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第三十七話 終わらせる者


 振り向いた先には、筋肉ムキムキなここの職員の方たちがいた。そろいもそろってみんなマッチョだな!


「おいおい、なんか大きな音が聞こえると思ったら……」


「あぁ、なんだあの大きなシルバーアントは……」


 入ってきて早々に彼らは、シルバーアントを視界に収めて驚愕していた。そんなにも驚く光景なのだろうか?


 この世界の常識っていまいちわからないんだよな~。


「なんでアイツがここにいるんだよ……」


「知るわけがないだろう……。いや、あいつらはいちごの匂いにつられてやってきたということは予想できる」


「だけど、ここって密閉されている場所だぞ?」


 あれ、もしかしてこれって……。


「あぁ、そうだな。ここは密閉されているから、ちょっとやそっとじゃあ外に匂いが漏れることはない」


「いったい原因は何なんだ?」


 それ、俺が原因ですね……。恐らくですけど、もしかしたらですけど、ちょっと穴をあけてしまったからかもしれませんね……。


「それよりも、なんでシルバーアントがあんなに多くいるんだよ!」


「やべぇよ、あんなの俺たちだけでどうにかなるのか……!?」


 いやホント、マジすんません!


 でも、そんなに卑下することはないと思うんだ。だってたかが蟻の大群だよ?ちょっと色が銀色で、普通よりだいぶ大きいけど、それでも蟻だから何とかなるよ!……たぶん。


「おい、あそこを見ろ!」


 一人のマッチョ係員がある場所を指さして叫んだ。その拍子に全員その方向を見たため、俺もつられて見てしまった。


「ん?おいおい、なんだよあの大穴は!?」


 そこには、このシルバーアントがいる原因となった大きな穴があった。そしてそれは、俺が開けてしまった、今まで現実逃避をしていた大きな穴だった……。


「はぁ、なんであんな大穴が開いているんだよ!?」


 ワザとじゃないんです!ちょっと威力を誤ってしまっただけで、決して故意にやったわけじゃないんです!だからそんな怒らないで!


「あれはプロの魔法師でも簡単に傷をつけることが出来ないやつだぞ!?」


 えぇ嘘だろぉ!?結構簡単に開けちゃったけど、あれってそんなに頑丈だったの!?


 マジでどうしよう……。俺の所持金で弁償できるものかな……?


「どうやったらあんなに大きな穴が開くんだよ!あれが破れているところを見るの初めてだぞ!?」


 いやーマジか!本職の人が初めて見るものをやってしまったわけだな俺は!はっはっは!俺ってすごいなぁ!


 ……マジで弁償金が心配になってきたぞ?


「そうか、あれのせいで匂いにつられてやってきたんだな!」


 あー、結論に至ってしまったか……。そりゃそうだよな、普通そういう発想に至るよな。


「あ~あ、翔夜やっちゃった~」


「うっ……!」


 結奈に面白いものを見る目でからかわれてしまったが、そこで俺は何も言い返せなかった。


 だって原因マジで俺だし、現実逃避をしていたとはいえ、本当に俺が悪いと思っていたからな。


「あれどうするんだよ!?」


「くそっ、やるしかないだろ!」


 あーもーホントに申し訳なさすぎで今すぐ土に埋まりたい……。


「おい、誰か今すぐ所長を、シュワちゃんを呼んで来い!」


「ん?」


 たった今気になる単語が聞こえたような気がした。シュワちゃんって言ったよな絶対?シュワちゃんってあれか、あの筋肉モリモリマッチョマンの変態とか言われている、あの人か?


 そんなまさか~。


「よし、お前らここで倒すぞ!」


「「「おう!!!」」」


 シュワちゃんなる人を呼びに行った人を除いて、残った人たちは全員戦闘態勢に入った。


「……おぅ」


 だがしかし、なぜか全員身体強化魔法を自身に施して、腰に下げてあった斧を持って斬りに行った。


 攻撃魔法とか使わないの?ほら、風魔法とか水魔法とかあるじゃん。なんでその斧だけで戦おうとしてるの?


 もしかして脳筋なの?脳みそにまで筋肉が詰まっているんじゃないのか?それとも、それが普通なの?この世界での普通ってなんなんだ?


「おい君ら、今すぐこの場所から避難するんだ!」


「……え、なぜですか?」


 俺たちが斧で戦っている人たちを見ていると、ひとりが俺たちへと近づいてきて避難するよう、焦ったように言ってきた。


 だが、もちろん俺たちも戦うつもりでいたため、反応に遅れてしまった。なんで避難しなければいけないんだ?


