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第四十話 救出のようなもの


 俺たちが係員たちがいる場所へと向かうと、シュワちゃんがいなくなったとはいえ、係員たちは結構奮闘していた。


「おんどりゃあぁぁぁぁぁ!!!」


「こんにゃろぉぉぉぉぉぉ!!!」


「いや絶対助けなくても問題ないよな?」


 先程シュワちゃんがいなくなってから、やる気がなくなっているように見えたのが、どうやら戦うのに支障はなかったようだ。


「疲労が顔に出てるじゃん」


「笑顔ですけど!?」


 なんで結奈は笑顔の人を見て疲労しているってわかるの!?俺元々は医療系大学に通っていたけどさ、あれを見て疲れているって判断を下せないんだけど!


「いいから、助けるの」


「はいよ……」


 なに、俺がおかしいのか?みんな助ける気でいるし、あれを見て楽しそうって思うのは俺だけなのか?誰か俺に共感してくれる人はいないのか?


 そう思ってみんなを見ていると、ある程度シルバーアントの近くまで寄ったら、急にみんなが立ち止まった。


 なんで立ち止まったのかと疑問に思っていると、それぞれがシルバーアントに狙いを定めて攻撃を繰り出していた。


「そういえば、普通は魔法で戦うんだよなー」


 俺は素手で助ける気満々だったため、今もシルバーアントへと向かって走っている。沙耶とエリーは中距離から遠距離で戦うが、結奈や怜は近距離でも戦うため、俺と走ってくるのかと期待した。


 だが、二人は俺のように超近距離で戦う気はないらしく、沙耶とエリーとともに魔法を放っていた。


「なんだろう、悲しくなってくるな……」


 一人で特攻しているせいか、寂しい気持ちになってきてしまった。


 いや、今からでも戻って一緒に魔法で攻撃をすればいいのだが、使い魔が近接戦闘を行っているのに、主である俺が遠距離で戦うわけにはいかないという、変な正義感というか価値観が芽生えてしまった。


 決して今更戻って魔法を撃つのが気まずいっていうわけじゃないからな?そこは勘違いしないように!


「はっ!」


 俺はそんな空しい気持ちを晴らすために、係員たちへと襲い掛かっているシルバーアントを殴り飛ばした。


 気持ちが晴れるし、係員たちを助けることが出来るし、一石二鳥だな!


「助けに来ましたよー」


「おい、勝手に人の獲物を取るんじゃねぇよ!」


「えぇなんで助けたのに怒られたの!?」


 さっきまで苦戦を強いられていたんじゃないの!?俺は全然そんなことを思わなかったけど……。


 それでも一応助けてもらったんだから、礼くらい言ってほしいものだよ。


「あれは俺の獲物だったんだ!勝手に横取りするのは許せん!」


「めんどくせぇなこの人ら!」


 ここにいる人たちはみんな脳筋なのか!?なんで危険な状態だったのに、自分の獲物を取られて怒っているんだよ!


「まぁまぁ、気性が荒いってことで許してあげなよ」


「……なんだ、やっぱり来たのか」


 結奈は遅れてやってきて、俺をなだめた。さっきまで怒っていた奴が何言っているんだとか言いそうになったが、すんでのところで耐えた。また言い争いになったら面倒だからな。


 それと、ちょっと嬉しく思ってしまった自分がいて恥ずかしく思っている……。


 でも、どうしてやってきたのだろうか?後ろの方から怜もやってきているし。問題でもあったのだろうか?


「翔夜が何をしでかすかわからなくて怖いからね」


「俺ってそんなに信用ないかな!?」


 二人はどうやら俺の行動が心配で来てくれたようだった。最初嬉しく思ったけど、流石にそんな理由では喜べねぇよ!普通に加勢に来たとか、そういう理由で来てほしかったよ!


「なんでシルバーアントがいるんだろうね~?」


「悪かったよ!何度も蒸し返さないでくれ!」


 表情は全く変わらないのだが、声の抑揚で楽しんでいるのがうかがえる。


 恐らく結奈はこれから俺がドームの壁を破壊してしまったことを、ずっと弄り続けるんだろうな……。


「それにしても、なんでそんなに怒っているんですか?」


「子供に奪われるのはなんか嫌だからだ!」


「子供かっ!」


 脳筋かと思いきや、ただ中身が子供だったようだ。命を懸けて戦っているというのに、どうしてそんなにくだらない理由で怒っているんだよ……。


 ここにいる人たちは馬鹿なのか?絶対馬鹿だろう!


