第三十一話 常識の破壊
何体か倒してわかったことなのだが、こいつらの中心部分にも小さいが魔核があるのがわかった。それさえ破壊してしまえば、こいつらはもう動くこともなくなった。
他のみんなはそのことを知っていたのか、その魔核がある位置だけを攻撃していた。いや、逆に底を狙って攻撃をしている節さえあるな。
なんでみんなはこういうことを俺に知らせてくれないのだろうか?もしかして知っていることが当たり前なのか?
「よっと」
あと、このいちごは噛みついてくるという単調な攻撃しか行ってこないので、慣れてしまえば躱すことは容易だった。
だが、あの本体は俺に攻撃を食らわせてくるから、それを躱しながらやっているせいで服が少し汚れてしまった。後でほろっておこう。
「『凍れ』」
氷魔法を使って近くにいたいちごたちを凍らせ、その生えていた足の部分を持った。そして、攻撃を仕掛けてきたいちごに向かって軽く投げた。
軽くといっても、この攻撃を食らった人間はただでは済まないだろうという威力はある。
それと、もちろんのことだが壁を破壊するような真似はもうしない。
今度は間違って壁に当たっても大丈夫なくらいの強さで投げているから問題ない!
……たぶんな。
「結構魔法で遊ぶのも楽しいな」
俺は壁を壊してしまったことを忘れるようにして、そこいらのいりごを氷魔法で凍らせては投げたり蹴ったりして遊んでいる。本体からの攻撃を防ぎながらだから、それほど多くのいちごを凍らせてはいないがな。
魔物を前にしているんだから遊んでないでちゃんとしろって思うかもしれないが、結奈も凍らせて遊んでいるから、まぁ問題はないだろう。
「うわぁ……」
しかも結奈は風魔法で切った後に凍らせてそれを雪合戦の要領で投げているから、俺よりもひどいことをしていると思う。
ほら、当てたいちごに複数の風穴が開いちゃっているじゃん。液体とか散っているし、もう少し綺麗に倒せないのか?
「しっかし、数が多いな」
先程から俺たちはそこら中にいるいちごに攻撃をしているのに一向に数が減っているきがしなかった。例え俺たち神の使徒が自ら攻撃をしてないからと言っても、それでも数が異様に多いと思う。
なんでだろうか……?
「くらいやがれっ!」
周りにたくさんのいちごが集まってきたため、全方位に向けて氷を発射した。少々大きく作っていたから、当たったやつは地面に倒れた。
それでも、次から次へとやってきていてキリがない。
「あぁもう!なんでこんなに数が多いんだよ!鬱陶しいな!」
パァン!
「あ、やっべ」
数が多いことに少々いら立ってしまって、殴る際に少し力んでしまって敵を爆散させてしまった。これは身体強化も風魔法も使っていない。純粋な俺の身体能力だけで爆散させてしまったのだ。
力のコントロールは出来るのだから、もう少し気を引き締めてやったほうがいいな。
「翔夜、もう少し力を出して戦ってもいいんじゃない?」
怜が俺のもとまでやってきて、もう少し力を出せと言ってきた。俺はほとんど殴ったり蹴ったりしかしていないから、ちゃんとやっているように見えなかったのだろうか?だがしかし……。
「今の見ていなかったのか?」
少し力んでやってしまうと、先程と同じような惨状になってしまうだろうことは目に見えている。
そのため、常に手加減をしていないと危ないのだ。
「今のを抜きにして。それと物理攻撃だけじゃなくて、魔法も多用してね」
「はぁ……そんなこと言ったって、俺が少し力を加えたら他の奴らの為にならないだろう」
そう言い訳をしたものの、本体からの攻撃をかわしながら魔法を使うよりは、最初から物理攻撃をした方が楽なのだ。
まぁ実際、今すぐにでもこいつらを倒そうと思えば出来てしまうのだ。だから、かなり手加減をして沙耶とエリーの経験になるようにしている。
あと、怜は魔法を多用してって言っていたが、俺は風魔法を腕に纏わせたり氷魔法を使って攻撃していたぞ?
それはカウントされないのか?それとももっと高威力なものを使えってことなのか?
「まぁそうだけどさ、さっきから『子いちご』ばっか攻撃しているからあの本体を全然攻撃してないじゃん」
「あれって子いちごって言うのか……。たぶんいちごの子供だからそういう名前にしたんだろうけど、なんでそんな安直に決めたんだ……」
名前を決めた奴よ、もう少し名前に凝っても良かったんじゃないだろうか?
「確かに僕らがちょっと本気出したらすぐ終わっちゃってグループのためにならないけどさ、流石に子いちごをちょっと倒すだけっていうのはだめなんじゃない?」
俺は自分に攻撃してきてくる奴しか攻撃はしていないので、あまりこのグループに貢献はしていないだろうな。
そして子いちごの討伐数は沙耶とエリーで半分くらい倒していると思う。
「いやいや、こいつら数多すぎるだろうが!もういっそのこと本体含めて全部燃やしてやろうか!?」
そう言えば、なんで最初から炎で燃やすという選択肢が思い浮かばなかったのだろう……。
このドームの周りは確かに森だが、それでも威力を絞れば余裕で倒せたんじゃないか?
