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第四十三話 再度一掃


 羽蟻が出てきてから、俺たちの戦いは熾烈を極めた。……いや、神の使徒以外は、の間違いだな。


 羽蟻が登場してきてしまったため、前後左右を気にしていればよかった戦いが、上まで気にしなければならない戦いになってしまった。


 先程まで会話をする余裕さえあった沙耶とエリーでさえ、シルバーアントたちと戦うことに集中していた。


 係員たちは言わずもがな、叫び声や喊声しか聞こえてこない。


「ねぇねぇ、このシルバーアントの大群をどう見る?」


「ん、どういうことだ?」


 確かに周りが会話をしなくなるほどに戦いが苛烈になったが、それは常人にとってのことである。神の使徒である俺たちにとってはさほど厳しい戦いではない。


 そのため、俺たちは戦いながらも余裕綽々と会話をすることが可能なのである。


「いや、シルバーアントがこんなに、しかもこんなに大きな奴がこれだけここに集まったんだよ?それについて見解を聞きたいなと」


 結奈は俺と怜に話しかけながら、重力魔法で数匹の飛んでいる羽蟻を地面へ叩き落した後、下から土魔法で串刺しにした。


 その光景を見て俺も真似てみようかと思ったが、どうしても俺は魔法を放つよりも先に手が出てしまうため、中々実践できない……!


「う~ん……。普通に考えるなら、気候やその地域の魔力量の変化とかかな?」


「まぁ、普通に考えるならそうだよね……」


 怜は怜で『紫電』で作り出した槍を、空中にいる羽蟻やこちらへと攻撃を繰り出しているシルバーアントへと投擲していた。名付けるなら『紫電槍』だろうか、これは当たった瞬間に全身に電撃が走り、敵の行動を停止させていた。


「ふむ……」


 怜はそう答えたが、俺にはいまいちピンと来ていない。というか、二人が話している内容に口出しが出来ていない。


 だって、俺には全っ然わかんないんだもん。


「翔夜はどう思う?」


「あー、俺は……」


 やばい、怜に話を振られたが、何にもわからなくて考えていなかった。


「怜、翔夜がわかるわけないじゃん、聞いてもどうせわからないよ」


「なんだとぉ!?聞いてみないとわからないだろうが!」


 結奈の言っていることは本当なのだが、実際に言われるのはムカつく。しかも結奈に言われるのは二割増しでムカつく!


「じゃあ、翔夜の見解は?」


「……あー、えっと、あれだ」


 どうしよう、反射的にそう答えてしまったが、なにか自分の考えがあるわけではない。だが、何か答えなければまた馬鹿にされかねない……。


 どうにかして答えないと……!


「あのクソ女神のせい、とか?」


 頭をフル回転させて絞り出した答えがこれだった。自分でいうのもなんだが、言い得て妙ではないだろうか。


「……否定したいけど、それをないって否定できないんだよね~」


「まるでオオカミ少年だね」


 あのクソ女神ならばこれくらいのことをしでかしそうであるため、二人だって納得するしかなかったようだ。


 神として騒動を起こしそうと思われるのはどうなのだろうか……。


 ん、あれ?


「いや待て、なんで俺の意見を否定したいんだよ!?」


 少々怒りを露にしながら、近くにいたシルバーアントの顎を掴み、背負い投げの要領で空中を飛んでいる羽蟻へと投げ飛ばした。


 戦いながらなため、集中して聞いているわけではなかった。しかし、それでも聞き逃さずにすんだ。


 結奈はどうしても俺の意見は否定したいの?それほどまでに俺の意見は無意味なのか?それとも俺のことが嫌いなの?嫌いなのか?


 あまりぞんざいに扱われると俺、泣いちゃうからな?


「あっ、ねぇあれって」


「おい、無視するなよ!」


 結奈は先程の発言をなかったことにしようとしているのか、周囲の敵を風魔法で首を落として、壁の穴へと指をさした。


 しかし、俺は結奈の指さしたほうを向かなかった。


 だって、なんか振り向いたら負けだと思ったし、それに俺の中の勘がを振り向かせてはくれなかった。

 

 人は何度も馬鹿にされると信じられなくなるんだよ……。


「いやいや、あれ見てって」


「あ、なんだよ……って、はっ?」


 表情が全く変わらないから結奈の思っていることがわからないが、やはり気になるので指をさす方へと目を向けた。


 そこには、俺にとって絶対に認めたくはない光景があった。


「あの羽蟻、穴を拡げているね」


 あの羽蟻は、顎を使って俺が開けてしまった穴をより大きくしていた。


 シルバーアントはより大きくしようとしていなかったのに、なんで羽蟻は穴を大きくしているんだよ!


 もうあの壁、破けた障子みたいな状態になっているじゃねぇかよ……。


「ホントだ。翔夜が!開けた穴を!もっと大きくしているね!」


「一々強調しなくてよろしい!」


 あまり触れてほしくなかったことを、俺が開けてしまったということを大きな声でこちらを凝視しながら言ってきた。


 表情が全く変わらないが、絶対こいつ内心喜んでいるだろ!


