第二十六話 黒一点
家に行くまで女子たちは話に花を咲かせていたが、俺たち男は魔物についていろいろ話していて、楽しかったのか微妙なところだ。だけど、勉強にはなったから有意義な時間ではあったな。
学校で何時に集合するか決めてなかったので、じゃあ午後の二時くらいにでも集まろうかということになった。午前中じゃなくてよかったよ。部屋の片づけとかしなきゃいけないからね。
いや、別に散らかっているわけでもエロ本があるわけでもないんだけどさ、やっぱり俺も男の子なわけだから、女子が来るってなったら気にするんだよ。
そういえば、みんなの家はどこにあるのか気になったので聞いてみると、結奈と怜はなぜか教えてくれなかった。
教えてもらうどころか、もうストレートに絶対に特定もしないでくれって言われてしまったよ。なんで俺の家はすんなり来てるくせに、自分の家は教えてもくれないんだよ!?
ちなみにエリーの家は、電車で通っているので二駅先にあるそうだ。しかも俺の家は、学校から駅に向かう進行方向とは少々違うそうなので、俺の家に行くと遠回りになってしまうそうだ。決めたのは結奈なのだが、なんか申し訳ない。
家に着いたら、寄っていかないかとエリーに聞いたのだが、この後は用事があるそうなので帰るそうだ。用事があるのに家に来てしまってよかったのだろうか。ほかの日に来てくれればそれでよかったのだが……。
そして他の奴らは俺の家の前まで来たにもかかわらず、特に何もすることがないということで帰っていった。エリーがいなければ確かにいつも通りになっちゃうんだけど、本心は寄っていってほしかった……。
まぁそういうことで、両親に作戦会議のことを伝えたのだが、なんかめっちゃ喜ばれた。
しかも相手が女だと知るや否や、両親は誰が狙いなんだとか言って詰め寄ってきた。あんたらは思春期真っ盛りの男子高校生か!
それに、宮本さんは『友達がもう一人できて良かったですね』って感動していたよ。なんで俺はそんなに友達がいないって思われているんだよ。これじゃあ前世と何ら変わりないじゃないか!
そんなこんなで作戦会議をする土曜日になったのですが、今日は両親は一日中仕事だったはずなのに、早めに帰ってくると満面の笑みで言っていました。
絶対エリーを見たいがために早く帰ってくるんだと思ったよ。そんなのでいいのか、社会人!
妹は友達と遊びに行くと言って出かけてしまったので、今は宮本さんしか家にいない。妹は出かけるときに、部屋に女の子を連れ込んでも襲っちゃだめだからね!って釘を刺されてしまった。俺はそんなことをするように見えるのだろうか……。
そういえば、結奈や怜が家に来た時もそんなことを言われていたな。俺は相手の意思を無視してそんなことをするほど性欲は有り余ってないんだがな。妹としては心配なのだろうか?
あと妹よ、怜は男だ。
俺がそのことについて否定しても、嘘だと思っているらしくて考えを改めてくれないでいる。本人が知ったら悲しむから、早めに訂正しておかないとな。
さて、別に散らかってもいない部屋を軽く掃除して、宮本さんと昼食を食べて四人を待っていると、玄関のチャイムが鳴った。
まだ予定の時間の三十分前なのだが、恐らく沙耶が来たのだと思い玄関の扉を開けてみた。すると、なんと来ていたのはエリーだった。
「あ、纐纈君こんにちは」
「……おう。思ったより早く着いたんだな」
笑顔で来てくれたのはいいんだが、こんなに早く来ることもなかったんじゃないかな?別に困りはしないんだが、なんだかとても意外だったよ。
そんなに楽しみだったのだろうか?
「え、私そんなに早かったですか?」
「まだ予定より三十分も前だし、早いと俺は思うんだけど……」
もしかして俺がそうだと思っているだけで、普通はこういうもんなのか?
俺の前世の友達は遅れてくるなんてザラにあったから、もしかして真面目な人たちはこのくらい早いのかな?
