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第三十四話 本体との決着


 この世界には、難題三大魔法というものが存在する。その魔法を使うことは現段階では不可能とされており、世界の各所で研究が進められている。但し、一つの魔法を除いて。


 その三大魔法とは、俺が常日頃から使用している転移魔法。それと時空間魔法に蘇生魔法だ。


 転移魔法は普段から使っているからわかると思うが、自身を他の場所へと転移させる魔法だ。ついでに言うと、自身に触れているものであれば、どれだけ大きくても転移することは可能である。前に実験をしてわかったことだ。


 時空間魔法は、時間と空間を操る魔法だ。時を止めたり、はたまた過去に戻したりもすることが出来ると文献で見たことがある。それに加えて空間も同時に操れるというのだ。


 だが、空間魔法だけならば、他の人間も多少ではあるが使い手は存在する。現に沙耶と俺の両親は使うことが出来ると依然聞いたことがある。結奈と怜は言わずもがな。


 蘇生魔法は、その名の通り死者を生き返らせることが出来る魔法らしい。らしいというのは、この魔法だけは、人の命を冒涜する行為だとして、世界共通の条約により研究も実験も禁止されている。


 この魔法だけは、倫理の問題として日本を含め諸外国では研究自体が禁忌とされている。されているのだが、それはすべての国ではないのだ。


 不幸の死を遂げた者の家族や愛する者を、悲しみから救うためだと言って研究を進めている、条約に加盟していない国々があるそうだ。


 そうはいっても、なかなか成果を上げられないでいるのが現実な為、日本を含めた禁止している国々では、警告をするだけにとどまっている。


 なぜ今そのような話をしたのかというと、俺は今まさに転移魔法を使って移動をしたわけなのだが、その使いづらさを痛感したためだ。


 今更なんだが、なんで転移魔法はみんなが出来る魔法ではなく、難題三大魔法というものにカテゴライズされているんだろうか?


 先程は難題と言ったものの、それは世間での常識であって俺の中ではいつでも使うことのできる魔法という認識になっている。


 そして、まだこの世界の人間が認知していない魔法までも使うことが出来るのだ。例えば俺が前に使った生成魔法とかがそういうものになるだろう。あの魔法は俺たち神の使徒は誰でも使えるのだろうが、この世界では誰もそんな魔法を認知していないのだ。


 俺は神の使徒であるために難題三大魔法を含めた、そのすべてを使うことが出来ることが頭でわかるのだ。だからそう思ってしまうのも致し方無い。


 まぁそう簡単に行えるといっても、蘇生魔法はこの先絶対に使うことのない魔法だとは思うがな。


 だって禁忌って言われているし、そんなのバレたら目立つだけじゃ済まなそうだし。


 だが、それでも世間では出来ないことを平然とできてしまうのは困りものだな。


 確かに転移魔法は魔力消費も激しいし、俺なんて感覚でしかやっていないから原理なんてものは全く分からない。


 だから使い手が全くいないというのはわかるのだが、それでも何十億と人口がいるわけなんだから、一人や二人くらい使えてもいい気がするんだよ。


 それとも俺らと同じで目立たないようにするために隠して生きているということなのかな?


 どっちにしろ、誰も使い手がいないと俺たちが使いづらくて仕方がないよ。初めて認知されるのは目立って仕方ないからゴメン被る。


 だから、俺は先程何も考えずに転移してしまったことを少々後悔しているわけなのだ。


「よし、気が付いていないな」


 だがそれでも、転移した先は今も俺のことを探しているいちごの後ろだ。なので、沙耶とエリーに見えない死角に来ている。


 これは別に、俺の転移を隠すつもりとか何か意図してしたわけではないので、本当に運よく隠れている位置に転移したのだ。マジで心から良かったと思っているよ……。


 なんで俺はこういうところで気が抜けて適当になってしまうんだろうな?もう少し気を張ってやっていこう。


「さてと、気持ちを切り替えて引っこ抜きますかね」


 幸いといっていいのか、本体はまだ俺の存在に気が付いていないので、茎の部分を容易に掴むことが出来た。掴むと言っても、茎自体も太いのでどちらかというと抱き着いているような感じだな。


 ホントに今の姿を見られなくてよかったよ……。なんか格好が恥ずかしいから見られたくない。


「これが意趣返しかどうかわからないけど、もうお前にムカつくことはなくなるだろうな」


 本格的に力を込めて、俺はこの本体を地面から引きはがすために結構力を込めた。すると、根元の土が少しずつ盛り上がってきているので、これは思っていたよりも意外と簡単に引っこ抜くことが出来るな!


「うぉ!」


 引っこ抜くことが出来ると確信していたのだが、それを本体の蔓が邪魔をしてきた。俺はいったん後退してあの蔓の攻撃を回避することにした。


 本体の後ろから少し離れようとしている間もその蔓の攻撃が続いている。まぁそれほど速い攻撃というわけではないので、楽々回避している。


「やっぱりそう簡単に引っこ抜かせてくれはしないか」


 力加減をしているとはいえ、神の使徒でも一筋縄ではいかないもんなんだな。いや、神の使徒としての本気を出せば楽に抜けるんだけど、流石にそんな馬鹿力を発揮したら思い切り土を頭から被りそうだからダメだろうな。


 いやしかし、もう一度つぶされるということがないように生体感知魔法をそれなりに集中して発動していてよかったよ。もうあんな恥ずかしい思いはごめんだからな!


