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第四十七話 最強の布陣


「……さて、あいつはいったいどういう方法で倒すかな?」


 沙耶と結奈を背にして、そして未だに沙耶に向かって単調な攻撃を繰り出している女王アリを一瞥して考える。


 あの女王アリは生半可な攻撃ではびくともしないだろう。しかもわき目も降らずに沙耶に攻撃を繰り出しているということは、それだけ何か沙耶に執着があるのだろう。


 それが何かはわからないが、今はどうやってあいつを倒すかだな。


「翔夜、無茶だけはしないでね」


「わかってるよ」


 俺のもとに駆け寄ってきた怜が、不安そうに俺を心配してくれていた。普段はそんなことを言わない怜であっても、やはり予想外の敵を前にして不安になっているのだろう。


 この中で俺以外に巨大な魔物と戦ったことがあるのは、恐らく誰もいないだろう。だから、例え神の使徒である怜も少し動揺しているのだろうな。


「……一応言っておくけど、無茶っていうのは破壊活動をしないでってことだからね?」


「うるせぇ、わかってるよ!」


 心配は心配でも、俺ではなく周りの被害の心配であった。


 そんな不安そうな表情で言うのだから、危険な現状に不安に思っているのかと思っていた。なのに、俺が破壊活動をしてしまいそうで怖いから不安に思っていたのかよ……。


 俺だってそれくらいわかっているよ!だから未だに女王アリを倒していないんじゃないか!本気を出したら、ここら一帯が更地になってしまうかもしれないんだよ!?だから手加減しているんだから、そんなこと言われなくてもちゃんと理解しているって!


「はぁ……。さて、と……じゃあまずは適当に魔法をぶっ放すか。周りに被害が出ない程度に」


 まだ女王アリがどの程度の攻撃に耐えうるのかあまりわかっていない。そのため、出来るだけ複数の魔法をぶつけて弱点を見つけてみることにする。


 あまり時間はかけたくはないが、やはり高威力の魔法や高難易度の魔法では目立ってしまうし、それにここら一帯を更地に変えてしまう可能性もあるからな。


 マジで痛し痒しなんだが、致し方無いだろう。


「『炎槍』」


 女王アリは魔物とはいっても、やはり虫である。先程にシルバーアントと同様に貫くことが出来るんじゃないかと思っている。


「これでも食らっとけ!」


 相手は昆虫であるし、それに先程シルバーアントには効いたので、恐らくはこれでダメージを与えることが出来るだろう。


 というか、効かないとは全く思っていない。


「これで倒せていればいいんだけどなー」


 当たった瞬間、かなり大きな爆発が起こった。先程シルバーアントと同じくらいの魔力量で倒そうとしたのだが、どうやら貫くことが出来ずに爆発したようだった。


 簡単に貫くと思っていたが、どうやら思った以上に女王アリの表皮は硬かった。


 しかし、かなり大きな爆発が起こったので、流石にかなりのダメージがあるはずだろう。どうせならそれで倒されておいてほしいと願っているが、恐らくはまだ生きているだろうな。


 生体感知魔法にまだ反応あるし。


「……おいおい、傷つきもしないのかよ!」


 火煙か晴れていき、女王アリの姿が露になった。しかし、そこには俺の予想に反して傷一つない女王アリが微動だにせず、沙耶を見て佇んでいた。


 流石にこれはおかしいと思う。仮に本来の女王アリよりも強い変異体であったとしても、神の使徒である俺の攻撃を食らって無傷というのは異常である。手加減をしていると言っても、そんじょそこらの人たちの攻撃とはわけが違う。


 いったいどうなっているんだ?


