


 ……『カタストロフィ』はいったいどう説明するのだろうか?説明が必要な時はしっかりするが、大丈夫なら俺は気にしないで行こうと思う!


 そして、シュワちゃんが『地獄で会おうぜベイビー!』って言って警察官に連れていかれているのを最後に、その姿をその日に見ることはなかった。


 なんだろう、多分決め台詞を言っているはずなのだろうが、その背中はとても小さく見えた。


「翔夜、ちゃんと聞いてる?」


 あの場所にシルバーアントが現れたこともそうだが、しかもその女王アリもやってきたことが各種の情報機関に知られてしまった。しかも情報規制をしていたはずの、現れた魔物が変異体だということも漏れてしまったようなのだ。


 知られてはしまったが、俺らはまだ学生ということなので世間には俺たちの存在が漏れることはなかった。ただ警察に軽く事情聴取をされるだけで済んだのだ。


「……はい、聞いています」


 これだけ聞くのならば、忙しいことは大してなかったかのように聞こえる。


 実際にはそれほど忙しいことはなかった。ただ今までにあまり体験したことのないことを多く体験したということくらいだろうか。


 ……まぁ、事情聴取は今まで何回もされたことがあるけどな。


 では、いったい何が忙しかったのかというと、


「翔夜、私たちに何が言うことがあるんじゃない?」


 場所は現在自宅。夜の食卓が並ぶダイニングである。あの後警察から保護者へと連絡がいき、俺は両親に多大なる迷惑をかけてしまったことを知られてしまったのだ。


 そこで俺は、家族が全員いる前で正座をしていた。


「……えっと、あの、いちご狩りしてきたから、いちごを一緒に食べる?」


 少し修正をしておこう。忙しかったのではなく、現在進行形で忙しいのだ。主に母さんからの説教が……。


 目の前で腕を組んで明らかに怒っている母さんを宥める様に、俺は持ち帰ることが出来たいちごに思考を逸らそうとした。


「この馬鹿!」


「ぐへっ!」


 しかし、その浅はかな思惑は通じることはなかった。


 流石は母さん、容赦なく俺の頬をぶん殴るとは恐れ入った。痛くはないのだが、壁にひびが入ってしまった。恐らくこれを直すのは俺なんだろうな……。


 あれ、今確か魔力を使っていなかったような……。素の力で殴ったのか?いや、まさか!……身体強化したよね?


「私たちがどれだけ心配したかわかってるの……!?」


「……ごめん」


 俺が母さんの力に内心驚いていると、母さんは俺をしっかり見つめて静かに怒った。今まで見たことのないその本気の怒りに、俺は本当に申し訳ない思いで謝った。


 俺は神の使徒であるということを理解しているため、どんな攻撃だろうとも平気であろうと思っていた。だが、母さんたちは違う。俺はたった一人の、替えの利かない、母さんの息子なのだ。


 数カ月前も、俺の意思ではないにしろ『神の槍』によって意識不明の状態だったのだ。尚更無茶をしてほしくないのだろう。


 俺はそこをしっかり考えずに行動をしていた。これからはしっかりと周りの人たちのことを考えて行動しなければな。


「本当に反省しているのか?」


「はい、しています。以後気をつけます」


 父さんが珍しく真面目な表情で俺に言ってくるから、これはとても大事なことだったのだろう。


 普段だったら『珍しく父さんが真面目なこと言ってる!明日槍でも降ってくるんじゃないか!?』とかいうのだが、今回はそのようなことを言う気にはなれないな。


 何度も思うが、俺は周りの人たちに大事にされているんだな……。こんなにも俺の周りにいる人たちは、心が穏やかな人たちだよ。


 前世の俺が知ったら、確実に羨むほどにね。


「もし沙耶ちゃんに何かあったら、私彼女のご両親に顔向けできないのよ?ちゃんと反省してね!」


「そうだぞ、これからは本当に気を付けて沙耶ちゃんを守るんだぞ!」


「あぁ俺じゃないのね!?てっきり俺を心配しているものかと思っていたよ!」


 しんみりとした状態だったのだが、母さんと父さんの発言によって一気にではなくなってしまった。これには俺も立ち上がって抗議をしたくなるよ。


 どうして二人はそう俺の期待を裏切るかな!?もしかして『シリアス・ブレイカー』とか、そんな異名でも持っているんじゃないか!?


「ちゃんと心配していたわよ!……十番目くらいに」


「結構低いな!他の九個の心配事がなにか逆に気になるよ!」


 一番目は恐らく沙耶なんだろうけど、そのほかはいったい何なんだよ!その中にいちごがあったら俺泣くぞ!?いちごに負けたのかと思って俺泣くからな!?


