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第四十二話 新興


 この世界に来て何度目かになる、長時間にも及ぶ魔物との戦いは終盤に差し掛かっているだろう。


 先程生体感知魔法を使って、ドーム周辺を大まかにだが見た。すると、かなりの数いた敵は後残りわずかとなっていた。


 これならば俺たちがいなくとも、係の人たちだけでどうにかなるだろう。


「あともう少しかな?」


「だといいんだけど……」


 シルバーアントの頭部を殴りながら独り言のようにつぶやくと、近くにいた怜は浮かない顔をして俺が開けてしまった穴に視線を移した。


「だけど、生体感知魔法で見てもあともう少しだぞ?」


 俺が生体感知魔法で見る限り、もう倒した敵の一割にも満たない数しか存在していないのがわかった。


 俺が、というか神の使徒が使う生体感知魔法は、ここらにあるドームの周辺の生き物がどれだけ存在しているのかわかる。


 まぁ、生き物とか言ったら植物とかいろんなものが感じ取れてしまう。だが、俺は魔物と人間に限定しているため、様々な生き物が混ざってしまうことを防いでいる。


 一応言っておくが、もちろん原理とかそういうのはわからないからな?


 なので、怜が怪訝な顔をしているのがよくわからなかった。


「いや、全部がこのシルバーアントだと限らないじゃん?」


「あぁ、確かに……」


 シルバーアントの顎を掴んでぶん投げながら、俺は怜が怪訝な顔をしている理由に納得した。


 千里眼は、自身が望んだ場所の景色を視ることが出来るのだ。それに対して、生体感知魔法は自身が望んだ場所にいる生物を感じ取ることしかできない。つまり、どのような生き物がそこにいるのか判断が出来ないのだ。


 いや、人間と魔物というカテゴライズに分類することが出来るのに、わからないというのもなんだかおかしな話だが、分からないものはわからないのだ。


 だって原理を理解していないんだもん!


「だけど、まぁ俺たちの敵じゃないし、問題ないだろ」


「まぁそうなんだけどねぇ……」


 実際のところ、生体感知魔法で見ていなくとも俺たち神の使徒が三人もいるのだから、鈴や未桜のような最上位種の魔物が出てきても倒す自信がある。


 しかもここには俺の優秀な使い魔も仲間もいるのだから、万に一つもないと思う。だが、それでもなにか心配なことがあるのか、怜はまだ浮かない顔をしていた。


「他の人たちはそうもいかないよ?」


「あぁ、なるほどな……」


 俺と怜の視線はシルバーアントから離れて、今も奮闘している係員たちへと向けられた。


 確かに俺たちは魔法という遠距離攻撃の手段を持っている。もしも俺たちが危険に陥ってしまった場合、敵から離れて絨毯爆撃を繰り出してしまえばそれだけで片が付く。


 しかし、係員たちは恐らくだが魔法を使うことはないだろう。


 いや、身体魔法は使っているのだが、俺たちのように火や風といった遠距離から攻撃を行う手段を持ち合わせていないだろうと思う。


 見ていて、彼らは自身の肉体を信じているような気がしていた。過信しているともいえるほどに危険に身を投じていた。


 そのため、ここに予想外の敵が現れてしまった場合、彼らがどのような行動をとるのかわからない。俺たちが助けに入って間に合えばいいのだが、係員たちは恐らく敵へと向かっていくだろう。


 その行動は間違っているとは思わないが、正直なところ安全に身を置いてほしい。体は大切にしないとね!


 あれ、俺ってもしかしてここで一番危険な行動をとっているような気が……。


「よっと……。そこは大丈夫だよ。僕が沙耶とエリーを助けるからね」


 俺がぶん殴ろうとしていたシルバーアントを、結奈は横から風の魔法を放って細切れにして吹っ飛ばした。


「何が大丈夫なんだ?係員たちを助けていないじゃないか」


 しかし、話を聞いていただろうに、なぜか言葉のキャッチボールが出来ていなかった。


 沙耶とエリーを助けたところで係員たちも助けなければダメだろうに、どうしてそういう見解に至ったんだ?


「だから、僕がちゃんと二人を守るから安心してあの人たちを助けてあげてね」


「そういうことかよ……」


 なるほど、理解しましたとも。


 つまり、二人をしっかりと守っているから、心配する事なく係員たちを助けることが出来るということだな。


 ふむふむ、なるほどなるほど……。


「今絶対めんどくさいって思ったでしょ?」


「思ってない思ってない」


「目を逸らされながらそんなこと言われても説得力ないんだけど……」


 目を逸らしたのは、シルバーアントがこっちにやってきていたからそっちを見ただけだよ?


 だから、ホントに面倒だなんて思っていないからね?ちょっと迷っただけだからね?


「いや、助けるのは別にいいんだよ」


 俺は元々人助けをしたいと思って医療系大学に通っていたんだ。別におっさんだからだとか、汗だくの筋肉ムキムキマッチョだからとか、そんな理由でちょっとめんど……迷ったんじゃないからね?


「じゃあ何が不満なの?」


「不満というか何というか……。どちらかというと、俺もそっちがいいなと思ったんだよ」


 どんな男だって、好きな女の子を優先して守ろうとするのは当たり前じゃないか。


 俺だってカッコよく沙耶とエリーを助けたいって思ってもいいじゃん。だからさ、その時が来たら代わってくれないかな?


「可愛い女の子のことを守るのは僕の役目だから、翔夜には譲らないよ!」


「いや、そこまで大きな声で言わなくてもなぁ……」


 表情は変わらず、しかし声を大にして反論してきた。そんなにあの係員たちを助けるのは嫌なのか?それとも女の子が好きなのか?そうなのか?


