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第三十六話 略奪者


 日本は地震大国である。詳しく知っているわけではないのだが、四つのプレートに囲まれているため、他の国と比べて、とても地震の起こる回数が多い。


 前世でも、地震による地鳴りは小さいものなら何度となく体験した。子供の頃から体験しているため、ちょっとやそっとじゃあ気にならなくなっている。


 こちらの世界に来てからも数は少ないものの、地震を体験している。まぁ、空を飛んでいることも多々あるから、本当は俺の知っているよりもっと多く地震が起こっているかもしれないがな。


 だが、今現在起こっているのは、確実に地震によるものではない。なぜなら、俺が今までに体験したものでは決してないからである。そして、これは地鳴りではなく地響きだな。


 今までに体験したことのない地響きだから、説明するのが難しいのだが、あえていうのであれば、野生のヌーが大量にこちらに向かってくるような感じかな?どちらかといえば、本当に大型の車両がたくさん走っているような感じか?


 ……説明って難しいな。


「原因は何なんだ?」


「あるじー」


「ん、なんだ?」


 俺がこの地響きについて考えていると、いつものぽけーっとしたような様子で未桜が俺のことを呼んできた。


「ありがでてきたー」


「あり?」


 未桜がある方向を指さすので、その方向へと目を向けてみた。すると、そこには俺の風魔法で開けてしまった大きな穴があった。


 あー、後で弁償しなきゃな……。


 しかし、弁償額のことを考えているとその穴から何かが侵入しているのが目に入ってきた。よく目を凝らしてみてみると、どうやら銀色に輝く蟻のような生き物が入ってきているようだった。




「なんかいっぱい出てきたぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 え、なにあれ!?蟻?いやでも、あんなにデカい蟻を見たことないぞ!?まぁ魔物なんだろうけどさ。でも、それでも!あの色は絶対におかしいだろ!銀色ってなんだよ!?カッコいいなちくしょう!


「なんかって、蟻じゃん。いちごに集るのは当たり前だよ?」


「いや俺の知ってる蟻じゃない!なんであんなにデカくて銀色に光っているんだよ!」


 俺の知っている蟻は、その辺の地面にいるような、黒くて全長が一センチくらいの奴のことを言うんだぞ?


 それが何だよあの蟻は!全身銀色で全長が三メートルもありそうなくらいに大きいぞ!?


「主様、いかがいたしましょうか?」


「え、どうするって言っても、あれって倒してもいいものなのか?」


 鈴はこれからどうするか、俺に判断を仰いできた。魔物だから倒してもいいんだろうけど、勝手に倒してもいいものなのだろうか?そこが疑問である。


「そりゃあ魔物だし、倒しても問題ないはずだよ。だけど……」


「だけど?」


 なにか思うところがあるのか、結奈は歯切れが悪かった。いったい何が気になっているのだろうか?


「あーいや、ここってただいちご狩りが出来るだけの場所だったはずなんだ。それなのにシルバーアントが現れるわけがないんだよ」


「……つまり、どういうことだ?」


 結奈が言おうとしていることがわからなかったので、思わず聞き返してしまった。


「想定外のことが起きてるってこと」


「……なるほどな」


 なるほどとは言ったが、俺は何一つわかっていない。


 結奈は想定外といったが、具体的なことが何一つ言われていないため、どういうことかわかるわけもない。つまりはどういうことなんだ?


「それくらい察して」


「ごめん……」


 なにがなんだかわからずに、結奈に怒られてしまった。俺思うんだけどさ、これって俺絶対悪くないよね?


 というか、なんで俺以外の人たちは結奈の言ったことに頷いているの?なんで今の説明で理解できるの?俺にもわかるように説明して!


「でも、いろいろおかしいよね?」


 沙耶も結奈に同調するように、今の状況がおかしいと疑問を抱いていた。


「そうだね。シルバーアントはあんなに大きくないし、それにこの近くにいないことは国が調査して問題ないって言っているのにね」


「国が調査しているのか?」


「そりゃそうでしょ」


 いやそんな当たり前だろ、みたいに言われても分からないんだが……。


 なんで国がシルバーアントについて調査をしているんだ?それを誰か教えてくれないかな?


