第四十五話 異常な現実
ここへ来てからどれくらいたったのだろうか。戦っている間は全然時間を気にしていなかったが、結構な時間が経ったはずだ。
どうせ戦うことに変わりはないのだから気にしても意味ないと思うが、早めに終わらせておかないと俺たち神の使徒以外が『魔力切れ』で潰れてしまう。下手をすると『魔力欠乏症』になりかねない。
この世界の人間たちにとって魔力とは、言ってしまえば『血液』のようなものだ。もちろん例えなので、人によっては力だったり神からの恩恵と捉える人もいるだろう。
しかし、この世界の大多数の人間が気力と認識していることだろう。血液のように、体内の魔力がなくなればなくなればなくなるほど、体に異常をきたす。とはいっても、魔力残量がなくなることがあろうと死にはしない。何かあるとすれば、全快するまで気を失うことぐらいだろう。
よく異世界に転移や転生をしてしまった物語の主人公が、総魔力量を増やすために魔法をバカスカ使って魔力切れを繰り返すことがある。それをおこなうことによって、体内にため込める魔力の上限を上げることができると言われて。
確かにその行為をすることによって、微々たる量ではあるが魔力の総量を増やすことは可能である。可能ではあるのだが、この世界でそのようにして魔力を増やそうとする人物は殆どいない。
その理由は、この世界でその行為をすることは、自らの命を削っているのと同意義であるからだ。
詳しいことはあまりわかっていないが、魔力を一気に減らすと『魔力欠乏症』になりかねないのだ。症状は発熱・嘔吐・酷い悪寒・意識障害・呼吸困難と様々なことが起こり、何も処置をしなければ約九割の人間が死へと至る。
血液だって一気に体内からなくなってしまえば、細胞機能が維持できなくなって死んでしまうだろう。
そのため、一気に自身の魔力を使う人などまずいない。たくさん使う場合でも、一日に総魔力の九割以上を一気に使うことはないだろう。
因みに、『魔力欠乏症』と『魔力切れ』では意味が違っている。読んで字のごとくなのだが、重症なのが魔力欠乏症で軽症なのが魔力切れである。
俺たち神の使徒は魔力が測りきれないくらいに多くあるため、魔力切れや魔力欠乏症になることはないだろう。だから、一日中魔力を使って戦い続けることは造作もないはずである。
しかし、他の人たちはそうもいかない。魔力が有限である一般人は、無駄遣いをせずに節約し、敵を屠らなければならない。それはつまり、長時間戦うことは困難というわけだ。
沙耶のように魔力が多くあるならば可能かもしれないが、世間一般の常識に当てはめて言うならば、敵を倒すならば短期決戦に持ち込まなければならない。
「しかし、マジでデカいな……」
「生態系とか滅茶苦茶になっていそうだね……」
俺が開けてしまった穴をより広げて入ってきた女王アリを、俺たちは困惑した表情で見上げていた。
そこら辺に転がっているシルバーアントが三メートルくらいなのに対して、女王アリの大きさはその数倍は大きい。具体的な大きさのものがなかなか思いつかないが、しいて言えばスフィンクスくらいの大きさだろうか?
実際に見たことないから、イメージでしかないんだけどな……。
「一応聞いておくけど、女王アリの普通のサイズって……あれじゃないよな?」
「あんなのが普通なわけないじゃん。言っておくけど、普通はあれの一割ほどしかないんだからね?」
確認のためというか、念のためというか、どうせみんなの認識と違うということをなんとなく理解したうえで結奈に聞いた。
結果は俺の思っていた通り、異常な個体だった。いや、思っていた以上に異常な存在だった……。
「おかしいだろ……」
「おかしいね」
今まであれほど大きな魔物は、俺の知っている限り未桜以外に見たことがない。
いや、もしかしたら俺以外は教科書や資料を含めても、今まであれほど大きな魔物を見たことがないのではないだろうか?
