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第百九十二話 両親を信頼します


 魔法を無力化した空間の中で、俺だけが力を持っている。


 その現状に、目の前の二人は驚きと緊張が合わさった表情を浮かべていた。


 父さんと母さんが怒り心頭だということも相まってか、張り詰めた空気がこの場を支配する。


「さてさてさーて、形勢逆転とはこのことだな!」


 その空気を破ったのは勿論俺である。


 もう脅されることがないだろうと考え、だがそれでも警戒はしつついつも通りの対応をしていく。


「おっと、逃げられると思わないほうがいいぞ」


 相手が少し足を動かしたため、俺は二人の足元に鎌鼬を飛ばした。


 ふざけたように振舞いつつも、俺は相手の一挙手一投足を見逃さないように目を光らせる。


 そのため例え相手が足を少し足を動かしただけでも、能力によって相手が行動しないように警告したのだ。


「翔夜」


「なに? 情報でも聞き出す?」


「そうじゃなくて……」


 母さんは何やら深刻そうな表情を浮かべて俺に問いかけてくる。


 何かまずい事態でも起こってしまっているのだろうか。


「魔法が使えないんだけど?」


「あれぇ今更!?」


「どうせこれ翔夜がやったんでしょう?」


「どうせって……まぁそうだけど」


「どうやったの?」


 深刻なことかと思ったが、ただ魔法が使えないことについてだった。


 確かに深刻な事態かもしれないが、俺がしていることと疑っていないのは信頼からなのだろうか。


 だったら普通に問いかけてほしかったよ。


「魔法を無効化する魔法を発動してるんだよ」


「……なんだか矛盾した魔法だな」


「魔法を無効化するのに魔法を発動できるなんて、どうしてなのかしら……?」


「原理については全くわからないけど、なんだか出来ました」


「本当に、規格外の息子だな……」


「そうね……」


「そんな、急に褒めるじゃん……」


 あまり褒められた経験がないため、素直に照れてしまった。


「褒めているんじゃなくて呆れているんだがな……」


「私は褒めてるわよ?」


「えっ?」


「えっ?」


 何やら話がかみ合っていない様子だ。


「父さん……」


「あれ、これは俺が悪いのかなぁ?」


 褒められたのだから、そのままの意味として受け取るのは当たり前だろう。


 この場合、父さんが悪いと思います。



 それと、俺が普段通り話していたおかげかはわからないが、二人とも怒りを鎮めてくれたようだ。


 ピリピリした空気が多少和やかになった気がする。



「ねぇ、私たちはどうなるのかしら~?」


「殺すのか?」


「そんな物騒なこと、息子の前でするわけないでしょ」


「それ、息子の前以外で殺すって言っているようなもんじゃない?」


 俺たち家族が話に花を咲かせようとしていたが、相手二人が会話に割り込んできた。


 少々不機嫌になりながらも、母さんは答える。


「あなたたちには、聞きたちことがあるから殺したりはしないわよ」


「そうだな、俺たちの息子を誘拐したんだ。そのあたりについて詳しく聞かないとな」


 先程の怒りがない分、理性的に判断できるようになったのだろう。


 犯罪行為をしていたということより、俺を誘拐したことについて怒っているあたりは親なんだなと感慨深く感じる。


「素直に教えるとでも?」


 その両親の怒りに反して、相手を煽るように話す女性は怖くないのだろうか。


 余裕綽々といった笑みを浮かべている様子に、俺は以前と同じく不気味さを感じつつ警戒心を強める。


「なぁ、もういいか?」


 その時、男が不意に右手を自身の胸にあてた。


「どうぞ」


「何を———」


 何をするつもりだと問いかける直前、男が手を当てた部位が赤く光を放つ。まるで心臓から光を放っているようだった。


 その光が放たれた直後、光が強くなりそれと呼応するように彼の身体が変化していく。


「魔法を無効化するしているはずなのに、どうして……」


 身体が変化していく有り様より、俺としては魔法が発動してしまっていることの方が気になってしまった。


「あれは魔法じゃないのよ。ただ魔力によって人間の形態を魔物に変化させているのよ」


「そんなことが可能なのか……」


「現に目の前で起こっているじゃない」


「確かにそうだが……」


「あなたのは魔法を無効化しているだけで、魔力が霧散しているわけではないのでしょう?」


 この女性の言う通り魔力だけならば操作することは可能だ。


 俺のは魔法を無効化するだけであって、魔力そのものに干渉するものじゃない。


「なんだ、こいつ……」


 そのため、魔法を無効化していても目の前で変化をし続けていた。


 そしてその大きさが天井につきそうなほどに巨大になり、赤い光が収まりそれと同時に変化が止まった。

 

