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第二十二話 魔物狩り


 あの事件の翌日、俺は学校から本日は休業になったという知らせを聞いて、顔にも行動にも出してめっちゃ喜んだ。


 それはもう苦痛から解き放たれたような感じだったので、家族がいるにもかかわらずに舞い上がってしまった。


 だが、喜んだはいいものの、今日は何をしようか悩んだ。俺の部屋にはゲームや漫画の類が全くないし、部屋にいてもつまらない。


 全く、娯楽の類くらい持っておけよ……。


 まぁそう思ったので、俺はいつも魔法の練習をしている空地へとやってきた。


 ここで何をするかというと、久しぶりに自分の使い魔に会ってみようかと思ったのだ。この世界に来て俺はまだ数回しか会っていないのだ。


 なので今日はしっかりといろんなことを話したり、また遊んだりしようかと思ってきた。


 一応来るときには親にも言ってきているので、前のように沙耶に言わなくても大丈夫だろう。魔法の練習をするわけでもないしな。


 それに、これでも最初に比べたら全くと言っていいほど破壊行為をしなくなったからな!


 しかもこの空地は、家からはさほど遠くないところにあり、尚且つ周りに人は全然いないので、魔法を練習するにはうってつけの場所なのだ。


 この場所は森の中で、尚且つ地理的に丘になっているので、人があまり寄ってこない。俺としてはベストスポットなのだ!


「えっと、来てくれ」


 周りに誰もいないことを確認して、使い魔の二人を呼んだ。


 最初は名前を呼んで召喚していたが、今ではちょっと呼ぶだけで来てくれるようになったのだ!


「よんだー?」


「お呼びでしょうか、主様?」


 初めて会ったとき同様、二人は魔法陣の中から現れてくれた。


 今更なんだが、なんで俺の使い魔は魔法陣の中から現れるのだろうか?沙耶の使い魔は魔法陣を出さずに召喚していたのに……。


 別に不満はないのだが、なんだか気になってしまうな……。うん、今度沙耶に聞いてみるか!


「久しぶりだな。元気にしてたか?」


「うん、げんきだよー」


「はい、主様もお元気そうで何よりです」


 定型文だろうが、こういうさりげない挨拶は大事だから欠かさずにやっている。


「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」


「用ってほどじゃあないんだけど……。いやさ、俺って記憶喪失になっちゃったから、二人のことをよく知らないんだ。だから、この際に二人のことをもっと知れたらな~と思って呼んだんだ」


 記憶をなくす前は俺はどのように接していたのだろうかわからない。それに召喚をした経緯についても知らない。なので正直どこまで踏み込んでいいかわからない。


 だから、かなり仲良くなってからいろいろと踏み込んで聞いてみようかと思ってる!


「あるじは、わたしたちとなかよくしたい?」


「そりゃあもちろん!以前の俺がどうだったかは知らないけど、それよりももっと仲良くなりたいと思ってる」


 以前の俺に負けている気がしてなんか癪に障るので、その時よりもっと仲良くなってやる!


「わたしももっとなかよくなりた~い」


 未桜は相変わらず表情が変わらないが、そのまま俺に抱き着いてきた。これは嬉しく思っていると判断していいんだよな?


「あの、今の私たちでは信頼に足るほどではないということでしょうか……?」


 鈴は未桜のそれとは相反して、不安そうにおずおずと尋ねてきた。


 俺は別に他意はなかったのだが、不安にさせてしまったようだ。今度はもう少し言葉を選ばなければな。


「そんなわけないだろう。俺はもっと気軽に話せるくらい仲良くなりたいんだ」


 鈴は少し堅苦しいところがある。俺としてはもう少し砕けて話してほしいのだが、本人曰はく、主従関係なのだからこういう話し方になることが普通なんだと。


 難しいもんだなぁ……。


「寧ろ、俺の使い魔でいてくれて感謝しているくらいなんだから」


「あ、ありがとうございます……!」


 俺は感謝の意を表すために、鈴の頭を撫でた。狐耳があり触り心地はとてもいいので、感覚的には自分のペットを撫でているような感じで撫でた。


 だが、そうしてしまってから気が付いたのだが、考えてみると目の前にいるのは同い年くらいの女の子なんだよな。


 ……セクハラとかで周りに吹聴しないでね!?頬とか少し赤いし、怒っているのかな!?あとでフォローしないと……!