「だってシルバーアントの好物は、魔力を帯びている甘味なんだよ?」


「……えーっと、つまり、あのシルバーアントがいる場所にいちごを養殖するはずがないということか」


 やっと結奈たちが疑問に思っていることについて理解することが出来たよ。


 確かに養殖をしているものが食われてしまう可能性があるのに、そんな場所でやろうとは思わないわな。


「まぁ恐らくだけど、シルバーアントは他の蟻と違って嗅覚があるから、このドームから漏れたいちごの匂いにつられてやってきたのかもしれないけどね」


 なるほど。つまり、あの大穴が原因なわけだな!







 ……あれ?







「……おい、もしかしなくても、俺が原因の可能性もあるのか?」


「寧ろその可能性が一番高い」


 わぉ、なんとあれの原因が俺にあると言われてしまったよ!やっべぇ、マジでどうしよ!?このあたりの生態系とか大丈夫かな!?いやそれよりも、ここ以外にも確かドームがあったよな?それって大丈夫なのか!?ぶっ壊されてないかな!?損害賠償請求とかされないよね!?大丈夫だよね!?


「……翔夜」


「やめろ、そんな目で俺を見るな……!」


 怜から白い目を向けられてしまった。


「あるじ、わるいことしたの?」


「やめてくれ、そんな純粋無垢な目で俺を見ないでくれ……!」


 未桜からは、屈託のない顔つきで悪意の籠っていない目を向けられてしまった。非難をしていないから、先程の怜の目とは違って逆につらい……。


「えっと、翔夜だってわざとやったわけじゃないんだから、あまり責めないであげてね?」


「さ、さやぁ~!」


 沙耶は困った様子で、みんなに諭すように俺のことを弁護してくれた。あれ、心に染み入りすぎて、目から涙が……。


「俺の味方は沙耶だけだよ……!」


 唯一俺のことを弁護してくれたことに、俺は感無量である!


「主様、私と未桜も原因を作ってしまったことについては気にしておりませんよ?」


「うん、きにしてない」


「おぉ、そうか……。二人も俺の味方なんだな……!」


 ここにも俺に味方してくれる可愛い使い魔たちがいた。俺、もうすぐ死ぬんじゃないんだろうか?そう思ってしまうほどに俺は幸せな気持ちで一杯である。


「もう、なんてできた使い魔なんだろうな!」


 感動しすぎて、周りの目を気にせずに鈴の頭を思い切り撫でまくった。耳とか触り心地半端ないな……。


「あ、主様!?あ、あの、その、人前ですので、こういうのは人目のつかないところでお願いします……!」


「ん、あぁ、そうだな」


 つい嬉しすぎて鈴のことを考えていなかった。確かにみんなに見られながら頭を撫でられるというのは、どんな辱めだよって思うわな。


 後で目一杯撫でてやるからな!


「いいな~。わたしもなでてほしい~」


「これが片付いたらな」


 未桜は未桜でいつも通りに俺に頭を撫でてほしがっていた。ここで撫でてあげてもいいが、鈴に後で撫でると言ったから、その時に一緒に撫でればいいだろう。全く、使い魔は最高だぜっ!





「……いいな」





「ん?なんか言ったか?」


「な、何も言ってないよ!」


「お、おう、そうか……」


 なにか、途轍もなく聞いておかなければいけないことを聞き逃した気がする!


 だが、神の使徒の聴覚を持ってすらも聞き漏らしてしまうほどに小さい声だったため、何を言ったか聞き取れなかった。


 本人は何も言っていないと言っていたが、絶対何かを言っていたのはわかった。だが、物凄い気迫で否定してくるため、聞くことをやめてしまった。


 マジでなんて言ったんだろうか……?


「ねぇ、いい加減シルバーアントをどうするかの話をしない?」


「そうですよ。皆さんのんびりし過ぎだと思います!」


 いったい何を言っていたのか気になってずっと考えていたのだが、怜とエリーに注意されてしまった。


 シルバーアントなんかより、俺にとっては一大事のようなことかもしれないが、過ぎてしまったものは仕方がないので、切り替えることにした。


「あーいや、なんだか脅威に感じなくてな」


「そうですね。あんな蟻如き、私だけでもどうにかなります」


 ぶっちゃけ鈴の言っている通り、俺たちはあんな魔物にどうこうできる存在じゃないから、なんだか脅威として見ることが出来ないんだよなー。


 だって俺たちは戦闘に関しては突出しているからな~。内三人は神の使徒だし、もう負ける要素とかないだろ?