 大体五メートルくらいだろうか、全身に青い毛が生え、牙がむき出しになり、筋肉があり得ないほど膨らんでいた。


 巨大なゴリラのような感じだろうか。


「人間じゃなかったんだな」


「半分くらいは人間よ~」


「半分……」


 肉体改造なのか、はたまた彼も造られた存在なのか。


「人間と魔物を組み合わせる、禁忌をを犯したのね」


「彼自身が強くなるために望んだ道よ」


 そういう彼女は、だがその化け物になった男に殴り飛ばされた。


「理性がなくなってるじゃねぇか! お前が操るんじゃないのかよ!」


「研究成果に、殺されるのなら……仕方がないわよ……」


 肋骨が肺に刺さったのだろう。せき込む女性は同時に血を吐いていた。


 致命傷ではないだろうが、それでも直ぐに医者に見せたほうがいい。


「あっ、おい!」


 化け物は何故か女性を狙い、再び拳を叩き込もうとする。


 だが勿論俺は敵であろうとも殺させるようなことはしない。


「あらっ、私を助けるなんて甘いわね~」


「情報源が死ぬのが困るだけだ」


 横から抱きかかえ、化け物から距離をとる。そして後ろに放り投げ、臨戦態勢をとる。


 だが直後に、その俺と化け物の間に両親が入る。


「ちょっと翔夜、魔法を使えるようにして!」


「これじゃあ俺たち足手まといになる!」


「でも、それじゃあ……」


 女性の方をチラッと見て、判断を仰ぐ。


 魔法を使えるようにしてしまっては、この女性は逃げてしまうんじゃないかと。


「ここが崩れて、大勢が死ぬよりかは逃げられた方がマシよ!」


「……わかった!」


 危惧していたことよりも、大勢が死んでしまうことの方が優先して対処することだった。


 ここは海底なのだ。そこで暴れられてしまっては、この施設にいる他の人間が死んでしまいかねない。


 俺は魔法を無効化する魔法を解除する。そして父さんと母さんはすぐさま化け物に向かっていった。


 俺も参戦しようとするが、女が俺の袖をつかんで行かせようとしない。


「彼はね、理性を残して戦えると思っていたのよ」


「なんだ唐突に……? というか離せ」


「それを私が、理性が残らないようにしたのよ」


「……胸糞悪い話だな。あとさっさと離せ」


 父さんと母さんが戦っている中、俺は女性の相手をしなくてはならなく、イライラしてきた。


「彼には感謝しているけど、私の夢を否定したから、元々こうして殺すつもりだったのよ」


「話はあとで聞く。だから離せ」


 掴んでいる手を振り払い、俺は化け物の方へと走り出す。


「それとね、彼はここにいる『兵器たち』を操ることができるのよ」


 その発言に歩みを止め少し考え、そして俺は理解した。


「チッ……くそったれ!」


 つまりは、目の前で暴れているこいつと同じような造られた存在がおり、そいつらを操ることがこいつには出来るということ。


 そしてこいつだけ対処しても、他の人間が助からないかもしれないということだ。


「父さん、母さん!」


「なんだ翔夜?」


「早く手伝ってほしいのだけど?」


 俺は両親に呼びかける。


 二人は化け物と戦いつつも、俺の逼迫した様子に何かを察して耳を傾けてくれる。


「こいつ以外にも化け物がいるらしい! そんで俺はそっちに対処に向かおうと思う!」


「わかった、こっちは父さんたちに任せろ」


「必ず帰ってくるのよ」


「ありがとう!」


 たったそれだけしか言っていないが、それでも両親は俺のことを信頼して任せてくれた。


 二人が心配ではあるが、そうそう負けることもないだろう。


「さっさと倒して戻らないとな……!」


 俺は千里眼を発動し、魔物がいる場所を突き止めて走り出す。



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