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第三十話 いちごとは


「それじゃあ、まずはどんな感じで倒そうか?」


 ある程度魔物に近づいたところで、結奈がみんなの方を向き、これからどうするか聞きだした。


 いやしかし、魔物を前にしてよく背を向けられるな。それほどまでにこいつらは大人しい魔物なのだろうか?


「無難に遠距離攻撃で倒す感じでいいんじゃないかな?」


「私はそれでいいと思います。寧ろ私は近距離攻撃が苦手なので、必然的に遠距離重視の攻撃になってしまいますけど……」


「僕も遠距離攻撃がいいかなー。近距離だと服が汚れそうだし」


 女子はみんな遠距離でやると言っているが、やはりそのように攻撃するのが定石なのだろうか?


 俺はこの魔物について何も知らないから、何も口出しとか意見とか言えないな……。


「でも全員遠距離攻撃だと、攻撃が来て回避に集中しちゃわないかな?」


 だが、確かに怜の言う通り回避ばかりでは攻撃に集中できなくなってしまうだろうな。


 ここにいるみんなは俺を除き魔物と戦ったことがないんだもん、仕方がない。


「翔夜が囮になればいい」


「……は?いやいや、なんで俺が囮なんだよ?」


 結奈は恐らく俺を囮にしてみんなを安全にして戦おうとしているのだろうが、なんで俺が囮なんて危ないことをしなければいけないんだ?


「適材適所だよ」


「どういう判断基準でそういう答えに至ったか教えてくれない?」


 ただ単に結奈は面倒ごとを俺に押し付けているだけだろ!囮っていうんだから絶対動き回るはずだし、それが嫌だったんだろうな!


「もしかして、翔夜は女の子に囮をさせるの?」


「うっ、わかったよ……」


 そんなことを言われてしまっては囮をやらないわけにはいかない。


「あの、一応言っておくけど、僕も男だからね?」


「だけどよ、なんか言い方を変えてくれないかな?流石に囮は嫌なんだが」


「あれぇ無視!?」


 確かに役割としては囮なのだろうが、なんだかそういう扱いをされるのは嫌だったので、改善してくれるように頼んだ。


 それと、怜のことはみんなが心の中では女の子だと思っていたのだろう。だから、あえて誰も触れなかった。


 頑張ってこのつらい現実を生きてくれ……!若しくはあのクソ女神を恨んでくれ!


「じゃあ犠牲」


「もっとひどくなってる!お前は人の心を持っていないのか!?」


「人の心を持っていないのは翔夜だと思う……」


 流石に犠牲というのは酷いだろう!なんで俺が死ぬようなことになっているんだよ!本当に俺のことをなんだと思っているのだろうか?


 そして怜よ、ぼそっと言わないでね?傷つくから。後でご飯奢るから許して。


「はぁ、女の子にそういうことを言うから翔夜はモテないんだよ?」


 呆れたように言ってくるのだが、なんで今その話を持ち出すのだろうか。今はそんな話関係ないだろう!モテないのは顔が怖いからだ!……自分で思って悲しくなってきた。


「いや、お前は女とカウントして……いますとも!だから、今手に纏わせている禍々しい魔力を消してくれませんかね!?」


 今、結奈の右手にはどす黒い魔力がとぐろを巻いていた。いったいそれが何なのか俺には判断できないが、絶対それがよくないものだというのがわかる。


 なので、ここは早めに謝っておくに限る。


「次変なこと言ったら、あの時のことをみんなに言うからね?」


「わ、悪かったよ……」


 俺が少しからかってやろうかと思っていったのだが、本人には地雷だったようで少々ご立腹のようだ。後でアイスとか奢ってご機嫌を取らなければ……!


 あの時のことを言うと言ったが、恐らく俺が胸を見比べてしまったときのことだろうな。あれは沙耶に知られでもしたら幻滅されてしまう恐れがあるので、逆らってはいけない。


 実質俺は弱みを握られているんだな……。


「ねぇ、二人とも。そんな話をしている間に魔物がこっちに来ているんだけど……」


「あ、マジか」


 話に夢中になっていたせいで、魔物が近くに来ていることに全然気が付かなかった。別に攻撃を食らっても何ら問題はないと思っているから、気が付かなくても俺の体は大丈夫なんだよな~。


 沙耶とエリーはもうは慣れていて、いつでも攻撃が出来る体制を整えていた。いったいいつの間に離れていったのやら……。


「翔夜、行ってくれるよね?」


「わかったよ、俺が行くよ」


 結奈には正直悪いことを言ってしまったので、俺が囮をやることにした。というよりも、結奈の目が怖かったので行くしかないなと思ったのが主な要因だな。


 請け負ったものは仕方がないので、しっかりと囮という役目を果たすとしますかね。


「貧乏くじ引いた気分……」


 大して覚悟は決めていない状態でこの魔物の方を向き、その全体を見渡す。


 よく観察してみると、確かに葉や花がいちごのそれと酷似しているが、高さで言ったらビルの十階に相当するくらいに大きいし、しかも真ん中に大木のような茎があった。


 あれをいちごと言っていいものなのだろうか……。


「しっかし、気を引くったって何をすればいいんだ?」


 引き受けてしまったからにはしっかりとこなそうとは思うのだが、いったい何をすればいいのだろうか?一応後ろに攻撃しないように心掛けておこう……。


 相手は植物系の魔物だから自分から動くことはないだろうが、それでも蔓のようなものをしならせているからそれで攻撃してくるのだろう。


「よっ」


 そう思っているそばからその蔓で攻撃をしてきた。鞭のようにしならせて攻撃してきたから、軽く右に上体を傾けて躱した。


 素早い攻撃を仕掛けてくるのだが、神の使徒である俺にはスローモーションのように遅く見える。まぁでも、あのいつぞやの眼鏡君が放った火の球よりは速いけどな。


 無数にある蔓でどんどん俺に攻撃を仕掛けてくるのだが、バックステップで躱したり右に左に少し体を動かしたり、やはり最低限の動きをするだけで躱せてしまう。


 俺が囮の役割を果たしているので、後方にいるみんながしっかり風魔法や土魔法、はたまた水魔法で攻撃をし始めた。


 いや、真面目に攻撃しているのは沙耶とエリーだけだな。怜と結奈は確かに攻撃はしているのだが、相手はどのくらいの攻撃で十分なのかというように実験をしているようなのだ。