「そりゃあ女王アリだしね」


「くそ……ムカつくな」


 怜はどうやらこの攻撃に耐えうることを、そして無傷でいることを当たり前のように思っているようだった。


 とても腹立たしいが、その事実を受け入れることにし、これからどういった攻撃をするか考える。


「やっぱり直接攻撃がしたいな……力加減がしやすいし」


 とは言ったものの、やはり弱点と思われていた炎槍が効かなかったので、自分のしたいように攻撃を行いたかった。


 殴ることに関しては力の加減がしやすいので、汚いとかはこの際気にせずにやろう。


 本気でやったらドームを吹っ飛ばしちゃうし、流石にかなり手加減することになるけどな……。


「あのさ二人とも、俺は近接戦をするから援護をお願いできるかな?」


 後ろにいる二人を守るために、俺と共にいる怜とエリーに協力を求めた。


 正直なところ、倒すだけならば手を借りる必要はない。しかし、今は後方にいる二人を守りながら戦っているのだ。危険なことなど万に一つもないのだが、やはり念には念を入れていかなければいけない。


 最強だと言える布陣だとは思うが、しかしそれでも守る対象が沙耶だから不安に思ってしまう。


「うん、いいよ。出来るだけ翔夜に当てないように頑張る」


「……ホントに当てないでね?」


「冗談だよ」


 軽口を挟む程度には、怜は落ち着いている様子だった。


「私の攻撃が通じるかわかりませんが、出来るだけのことをしてみます」


「おう、頼りにしているぞ!」


「は、はい!」


 逆にエリーは緊張しているのか、あまり余裕がなさそうだった。


 恐らく怜が手助けをしてくれるだろうが、これはあまり無茶をさせないほうがいいだろう。


「さてと、行きますかね」


 そう呟き、女王アリまでダッシュで向かった。


 炎槍を食らわせてから全く動きを見せていなかったが、俺が一定の距離まで近づいたことによって行動を再開した。


 先程の粘着質の物質を飛ばしてくるが、それほど速くないので躱すのは容易い。そして一挙手一投足がそれほど速いわけでもないので、俺は女王アリの目前まで難なく迫っていた。


「おらぁ、吹っ飛べやぁぁぁぁ!」


 間近まで迫ると、俺は丁度放ってきた攻撃を躱す形で女王アリの目の前までジャンプした。女王アリは即座に俺に対して攻撃をしようとするが、俺の拳の方が早かった。


 少々力を加えたおかげか、女王アリは多々良を踏むような感じに後方へと下がった。


「ちっ、これもダメか」


 今までよりも力を加えたはずなのだが、やはりと言うべきか女王アリは傷を負っていなかった。その事実に悪態をついてしまうが、しかしそんなことも言っていられない。


 俺から一定の距離をとったせいか、再び沙耶への攻撃を開始し始めてしまった。しかも今度は一度に複数の攻撃を仕掛けてきた。


 一応結奈が結界を張っているおかげで問題はないが、粘着質の物質のせいでこちらから二人を視認できなくなってしまっている。


 見えないと言うだけで俺が不安になるので、どうにか攻撃をやめさせたかった。


「少しは二人に行く攻撃を減らさないとね。『雷刀・千鳥!』」


「私も微力ながら協力させていただきますね。『水竜!』」


 しかし、そんなことを思うことは杞憂であった。


 二人に向かっている攻撃を、刀状の雷を振るって切り裂いている怜。そしてその攻撃で取りこぼした攻撃を、エリーが竜の形を象った水ですべての攻撃を防いでいた。


「……やっぱり魔法っていいかも」


 それを見て俺は、とてもカッコいいと思った。


 実際に使えるけど、使おうと思わないと使うことが出来ない。だからどうしても肉弾戦になってしまうんだ。だから、普段から魔法を使っているというのは結構なアドバンテージだろうな。


 よし、あとで真似してみよう!


「主様、私たちも助力いたしましょうか?」


「お、鈴か……あーいや、大丈夫だ。それよりも、沙耶を守ってやってくれないか?」


 俺が女王アリと戦いだしたからか、シルバーアントの残党と戦っていた鈴が俺の元までやってきて助力を願い出た。


 だが、女王アリをどうにかする以前に俺は沙耶が心配で仕方がなかった。沙耶のすぐそばに結奈がいるとわかっていても、今粘着質の物質のせいで目視で確認が出来ていないから、結構不安に思っている。