「なぜも何も、魔物が出たんだから避難させるのは当たり前だろう」


 なるほど、確かにそう考えるのは普通のことだな。


 だって俺たちは魔法を使えるとは言っても、まだまだ学生だし、免許も持ってないし、避難するように言われても仕方がないのだろう。


「いやでも、私たちは魔法学校の学生ですし、何かの力になれると思います」


 それでも戦いたいと思ったのか、結奈が係員に突っかかった。


 ちょっとやめとけって、この人たちは俺たちの身の安全のために言っているんだから、そう困らせるもんじゃないぞ?


「例え魔法学校の生徒だったとしても、子供を危険にさらすことは出来ない!」


「あ、子供だからって理由なんだ」


 子供だからとかそういうことじゃなくて、なんでここで法律を持ち出さないんだろうか。普通に法に触れるからとか言ったほうが絶対納得させることが出来ると思うんだが?


 というか、子ども扱いされるのは少々癪に障るな。俺は今話しかけてきた人とそう変わらない年齢だからな?精神面だけだけどさ……。


「そうですか……」


 残念だが、まぁ仕方がないだろう。


「このわからず屋が……!」


「落ち着けって」


 結奈は表情からも分かるくらいに怒っていたため、落ち着くように肩に手を置いた。まぁ、眉間にしわが少し寄っているだけなんだけど、今まで全然表情が変わらなかったから結構怒っているよな?


 だけど、そこまで怒ることもないと思うぞ?それにここで怒ったら、それは逆切れになってしまうからな。


「確かに俺たちが介入したら勝利は揺るがないが、それでもこの人たちにも矜持とか義務とかいろいろあるんだし、ここは抑えてくれ」


 俺たちは神の使徒であるため、どれだけの数が来ても問題はないが、この人たちの気持ちもわからないわけではない。


 俺たちはどれだけ強かろうと、この人たちにとっては子供でしかないのだ。


「でも、あの魔物は普通じゃなかった。この人たちだけでどうにかなるなんて思えない」


「それは言えてるね。最悪この人たちが全滅するかもしれない」


 だが、それで納得するほどここにいる者たちは、感情を我慢できるわけではない。


 しかし、結構結奈は辛らつなことを言うもんだな。もうこの人たちが勝てないと思っているようだった。しかも、怜も結奈の意見に賛成するんだな。


 俺はこのシルバーアントについて何も知らないから何とも言えないけど、それでも倒すことが出来ないというのなら俺たちが加勢したほうがいいだろう。


 それに今逃げたら、この目の前にあるいちごを食べられなくなってしまうしな!


 あぁ、人前でもインベントリが使えたらな……。


「でも、どうしてもこの人たちは私たちを避難させるつもりだよ?」


「ここは従うしかないと思いますけど……」


 だがそこは常識人の二人。戦おうとしていたが、沙耶もエリーもこの係員に賛同していた。たぶんこの世界での常識で言ったら避難するのが当たり前なんだよな。


「私がこいつらを斬ってきましょうか?」


「やめなさい」


 ちょっと鈴さん、納得いかないからって切り殺すのはやめようか?そんなことしたら使い魔の主である俺が逮捕されちゃうから。ホントにやめてね?


「……けす?」


「物騒なことは言わないの!」


 未桜までなんて物騒なことを言うんだ!証拠を隠滅すればいいっていうもんじゃないからね!?


 全く、なんで俺の使い魔はこんなに過激派なんだ?沙耶の使い魔とかすんごい温厚派だと思うぞ?別に言うことを聞いてくれるから構わないんだけどさ。


「なんて賢い子なんだろう……!」


「どこに感心しているんだよ!」


 いやいや、結奈はなんで俺の使い魔の考え方に感心しているんだよ!もう少し平和的に考えることが出来ないのかお前たちは!?


 いやまぁ、結奈はたぶん怒っているからそう考えてしまっているんだろうけどな。だけどもう少し穏やかになろうぜ?


「おい、早く避難するんだ!」


 俺たちで避難するかどうか話していたら、まだ避難していない俺たちに気が付いて先程の若い係員がやってきた。


 しかも、先程とは違って焦っているというよりは、避難していない俺たちに苛立ちを覚えているような感じだな。


「いいえ、僕たちはここで戦います!何と言われようとも!」


「あ、もうこれ意地だな……」


 どうしても戦いたいのか、結奈は意固地になって係員に食いかかった。そんなにわがまま言ったらこの人が困っちゃうでしょ、やめてやりなさいって。


 正直、俺はこのまま避難してもいいと思っている。確かにこの人たちは心配だが、俺たちはまだ学生でしかないし、それにこんな異常事態なら国家機関が動いてくれるだろう。


「だめだ!君たちには早すぎる!」


「……チッ」


「こらこら、悪いのはこっちなんだから舌打ちしないの」


 もう結奈は結構怒っている。そんなに怒っていると、綺麗な顔が台無しだぞ?


