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第三十九話 駆除の連続から退陣


「それにしても、これ硬すぎるよなー」


 俺はもう何体目になるかわからないシルバーアントの腹を蹴り飛ばした。


 最初のうちは粉砕してしまったり、壁まで吹っ飛ばしてしまうこともしばしばあったが、もうこいつに対しての力加減は慣れたかな。


 やっぱり俺は、前と比べると結構進歩したと思う。


「さっきまで粉砕していたのに、いったい何を言っているんだか」


「まぁそれは仕方がないだろう」


 だって俺は神の使途なんだし、シルバーアントを粉砕できても不思議ではない。今は力の制御が出来ているんだし、そこは気にしなくてもいいでしょ。


 だから結奈はそんなおかしな奴を見る目で見ないでね?お前も出来るんだからな?


 まぁ、そういうのはもう慣れたけどさ……。


「それに硬いのは本当だぞ?たぶん今までで一番」


「確かにー。これ以上に硬いのを僕は知らないねー」


「だよなー」


 この世界に来てからの記憶をしっかり持っている結奈でさえ、このシルバーアントの表皮より硬いものを知らないそうだ。


「こいつらの固さって、こんなもんなのか?」


「普通はってこと?」


「そうそう」


 もしかしたら、本来のシルバーアントもこれくらい硬いのかもしれない。なので、一番物知りであろう結奈に聞いた。


「んー、私の知っている情報だと、確か本来は銀と同じ固さだったような気がするんだ」


「見たまんまだな!」


 このシルバーアントは確実に銀よりも硬い。もしかしたらダイヤモンドといっても過言ではないくらいは硬いぞ?


 ほんとになんでこんな変異種が生まれてしまったのだろうか……。


「ねぇ、なんで翔夜は素手で倒せているの?」


「身体強化魔法を使えば意外といけるぞ?」

 

 近くへとやってきていた沙耶とエリーが、俺が素手でシルバーアントを倒していることに対して疑問を言ってきた。


 結奈や怜に聞かれたら『神の使徒ですから!』と答えるのだが、二人以外に聞かれたら身体強化魔法を使っていると嘘を言わなければいけなくなる。


 もういっそのこと、沙耶やエリーにはばらしてもいいんじゃないか?


 ……いや、こればっかりは結奈が全力で止めに来るな。あれほど目立ちたくないって言っていたしな。


「いや、別に翔夜がおかしいのはいつものことだけどさ、流石にそんなことを平然と行うのは普通じゃないなって」


「俺っていつもおかしいの!?」


 俺はいったい周りからどう思われているんだ!?沙耶にそんなこと言われたら、俺泣いちゃうよ!?


「冗談だよー」


「流石にそれは傷つくって……」


 まさか沙耶から冗談を言われるとは思わなかったな……。


 だけど、これは仲が前よりも深まったと考えていいんだよな!そう考えないとちょっとやっていけない……!


「えっ、冗談だったの?」


「なぁ、お前は俺のことをなんて思っているんだ?」


「聞きたい?」


「……やめとく」


 何か含みを持った感じで聞いてきたので、戸惑いはしたが聞くことをやめることにした。


 だってなんか怖かったんだもん!


 それに、結奈は常日頃から俺のことをおかしい奴と思っているのかと、そんなことを考えているんじゃないかと思ったし!


 なので、真実はどうであれ、知らぬが仏であろうなと考えることにした!


 どうせヤクザとか堅気じゃないとかそんなことを考えているんだろうからな!


「あのー、もう少し緊張感をもってやりませんか?」


 困ったようにエリーが言ってくるが、これを言われるのはもう何回目だろうか?


 俺たちが負けることがないとはいえ、本当に申し訳ないな……。


「翔夜、ちゃんとやってよね」


「おい、なんで俺だけなんだ!?お前だって緊張感を持っていなかったじゃん!」


 絶対俺だけが言われることではないと思う!これは結奈にも当てはまることだろうよ!


