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第百九十一話 親の力


 部屋の中心にあるイスに座らされ、手足を拘束される。


 これはマジでヤバいかなと思い、どうにか時間稼ぎをすることにした。


 その間に何か手がないか考えよう。


「今更なんだけど、目的はなんだ?」


「あら何? 私に興味でも沸いた?」


「違ぇよ、詳しく聞いていなかったからな」


 ただの時間稼ぎだが、こいつらの目的はまだちゃんと聞いていなかったからな。


 この話ならば少しくらいは時間を稼げるだろう。


「そういえば言っていなかったわね~」


「時間稼ぎに付き合う必要はない」


「そんな堅苦しいこと言わないで。最後なのだから教えてあげましょう?」


「最後……」


 どうやら今から行われることは、俺が死んでしまうことのようだ。


 少なくとも、俺の人格は亡くなってしまうことなんだろうな。


 早く対抗策を見つけないと。


「私たちはね、『神』を創ろうとしているのよ」


「神?」


「そっ、神様」


 何言っているんだろう、こいつは。


 俺は神の使徒だから近しい存在ではあるだろうが、それでもこいつらは俺のことを魔力量の多い少年としか思っていないだろう。


 神を創るなどという荒唐無稽なことは本当に可能なのだろうか。


「まぁそういう顔になるわよね~」


 おっと顔に出ていたようだ。


 意識してはいなかったが、訝し気な眼差しを向けてしまった。


「アポストロ教……」


 ふと、ポロっと漏らしてしまった。


 神に関することをするとしたら、俺の知っている限りそれしか思いつかなかった。


「あー、そんな宗教団体あったわねぇ」


「そんな潰れた組織と一緒にしないでほしい」


 確かにここの設備はかなりいい。見ただけで管理の金銭が注ぎ込まれていることは容易に想像できる。


 潰れた組織と比較するのは少々失礼に値するかもしれない。


 やはり組織が違うと考え方だったり価値観も違ったりするのだろうか。


 …………ん?