 どっちでもいいけど、シルバーアントの首を無言で狩るのはびっくりするからホントに事前に言ってほしいよ……。


 急にシルバーアントの首が落ちるんだから、誰だってびっくりするからね?ほら、怜だって……あれ、全然びっくりしていない。


 これは普通なの?普通なのか?


「何が何でも絶対に譲らないからね!」


「なんでそこまで意固地になっているんだよ!」


 めんどくさいなホントに!


「だって、あんな汗だくなおっさん助けるより、可愛い女の子を助ける方がいいでしょうが」


「本音が出てるぞー?」


 結奈はやっぱり可愛い女の子を助けたいだけだった……。いやね、俺も分からなくはないが、それは心の内に収めていような?


 それと、もうシルバーアントをぶん殴るのに何も言わないんだな。これからは俺のことを言えないからなそれは。


「なんだかんだ言って二人とも仲いいよね……」


 俺らが言い争っていると、怜に仲良しだと言われてしまった。


 全く心外もいいところだ。結奈よりは俺はあの係員たちのことを心配しているぞ?


 ちょっとだけだけども……。


「ねぇみんな、何か聞こえない?」


「私も先程から何か聞こえていまして、いったい何なのでしょうか?」


 後ろの方で魔法をぶっ放していた沙耶とエリーが俺たちの方へとやってきて奇妙なことを聞いてきた。


「あー、なんか、すんごい羽音らしき音が聞こえるな……」


「いったい何なんだろうね~」


 確かに先程から俺たちも何か音が聞こえているのは知っていた。知ってはいたが無視していた。


 もしかしたら、聴覚が強化されている俺たち神の使徒にしか聞こえないものかもしれなかったし、それに羽音が聞こえるということは、なんとなく敵が予想出来てしまってちょっと現実逃避をしてしまった。


 まぁたぶん、『アイツ』ではないだろう。シルバーアントがいるんだし、たぶんあいつだと思うが、もしかしなくても『アイツ』じゃないよな?


「おいおい、嘘だろ……」


「あいつらまでも来るのかよ……」


 係員たちは俺が開けてしまった穴を見て、みんなして驚愕していた。


 そこからやってきているのは、先程までのシルバーアントとは一線を画すものだった。自身の体よりも大きな羽を携えており、一回り大きくなっているシルバーアントの羽蟻である。


「あぁやっぱり……。あれは羽蟻だよな?」


「羽蟻だね」


 自身の予想は当たっていた。当たったということは、『アイツ』……ゴキブリではないということが証明されたわけだ。


 だが、俺の知らない敵が増えてしまったことは、正直嬉しくはなかった。というか、これからやってくる敵全てがシルバーアントだったら良かったと結構本気で思っていた。


 だってシルバーアントってさ、見た目に反して倒すの意外と楽なんだもん。


「……キモイな」


「音が絶妙に嫌だよね」


 そんな嫌悪感を出しつつ、俺と結奈は攻撃を仕掛けてきた周囲のシルバーアントを風魔法で切り刻みながら壁まで吹っ飛ばした。


 鈴と未桜も戦っているから、二人がいるところには吹っ飛ばさないように配慮してやっているから問題ない。


 一応、係員たちの方にも吹っ飛ばしていないから大丈夫!ちょっと眉間にしわを寄せてこっちを見ているけど、大丈夫!


 ただそのせいで、獲物のシルバーアントも一緒に巻き込んじゃっただけだ……。


「まぁでも、『アイツ』が来るよりは全然マシだけどな」


 俺は係員たちから向けられる熱い視線を無視して、やってきた羽蟻を観察し始めた。


 見た目はシルバーアントに羽を生やしただけの魔物だった。羽の大きさはそのシルバーアントの全体を覆いつくすことが出来るほどの大きさだ。そして、羽は四対あり虹色(・・)に輝いていた。


 たぶん、高く売れると思う。


「ねぇ翔夜、その比較は間違っていない?」


「ん、そうか?」


 やってきた羽蟻と今までやってきていたシルバーアントとの違いを探していると、結奈が俺の発言に疑問を提示してきた。


 俺が真っ先に思い至ってしまったから比較しただけであり、別にうまいことを言おうとしただけじゃないからスルーしてくれてよかったのに……。


 それで、いったい何が間違っているんだ?


「翔夜と沙耶のどちらが可愛いって聞いているようなものだよ?そんなのわかりきってることじゃん」


「それは俺のことをゴキブリだと言いたいのか?お?」


 なんだ、結奈は俺に逐一喧嘩を売らないと死んでしまう病気にでもかかっているのか?いいじゃねぇか買ってやろうじゃねぇか!


「わかりやすい例えを言っただけで、別に翔夜がキモいなんて言ってないよ~」


「俺もそこまで言っていないんだがなぁ?」


 結奈って俺のことが嫌いなの?嫌いなのか?


 俺はただ顔が怖いだけの善良な一般人だぞ?ただちょっと神の使徒という存在になって、神によって記憶喪失になってしまっただけのなぁ!


「二人とも喧嘩しないの。それより、続々とやってきているけど、どうする?」


 俺たちのやり取りを見ていた沙耶がこちらに近づいてきて、諫めるとともにこれからどうするかを聞いてきた。


「どうするって言ったって、そりゃあ倒すしかないだろ」


「まぁ、そうなるよね」


 本来はいちご狩りへとやってきていたはずだが、こうも敵がやってきてしまっては倒さないわけにはいかない。


 係員たちには止められたが、俺たちは地球を破壊するほどの力を持った存在である神の使徒である。そんな俺たちが戦いに参加すれば確実に勝利が確定する。


 それに、沙耶とエリーの戦いの練習にもなるし、戦わないという選択肢はない。危なかったら俺が助ければいいしな!



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