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 もう大きなため息が出てしまうほどに憂鬱だった。だってこのシルバーアントたちをここに入れてしまったそもそもの原因は俺にあるのだから……。


「くそったれ!」


 こんなに落ち込んでいる時でも、敵は俺たちのことを襲うことをやめてはくれない。


 俺は穴を拡げられていることに対しての苛立ちをぶつけるため、こちらへとやってきている奴らを生体感知魔法で把握した。


 そして、一番近くへとやってきているシルバーアントと羽蟻二匹を同時に倒すため、

まずハイキックでシルバーアントの頭部を粉砕した。


 その蹴りによる衝撃により、シルバーアントは後ろにいた同族を巻き込んで壁の方へと吹っ飛んでいった。壁に穴が開かないように力を調整しているから、苛立っていても問題はないな。


 次に羽蟻がやってくるのがわかっているので、そのまま体勢を崩さず、流れるようにして回し蹴りを繰り出した。


 しかし、こちらは粉砕するだけでなく頭部がもぎれてしまった。これは、もう少し弱く攻撃してもいいかもしれないな……。


「刃の使い方うまいねぇ~」


 羽蟻が壁を食い破るさまを見て感想を述べた結奈。しかしその周囲には傷一つついていないシルバーアントや羽蟻が散乱していた。


 恐らくだが、もう戦うことが面倒に思って俺の知らない魔法を使って一気に倒したのだろうな。そのおかげで、俺たちの周囲には敵が全然いなくなっている。


 今は俺と怜以外は戦闘に集中しているから、例えこの世界に存在しない魔法を使ってもバレはしないだろう。目立つものではない限りな。


 まぁ多分、消滅魔法を使って魔核だけを消したんだろうけど……。


「いやいや、暢気なことを言っている場合じゃないよ?あの大きな穴のせいで、外にいた羽蟻が続々と入ってきているんだから」


 結奈が倒した敵のことを考察していたが、怜の言った言葉で現実に引き戻された。


 そういえば、今もずっと穴を拡げているんだよな……。


 ははっ……。


「あぁぁぁぁぁぁぁもぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!穴を拡げんじゃねぇ!!!その請求が俺に来たらどうするんだぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


「あ、気にしていたんだ……」


 もう開けてしまったものは仕方がないので、そこはもう気にしない。いや、気にしないことはなくもないこともないのだが、それをずっと気にしていてはいけないので、終わったら考えることにする。


 しかし、しかしだ!穴を拡げることに俺は関わっていない。なのに、その請求が俺のところへとやってきてしまっては本末転倒もいいところである。


 もう絶対にあれ以上穴を拡げさせてしまってはいけない。マジで本当に請求額が怖いしな、どうにかしなければ……!


「仕方がない、俺が一気に燃やしてやろうじゃねぇか!」


 急いであいつらを倒すには、燃やすということしか思い浮かばなかった。


 土魔法で串刺しということも考えたが、空を飛んでいる奴もいるし、それに今まで俺は土系統の魔法を炎魔法ほど使っていなかったので、俺にそんなコントロールが出来るか不安だった。だから、燃やすことを選択した。


 もう子いちごのガスもないし、それに先程、結奈が使っていた『炎槍』を使ってみたいしな!


 というわけで、俺は先程結奈がやっていたように頭上に魔力を集め始めた。正直見様見真似で出来るような魔法ではないだろうが、俺には神の使徒としての天性の勘?のようなものが存在する。


 そのため、使い方や原理などが全然わからなくとも、なんとなくで発動することが出来るのだ。


「『炎槍!』」


 右手を頭上へと高く上げ、結奈と同じく魔法名を口にした。その直後に俺の頭上に集まっていた魔力が、無数の炎の槍へと変換された。


 何度も言うが、自分でもなんで魔法が発動出来るか全く分からない!


「これでもくらいやがれ!」


 発動できるのだから、そんな些細なことは気にせずに、俺は高く上げた右手を勢いよく振り下ろした。


 すると、俺の望んだとおりに羽蟻目がけて炎槍が飛んでいった。


 だが、俺は壁の穴以外の羽蟻をも一掃できるほどの魔力を込めすぎてしまった。なのでその場所だけではなく、今ドーム内にいる全ての羽蟻を攻撃した。


 前方だけでなく全方位になってしまうが、それでも問題なく攻撃することが出来た。


 マジで神の使徒様様だな!


 言っておくが、ちゃんと沙耶とエリー、それに係員たちに怪我をさせないように配慮をして放ったからな?


「「あっ……!」」


 羽蟻だけではなく、ついでにシルバーアントも炎槍で魔核を貫いておいた。沙耶とエリーはかなり戦ったのだろうから、かなりの疲労が溜まっているはずである。


 そのため、少しでも疲労を軽減させるために二人の周囲にも炎槍を放っておいた。だからだろうか、二人とも大きな声を出して驚いていた。


 ごめんよ、前もって言わないでしまって……。


 しかし、なぜ俺ではなく壁の方を見ているんだ?