 俺たちは神の使徒だから、オーバーキルにならないように調整する必要がある。だから今は絶好の機会というわけだな。


 俺も前に魔物を狩ったとはいえ、世間一般とはかけ離れている奴らだったから一応今のうちに練習しておこう。


「ほっ」


 そう思って何本か攻撃してきた蔓を腕に纏わせた風魔法で切ったりもした。躱しているだけでは流石につまらないとも思っていたので、丁度良かっただろう。


 魔物だから攻撃を食らったら雄叫びを上げるものだと思っていたのだが、植物だからだろうか、雄叫びとかを上げないんだな。


 その代わりにこの魔物の攻撃が鋭くなってきたな。蔓以外にも攻撃手段がないのかと思っていたのだが、いくつかの蔓がその姿を変えて、食虫植物のような外見になっていった。


「あれって、噛みついたりするのかな?」


 蔓の攻撃をかわしながら食虫植物のような外見となった蔓をよく観察してみると、もうサメの牙なんじゃないかっていうくらいにギザギザして鋭かった。


 恐らくあれで攻撃して来るのだろうが、あんなことが出来る植物をいちごと言っていいものなのだろうか……?


「おぉ、魔銃ってすごいんだな」


 鋭い牙による攻撃に備えて少々身構えていたのだが、後方からのエリーの攻撃によってその食虫植物のような外見をした蔓は、見事に跡形もなく消し飛んだ。


 エリーの持っているリボルバーの見た目をした魔銃は、本物の奴よりもとても高威力のようだ。しかもさっきから打ちっぱなしのところを見るに、恐らく弾をリロードしていないな。


 まぁ魔銃は弾が魔力で出来ているって言ってたし、本人の魔力がなくなるまで打ち続けられるんだろうな。


 あれを俺が使ったら無限に撃てるじゃん……。


「あ、おい、後ろの奴らに攻撃するなって。囮の意味がなくなるだろう」


 エリーによって食虫植物を破壊されてしまったからか、攻撃対象をエリーへと変えたので、俺はその蔓を風魔法の斬撃で切り落とした。


 腕を振るっただけで攻撃をする必要はないのだが、俺が囮にならなければいけないからしっかりと動かないとな。


 あれ、でもこいつどこにも目がないよな?腕を振るう必要はなかったかもしれない……。


「うわっ、なんだ?」


 魔物は怒ったのか、体のいたるところからいちごを生成し始めた。色は赤くなくまだ食べごろで無い、白く緑がかった色をしたいちごだった。大きさは大体一メートルくらいだろう。


 植物とはいえ、体から段々といちごが生成されていく様は見ていて気分がいいものじゃないな。ぶっちゃけ気持ち悪い……。


「なっ、そんな攻撃をしてくるのかよ!」


 その体のいたるところから生み出したいちごを、四方八方に撃ち始めた。あれは攻撃手段のために生成していたのか。


 だが、それでも先程の蔓の攻撃と同じくらいのスピードなので余裕をもって自分は躱し、後方に行った奴は重力魔法で届く前に落とした。


 こんな無差別な攻撃では俺たちに傷をつけるどころか、服を汚すことだってかなわないぞ。


「ん、なんだ?」


 何百と打ち出し地面に転がっているいちごが、もぞもぞと動き出した。まさかこのいちごって爆発するのか?


 いつでも対応できるように身構えて近くにあったいちごを観察していると、なんと嫌な音を立てて手足を生やしてきた。







「おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」







 手足を生やしたいちごはすべて立ち上がり、俺たちのことを見据えている。いや、目がないからその表現は適切ではないが……。


 そう思っていると、なんと目と口も現れた。


「お前はどこぞのゆるキャラでも生成する能力の持ち主なのか!?」


 ちょっと待て、見た目が完全にあれだぞ!?俺前世で似たような奴を見たことあるぞ!?


「なんで魔物なのにそんなにかわいいんだよ!目なんてくりっくりだしさ、絶対こいつら危害なんて加えないだろ!」


 そう怒鳴り声をあげた途端、口を大きく開き隠し持っていた鋭い牙で噛みついてきた。


「うぉぇい!」


 いきなり攻撃してくるからびっくりして変な叫び声あげちゃったじゃないか!


「前言撤回!やっぱこいつらかわいくねぇ!牙が鋭いしめっちゃ狂暴じゃないか!」


 咄嗟に躱したので攻撃は食らっていないが、見た目とのギャップが凄かったから変な体勢で避けてしまったよ!誰にも見られていないよな!?


 いや、結奈がこっちを見て笑っていやがる!くそっ、後で覚えとけよ!


 ……やっぱ忘れていてくれ!


「ふんっ!」


 攻撃してきたいちごのヘタの部分を掴んで、本体に目がけてぶん投げた。こいつは俺に恥をかかせた奴だから絶対許さん……!


「あ……」


 本体が華麗に避けてビニールハウスを突き破っちゃった……。


 なんで避けるんだよ!お前今まで茎の部分を動かしていなかったじゃないか!もう大木だと思い込んでいたから、動くなんて思わないじゃん!


 後で弁償することになったりしないよな……?




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