「まぁまぁお二人とも、落ち着いてください」


 俺たちの口論がヒートアップしてきたことにより、後ろの方で控えていた宮本さんが俺たちを諫めてきた。


 いつも思うが、こんな時でも凛としていて表情が全然変わらないな。


「彩香だって今はこうやって落ち着いているけど、翔夜が帰ってくるまで『翔夜様、どうかご無事で……!』とか言っていたじゃない!」


「香織様、どうしてそういうことを本人の前で言ってしまうのですか!」


「なんかデジャヴを感じる」


 前言撤回。そういえば宮本さんって動揺すると結構表情と態度が変わるんだったな。


 というか、俺のことを心配してくれていたんだな。そういうことはちゃんと口に出していってもらいたいよ……。


「だってー、翔夜だって一人くらい心配してくれている人がいるって知ったほうがいいでしょ?」


「両親が心配していない事実に困惑しているんだけど?」


 とはいえ、宮本さんは家政婦である。心配することはとても当たり前な気もする。


 しかし、肉親である二人が心配していないことに驚きを隠せないよ。確かに俺は体も丈夫でケガとか全然しないよ。


 けどさ、それでもガラスのハートの持ち主なんだよ?取り扱いには気をつけないと、俺泣いちゃうかもしれないんだからね?


「そんなことを言っている香織様だって、『翔夜、無事でいてね……』と言って黄昏ていたではありませんか!」


「あーあー!きーこーえーなーいー!私が心配していたのは翔夜以外の人たちですー!」


「心配してくれていたことはわかったけど、直接そう言われると流石に傷つくんだけど……」


 宮本さんの発言を聞いて回復しかけていたメンタルが、母さんの発言によって新たに傷をつけられてしまった……。


 照れ隠しでそう言っているのはわかるのだが、否定する言葉が俺にとっては辛辣すぎる。これ以上言うと、ホントに泣いちゃうからね?


 ひどいことは言わないでな?


「兄さん……」


 俺と母さんの口論から母さんと宮本さんの口論に移行したと同時に、結衣から声がかかった。


 メンタル崩壊直前の俺に、いったい何を言うのだろうか……。あまりひどいことは言わないでね?出来れば優しい言葉をかけてね?


「あの、私だって……心配していたんだからね……?」


「結衣……ありがとうな!」


「ちょ、ちょっとやめてよ……!」


「あぁ、すまんすまん。いやよ、みんなして俺のことを心配していないって言うから、嬉しくなってな~」


「あの、私は心配しておりましたよ?」


 結衣が恥ずかしそうに心配していたということを伝えてきたので、俺は嬉しくなって、つい結衣の頭を撫でてしまった。


 やめるように言ってくるが、払いのけようとはしていないのでこのまま続けよう。


 しかし、ちゃんと心配していたと口にされると嬉しいものである。だから宮本さんも母さんも、ちゃんと口に出して言ってもらいたいものである。


「翔夜、父さんと母さんは心配していなかったわけじゃなくて、翔夜を信じていたんだよ。だから、他に大事なことを優先していたんだよ」


「父さん……!」


 心配してくれているということを言ってくれなくてちょっと残念に思っていると、父さんが笑みを浮かべて言ってきた。


 なんだよ、父さんのくせにめっちゃいいこと言うじゃん。


「ふ~ん、部下の女の子と食事に行くことが大事なことなんだ~」


「いやだからそれは誤解だって!」


「父さん……」


 がっかりだよ、父さん。まさか母さんを差し置いて他の女性と出歩いていたなんて……。夫婦間に軋轢とか起こっていないよな?


「翔夜様」


「ん、なに?」


「ちゃんと皆さん心配していましたからね。他のことが手に付かないくらいには」


「そっか……」


 俺の心境が複雑な状況なのだが、それを察してか宮本さんがしっかりとみんな心配してくれていたということを説明してくれた。


 なんだかんだ言っても、やっぱり俺のことを心配してくれていたんだな。


「それと健一様は、ただ相談事を受けていたそうなので、そこまで責めないで上げてください」


「あぁ、相談事か」


 なるほどね。だから母さんが父さんのことを責めていないのか。それなら納得だな。


 流石にこんな美人な母さんを差し置いて他に女性を作ったりしないわな。こう見えて父さんはヘタレ野郎だし。


「ぅおっと、どうしたんだ?」


 夫婦喧嘩をしている二人を眺めていると、突然今まで頭を撫でていた結衣が抱き着いていた。危うくバランスを崩して倒れる、というようなことはないが、いったいどうしたのだろうか。


「……また、いなくなっちゃうんじゃないかって……すごく心配した」


「ごめん……」


 やはりどれだけ俺がとんでもなく丈夫だとしても、中学生である妹にはつらいものがあるのだろう。


「でもな、俺は絶対にいなくならないから、安心してくれ」


 これを機に、俺は危ないことを控えるようにしないとな。


 抱き着いてきたことに驚きはしたが、しかし安心させるように再び頭を撫でた。


「あるじー、わたしもー」


「う~ん、ちょっと今は空気を読んでほしいかな~?」


 今はちょっとシリアスな空気だから、今ではなく後でにしてほしいものだ。


 未桜もシリアス・ブレイカーなのかな?


「未桜、今ではなく後にしなさい」


「えー、じゃああとでぜったいだよー?」


「わかったよ」


 ここは一旦引いてもらおう。こういうのは申し訳ないが、俺の言ったことはしっかりと聞いてくれるから、そこはいいと思うよ。


 それと、そこの大人たち三人。俺たちを見てニヤニヤするのはやめてくれないかな?




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