「あー、いーなー。わたしもわたしもー」


「はいはい」


 未桜も頭を撫でてほしかったのか、こっちに頭を向けてきたので、余っている方の手で撫でた。未桜は子供だな~と思って何も考えずに撫でたが、こんなところを誰かに見られたら確実に警察にお世話になりかねないな……。以後は気を付けなければ!


「さて、そうはいったものの、何をしようか?」


「でしたら、魔物狩りなどはどうでしょう?」


「魔物狩り?」


 特に何をすると決めていたわけではないので、俺が何をしようか悩んでいると、鈴が魔物狩りを進言してきた。


「はい。主様は私たちの実力を知らないでしょうし、主様も記憶をなくされて魔物を久しく狩っていません。なので、この際に体験して知ってもらおうかと思い、具申いたしました」


 丁寧に伝えてくるのだが、なんで鈴はそんなにも堅苦しくなってしまうのだろうか?もう少し柔らかくしていいのに。これはもう性分なのかね?


 ……まぁ、一応気にしないでおこう。


「なるほどなー。でも、確か魔法師じゃないと魔物の相手をしちゃだめなんじゃなかったっけ?」


 春休み中に沙耶と勉強したときに知ったことなのだが、魔物狩りは魔法師でなければしてはいけないらしいのだ。


 医師の免許がないのに手術とかしてはいけないと言えばわかるかな?それだけ危ないことだということらしい。


 俺がしようとしていることはブラッ〇ジャックみたいだな!


「今更ですね。記憶をなくされる前から主様は、魔物狩りを多くこなしてきました。しっかりと魔法師にはばれないようにですが」


「記憶をなくす以前の俺は結構アグレッシブだったんだな……」


 バレなきゃ犯罪じゃないんですよ~って以前から言っていたのだろうか?


「あるじはつよいからだいじょうぶー」


 俺のことを抱き着きながら見上げてきた未桜のことを、微笑みながら頭を撫でてあげた。なんだか自分に娘が出来たみたいだな……。


「それじゃあ、魔物を狩りに行くか。その魔物がいる場所は何処なんだ?」


「あちらでいつも狩っておりました」


 鈴は俺たちの近くにある山に手を向けた。なんか、意外と近い場所で狩っていたんだな。


 確かあそこは整備されていなくて、原生林が広がっていたな。だから人は寄り付かない場所だって沙耶に聞いたことがあったのを思い出した。


「あそこかー」


 俺は転移していこうと思い、どこに転移するか探すために千里眼を使った。記憶にない場所はいけないからな。


「あるじー、てんいしてはやくいこー?」


「……あれ、俺が転移できること知ってるの?」


 未桜が俺のことを急かしてくるのだが、どうやら俺が転移できることを知っているようだった。そりゃあ自分の使い魔だし、以前の俺が言っていてもおかしくはないが、ちょっとドキドキしてしまったよ。


「もちろん。だってあるじのつかいまだもーん」


「それは答えになっていないんだが……」


 無表情で無い胸を張って自慢しているようだった。だがな、俺はちゃんと説明が欲しかったぞ?


「未桜、主様が困っているではありませんか。しっかりと以前に教えていただいたと言いなさい」


 鈴が転移のことをどうして知っているかを補足しつつ、未桜をしかりつけた。


 こうして見ていると、二人は正反対の性格をしているようだな。


「わー、りんがおこったー。あるじたすけてー」


 そういって俺の後ろに隠れて難を逃れようとした。言葉に感情が乗ってないから、冗談なのか本当なのか全然わからないな。


「こ、こら!」


「いいよ、鈴。俺の代わりに怒ってくれてありがとう」


「は、はぁ……」


 ここで喧嘩しても困るし、ここは鈴には矛を収めてもらうよう仲裁した。


「未桜もそんなにからかったらダメだろう?」


「はーい」


 未桜にはなにもないというのは不公平なので、しっかりと叱った。二人とも素直な子でとてもありがたいよ。結奈にも見習ってもらいたいものだ!