そう思ってしまうほどにみんなの表情は強張っている。普通の表情をしているのは、俺と結奈、それに使い魔の二人だけだろう。
「いや、まぁ……切り替えてさっさと倒そうか」
「あぁ、そうだな」
「あの、いったいどうやって倒すのですか?」
「だよね。私たちで倒すとは言ったものの、ちょっと厳しいかなって思う」
怜も表情が強張っていたが、それでもしっかりとあれを倒すために切り替えようとしていた。
しかしそれは神の使徒であるため、ある程度余裕があるからかもしれない。普通の人間は、あれほどの魔物を見ても余裕を持っているわけがない。神の使徒であることと、最上位種であるということから余裕を持っているのだ。
俺だって魔法なんてものがなかったら今すぐにでも逃げ出しているだろう。
「いや、意外と簡単に倒せるんじゃないか?」
しかしそれは、魔法がなかった場合の話である。今俺は世界最強と言っても過言ではないほどに強い。なんせ神の使徒なのだから。
「翔夜が強いのはわかるけど、どうやって倒すの?」
「そりゃあ……こうやって……」
神の使徒ということを知らない沙耶は、強いと言ってもたかが人間である俺が敵うのか疑問に思っている。
ごもっともだと思う。普通の反応だ。しかし、俺は神の使徒である。
そのため土にある砂鉄だけを集めて、簡易的に槍を作ることなど造作もない。
「えっ、ちょ———」
「———食らいやがれ!」
大体そこらのシルバーアントと同じくらいの全長になったので、俺は女王アリに向かって腕を振るって砂鉄の塊を放った。
言っておくが、どうやって作ったかなんて説明は出来ないからな?俺だって何で出来ているのか全然わからないんだから。
俺の予想では、その一撃で女王アリの頭部を貫いて終わりと踏んでいた。しかし、結果は俺の予想とは全く違う結果になった。
「……は?」
なんと、砂鉄の塊の方が砕け散ってしまったのだ。いや、確かに簡易的に、そして初めてだったが、それでも神の使徒である俺が作ったものである。鋼鉄を貫く対物ライフルを凌駕するほどには強いと思っている。
なのに、貫くことはおろか、傷一つ付けることができなかった。
「え、なんで!?」
「いや、翔夜知らないの?」
「なにがだ?」
女王アリにダメージを与えられなかったことが意外で仕方なかった。しかし、沙耶は呆れたような様子で俺のもとにやってきて、シルバーアントの女王アリについて簡単に説明してくれた。
「シルバーアントって普通はあまり硬くはないのはわかるでしょ?」
「まぁ、実際に殴ったからな」
「いや、これは別だと思うんだけど……」
そういえば、ここにいるシルバーアントは全部異常な個体だったな……。初めて知ったのがこいつらだったから、勘違いしていたよ。
「でも、女王アリだけは別なの。あれの硬さはダイヤモンドやチタン合金よりも硬いんだよ?」
「へぇ……」
かなり硬いものよりも硬いということはわかった。だがしかし、ダイヤモンドやマグネシウム合金がどれだけ硬いか知らん!
そのため適当に返事をしておいた。
「しかもあれは突然変異体だろうから、もっと硬い可能性があるし、何かいろいろ耐性があるかもしれないんだよ」
「あぁ、だからみんなは不安そうな顔をしていたんだ」
俺が難しい話を理解できないことを見越してか、詳しいことは簡略化してくれたからある程度分かったぞ!
つまり、元々強いのに普通の個体よりも何倍も強くなっているということだな。それでどう倒すか決めあぐねて不安にしているのだろうな。
「馬鹿って気楽だよね~」
「なんだとぉ!?俺は馬鹿じゃない、ただ知識が足りていないだけだ!」
「そんな胸を張って言うことじゃないような……」
怜よ、馬鹿と知識が足りていないというのは似て非なるものだぞ?俺は今まで馬鹿な行動はとっていないからな!
……いろいろ破壊してしまったのはノーカンな?
