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第二話 女神、許すまじ


「あ?」


 目が覚めると、最初に視界に入ったのは綺麗な白い天井だった。


 転生されているなと、自分は生きているという幸せを噛み締めた。


 だが、直ぐに起き上がり、体に何の異常もないか確認する。


 あぁよかった、何も問題なくて!転生される前に不穏な言葉が聞こえたから、何か異常があると思ったが、何もなくてよかったよ!いやホントに……。


「あーそういえば、俺の新しい顔はどうなってんだろ?」


 自分でアン〇ンマンかよっ、とツッコミを入れながら鏡を探した。


 転生されたのだから、顔は変わっているはずだろう。


 ヤクザ顔はもう懲り懲りだからな!


「んー……」


 さっきから思っていたのだが、俺がいるこの個室って絶対病院だよな?


 雰囲気というか、内装というか、においというか、それら諸々が要因でそう感じてしまった。


 学生時代に実習で病院に行っていたからだろうか?


 服装だって患者が着ている病衣や検査衣みたいな感じだし……。


 なんでこんなところに俺はいるんだ?


「……考えてもわかんないな!」


 辺りを見渡しても答えのようなものは見つからなく、仕方がなくそのことは置いておいて鏡を探す。


 すると、洗面台のところに鏡があったので、自分の顔を確認する。


 だがそこには、移ってほしくない顔があった。 


「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!?」


 鏡にへばりついて、絶叫してしまう。


「か、顔が、顔が……」




「なんも変わってねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」




 なんと、何も変わっていなかった。


 随分と見慣れた顔がそこにあった。


 この、見慣れたヤクザ顔が……。


「いやうっそだろおい」


 多少若返っているが、見た目はどう見ても若いヤクザのような俺の顔だった。


 もう完全に堅気の顔じゃねぇなこれ……。


「来世こそは普通の顔に生まれたかった……。見た目がヤクザだと、いろいろ不便なことがあるから嫌なんだよ……。警察とか警察とか警察とか!もう今までで何度職務質問されたかことか……!」


 自分の見慣れたヤクザ顔に打ちひしがれて、失意のままベッドに戻って倒れこむ。


 しかしそんな俺の叫び声を聞きつけたのか、見るからに看護師らしき人たちがやってきた。



「め、目が覚めてる……!早く先生を呼んできて!」


 若い看護師らしき人が、もう一人の若い看護師らしき人に指示を出していた。どちらも同い年だと思ったのだが、部屋を出ていった人の方が新人なのかな?


 そんなことよりも、二人は何をそんなに慌てているのだろう?まるで意識不明の重体に陥っていた患者が長い眠りから目覚めたような……。


 あれ、もしかして俺は今まで意識不明だった?


 そんなまさかぁ。


 とにかく落ち込むのは後にして、今の現状を知るために行動を起こそうか。


「あ、あの~、ここはどこですか?」


 まずはここがどこなのかを確認しよう。


 もしかしたら病院じゃない可能性だってあるんだからな。


「あー、ここは病院ですよ。先月に突如として現れた災害級のモンスターを、あなたは周りの制止を無視して一人で倒しに行ったそうなんです!それで、後からモンスターを倒すために向かった大勢の魔法師たちが、倒れているあなたを発見したそうです。それでそのあとはここに運び込まれて、今の今まで昏睡状態だったんですよ!」


 途中から少し興奮した状態で、聞いてもいないがここにいる経緯もまくしたてる様に話してくれた。


 ……もう何にツッコんでいいかわからなくなってきたよ。災害級のモンスター?魔法師?一人で倒しに行った?


 なんとなく理解はしているが、非現実的だな。


 神様の話がなかったら、絶対信じなかっただろうなぁ。


 それと、ここってやっぱり病院だったんだな……。


 もしかしたら何かの施設かな?


 なんて淡い希望を持っていたのに、これじゃあ俺は病人なんだな……。


 ミイラ取りがミイラになるってこういう状況を言うんだろうか?


 なんか複雑な心境だな……。


 そんなことをいろいろと考えていると、ふと、とんでもないことに気がついた。





 俺の約十五年間の記憶は?





 おいおいおい!全く何にも思い出せないぞ!?俺の記憶はいったいどうなったんだ!?俺の、義務教育課程までの、十五年間歩んできた人生の記憶はいったいどこへ!?


 大切かどうかはわからないけど、いったいどういう人生を歩んできたのか気になる!主に彼女がいたのかどうか……!


 というか、なんでさっき鏡見たときに気づかなかったんだよ俺!?普通に気づくだろうよ!何ワクワクしながら見に行ってんだよ!ただ悲しんだだけじゃねぇか!


 軽くパニックを起こしていると、若い看護師は今思い出したかのようにとんでもない発言をした。


「そういえば、ここからでもわかるくらいに真っ白く輝いた槍のようなものがあなたが戦っているところに落ちていったのですが、あれは何かの魔法だったのですかね?」





 ……あんのクソ女神がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!