「「あ~あ……」」


 それに引き換え、こちらにいる二人は俺のことを見て憐みの目を向けていた。いや、結奈はただこちらを見ているだけの可能性もあるが……。


 二人とも、その『あ~あ』はどういう意味だ?俺はまた何かやらかしてしまったのか?


「あれあれ」


 そう言って結奈は、壁の方へと指をさした。


 いったい何なんだと思い、何も考えずに結奈が指さした方へと目を向けた。するとそこんは、俺が開けてしまった穴があった。


 ただ先程とは違い、明らかに俺が開けてしまった穴が羽蟻によってやられていた時よりも大きくなっていた。


 あー、あれは、なんだ、その、うん。


「……ふっ、汚ねぇ花火だ……」


「いや花火どころじゃないよ!?空気に任せて何やってんの!?」


 そう、羽蟻と一緒に壁までも炎槍で貫いてしまっていたのだ。先程結奈が込めた魔力よりも多く籠めてしまっていたためだろうか……?


「壁の穴がまた大きくなっちゃったね~」


「だって仕方ないじゃん、初めてやるんだもん!そりゃあ力加減だってわからないよ!」


 ただ不幸中の幸いだったのが、壁が燃えにくい材質だったのか、燃え広がって穴がより大きくなることはなかったということだ。


 しかし、これはもう言い逃れは出来ないのではないだろうか?


 今までは、『全部魔物がやりました!』と言って言い訳をすれば何とかなるんじゃないかと、淡い希望を持っていたんだよ。


 でも、あの焦げた跡を見て、流石にシルバーアント等がやったとは思えないだろうな……。


「あと、炎で貫けること自体がおかしいんだからな!?」


 『炎は燃えるもの』という常識が通じなくなっているこの世界で、そんな配慮が瞬時に判断できるわけがない。


 なんで炎であの頑丈そうな壁を貫くことが出来るんだよ……。誰か後で教えてくれ!


「炭化していますね……」


「これは、なんというか……流石は翔夜だねっ」


「ふふっ……」


「沙耶さん、それは褒め言葉じゃないよ?寧ろ俺のことを馬鹿にしているからね?」


 俺たちのそばまでやってきていた二人が各々思わず口から感想を述べた。


 沙耶は改めて俺の実力を見て感心しているわけではないよな?絶対俺なら何かやらかすんじゃないかって絶対思っていたよな?


 もう少し俺のことを励ますようなことを言ってほしかったよ。それが無理でも、何か他になかったのだろうか……。


 あと結奈、今お前が笑ったことは知っているからな?しれっとしているが、俺はお前が笑った声を聞いているからな?


 後で俺が覚えていたら引っ叩いてやる……!


「と、とにかく!蟻どもを一掃できたよな!?」


 そう、どれだけ馬鹿にされようが、俺はここにいる敵を一掃できたのだ。


 とはいっても、炎槍を放った直後はまだ少し残っていたし、ドームの外にはまだ敵が残っている。


 残っていたドーム内の敵は、鈴と未桜が片付けてくれていた。マジで俺の見ていないところで戦っていてくれてありがとう!


 マジで視界に全然入らないから生体感知魔法でしかわからなかったよ……。妖術ってすごいな!


「そうだね、一応羽蟻たちは粗方片付いたね」


「あとはドームの外にいる奴だけ終わりでしょうか?」


 そうだった、エリーは水魔法以外使えないんだったな。だったら生体感知魔法も必然的に使えないのだろう。


 今まで神の使徒である俺は、そんな魔法とは無縁の生活を送っていた。だが、いざ使えるとなると、使えないのがとても不便に感じてしまうな。


 いつか、エリーに水魔法以外を使えるようにしてあげたいな。


「そうだね、大体三十いないくらいかな~」


「ん、もうそんなもんか」


「それならもう少しで終わりそうですね」


 感慨に耽っていると、結奈が早々に外にいる敵の数の大体数を教えてくれた。炎槍を撃つ前に見たときより全然減っているので、もう少しで戦いは終わりそうであるな。


「でしたら私たちが片付けて来ましょうか?」


「……いや、みんなでやろう。その方が二人の負担も少ないしね」


 マジでホントにびっくりするから、いきなり背後から出てくるのはやめてくれ!驚いて一瞬声が出なかったぞ!そこにいるはずがないと思い込んでいるのに、その場所から声がかかるとマジでビビるから!


 だが、そこは鈴の主であるし、それに周りに仲間がいるのだから、目に見えて驚くような反応はせずに涼しく出来る上司をイメージして受け答えをしてやったぞコノヤロー!


「なんかヤクザの癖にいいこと言っている……」


「誰がヤクザだ!」


 どうしていいことを言っても、結奈にはこうも馬鹿にされるのだろうか?


 前世で俺が何かしたのかなって、ホントにその線を疑い始めるくらいだよ……。



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