 そのため、鈴には沙耶を守るように指示を出したのだ。


「……主様、恐らくその心配は杞憂かと思われます」


「ん、なんでだ?」


 承諾して沙耶のもとに向かうという予想に反して、鈴は俺の元に居続けた。


 というか、とても姿勢正しくしているんだけどさ、大太刀を持っている所為でギャップが凄い。


「沙耶様には上位種の使い魔がついております。ですので、主の身に危険が迫れば否が応でも守ることでしょう」


「まじか……なら安心か。じゃあ鈴にも手伝ってもらおうかな」


「はい」


 そういえば、沙耶にも強力な使い魔がいたことを失念していた。めったに姿を見せないから、記憶の片隅に消えていたよ。


 しかし、確かにそれはとても心強いな。現在沙耶を守っている見方を考えると、これ以上ないほどに安全であろう。


 あとは、俺と鈴で女王アリを倒せば万事解決である。


「わたしはー?」


「おう、未桜にも手伝ってもらいたいよ」


「わかったー」


 前言撤回。俺たち三人で、だったな。


 いや、後方支援の二人も合わせると五人か?


「んじゃあ———って危ねぇなこの野郎!」


 俺たちが攻撃を再開しようとした直後、俺たちに向かって女王アリが丁度攻撃を仕掛けてきた。女王アリに視線を戻した直後でいきなりであったが、それでも俺は攻撃を食らわずに回避することが出来た。


 鈴と未桜は言わずもがな、攻撃を難なく躱していた。


「主様、あの魔物は少しおかしいです」


「いやまぁ、見た感じおかしいんだけどな」


 攻撃してきた事よりも、鈴はどうやら気になっていることがあるようだ。俺からしたらおかしいことだらけなのだが、鈴はそうではなかった。


「体内に核を持っていません」


「……そうか」


 言っている意味がわからず、俺はただ知っている風を装って返事をした。なんだかここで知らなかったら恥ずかしいと思ってしまったため、俺は知ったかぶりをすることを選択した。


 こういうことになるのなら、前もってもう少し勉強しておけばよかった……。


「なので、動力源が何かわかりません。そのため判断を仰ぎたいのですが、よろしいでしょうか?」


 なるほど、理解した。つまり、動力源がないにもかかわらず、なんで動くことが出来ているんだ?ということだろう。


「判断って言われても……」


 しかし、これは困った。


 ただぶん殴ることしか考えていなかったから、判断を仰ぎたいと言われても答えられない。


 寧ろ俺が判断を仰ぎたいくらいなのだ。鈴が考えたほうが絶対にいい答えが出るはずであるからな!


 だが、これでも一応は主である。なんとか少ない脳みそで答えねば!


「……とりあえず、動かなくなるまでぶっ飛ばすか」


「わかりました」


「ん、わかった」


 所詮空っぽの脳みそから出る答えなんて、たかが知れていた。判断というか、もう答えがただの脳筋である。


 そんな発言にも嫌な顔や呆れた顔をせずに従ってくれていることに、途轍もない罪悪感を感じた。


 ホント……こんな脳筋で、しかも馬鹿な主でゴメンね。


『やーい、脳筋』


「わざわざ念話してくる必要ないだろうが……!」


 どうやら結奈には聞こえていたのか、俺を嘲るように念話してきた。魔法をそんな無駄なことに使っていないで、戦いに集中してほしいものだ。


 決して棚上げとかそういうことではないからな?


「僕たちは適度に攻撃を加えるけど、大体は残党狩りと後ろを守ることに専念するから」


「女王アリのこと以外は気にせず、全力で頑張ってください!」


「あーうん、いろいろと頑張るよ」


 怜とエリーは俺たちが戦いやすいように後方支援に徹するようだった。こういう気遣いを結奈には見習ってほしものだ。


 しかし、エリーに全力でと言われてしまったが、俺は手加減をすることを頑張るつもりだ。俺が全力を出してしまったら、何時ぞやの時のように周囲に被害をもたらしてしまう。


 裏切るような形になってしまって申し訳ないのだが、俺には全力を出すことは出来ない。


 頑張るとは言ったが、全力でやるとは言っていない!



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