「これでもちゃんと僕は緊張感をもってやっていましたー」


「嘘つけ!お前はこの中で一番緊張感をもってやっていなかったじゃん!」


「そんなことありませんー。僕はちゃんとやっていましたー」


 売り言葉に買い言葉な状態になってしまったが、結奈は絶対に緊張感をもってやっていなかったと思うんだ!


 いやまぁ、俺も緊張感はなかったけどさ……。


「もうどっちでもいいよ……。ちゃんとやろう?」


「そうですよ。敵は多いんですから、これからちゃんとやっていきましょう!」


「どっちでもよくないんだけど……」


 怜とエリーにとってはどうでもいいことのようだった。


 そんなに簡単に流せるようなことじゃないと思うんですよ!


「……んー、まぁ、気にしないで行こう」


 どうやら結奈も納得はしていないが気にしないようにするようだ。


 表情がずっと変わらないから、納得していないというのは俺の勝手な想像でしかないがな。


 だが、どうして急に言い争いをやめたのだろうか?


「翔夜も気にしないようにね。大人(・・)なんだから」


「……はいはい、わかったよ」


 恐らく結奈は前世のことを言っているのだと思う。でなければ大人というわけがないからな。


 ……俺の顔が年老いているわけではないよな?


「ん、あれ?」


「どうしたの?」


「いやさっき……気のせいか?」


 ふと、生体感知魔法にシルバーアントや係員たちとは違ったものが反応したからその方向を見た。その方向は俺が切り裂いて開けてしまったドームの壁だった。


 沙耶は俺がどうしたのかと思っているようだったが、あそこに人影らしきものが見えたんだよ。


 でも、あんなところに人なんているわけがないし、気のせいだろう。反応だって今はしていないし、絶対気のせいだ。


 気のせいじゃなかったら幽霊とかになるから、絶対に気のせいだということにする!


「まぁいいや!それじゃあ、切り替えていきますかね!」


 人影のことを忘れたいがために、無理矢理切り替えていこうとした。


 どうしても俺は切り替えていくことが苦手なんだよな~。怖いこととかすぐ忘れたい!


「そうだね。それじゃあまずは、そろそろあの人たちを助けようか」


「……あれって、助けたほうがいいのか?」


 係員たちの方向を向くと、すんごい気迫でシルバーアントを切っているのが見えた。


 あれは危険な状態なのか?笑いながらやっているし、大丈夫そうに見えるんだけど……。


「いやー笑っているけど、あれはかろうじて戦っている状態だねー」


「そうだね、あれは結構ギリギリで戦っているから、もう少しで助けに入ったほうがいいかも」


「……う~ん、俺にはさっぱりわからんな」


 今まで戦いの中に身を投じてきたわけじゃないから、戦いぶりを見ても何が何だかわからない。


 二人は俺と同じで前世の記憶を持っているはずなのに、なんで戦いの良し悪しがわかるんだ?この世界で長い間暮らせばそういうものがわかるのか?


「まぁでも、すぐじゃなくても大丈夫だからもう少し片付けてから行こう」


 すぐにでも助けに行くのかと思ったのだが、どうやら結奈は後で助けに行くそうだ。


 さっき戦わずに避難しろって言われたことを気にしているのか?


「……さっきの根に持っているだろ?」


「持ってない。客観的に見ただけ」


 表情は変えず、それでも力強く言ってきた。なんだかムキになっているような感じだな。


「いやでも——」


「——持ってない」


「……で——」


「——持ってない」


「まだ何も言ってねぇよ!」


 絶対気にしているだろ!顔では全然わからないけど、すっごい根に持っていたよ!そんなことは忘れて、シルバーアントを倒すことを考えていこうぜ!?


「翔夜、しつこいと女の子から嫌われちゃうよ?」


「うっ……」


 これに関してはぐうの音も出ないな。前世でも、しつこい男は嫌われるって言われてきたことだもんな。


「もう手遅れだと思う」


「なんだとぉ!?」


 なんだ、結奈は喧嘩を売っているのか?なら買ってやろうじゃねぇか!