「まぁ翔夜の使い魔はそう言っているけど、一応これからどうするか話し合おうか?」


「そうだねー。まぁ、とはいっても、普通に考えたら僕たちであのシルバーアントを倒すよね」


 怜は話し合いをしようとしたのだろうが、結奈が早々に結論を出してしまった。


 俺が言うのもどうかと思うけど、少しは話し合おうよ……。


「えっ、あの、私たちだけで大丈夫なのでしょうか?」


「ここには実技の成績優秀者しかいないから問題ないでしょ」


 エリーはなぜか不安そうに聞いてきたのだが、結奈の言っている通り、俺たちならば何ら問題はないな。


 寧ろ過剰すぎるくらいの戦力だよ。


「いえ、そうではなく。魔法師がいないのに魔物狩りをしてもいいのかと思いまして……」


「んー、まぁここはいちご狩りを行う場所だし、正当防衛ってことで大丈夫でしょ」


「なにも大丈夫な要素がないんですけど……」


「気にしない気にしない」


 どうやら気にしていたのは魔物と戦ってもいいのかということだったらしい。確かに法律で勝手に魔物と戦ってはいけないというものはあったな。


 だが、俺はもうすでに多くの魔物と戦ってきているから忘れていたよ。そうだよな、普通に考えたらそういうことを心配するよな。


 あれ、普通は戦うことを躊躇うんじゃ……?ま、まぁ、価値観の違いということで気にしないでおこう……。


「そうだね、これから命のやり取りをやるんだから、仕方がないよっ」


「命のやり取りをしようとしているようには見えないけどね……」


 沙耶も怜も戦うことは大前提のように話しているので、どうやら俺がおかしかったようだ。


 この世界ってみんな血の気が多い気がする……。いや、それが普通なのか?


「主様、あのシルバーアントとやらがこちらに向かってきていますが、いかがいたしましょうか?」


「お、まじか」


 鈴に言われて、忘れかけていたシルバーアントを視界に収める。確かに言われた通りにこちらへとまっすぐにやってきていた。


 ホントに表皮が銀色に輝いているんだな。堅そうだし、高く売れるかも……。


「狙いはいちごだろうねー」


「……お、これか」


 結奈が言うには、俺の足元にあるいちごが狙いなんだそうだ。少々土で汚れてしまってはいるが、綺麗な赤色をしていてとても美味しそうだった。


 現金に換算したらいくらくらいなんだろうなと、少々卑しいことを考えていたが、急いで切り替えることにした。


 お金のことを考えていたなんて知られたくないからな。そのことは、あれを倒したら考えよう!


「それじゃあ、これからいちごを守る戦いを始めるとするかね」


「なんだろう、このやる気を削がれる戦いの名前は……」


「まぁまぁ、そんなことは気にしないで行こう」


 大事な人や物を戦うための戦い、とかならやる気が出てくるんだが、やはりいちごでは少々気が抜けてしまう。


 まぁ、魔物が生成したから普通のいちごではないし、それにこんなに大きいから、しっかり守らないと傷がついてしまうな。


 車のタイヤと同じ大きさのいちごっていったい……。


「しかし、数も多いから未桜と鈴にも戦ってもらうぞ?」


「わかったー」


「承知しました」


 見えるだけでも結構な数がいるため、未桜と鈴にも手伝ってもらうことにした。


 正直俺たちだけでも全然問題はないが、出来るだけ早めに終わらせたいし、二人も戦いたそうにしているから手伝ってもらおう。


 それに、神の使徒である俺たちは問題ないが、もしかしたら沙耶やエリーに危害を加えてしまう可能性もあるので、保険という意味も兼ねて戦ってもらう。


「それじゃあ、早速行きま——」


「——な、なんじゃこりゃあ!?」


「えっ?」


 戦いに行こうかと思って走り出そうかと思ったのだが、このドームの入り口辺りから驚きの声が聞こえた。腹でも撃たれてしまったのか?


 一体何かあったのか、誰が来たのかと思い、一同がシルバーアントを無視して入口の方へと振り返った。




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