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第五話 幸せ者


 下へと降りてくると、そこには俺の両親以外に見慣れない女性が一人いた。なんか、格好がメイドのそれなんだが。あぁ、家に帰ってくるまでに説明された家政婦さんかな?


「翔夜様、沙耶様、お勉強お疲れ様です。ささ、夕食の準備は出来ていますので、皆さんで食べましょう。妹様はもうじき帰られると思いますので」


 俺たちに気づいた家政婦さんらしき人に食卓に促された。よく見ると、テーブルの上に料理がたくさん並んでいた。すごいな、高級料理なんじゃないだろうか。


 というか、こういうのを満漢全席というんじゃないだろうか。だってフカヒレとか熊の手とか北京ダックとか、所狭しといろんなの置いてあるぞ?こんなに多い料理を食い切れる気がしないんだが……。


「あぁ、翔夜様は記憶をなくされていて私のことは覚えていらっしゃらないんですよね」


 今気が付いたといった様子でこちらに向き直った。うーむ、よく見てみるとかなりの美人さんなのではないだろうか。身長は俺と同じくらいだから大体百七十はありそうだ。


 黒髪黒目で、髪が腰に届くかというくらいの長さで、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。モデルでもこんなにきれいな人はいないのではないだろうか?沙耶が可愛い系のモデルだとすると、この人はカッコいい系のモデルだな。


 さぞモテているんだろうな~。


「私は健一様と香織様に雇われている、家政婦の宮本彩香と申します。以後お見知りおきを」


 こちらにやさしく微笑みながら自己紹介をし、綺麗にお辞儀をしてきた。なんというか、宮本さんは出来るって感じの家政婦さんだな。お辞儀にしてもそうだが、一挙手一投足すべての所作に気品を感じる。といっても、会って全然間もないんだけどな。


 だが、そう感じさせるものがある。まぁメイドがいることに、かなり喜んでいるのを何とか隠しているんだけどな。ここで『うぉぉぉぉ!メイドさん!?マジきれいなんだけど!』とか言って引かれたくないからな。


「ご丁寧にありがとうございます。……えっと、記憶がなくて何も思い出せませんが、これからよろしくお願いします」


 こちらも頭を下げ、最低限の挨拶をした。なんだろうな、一応俺は意識不明の状態だったんだけど、全然平気そうな感じであんまり心配じゃなかったんだろうか?落ち込むな~。


 そう思いちょっと落ち込んでいたんだが、奥で母さんと父さんがニヤニヤしていた。


「うふふ、翔夜。彩香はね、今はクールそうにしているけど、翔夜が病院に運ばれたって知らせが来たときは、それはもうあたふたしていたのよ。意識を取り戻すまでだってそわそわして仕事が手に付かなかったんだからね」


「そうだな、今まで彩香は慌てたことがなかったから、あれは翔夜には悪いが笑ってしまったよ」


 母さんと父さんがもう笑いながら話してくれた。宮本さんって見た感じ、感情が希薄なのかと思っていたんだけど、慌てたりするんだな。俺のこと心配してくれてありがとうございます!


「香織様に健一様、翔夜様には内緒にしていてくださいよ!私のイメージが完璧から遠ざかってしまうではありませんか!以前はあまり私を頼ってくれなかったので、ここで出来る女性を演じていればもっと頼っていただけると思っていましたのに!」


 宮本さんが慌てた様子で両親に抗議した。おそらく歳が前世の俺とあまり変わらないからだろうか、反応が可愛らしいと思ってしまった。というか、そんなこと思っていたのか。大丈夫です、こっちのことはわからないことばかりなので、かなり頼りにすると思います。


「ただいま~」


 両親と宮本さんがいろいろと言い争っていたところに、玄関の方から扉が開く音と共に間延びした女の子の声聞こえた。恐らく、妹が部活帰りで今帰ってきたのだろう。なんか緊張してきたぞ。会うのは初めてだからな。


 写真とかも見せてもらっていないし、どんな子なんだろうか?俺に似て怖い顔つきじゃなければいいんだが……。いや、両親がこんなに美男美女なんだから、おそらく可愛いんだろうな~。


 ちなみに今は三月の初めの頃だ。なので、中学生の三月の初めは卒業式があるだろうが、もう終わって今日は普通に卒業生以外は授業とか部活があるんだと。俺は卒業式が行われていた頃は病院のベッドでぐっすり寝ていたと聞かされたよ。


「なんかいい匂いがするね。今日はなんかの記念日だったっけ?」


 この満漢全席ばりの料理の匂いにつられるかのようにリビングへとやってきた。そして真っ先に俺と目が合った。


 おぉ、想像よりかわいかったぞ。


 身長は百五十くらいだろうか?黒髪ロングで、部活後だからかポニーテールでまとめている。格好はジャージだが、なんだろう、かわいいと思ったがよくよく見てみると、どちらかというと父さんに似ているからカッコいいのほうが表現として合っている気がする。


 あと、俺を見て固まったままなんだが。そんなにずっと凝視されると流石に恥ずかしいんだが。これはあれか、俺から話しかけるべきなのか?


「あー、えっと、おかえり?」


 戸惑いながらも一応おかえりと言った。なんでこの言葉をチョイスしたのか自分でもわからないが、この沈黙をどうにかしたかったので仕方ない。早く何か言ってくれ、気まずい!


「に、兄さん!!!」


「おっと」


 目頭に涙を浮かべて彼女は俺の胸に飛び込んできた。かなり勢いよく突っ込んで来るもんだから倒れそうになってしまったよ。というか、今兄さんって言ったよな?俺は兄さんと呼ばれているのか。……いいもんだな!