 そんなこんなで、結奈が係員と押し問答をしていると、こちらにやってくる人物がいた。


「おい、何を言い争っているんだ?」


「あ、シュワちゃん!」


「……でっけぇ」


 やってきたのは、受付で俺たちの相手をしたマッチョの人だった。確かにシュワちゃんって呼ばれるのわかるわ~。


 受付で会ったときは座っていたから全体像がわからなかったけど、こうしてしっかり見てみるとマジでデカいな。前世の俺より絶対あるだろこれ……。


 そして、その人の手には係員の人たちが持っているものよりも、途轍もなく大きな斧があった。


 あれって、絶対片手で持つものじゃないって!もう、シュワちゃんじゃなくてエスカノー〇じゃん……。


「シュワちゃんからも言ってください!」


「ん?何をだ?」


 係員はやってきたシュワちゃんなる人に助けを求めた。自分では言い負かすことが出来ないからと言って、こんな巨漢を頼るのはどうかと思うぞ!


 ……いや、所長らしいし、頼るのは普通か。


「この子らシルバーアントと戦うって聞かないんですよ!」


「……いいんじゃねぇのか?」


「おっ?」


 所長であるシュワちゃんは、どうやら俺たちが戦ってもいいと考えているようだった。所長がそういうならいいんだろうが……いいの?


「え、なんでシュワちゃんがそっち側についているんですか!?」


「いやだってな、あれが破られているんだし、他に安全なところとかないからな~」


 確かに言っていることはもっともなのだが、所長がそんなんでいいのか?


 それに、この世界の価値観とか常識とか倫理とか法律とか、いろいろしがらみみたいなのとかあるでしょ?そんな簡単に許可しちゃっていいものなのだろうか。


「いやいや、何のんきなこと言ってるんですか!?そういう問題ではなく、大人が子供を避難させるのは当たり前のことでしょう!?」


「そんなことはねぇよ、子供だって大人より強い奴はいるんだし。ほら、過去の俺とか」


 あっ、この人の少年時代も強かったのか……。まぁ、俺たちほどではないだろうな!


「で、ですが……!」


「ごたごた喚いてないで、さっさと戦闘準備しろ。あんなのが来たんだから悠長に話してる時間はねぇよ」


「悠長に話してるのあんた!」


 なんだろう、いろんな意味ですごく大きな人だな。余裕があるというか、達観しているというか、鈍感というか……。


 なんでいちご狩りの職員なんだろうか……?


「うるせぇな。いいから、ほらさっさと行け」


「納得いかない……!」


 釈然としない様子ではあったが、所長に言われてしまっては行かないわけにはいかないのだろう。なにやらぶつくさと言いながらではあるが、斧を片手に走っていった。


 上司がいい加減だと、部下は大変なんだな~。あれ、なにか既視感が……。気のせいか?


「あー君ら、俺たちと戦ってくれるのか?」


「あ、はい。元よりそのつもりです」


 部下を送り出してこちらに体ごと振り向き、参戦するのか確認をとってきた。


「じゃあ、頼むわ。ぶっちゃけあれだけの量のシルバーアントは倒せるかわからねぇからな。数は多いに越したことはない」


 大事なことを話しているのだろうが、その完成された肉体に目が行ってしまい、話が全然入ってこない。


 すげぇ、どうやって鍛えたらあんなに胸筋が膨らむんだ?今度教えてもらおうかな……。


「だが、それでも安全第一に考えて行動しろよ?危なくなったら、即離脱するように」


「わかりました」


「それじゃあ、先に行ってる!」


 そう言い残して斧を片手にシルバーアントを倒しに行った。なんであんなに身軽そうに斧を持って走っているんだよ……。普通無理だろ。


「なんだが、おおらかな人だったね」


「いや~、人を見た目で判断しない人ってありがたいな!」


「僕たちを戦わせてくれるっていうのはポイント高い」


「一応許可は貰えたし、早速行こうかっ」


「そうですね。許可が貰えたなら大丈夫ですもんね」


 三者三様の意見が出たが、みんなの中であの人は『いい人』という印象になっていることだろう。だって俺たちを戦わせてくれるんだからな。


 自分たちの意見が通ったことに対して、みんなは快く思っているからだということは、多少ながらわかる。


 まぁ、それは世間一般や法律の観点からみたら罰せられるようなことだが、そんな無粋なことは言わぬよう、俺の心の中に大事にしまっておこう。


「まぁ、守る対象が増えただけなんだけどね」


「そういうことは言わなくていいの。みんな薄々心に思っている事なんだから」


 気持ちよくシルバーアントを狩りに行けると思っていたのだが、結奈はみんながなんとなく思っていたことを口にした。


 そういうやる気を削ぐことを言うのはどうかと思うぞ?確かにこの人たちの身の安全は大事だが、それでもこういうことは言わないでほしかった……!


 ……危なかったら助けるけど。


「……じゃあ、切り替えてシルバーアントを狩りますかね!」


 多少は職員の方々を気にして、シルバーアントを狩りに向かった。


 さて、この魔物はどれだけ強いのかな?




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