「いや、最終的には食べるんだし燃やしたらダメだよ?」
「え、あれ食うの!?!?」
どのくらいの威力で燃やそうかと思案していたら、怜が結構驚きのことを言ってきた。
目の前に転がっている子いちごを二度見しちゃったよ!これ魔物なんだよな!?いや、いちごって言うんだから食えるんだろうけど、魔物を食うってこの世界的にはいいものなのか!?
「食べられるよ。といってもあの本体にあるやつだけどね」
本体の方を見てみると、丁度真ん中の天辺に如何にもなデカいいちごがいくつか生っているのが見えた。
「あれか……」
いや確かにいちご狩りでここに来たけどさ、俺は狩るだけかと思ったから食べるなんて思わないよ。この世界の常識って怖いな……。
「ぼくはまだ食べたことがないんだけど、結構甘くておいしいらしいよ」
怜の顔を見れば楽しみにしていることが分かる。真っ赤に輝いていてとても美味しそうに見えるし、俺も食べてみたいとは思ってしまうが、それでも俺の知識だとこれは誤りではないかと思った。
「魔物ってさ、普通食べられないって勉強したんだけど、その認識を改めるべきなのか?」
俺も一応は勉強はしているのだ。魔物の肉などを食べた先人たちがいたそうなのだが、その人たちが次々に病気にかかってしまったことから食べないほうがいいというのが世間の認識だと学んだ。
実際は魔物の肉に含まれている魔力によって肉体が侵食され、免疫力などが低下していってしまうそうなのだ。このことは今日やった宿題で知ったことなのだがな!
だから魔物は食べることが出来ないと覚えたのだが、あれは魔物ではないのか?
「何事にも例外が存在するんだよ、翔夜」
「わぁ、便利な言葉だな~」
何事にも例外が存在するとは、いつの時代もどの世界でも便利な言葉として浸透しているようだな。
「それに、ここ広いけど密閉された空間だから燃やすのはやめておいたほうがいいよ」
「あー、酸欠になっちまうかもしれないからな」
そういえばここって入り口以外に空気の出入りする場所が見当たらなかったな。だからみんなは俺らが酸欠にならないように燃やすことをしなかったのか。
「いや、この子いちごの体内にガスが含まれているから、炎を使うと危ないんだよ」
……は?
「おい、この子いちごってそんなに危なかったのか!?」
マジで魔物という生き物がわからなくなってきたぞ!?なんで成熟する前のいちごみたいな見た目をしているのに、体内にガスが含まれているんだよ!これじゃあ噛みついてくる爆弾みたいじゃないか!
そして情報の共有は大事だからな!?なんでそういう大事なことを教えてくれないかな!?俺はこの世界の常識をあまり知らないからさ、確認の為とか言って教えてくれてもいいと思うんだ!
「いや、一般常識だと思うんだけど……」
「俺はその一般常識を勉強中なの!」
やめろ、そんな憐れむような目で俺を見るんじゃない!これでも俺だって一応頑張りたいと思うように善処はしているんだ!
……はい、必要最低限の勉強しかしていません。だってめんどくさいんだもん。俺は沙耶と一緒の高校にいられればそれだけでいいんだよ。といっても国一番のエリート高校だから、勉強量が半端ないんだけどね!
それと、さっきから俺たちが会話をしているのも関係なしに、ゾンビのようにわらわらと引っ切り無しに子いちごたちがやってくる。
なので、俺らはこいつらを倒しながら会話をしている。見なくても生体感知魔法を常に発動しているから、どこから攻撃してくるかわかるので問題ないのだ。
俺は殴ったり蹴ったりをしているのに対し、怜は土魔法で鋭い針で串刺しにしている。いやね、魔核を貫いているのはわかるんだけど、なんかビジュアルがちょっと怖いな。
「じゃあ仕方がないから、火を使わないようにしてもう少し力を入れて倒していくわ」
そういって俺は、先程から俺たちに攻撃を仕掛けてきている子いちごに向かって、少々力を込めてデコピンを食らわせた。
すると、あら不思議。なんと上半分だけが抉り取られているではありませんか。
「……気を付けてね」
「……おう」
はい、力加減を間違えました。
デコピンならこれくらいの力を込めても大丈夫かなって思ったんだよ!なんだよこれは!砲弾か何かがそこを通過したのかっていうような状態になっているぞ!?
これが人間じゃなくて本当によかったよ!今度からはもっと力をセーブして使うことにしないとな!
「それじゃあ、僕はまた後方に戻るから」
「おい、ここまで来たのならもう戻らずにここでやっていけよ?」
わざわざ俺に力を出すように言いに来たのなら、もうここで俺と一緒に囮になってくれないだろうか?そうすれば俺は今の半分の労力で済むからさ。
「やだよ、服が汚れちゃうじゃん」
「そんな理由でお前は前に出たくないのかよ!そんなことを言うなら俺だっていやだよ!」
どいつもこいつも、神の使徒っていうのはもう少し戦いに緊張感というか、勤勉に取り組んでほしいものだよ!
……俺も人のことを言えなかったな。結構気が緩んでいる状態で戦っているから、怜よりももっとひどいかもしれないな……。
あと、俺は汚れ役を続けなければいけないのね……。
「じゃ、頑張ってね」
「くそ、後で覚えていろよ……」
とてもいい笑顔で子いちごたちを蹴散らしながら後方へと下がっていった。自分が囮をやらないからって、その笑顔は結構腹立たしいな。
後で絶対女装させてやるからな……!