「あ、あの、翔夜さんはただ、周りから怖がられているだけだと思います……」


「ねぇ、俺泣いていい?」


 エリーよ、たぶんフォローをしようとしているのだろうが、無理にしなくてもいいぞ?全然フォローになっていないし、寧ろ貶しているからな?


「ねぇ、そろそろ真面目に狩ろうよ……」


 呆れたように、怜は俺たちを眺めていた。そんな可哀想な子を見るような目で見るんじゃないよ!







 ===============







「なんだか、数が多いからより大変そうだねー」


「あー、それは確かにそうだな。もしかしたら子いちごよりもいるんじゃないか?」


 辺り一面には子いちごの屍骸が転がっているが、それと同じくらいのシルバーアントがやってきていた。ちゃんと生体感知魔法を使って確認したから間違いない。


 これはマジで嘘であってほしかったよ!なんであんなにこっちに向かってきているんだよ!めっちゃ多いぞ!?ふざけているだろ!群れないんじゃなかったのかよ!


「絶対いるね。もしかしたら女王蟻もいるかもしれない」


「めんどくせぇな!」


 しかも女王蟻がいるなんて聞いてないぞ!?普通女王蟻は出て来ないだろ!もうなんか地震とかそういう自然災害が原因なんじゃないかと思ってきたぞ!?


「そんなこと気にしていても仕方がないし、急いで狩ろうか」


「そうだね、どちらにしてもここのシルバーアントは倒さなきゃいけないんだし、頑張ろうっ!」


「……それもそうだな」


 怜や沙耶の言う通り、確かにいるかわからないものを気にするより、今目の前の敵を倒すことに専念したほうがいいだろうな。


 それと、生体感知魔法ではわからないから、千里眼を使ってみればいいと思うだろうが、見ている間は無防備になってしまうため、なかなか使いどころが難しいのだ。


 わかりやすく言うならば、スマホを弄りながら自転車に乗るようなものだろうか?やったことないからわからないけど。


「さて、それじゃあまぁ、急いでシルバーアントを狩りますか!」


「身体強化魔法以外も多用してね」


「お、おう、わかっているよ」


 もちろん身体強化魔法を使って戦っているわけではない。素の力だけで殴ったり蹴ったりして戦っている。


 だがまぁ、もちろんのことだがそんなことを言えるわけがないので、沙耶の返答に戸惑ってしまった。


 忘れがちになってしまうが、普通は魔物と戦う時は魔法を使って戦うのがセオリーなんだよな。


 だから、俺みたいに素手で殴る人というのは稀というわけだ。


「まったく、これじゃあ埒が明かない!」


「え、ちょ、シュワちゃん!?」


「どこに行くんですか!?」


 悲鳴にも似た声が聞こえたため、係員たちがいる方向を見ると、シュワちゃんが入り口に向かって走っているのが見えた。


「え、ホントにどこに行くの?」


「さぁ、トイレじゃん?」


 適当なことを言うなー。係員たちは結構悲惨そうに表情をゆがめているぞ?絶対トイレではないだろう……。


「また来る!」


「いや『また来る!』じゃなくて、ホントどこに行くのぉぉぉぉぉぉ!?!?」


 部下の心からの悲痛な叫びも空しく、所長はどこかへと行ってしまった。


 また来るとは言っていたし、たぶん戻ってくるだろうとは思うが、いったいどこに行くんだろうか?


 あと、なんだか振り回されている部下が可哀想だな……。もう少し説明とかしてあげたらどうだろうか?


 ……あれ、なんだろう。なんだか既視感があるんだけど、なんだったっけな~?


 あぁ、うちの両親か……。


「所長いなくなったけど、これは早く助けたほうがいいよな?」


「そうだね」


 所長がいなくなってしまったことが影響してしまったのだろうか、係員の人たちの覇気や士気が薄れてしまっている。


 これは、早めに助けたほうがいいだろう。


「それじゃあ、助けますか」



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