「うーん、友達と遊んだこととかあまりないから、こういうものだと思ったんですけど?」
「お、おう、そうか……」
友達がいなかったとかそんな寂しいことを、何でもないことのように言わないでくれよ……。俺までもが悲しくなってくるからさ……。
「あー、立ち話ものなんだし、中に入っていいぞ」
「あ、えっと、お邪魔します」
俺は気まずい空気を作らないように、早急にエリーを家に招き入れた。会って早々にこんな話をしたいわけじゃないし、ここで話すより早く家に入れてあげないとな。
「いらっしゃいませ」
「えっと、家政婦さん?」
「はい、纐纈様に仕える家政婦の宮本と申します。以後お見知りおきを」
当然客人が来たのだから、宮本さんが出迎えないわけがない。俺は勉強会のために沙耶とかが土曜日に来るから、毎回見て見慣れたけど普通は驚くもんなんだよな。今まさに驚いているエリーみたいにな。
「へぇ、纐纈君の家ってすごいんですね」
「うーん、自分じゃよくわからないんだよな」
この世界に来てから、家政婦がいるのが当たり前に考えていたんだ。だけど、普通は他の家にはいないんだよな。……もうこの世界の常識がわからなくなってきたよ。
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この後しっかり飲み物を用意して部屋へと案内した。そんなにジロジロ見ないでくれないかな?おかしなところはないと思うんだが、なんか恥ずかしいよ。
「みんなはまだ来ていないのですか?」
「まだ来ていないな。まぁ呼べばすぐに来るよ」
そういって俺はスマホを取り出して、ここに来る予定の三人にメッセージを送った。前に能力を使わずに連絡できるようにと、俺らは勉強会の時に連絡先を交換していたんだ。
神の使徒ならば連絡先を交換しなくともテレパシーなり念話なりを使えば問題ないのだが、やっぱり他の人たちから怪しまれてしまうので一応交換しておいた。
前にあのクソ女神が技術レベルが前世と同じくらいと言ってたので、もちろんスマホなどの連絡ツールもあるわけなのだが、俺は自身のスマホを見たときに泣きそうになってしまった。
この世界にもあって嬉しいということではなく、電話帳に家族と沙耶しかなかったからだ。俺ってホントに友達がいなかったんだな……。
「グループの人たちと連絡先を交換しているのですか?」
「あぁ、前々から仲良かったからなー」
学校でもこの三人としか話していないから、あれ以来連絡できるのは二人しか増えていないけどな!
……なんか、前世より悪化してないか?
「……あの、わ、私と……連絡先を交換してくれませんか?」
「お、おう、いいぞ」
おずおずといった様子で、恥ずかしそうに上目遣いで聞いてくるので、思わずドキッとしてしまった。破壊力がすさまじくて、声が少し裏返ってしまったよ。
いけないいけない、危うく顔に出てしまうところだったよ。そこは何とか根性で耐えて見せたぜ!
「ありがとうございます!」
連絡先を交換すると、満面の笑みを浮かべて礼を言われてしまった。連絡先を交換しただけなのに、そんなに嬉しいものなのかね?
しかも、沙耶とか他の人ならともかく、俺のだぞ?友達がいないってそんなに深刻なものなのだろうか……?
……うん、深刻だな。少なくとも俺からしたら深刻だ。
「今他の奴らに連絡したから、すぐにでも来るんじゃないかな」
「なら、それまで暇ですし、何か話していますか?」
「そうはいっても、何か話すことなんてあるかな?」
話題を何か探していて、俺は今更ながら思い至ってしまった。俺は今、女の子と部屋で二人きりということに。
おいおいおい、どうしよう!?沙耶はもう慣れたけど、エリーは初めてだからどうしたらいいんだ!?いや、手を出すとかそういういかがわしいことじゃなくてだな、俺が犯罪者扱いされないかなんだよ!
これは発言には細心の注意が必要だな。前世ではちょっとした発言で変態扱いされてしまっていたからなぁ。よし、頑張れ俺!
「じゃあ、演習について話していましょうか」
「あぁ、それもそうだな」
それから俺たちは演習についていろいろと話し合いをして他の奴らを待った。まぁ、情報交換のようなものだがな。
そしてしっかりと発言には気を付けて話そうと頑張りました!