 またあの神の槍を落としやがったな!?絶対それが原因だろ!?そのせいで俺の記憶がなくなっているんだろ!?ワザとなのか!?ワザとだろ!人を消滅させるほどのものをそんな軽々しく落としてんじゃねぇ!これで二度目だぞ!?次会ったら絶対ぶん殴ってやる!!神だろうが女だろうが関係ねぇ!!容赦なくグーで渾身の一撃を叩き込んでやる!


 だが、肉体を強化していてくれたおかげか、今の俺はどこも痛くないし、傷だって見当たらない。


 そこだけは感謝しておくか。


 それでも許せないんでぶん殴るけどな!



 はぁ、これから俺はどうすればいいんだよ……。


 まぁ一応、ここは記憶喪失ということで対応していこう。


 変に嘘ついてぼろが出ても困るからな。


「ど、どうしたんですか?怖い顔をしていますけど、体調でも悪いんですか?」


「いえ、何でもありません。ご心配をおかけして申し訳ありません」


 申し訳ないように多少笑って答えた。


 顔が顔だからな、相手を怖がらせちゃうから多少笑わないと。


 それでも前世では、相手によっては怖いと言われたのだがね……。


「あと、私は目が覚めるまでの記憶がなくて、その魔法やモンスターについてもわからないんですよ」


 ついでとばかりに記憶がないということも伝えておく。


 これを聞いてあの女神は来てくれないかなー?


 思い切りぶん殴りたいからなぁ!


「えぇ!?……えっと、自分の名前はわかりますか?」


 とても驚愕しながら、それでも平静を装いながら一応といった感じで名前を聞いてきた。


「……あー。すみません、わからないです」


 本来だったら纐纈翔夜と名乗っていたのだが、この世界ではどのような名前になっているか定かではなかったのでわからないと答えた。


「そ、そんな!あなたは纐纈翔夜という名前なんですよ!?ほんとに覚えてないんですか!?」



 ま、まさかの同じ名前だったぁぁぁぁぁぁぁぁ!



 俺の名字は珍しいし、これはあの女神がなにかしたんだろうな!名前も見た目も変わっていないとか、とても残念だよ……。


「ほんとに申し訳ないのですが、何にも思い出せないですね……」


 今さら覚えているなんて言っても嘘っぽいし、もう何も覚えていないということにしよう。


 あのクソ女神が神の槍なんて落とさなければ……!


「そ、そうですか……。じ、じゃあ、親の名前は?今通っている学校は?進学先は?得意な魔法は?覚えていませんか?」


 捲くし立てるように若い看護師が様々なことを聞いてきた。


 だが、申し訳ないことに俺は今聞かれたことに関しては全く分かりませんよ。


 というか、得意な魔法ってなんだよ……。俺の頭にあるラノベ知識で対応しても大丈夫なのだろうかね?


「なにも、思い出せません……」


 首を振り、落ち込んでいるようにしながら答えた。


 ぶっちゃけ、今はあのクソ女神を殴りたくてしょうがない。


 悲しみよりも怒りが勝っていて、変な笑みが出そうなのをこらえないといけない状態だ。


 変に笑ってしまうと、周りに怖がられてしまうから気を付けなければ……!


「そ、そんな……!じゃあ———」


「どうしたのですか村田さん、そんなに慌てて。看護師が患者に不安を与えてどうするんですか、落ち着いてください」


 また何かを聞こうとしていた若い看護師改め村田さんの言葉を遮って、眼鏡をかけた見るからに医師っぽい人がやってきた。


 確かに村田さんの行いは患者である俺を不安にさせるものだろう。


 まぁ今の俺はクソ女神に対しての怒りでいっぱいなので、まったく気にしてないけどな!


「す、すみません。あの、彼が何も覚えていないというので、焦ってしまいました……」


「なるほど。……纐纈さん、私はあなたの担当医である篠原といいます。よろしくお願いします。それでですね、纐纈さんは記憶がないというのは本当ですか?」


「よろしくお願いします。はい、そうですね。全くと言っていいほど何も覚えていません」


 しっかりと相手に信頼されやすいような、柔和な笑みを浮かべて話しかけてきた。


 だけど、俺を見たとき顔が少し強張ったな。


 そういう表情は今までよく見ていたからわかったけど、そんなに俺は怖いかな?ちょっと傷つくんだけど……。


 担当医なんだし、怖がらないで話してくれてもいいと思うんだけどなぁ……。


「そうですか……。起きて早々に記憶がなくて、現状に困惑していると思うのですが、どれほど覚えているかの確認を行うので、これから私がいくつか質問をします。出来る限り答えていただけますか?」


 心から申し訳なさそうに、俺に聞いてきた。


 大の大人がそんな及び腰でどうすんだ。


 そんなに怖がられると、流石に落ち込むぞ?