「じゃあ、早速行こうか」


 そういって転移を発動させた。そして視界に広がるのは、全く人の手が加えられていない原生林だった。


 都会でもこんなに場所があるのだと感動して見入ってしまった。


「さて、やって来たはいいものの、俺は何をすればいいんだ?」


「主様は何もしなくて大丈夫です。私と未桜で戦うのでそれを見ていてください」


「……うーむ、女の子に戦わせるのは男としてどうなのだろうか?」


 何をすればいいのかよくわかっていなかったのだが、鈴は俺に見学をしているように言いつけてきた。見学はいいのだが、主である前に男のはずなのに戦いに介入しなくてもいいのか疑問に思ってしまう。


「あるじはしんぱいしょー。わたしつよいからだいじょーぶだよー」


「私も主様には劣りますが、そこそこ戦えるつもりですのでご心配なく」


「……わかった。じゃあ危険だと判断したら俺は介入するからね」


 二人は強いという自負があるのか、自信をもって言ってきた。だが、それでも心配なので俺は危なくなったら介入するつもりだ。


「それで結構です。もちろん、そんなことにはなりませんが」


 余裕があるように不敵に笑って言ってくるってことは、結構な自身があるんだな。


 まぁどれだけ実力が見たくても魔物がいなければどうにもならないから、適当に歩いて魔物を探すかね。


「お、早速やってきたな。……あれが、魔物か?」


 適当に歩いていると、何かがこちらにやってきた。やってきたのは、宙に浮いた上半身だけのゴーレムのような奴だった。


 よく見てみると、顔がのっぺらぼうでところどころから砂が零れ落ちていた。あれは俺たちを認識しているのだろうか……。


 確か名前は『サンドゴーレム亜種』だったかな?あれは全身砂で出来ていて、物理攻撃があまり効かないんだったよな?


 俺もちゃんと勉強したから覚えているぜ!


「はい、あれが魔物です。といっても、あれは意思のない雑魚ですがね」


「確か一般の魔法師が集団で相手するような相手って記憶したような気がするんだが……」


 確か、俺は教科書とかを使って勉強をしたはずなのだが、なんだか齟齬があったようだ。この事実は訂正していいものなのだろうか?


「では、私から行きますけど、よろしいですね?」


「いーよー」


 最初は鈴から行くようなので、未桜に先を譲ってもらっていた。俺たちは離れたところに腰かけて未桜と共に見学することにした。


 未桜よ、俺が胡坐で座ったら何もためらわずに俺を背もたれ代わりに使って座るなよ……。緊張しちゃうだろうが!


「では、参ります」


 そう言うや否や、鈴は目の前に右手をかざした。するとそこから大太刀が現れ、それを掴んで魔物に向かって走っていった。


「おぉ……」


 もしかして鈴もインベントリが使えるのか?


 サンドゴーレム亜種は、鈴の進行を阻むかのように腕を伸ばして殴りかかってきた。だが、鈴はそのような攻撃はもろともせず、逆に腕を切り裂きながら進んでいく。


 あんなデカい刀を軽々しく扱うとは、かなりの力があるんだろうな~。さっきはそこそことか言っていたけど、絶対そんなことはないと確信するよ!


 そういえば、ちゃんと攻撃してきたってことはこちらを認識しているんだろうな。……なにで認識しているんだろう?


「ふっ!」


 だが、何度切っても再生する腕のようで、切られたそばから再生してまた殴りかかってきた。それでも鈴をとらえることはかなわず、ついにすぐそばまで近づかれてしまった。


「はっ!」


 鈴は巨人の丁度胸の中心部分を狙って、その刀で思い切り突いた。すると、巨人は動きを止めて末端部分から崩れ去っていった。


 後に残ったものは、剣先に刺さったままになっている青い宝石のようなものだった。


「あれが魔核か。初めて見たな」


 魔核というのは、魔物などの化け物の体の中に存在している、言わば心臓のようなものだ。基本一匹に一つが確実に存在しており、それを用いて魔法具などが作られるというらしい。


 普通は魔核はもちろんのこと、魔物の素材なども持ち帰り、適切な場所へと持っていって報酬を受け取ることも出来る。だが、俺はまだ魔法師ではないため持ち込むことが出来ない。


 ではこの魔核はどうするかって?そりゃあもちろん、両親にあげます。両親は魔法師なのでしっかりと報酬を貰うことが出来るんだ。


 もう俺が魔物とかを勝手に狩っていたということは以前からわかっていたというので、これからも狩って親に渡そうと思う。


 あと、普通にお小遣いが増えるしな!


「いい準備運動になりました」


「あれで準備運動なんだ……」


 俺の周りが強いだけなんだよな?普通はそんな簡単に倒せるとか書いてなかったし。流石は最上位種、他とは格が違うね!


「きにしたらまけだよー?」


「あー、うん、そうだな……」


 まさか未桜から諭されるとは思わなかったよ。だけど、確かにこういうぶっ飛んだことをいちいち気にしていたら、これからが持たないだろうな。俺が一番ぶっ飛んでいるわけだし!



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