演習の話だけではなく、普通に日常の話もしましたよ。演習についてはみんなが集まってから詳細にしようということになったので、適当に
やっぱり俺はエリーに使い魔はいるのか気になっていたので、聞いてみると恥ずかしそうにいないと言っていた。
別に恥ずかしがることではないと思うのだが、どうやら前に召喚しようとしたことがあったそうなのだが、どうやら失敗してしまったのだという。
それくらいで恥ずかしがることでもないと思うのだが、考え方は人それぞれなので、それ以上言及するのは控えた。
俺の使い魔について聞かれることはなく、今度は俺が魔法はどんなことが出来るのかと聞かれた。なので、人並みには使えると答えておいた。
いやね、ここで何でもできるとか答えたら不味いかなって思って。転移も消滅も出来るんだよーとか言えるわけがないからさ。
逆にエリーは何が使えるのかと聞いたのだが、ばつが悪そうな顔でそれはみんなが来た時に話すからと言ってそれ以上は語ってくれなかった。
なんだろう、さっきから地雷ばっか踏んでいる気がする……。俺は出来るだけそういうこみ入った話をしないようにしていたんだけど、どうしてそっちの方に行っちゃうんだろうかね?話す前に気を付けようと思ったばかりだったのにな……。
誰かこの空気を変えてくれ!
そう思っていると、玄関のチャイムが鳴った。よかった、誰か来てくれたようだ。
エリーに断っていそいそと玄関へ向かい、結構勢いよく扉を開いたら沙耶がいた。隣だから早く来るのは予想していた。
だが、なぜだろう、急いで来ましたという感じがひしひしと伝わってくる。それによく見ると少々息が上がっていないか?家は隣にあるんだよね?ここに来る前にちょっと走ってでも来たのかい?
「しょ、翔夜、お待たせ……」
「お、おう。なんか疲れてないか?」
声に出すと、より顕著に疲れているということが現れるな。なんでそんなに疲労しているんだよ……。
「そ、そんなことないよ!それで、エリーちゃん以外の二人は来てる?」
「まだ来てないよ」
あーなるほど、あの二人が来ていたら申し訳ないからって急いで来たんだな。だから息が上がっているんだな、納得した。
「そ、そう。それで、何もなかった?」
「何もなかったとは?」
「エリーちゃんと何もなかったかってこと」
「別に何もなかったけど?」
いったい何を考えてそんなことを聞いてくるんだ?もしかして俺が怖がらせていないかってことか?もちろん俺はそんなことしてないぞ。……してないよな?
「よかった……。いやー、今エリーちゃんと二人きりだったでしょ?」
「宮本さんがいるから二人きりではないけど、まぁ部屋ではそうだな」
そんな安心したように言わなくてもいいと思うんだ。俺がいけないことをしている気分になっちゃうじゃん。たぶんそんなことはないから問題ないよ。
「エリーちゃんって可愛いから、襲っちゃわないか心配になったっちゃって」
「俺はそこまで見境のない獣じゃないって……」
「そうだよねー」
どうやら俺がエリーに手を出さないか心配だったようだ。自分でいうのもなんだが、俺はこんな見た目に反してしっかりとその辺はわきまえているからね?いやマジで。
「玄関口でなにイチャイチャしてんの?」
「べ、別にイチャイチャしてないよ!」
後からやってきた結奈が呆れたように俺らをからかった。もう少し何か違ったことを言えないのだろうか……。
「なんだ、遅れてくるのかと思ったぞ」
ぶっちゃけ俺は、結奈はどうせ転移できるからっていって遅れてくると思っていたんだ。だが、予想に反して早く来たようだ。何か理由でもあるのだろうか?
「いやー、翔夜がエリーを襲わないか心配で」
「お前らは俺をなんだと思っているんだよ……」
俺の周りにいる女子って俺のことを信用していないのだろうか……。俺ってそんなに節操なしに見えるのかね?
「いや、僕は何も思っていないからね?」
「お、怜もいたのか」
結奈の後ろからひょこっと顔を出した怜が否定してきた。怜よ、お前結奈に隠れられるほど小柄なんだな……。
「君こそ僕のことをなんだと思っているんだ?」
「唯一の男友達」
間髪入れずに答えたが、そういえば俺の男友達って怜しかいなかったな。これはちょっと悲しくなってくるな……。いや、あの眼鏡君も友達……ではないな。
「まぁ、入ってくれ」
「「「お邪魔しまーす」」」
こんなところで話すのもなんだし、それにエリーを待たせているから早く行ってあげないと。