「本当に面倒な人たちだな……」


「変な矜持とか捨てちゃえばいいのに」


「ホントだよ。こういう人たちは一度痛い目を見ないとわからないと俺は思うんだ」


「助けようとか言って損した気分」


 俺と結奈は係員たちに聞こえない声量で、愚痴を漏らした。


 別に善意で助けたから感謝はされなくてもいいけどさ、それでも愚痴を漏らしたくはなるよ。


「二人とも、そんなことを言っていないで、早くこいつらを倒すよ」


「はいはい、わかったよー」


「仕方ないかー」


 少々不満は残るものの、俺たちは怜に呼ばれてしまったため、シルバーアントを倒しに向かうことにした。


 確かに、シルバーアントの数は一向に減る気配はなかった。だから、係員たちの言っていることは無視して、早々に片を付けたほうが良いかもしれないな。


 そう思い俺たち三人は、シルバーアントがより多く集まっている場所に目を付け、そこに向かおうとした。すると、丁度こちらへと向かって走ってくる使い魔の二人が視界に入った。


 いや、未桜は浮かんでいるから、走ってきているというのは少々語弊があったな。


「主様、私たちも助けたほうがいいでしょうか?」


「ん、あのひとたちたすけるの?」


 二人は先程までシルバーアントを狩りまくっていたが、俺たちが係員たちを助けたから自分たちも助けたほうがいいか聞きに来たのだろうか?


 いや、未桜は何もわかっていなさそうだな。ただ鈴についてきたような感じだった。コテンと首をかしげている姿がなんか可愛いな。


「あー、鈴と未桜は普通に敵を倒していていいよ。あの人らを助けるのは俺たちがやるからさ」


「わかりました」


「わかったー」


 係員たちを助けたほうがいいとは思うが、先程子供に獲物を奪われて怒っていたからな~。


 たぶん使い魔が助けたらもっと怒りそうだったから、二人には引き続きシルバーアントを駆除してもらうことにした。


「ホントにいい子たちだよねー」


 使い魔が去ってすぐに結奈は俺の隣へとやってきて、鈴と未桜のことを褒めてきた。


 ……なんだろう、些か結奈の顔が綻んでいるように見える。気のせいだろうか?


 あ、綻んでいるのは俺の顔か!


「そうだろうそうだろう!可愛いうえに強くてしっかりしていて、それでいてちょっと抜けているところとかあって……まぁそれは逆にいいんだけど。とにかく、俺の使い魔はとてもいい子たちなんだよー!」


 俺は使い魔を褒めてくれたことに気分を良くして、とてもいい笑顔になってここが狩場だということを忘れて自慢してしまった。


 だが、それは仕方がないだろう?だって可愛いうえに優秀なんだもん!


「やっぱり主の俺に似たのかなー?」


「それはないね」


「即答かよ!」


 なんでそこは直ぐに否定してくるんだよ!よく言うだろう、ペットが飼い主によく似るって!


 まぁ鈴と未桜はペットじゃないけどさ……。それでも、主が優秀だということじゃないの!?


「翔夜、反面教師って知ってる?」


「なんだとぉ!?」


 それはあれか、俺が悪い見本になって二人がこうはならないようにしようって思っているってことか!?


 そんなひどいことは絶対にないだろう!……絶対にないよな?そんなこと思われていたら俺、泣き叫んで家飛び出しちゃうよ?


「俺はそんな悪いことしてないだろ!」


「なんでシルバーアントがやってきたんだろうねー?」


「だからごめんって!悪かったと思ってるよ!」


「わかればよろしい」


 本当に結奈はこのネタで脅してきやがった!もうそのことに触れないでくれないかな!?本当に反省はしているからさ、許してよ!


「なんでこんなところで漫才なんてしてんの……」


「今のどこが漫才に見えたんだ?」


「いや逆にどこが漫才じゃないと思ったの?」


 俺たちが言い争いをしていると、シルバーアントが集まっている場所へと向かっていった怜が戻ってきて呆れた表情をしていた。


 今のどこが漫才に見えたんだろうか?どこからどう見ても言い争っていたと思うんだが……。


 そして俺たちの様子を見ていたのか、沙耶とエリーも魔法の攻撃を一時中断してこちらへとやってきた。


「また翔夜が何かやらかしたの?」


「またとか言うなよ……」


 沙耶さん、そんなことを言わないでくださいな。沙耶の中での俺のイメージはいったいどうなっているんだ……?


 それとみんなよ、なんで『またかよ』みたいな表情をしているんだよ。俺たちは普段そんなに言い争っていないと思うんだ。どちらかというと、結奈が俺のことをからかっているだけなんだと思う!もうそんな目で見るのをやめてくれないかな~?


「あの、本当にまじめにやりましょう?」


「そうだよ。エリーの言う通り、ちゃんとシルバーアントを狩ろうよ?」


「もう何度注意されたかわからないな……」


 何度目かわからないエリーの注意を、俺と結奈はそっぽを向いて聞いていた。正直申し訳ないのと、なんだか恥ずかしさが出てきてしまってエリーの顔をまともに見れないのだ。


 だからさ、みんなしてそんなに呆れたような顔をしないでくれって……!