 まぁ、毎度のことなので慣れたんですけどね!はぁ……。


「はい、わかりました」


「ありがとうございます。ではまず最初に———」







 ===============







「はい、大体わかりました。お答えいただきありがとうございます」


 やっと終わった……。


 いろいろと質問されたが、ほとんどがわからなかった。


 なにせ、この世界の知識が記憶にないのだからな。


 あと篠原先生、ずっと笑みを浮かべているけど、さっきから頬が引きつっていますよ?俺は気にしないけど、もう少し顔に出さない努力をしてくださいな。


「では、我々はご両親などに連絡を入れてきます。なので、少々お待ちください。何かあれば、こちらのナースコールを押してお呼びください」


 そう言い、近くにあったナースコール子機を見せた。


 だが、俺はナースコールを押すことはないだろうな。


 だって、俺に対しておびえている人を呼ぶのは気が引けるんだもん。


「はい、わかりました」


 だけど、篠原先生は俺の両親に連絡を入れるんだから、やっと俺を知る人物に会えるんだよな?


 俺の生みの親を見てみたいし、俺がどんな人間だったかも早く知りたい。


 あと、彼女がいたかも知りたい!あ、やっぱ悲しくなるかもしれないから遠慮したいかな……。


「では、我々はこれで失礼しますね。傷はなかったとはいえ、疲れているでしょうからゆっくり休んでください」


 そう言って医師と看護師はそそくさと退出していった。


 それにしても、医師は終始ビクビクしていたな。そんなに怯えなくてもいいのに……。


 質問中もずっと俺を怒らせないように配慮していたし。


 俺は生まれてからずっと喧嘩とか嫌いだし、それに自分では寛大な方だと思ってるから、簡単に怒らないぞ?


 ……と、少しまではそう思っていました。


「あのクソ女神め、絶対に許さん……!」


 人がいなくなったので、周りをあまり気にせずに怒りをあらわにした。


 寛容な俺でもこれは流石に許すことは出来ないな。


 だって、この世界に来てからの約十五年の記憶が全くないんだもの。


 まだ地球とほとんど同じって聞かされていたから、あまり慌てふためいたりしなかったけどよ、これって今の俺は転生されたんじゃなくて、転移されたことに近いよな?


 ただ、転移されたのと違うのは、両親がいて身分が保証されていることだな。


 まぁそこはよかったが……。



「あー、怒っていても仕方ないし、これからどうすっかね?」


 怒りはまだ全然収まらないが、これからのことを考えるとずっと怒ってもいられない。


 ここにあのクソ女神がいないので仕方なくだけどな!


 それに、まだ本当にあのクソ女神が落としたとも限らないし。


 本人に、聞くまでは怒りを露にするのはやめよう。


「まず最初に考えなきゃいけないのは、能力とか力についてじゃなく、進学先だろうな!」


 能力とかは確かに今一番考えたい。


 というか、どんなことが出来るのかとかいろいろ調べたいな。


 だけど、ここは病院だ。


 能力の使い方を誤って病院を破壊してしまうかもしれない。


 それに、ここは地球とほとんど変わらなくても、魔法やモンスターのいる異世界なのだ。


 魔法をむやみに使ってはいけないという法律があるかもしれない。


 なので、この件についてはひと段落したら、また改めて検証なり考えたりするか。






 ===============






 結局、何もわからないから対策立てられずに、時間だけが過ぎていった。


 いろいろ考えようとしても学業レベルの基準がわからないので対策のしようがない。


 それに、魔法についても俺が読んでいる漫画と、友達のラノベ知識しかないからな、こちらも対策が出来ない。


 他にも生活面など、いろいろと対策しようと考えたのでが、そもそもこの世界での基準や俺が今までどう振る舞って生きてきたのかわからないので、只々無為な時間を過ごしてしまった。



 そうこうしていると、俺の病室のドアが開かれる音がした。


 看護師か医師がやってきたのかと判断したのだが、流石に医療従事者がノックもなしに入ってこないと考えを改めた。


 それなら、ドアを開けたのは誰だ?



 そういえば医師が病室を出ていく前に両親を呼びに行くと言っていたから、俺の親が会いに来たのか。


 おぉ、ちょっと緊張してきたぞ。


 だが俺は記憶がないということになっているんだ、平常心平常心!


 そして、俺と入室者がお互いに見えるところまできた。


 やってきたのはお見舞い用と思われる花束を持った女性一人だった。


 だが、若干の違和感に気づいた。


 やってきた人物が若すぎる。これでは流石に親とは言えないだろう。


 じゃあ、いったいこの人は誰なんだ?



 俺が疑問に思って訝しげに女性、もとい女子を見つめていると、彼女は手に持っていた花束を落として目に涙を浮かべ、口を手で覆いながら心底驚いた様子で呟いた。


「うそ……、起きてる……!」



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