「……えっ、ちょっと待って、潰れてたの!?」


「そうよ。あなたを狙ったせいで、虎の尾を踏んでしまったのよ」


「そうか、潰れていたのか……」


 安心と後悔が同時に表出し、複雑な気持ちになった。


 もう狙われる心配がない安心と、自分の手で潰すことができなかった後悔。


 自分の手で潰したかったから後悔の方が少し気持ちとしては大きいな。


 というか、その情報の真偽はどうなのだろうか。


「いやちょっと待て、俺って意外と被害に遭っているんだけど、本当に潰れたのか?」


「潰れたからこそ、私たちは大胆な行動に出たのよ?」


「どういうことだ?」


「彼らはあなたのことを常に監視していたのよ」


「おっと初耳でちょっと恐怖を感じた」


「まぁあなたを狙っていたのは他にもいたんだけどね」


「恐怖が跳ね上がりました」


「だが、手を出そうとした連中はお前の仲間が捕まえていたな」


「あっ、ちょっと安心した」


 裏でそのようなことが行われていたなんて知らなかった。


 確かに誰か俺たちの周りにいるなと感じる時はあったが、四六時中監視されていたのだろう。


 もう少し警戒心を持つようにしよう。


「だから、その面倒な組織がなくなったことで俺たちは今回手を出せたわけだ」


「お仲間も今日だけは分散させて手薄にさせたしね」


「なるほど……」


 だからアポストロ教が潰れたということか。


 狙っている奴が他の組織に取られるようなことはしないな。しかも俺のようなイレギュラーな存在は特に。


「話が逸れてしまったけれど、つまりあなたを強大な力を使って神を創ろうとしてるのよ」


「神を呼ぼう、とは考えなかったのか?」


「……あなたは面白いことを言うのね?」


 何故か俺は嗤われてしまった。


 クソ女神が実際にいるのだから、創るよりも呼び出したほうが簡単なのではと考えたのだが、何がおかしかったのだろう。


「いるかもわからない存在を呼び出すなんて愚かなことはしないわよ」


「……そうか」


 実際にいると知られていないのか。


 なら俺の発言もおかしいことになるな。いないのであれば創るればいいわけだしな。




「もうそろそろいいかしら?」


「抵抗すれば、まぁどうなるかは想像できるだろうがな」


「そうだな……」


 もう時間稼ぎができずに、実験が始まってしまう。


「それでも抵抗するがな!」


 だがもう既に準備は整っている。


「なに……!」


「くそっ!」


 俺は眩い光を奴らの目の前で浴びせてやった。


「からのぉ!」


「なっ、魔法が……!」


「っしゃあおらぁ! これで魔法は使えないだろう!」


 強い光のおかげで数秒だが敵は無防備になった。


 その隙に魔法を無力化する魔法を発動し、拘束具を力ずくで外した。


「先程の閃光はどうやったの? 魔法を使う様子なんてなかったのに……」


「教えるわけないだろう! 企業秘密だ!」


 クソ女神から貰った魔法とは違った『能力』というものを使った。


 魔力で発動するものではないらしく、ではどうやって発動しているのかというのは全然わかってはいない。


 だがそのおかげで魔力の動きを見ていた二人に気づかれずに発動で来た。


「でも、あなたなら閃光を放った間に私たちを無力化できたでしょう。何故しなかったのかしら?」


「んなもん、情報を聞き出すために決まっているだろう」


 正直なところ、半分は本当で半分は嘘である。


 情報を聞き出せたらいいのだが、恐らくは話してはくれないだろう。


 そして俺が無力化しなかった理由として、力加減を間違えてしまいかねないからだ。


 魔法を使って眠らせる方法もあったが、こちらも力加減を間違えて永眠させてしまったらと考えて、魔法を使えないだけにしたのだ。


 ちゃんと考えて行動するときは、どうしても奥手になってしまうな。


「俺たちが話すとでも思っているのか?」


「勿論思っていない」


 ぶっちゃけるならば、この後のことはあまり考えていない。


「……取り敢えずこれを破壊するか」


「待って、話し合わない? さっきだって私たちもあなたの話に付き合ったわけだし」


「ん~、そうだなぁ、お互いに平等にしないといけないよな……」


 情報を聞き出すことよりも、魔法陣を破壊することにした。これがなければ俺が死ぬこともないだろうし。


 しかし目の前の女性の言うこともわからないわけではい。時間稼ぎだとわかっていても俺の話を聞いてくれたわけだし。


「だが生憎、俺がお前らの言うことを聞く必要性はないんでね!」


 敵に合わせる必要性など皆無。自らが勝手に行ったことなのだから。


 俺は神の使徒であるため、魔法が使えなくとも常人ならざる力を出すことができる。


 拳を振り上げ、地面に描かれている魔法陣を地面ごと破壊しようとした。


 その刹那、ここの部屋の扉が蹴破られた。


「お母さん、登場っ!」


「翔夜、無事か!?」


「母さんに父さん!? どうして……?」


 入ってきたのは、両親だった。


 何故ここに両親が来たのか、また俺のために来たのか、他にも聞きたいことが山ほど溢れてきた。


「息子が危険な目に遭っているのに、駆けつけない親なんていないでしょ!」


 聞きたいことが色々あったはずだが、その母さんの発言を聞いて忘れてしまった。


 ここに来るまでに両親から雑な扱いをされていたため、まさかそのような発言が聞けるとは思っていなかった。


 どれだけ俺のことを適当に扱ったとしても、それでも親なんだなと感じ嬉しく思う。


 だがそれと同時に、普段から優しく接してくれないかなとも思う。


 確かに普段から色々と問題ばかり起こして迷惑をかけまくってることは認めるけど、それで仕事を間接的に増やしているんだろうかとは感じているけれども、もう少し俺に優しくしてほしいです。


「普段から優しかったら素直に感動できたんだけどなぁ……」


「翔夜、親でも愛は無限じゃないのよ。問題を起こして仕事を増やして私たちの睡眠時間を減らさないようにしてほしいわ」


「そういうこと普段から言ってほしかった! 俺頭悪いのと察しが悪いから言ってくれないとわからないです!」


「今までは息子に心配させないようにしていたのよ」


「そうなの、なんかごめん!」


「まぁ睡眠時間のことは嘘なんだけどね」


「えぇ今の場面で嘘つく必要あった!?」


「主にお父さんが睡眠時間を削ってる」


「まさかの父さんが被害を被ってた! 本当にごめん!」


 感動の再開とはいかなかったが、それでもこれは俺たちらしさがあっていいのかもしれない。


「お母さんといちゃつく時間が減るから自重してくれ」


「ん~ごめん! でもホント半分くらいは俺のせいじゃないと思う! 俺が原因だろうけども!」


 敵の組織にいて、そして目の前に敵がいるということも忘れて話してしまっている。


 そのせいか、俺の心に先程までなかった余裕ができていた。


 もしかしてワザとなのだろうか。いやまさか、そんなことあるわけないか。


「というか、二人はどうやってきたんだ?」


「あのね、息子に出来て私たちができない通りはないのよ!」


「つまりだな、転移してきたんだ」


「いや、あの、転移魔法は見たことのある場所しか跳べないし、しかもここら辺は魔法を無力化する魔法を発動しているんだけど……」


 千里眼は、俺のような魔力が無尽蔵にある人物でもない限り、こんな海底にある場所を見ることなんてできない。


 それに転移魔法だって、本来は個人で発動できるようなものではないのだ。


 いったい二人はどうやって駆け付けたのだろうか。


「破壊された転移門を直して駆けつけたんだよ」


「自分の両親がチートで、俺が小さく見えてくる……」


「十分翔夜の方がチートだと思うがな」


 転移門という、一般的ではないものを修復して来たというのか。


 さらにそれを数時間もかからずに直したというのも驚くべきことだろう。


 というか、扉のあたりまで魔法が無力化されているはずなんだけど、母さん確か蹴破ったよね。


 素の力で扉が吹っ飛ぶほどの脚力が出せるの凄くない?



「さて、私たちの息子を誘拐したこと、どう落とし前付けてくれるのかしらね~?」


「そうだな、こんな問題児でも、大切な息子なんだ。ここままでは腹の虫がおさまらないな」



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