「というか、なんでさっきからあいつは攻撃してこないんだ?」
「そういえば、確かに目の前でこんな無防備に話しているのに、なんでずっと立ち止まっているんだろうね?」
「侵入して来てから微動だにしていないし……なんなんだろう?」
「こっちを見ているだけなのは、ちょっと不気味だね……」
「先程翔夜さんが攻撃を仕掛けたのに、なぜ女王アリは攻撃を仕掛けてこないのでしょうか?」
俺たちは目前に敵が迫っているというのに、なぜ暢気に話をしていたのだろうかと疑問に思ってしまうが、それはこの際おいておこう。
いざとなったら全員動くことができるし、問題は全然なかった。
だが、なぜ女王アリは俺たちに攻撃を仕掛けて来ないのだろうか?俺が攻撃をした時点で、あいつは必ず反撃をしてくるだろうと踏んでいた。だからといって何か策があったわけでもないがな!
「ふむ……」
どうしてかはわからないが、何故かあいつはそのまま突っ立ったまま動かないでいた。しかもこちらを向いて、俺たちを凝視しているようにも見える。
沙耶の言う通り、確かに少し不気味である。
「ただ単純に、俺たちに恐れをなしたんじゃないか?」
沙耶とエリーを不安にさせないためにも、少々ふざけたことを言ってみた。
だがしかし、魔物という生き物は上位種や最上位種でもない限り、敵を排除するまで攻撃を仕掛けてくるほど、本能の赴くがまま動いている。そういうことは、今までの戦いで未桜や鈴にも直接聞いたので知っている。
そのため、女王アリが未だに俺たちに対して攻撃をしてこない理由が全然わからなかった。
可能性があるとすれば、あの女王アリが上位種ないし最上位種になってしまったことである。突然変異体という可能性があるのだし、もしかしたら魔物としてのランクが上がってしまったかもしれない。
他にも外的要因があるかもしれないが、恐らくこれが一番有力かもしれないだろう。
ホントになぜ俺たちに攻撃を仕掛けて来ないのだろうか?
「俺たちっていうか、翔夜に恐れているんじゃない?」
「なんで俺限定なんだよ!」
「えっ……だって、顔怖いし」
「魔物にそんなことわかるわけないだろうが!」
結奈も沙耶とエリーが不安になっていることをわかってかわからずか、その場を和ませようと俺を馬鹿にしてきた。
もしかしたら結奈はそんなこと微塵も考えずに、ただ俺を馬鹿にしたいからそういったのかもしれないがな。
というか、俺って魔物にも恐れられるほど怖いなんてことはないよな……。
いや大丈夫だろう。なぜなら、鈴や未桜が全然怖がっていないからな!というか、あんな昆虫から嫌われたとしても、全然メンタルが傷つかないな!
嫌われているのは人間からだしな!
「……なぁ、俺ってそんなに怖いかな?」
「怖い」
「……そっか」
どうしてだろう……前世から知っていたことだし、自分でもしっかりと認識していたのに、例え結奈であったとしても他人から改めて言われると悲しくなってくる。
あれ、おかしいな……。目の前が歪んで見えるぞ?
「あぁくそ!見た目で判断すんじゃねぇよ!」
今の悲壮感を紛らわすために、そして心を切り替えるため、心からの言葉を吐き出した。
こんな状態で戦っては、何かしらのミスをしてしまうかもしれないからな!
「そうだね、女王アリは見た目で判断しちゃいけないよね」
「あーいや、そっちじゃないんだが……」
近くで聞いていた沙耶は、どうやら的外れな勘違いをしてしまった。
言っていることは間違ってはいないのだろうが、なんだが複雑な心境である。
先週投稿できなくてすみません。
少し自分の納得がいかなくて、投稿が出来ませんでした。
ですのでこれからは、いつも通り毎週日曜の一時頃に投稿するように頑張ります。
なので、これからもよろしくお願いします。
あと、一応明日も投稿するつもりです。