「まぁ、私たちなら真面目にやらなくても勝てるけどねー」


「開き直るなよ……」


「それでもちゃんとやらないといけないよ?」


 結奈はもう仕方がないと諦めたのか、沙耶に注意されても開き直って適当にやることを匂わせることを言いだした。


 なんでそんなに切り替えが早いんだよ。俺なんて申し訳なくて未だにエリーのことをしっかり見れていないんだぞ?


 そのメンタルの強さを俺にも分けてくれ……。


「周りから見たらふざけているようにしか見えないよー?」


「これでも僕はちゃんと倒しているんだけどなー」


 確かにそれには俺も同意せざるを得ない。こいつはなんだかんだ言っても、しっかりと敵を倒しているのだ。ちゃんとやっているかは別としてな?


 そして、俺だって一応子いちごもシルバーアントもちゃんと倒しているのだ。もしかしたらここにいる誰よりも倒している自信があるぞ?まったく、沙耶も他の人たちも……人のことはちゃんと見てほしいものだよ!


 ……はい、ふざけていたのは事実です、ごめんなさい。


「そういえば、みんな初めての魔物狩りなのに、余裕があるよな」


 俺たち三人は経験がなくとも、神の使徒という絶対的な安心があるわけだから問題はない。だが、沙耶とエリーは違う。最近まで中学生だった、ただの女の子でしかないのだ。


 いや、ただのってことはないが、それでも精神的な面で見ればそこらの女子と何ら変わりはない。


 なんで俺たちと同じように、焦った様子や緊張した面持ちではないのだろうか?


「そりゃあ、実技に関してはここには成績上位者しかいないからね」


「実技に関しては、ねぇ……」


「おい結奈、なんでこっちを見ているんだ?喧嘩を売っているのか?」


 沙耶の発言に同調するようにして、俺の方を見ながら結奈はニヤニヤしていた。


 その含みを持たせた言い方は、つまり俺は馬鹿だと言いたいのか?そんなに俺に引っ叩かれたかったのか?そうかそうなんだな?


 俺は怪しい笑顔を浮かべて、頭を引っ叩くために結奈に近づいて行った。


「『氷結』そんなことないよー」


「さらっと周囲のシルバーアントを凍らせてんじゃねぇよ!びっくりしただろうが!」


 俺が結奈のことを引っ叩いてやろうと近づいて行ったら、急に辺り一面のシルバーアントを氷結させた。


 いきなりやられるとマジでびっくりするんだよ!シルバーアントを狙っていたとはいえ、俺にも少しかすっているぞ!もしかして俺も狙ったのか!?それはたまたまだよな!?なぁ!?


 何度も思うんだけどさ、報連相って大事だと思うんだ。いきなり広範囲魔法を発動して俺たちに当たったら問題あるんだからさ、ちゃんと事前に言っておこうよ?


「いやね、もう一掃したらどうかなって思ってさ」


「そういう広範囲魔法を使う時は、事前に俺たちに教えておいてくれないかな?」


「翔夜以外には教えておくよ」


「なにそれ?新手のいじめなの?」


 なんで俺には教えてくれないの?ねぇなんで?俺ホントにそんなことされたら泣いちゃうからね?ちゃんとみんなに言う時は俺にも言ってね?マジでお願いだからね?


「あの、そろそろ係員さんたちからの視線が痛いんですが……」


「あんな馬鹿はほっとけばいい」


「あぁもうついに馬鹿って言っちゃったよ……」


 イラついているからって大人を馬鹿って言っちゃいけないと思うんだ。多分聞こえてはいないだろうけど、聞こえていたら絶対に絡んできて面倒になるからもうやめてほしいよ……。


「流石に私も年長者に馬鹿はないと思うよ?」


 ほら、常識人である沙耶もそう思うんだから、やっぱりバカは言っちゃあいかんでしょ。


 だから、もう少しオブラートに包んで言ってくれよな。……俺に対しても!


「……じゃあ、あの人たちを助けたら問題ないでしょ」


「え、まぁ、そうだね」


 結奈はそう言い、まだまだ壁の向こう側からやってきているシルバーアントに向き直った。なぜだか理由はわからないが、結奈の周りの空気というか雰囲気というか、先程とは違い真剣になったように見えた。


 ぶっちゃけそう思っただけで、俺の勘違いかもしれない。表情だって先程と何も変わっていないしな。無表情だし。


 だけど、魔力というものを感覚的にでも認識できるようになったからわかることがある。結奈は自身の魔力を凝縮して、これから俺たち神の使徒にしかできないようなことをするということだ。


 先程の『氷結』とは比べ物にならないほどの魔力が結奈の全身を包み込んでいく。


「目立つのは嫌なんだけど、仕方がないか……」



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