「さてと、これならどうだ!」


 俺は風魔法を発動し、今まさに攻撃を繰り出そうとしている蔓を含めて、すべての蔓を切り落とした。


 だがこれだけでは、また蔓を再生されてしまって攻撃をされてしまうだけなので、氷魔法で切り口を凍らせておいた。


 もちろんのことだが、今の攻撃でドームを破壊していないからな?そこまで考えなしじゃないからな?


「魔力を多く籠めたんだ。そんな簡単にどうこう出来るものじゃあないだろう!」


 今までは沙耶とエリーにしっかりと経験を積ませるために、威力を絞って攻撃していたのだ。


 だが今はもう、しっかり対処が的確になってきているので、経験を積むことは出来たのと思う。だからもう倒すことを念頭に置いて魔法を発動した。


 まぁ元々、緊張はしていたがそれでも全然戦えていたので問題は何もなかったがな。


「これなら邪魔されずに抜くことが出来るな」


 そういって俺は再びいちごの本体へと近づいて、茎を掴んで引っこ抜く準備をした。茎を掴んで思ったのだが、強面の男が茎に抱き着いている構図ってシュールだよなー。


「あ、やっぱなかなか抜けねぇ……!」


 途中までは結構簡単に抜くことが出来たのだが、そこから先がなかなか引っこ抜くことが出来ない。本体による最後の悪あがきなのだろうか、根っこに力がこもっているような気がするな。


「おらっ、よっと!」


 先程よりも少々力を加えたことによって、引っこ抜くことが出来た。だが、やはりというか、根っこと一緒に土も巻き上げてしまったので、地形がデコボコしてしまった。


 自分にかかってしまうのではないかと、一応危惧していてよかったよ。風魔法で自身の周りを覆っていたために汚れずに済んだ!


「ははっ、意外とできるもんだな」


 最初怜から本体を引っこ抜くと聞いたときは、何かの冗談なんじゃないかと思ったが、そこは神の使徒だな。身体強化魔法もかけないで、あの巨体を引っこ抜くことが出来たんだからな。


「さてと……うわっ、まだ動けたのかよ!」


 引っこ抜いて清々しい気分でいたのだが、引っこ抜かれた根っこが俺へと攻撃を繰り出してきた。なんて往生際が悪い魔物なんだ!面倒なんだからそこはもう攻撃してくるなよ!


 仕方がないので一旦距離を置いて、先程風魔法と氷魔法で蔓にしたように根っこにもしようか。


 そう思って俺は魔法を発動しようとしたら、本体の根っこは先程よりも激しく蠢き始めた。なんか、ちょっとキモイな……。


「おい、ちょっと待て。どさくさに紛れて土に戻ろうとしてんじゃねぇ!」


 なんと根っこを器用に使ってまた土へと戻ろうとしていた。先程激しく動いていたのは、自身が土へと戻りやすくするためのものだったようだ。なんで植物系の魔物なのに、こんなにも知恵が働くのだろうか……。めんどくさくてしょうがないよ。


「くそっ、そう簡単に戻すわけないだろうが!」


 魔法を発動する準備は整っているので、すぐに風魔法と氷魔法を発動して身動きを封じた。


「これで、どうだ!」


 ついでとばかりに、俺はいちごの茎の部分に向けてドロップキックを食らわせた。神の使徒の元々の力だけでもかなりの距離を吹っ飛ばすことが出来た。


 別にけりを入れる必要なんてなかったんだけど、なんか攻撃してきたことに対して腹が立ったからその仕返しという感じだ。


 それと、残っていた子いちごも何匹か巻き込んで吹っ飛んだから、一応無駄ということはなかったな!


「よっしゃ、これでよし!」


 俺は満足げに握りこぶしを作って、吹っ飛んだ本体のところへと向かった。身動きを封じて、ダメ押しにと蹴りを食らわせたとはいえ、それでも相手は曲がりなりにも魔物なのだ。


もしかしたらまだ生きている可能性もあるんだ。だからその確認をしなきゃな。


「……よし、動いていないな!」


「翔夜、なんで素手で抜いてるの……」


 俺が動いていないことを確認して満足していると、丁度近くにいた怜が俺のところへと近寄ってきた。


「え、素手で抜くもんじゃないのか?」


 怜は俺が素手で抜いたことに疑問に思っているようだが、何か間違ったことでもしてしまっただろうか?


「普通は土魔法を使って盛り上げたところを風魔法で吹っ飛ばすんだよ」


「マジかよ……」


 なんと、あの本体は魔法を使って引っこ抜くものだったらしい。なんでそういうことを前もって教えてくれないかね?何度も思うんだが、情報の共有って大事だと思うんですよ。ちゃんと俺にもしっかり教えてね?


「というか、そのほうが楽でしょ」


「考え付かなかったわ……」


 確かに、なんで俺は真っ先に素手で引っこ抜くと認識してしまったのだろうか?普通はあんなに巨大な植物を、魔法なり機械なりを使わずに引っこ抜くっていう発想自体思いつかないよな!


「それと、後ろで織戸さんが翔夜のことを笑っていたよ」


「よし、あいつは後で力を込めて引っ叩いてやる!」


 結奈の方を見てみると、確かにこっちを見てニヤニヤしていた。どうやら俺に引っ叩かれたいマゾ気質のようだな!このいちご狩りが終わったら覚えておけよ……!




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