「生きてた……!もう目覚めないと思って、心配したんだからね!ずっとずっと、心配で仕方がなかったんだからね!」


 俺の胸に顔を擦り付けて、多少涙声になりながらも必死に思いを伝えてきた。その言葉をあのクソ女神へと伝えてやりたいよ。


「ごめん」


 本当に俺は悪くないと思うのだが、やっぱり俺が原因だから申し訳なさそうに謝った。


「もう、勝手にいなくならないでよね……!」


 こういう時はどうしたらいいか全く経験がないので、どう対処するべきか思い悩んでいると、なんか、母さんが頭をなでるジェスチャーをしていた。


 え、マジで?しろと?この俺に?女性に好かれたことのない俺にか?無理無理!流石にできないって!


 しかも相手は妹だぞ?俺の前世の友人の話では、妹の頭を撫でると『は、触んなよ。汚れるだろ』って言われるそうなんだぞ?俺の友人はそれで泣いちまったんだぞ?俺は会って早々嫌われたくねぇよ!


 助けを求めて他の三人を見たのだが、宮本さんはハンカチで自身の涙を拭きながら『よかったですね……』とか言っているし、父さんと沙耶に至ってはニヤニヤしてこっちを見てるだけだ。くそ、マジか!ここには俺を助けてくれる人はいないのか!?


 ええい、どうとでもなれ!


 そう思い出来るだけやさしく、我が妹の頭を撫でた。初めて撫でたのだが、ポニーテールの頭を撫でるのって難しいな。


 いや、これは頭ポンポンのほうがよかったのでは?だが、経験のない俺にはそんな高等テクニックは出来ないのだよ!……やっぱポニーテールを撫でるのは間違いだったな、難しいよ……。







 ================







 あれから少しの間ずっとあの状態だった。途中から撫でやすいようにいろいろ試行錯誤していたら、恥ずかしそうに離れていった。ちょっと残念。でも、早くしないと宮本さんが作ってくれた料理が冷めてしまうからな。


 ……あれ、食い切れるだろうか?


「さぁ、皆様。翔夜様が無事退院なさったことを祝いまして、本日は少々豪勢にしております。では、乾杯と参りましょう。」


 ここにいる全員がグラスを持ち、俺のことを見つめている。え、俺が音頭を務めるの?マジで言ってる?こういうのやったことないからわからないんだけど、みんな心待ちにしてるっぽいし、なんとなくでいいか。


「あー、ゴホン。えー、この度はみんなに大変迷惑をかけてしまって申し訳ない。そして、退院を祝っていただいて———」


「———硬い硬いっ!もっと適当でいいんだよっ!」


 何を言っていいかわからないので堅苦しい感じに話していると、沙耶が硬いと遮ってきた。確かに硬かったな。みんな親しい間柄だし、もっとラフな感じでいいだろう。


「あ、そうか?じゃあ……」


 一旦溜めて、ここに一番ふさわしいであろう言葉をつないでいく。









「みんな、ただいまー!」









「「「「「おかえりー!」」」」」


 みんなでグラスを掲げて乾杯をした。祝ってもらうっていうのは、結構いいもんだな。






 ===============







 それから食事は始まり、家政婦の宮本さんも含めてみんなで他愛もない話をしながらたくさんある料理を食べた。とても美味しかったです。いやマジで。今まで食べたことないくらいうまかった。


 こんなにうまい料理を、記憶のなくなる前の俺は毎日食べていたと思うと羨ましく思うな。そして、これからこんな料理が毎日食べられると思うとうれしく思います。


 そのことを宮本さんに伝えると、礼を言って微笑んだだけだった。いや、口とかピクピクしているし、見るからにわかりやすく喜んでいた。たぶんあれは隠しているつもりなんだろうなぁ。俺の中での宮本さんの印象が、どんどん可愛いメイドさんに定着していく。


 そういえば、記憶がないことを妹にはまだ伝えていなかったから、改まって伝えたんだが、あまり驚かれなかった。記憶がないことはどうでもいいことなのかと思い落ち込んでいると、妹は『確かに記憶がなくなったことは悲しいけど、私は兄さんが生きていてくれたことが一番嬉しく思っているから』と言い、はにかんだ。やばい、嬉しすぎて泣きそう……。


 なんで転生してきてから俺の周りは良い人たちばかりなんだ?『これからみんなで沢山の思い出を作っていこう!』って言っているし、俺は幸せもんだよ!ちなみに、妹の名前は結衣というらしい。大変よろしいかと思われます。


「そうだ。ねぇ翔夜、折角の祝いの席なんだし、使い魔の二人も呼んであげなよ」


 母さんが今思い出したといった感じで、手を叩いて俺に言ってきた。え、使い魔?そんなのがいるのか?


「そうだな、きっと二人も喜ぶだろう!」


 父さんも同調して俺に促してきている。周りのみんなも各々で俺の使い魔について話していた。あの~、皆さん。俺が記憶喪失だということを忘れていませんか?可愛かったとか言ってないで、呼び出し方とか教えてくれないかな?


「えっと、どうやって呼び出せばいいのかな?」


 一番こういうことを知っていそうな沙耶に聞くことにした。実際のところ、魔法の使い方がわかっても呼び出す相手がわからないから、使い魔を呼ぶことが出来ないんだよな。こういうところは使い勝手が悪いと思ってしまう。


「あぁそうだ、記憶がなかったんだよね。んとね、『来い』って言えば来ると思うよ」


 ん?


「……それだけ?」


「それだけ」


 おいおい、めっちゃ簡単に呼び出せるんだな!聞き返しちゃったじゃんかよ!なんか呪文でも言うものかと思っていたのに、来い、の一言だけって……。ちょっと落胆するなー。


「じゃあ、その使い魔というものを呼んでみるか」

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