第百八十九話 共闘、強奪
「それはなんだ?」
取り出したものを見て、明らかに良くないものだということはわかった。
禍々しい魔力が溢れ出ており、アレを持っている女性の気が知れない。
「これはね~、こう使うのよっ!」
そういうや否や、女性はその球体を地面へと叩き付け粉々に粉砕した。
その直後、黒い靄のような魔力が溢れ出し、その霧のような魔力が生き物を形作っていく。
「あーあ、ここで使っちまうのか」
「いいのよ、お仕置きには丁度いいわ」
「だけどよ、勿体なくねぇか?」
「どうせ廃棄する予定だったのだから、勿体なくないわ」
「まっ、それもそうか」
目の前の二人が話し終わるころには黒い霧は晴れ、しかしその中から多数の異形の存在が現れた。
魔物というにはあまりにも不自然な、それでいて魔物としての特徴である魔力は感じられた。
「これは、魔物なのか……?」
「……魔物、だけど違う……」
「どういうことだ?」
「……この子たちも、造られた存在……」
「人造人間ならぬ、人造魔物ってことか?」
角が十数本生えている魔物や、目がなくその代わりに口が三つある魔物、身体は人間のそれであるにもかかわらず、頭部が一つの眼球である魔物までもいる。
そのどの魔物にも共通しているのは、明らかに俺たち二人だけを狙っているということ。
この後どうするか考えつつ、情報収集を兼ねて隣にいる女性に尋ねる。だが、俺の問いに答えたのは目の前にいる不気味な笑みを浮かべた女性だった。
「少し違うわね~、この子たちは私たちが合体させた魔物たちよ」
「まぁ人造っていうのは、あながち間違いでもないな」
「一から作り上げたというより、元々ある身体をうまい具合につなぎ合わせただけの連中なのよ」
「言うなれば、失敗作だな」
「失敗作……?」
俺はその言葉に耳を疑った。
確かに魔物は人間に害を及ぼす存在である。排除するべき対象であるということは俺もこいつらも変わらないだろう。
だがしかし、俺は目の前にいる存在が、魔物だけではないと考えている。
「その失敗作の中に、人間はいるのか?」
「……やっぱり、見た目が人間だからそう思ったのかしら?」
「それもあるが、魔物の魔力以外にも感じるんだよ……」
「変なところで勘が鋭いのかしら?」
「どちらかと言うと、魔力に対する眼が他の人間より冴えているのだろうな」
二人が話していることで、俺は理解した。
俺の目の前にいる魔物の中に、人間が混じってしまっている。
「人間を、実験台に使ったのか……!」
「一応言っておくけど、只の人間ではないわよ」
「只の人間ではない、だと?」
「普通に働いている人を誘拐したら、簡単に足がついてしまうじゃない? だから、普段から犯罪に手を染めているような、いなくなっても問題ない人間を主に使っているのよ」
こいつらはそれを言えば俺が怒りを抑えるとでも思っているのだろうか。
確かにそのような連中何ぞ、どうなったところで俺の良心が痛むようなことはない。
だがこいつは、いなくなっても問題ない人間を『主に』使っているといったのだ。
「全員が、悪人というわけじゃないんだな」
「えぇ、その通りよ」
何の悪びれる様子もなく、寧ろそれが普通であるかのように答えた。
そのことがに対し、俺は怒りに任せて魔力を解放した。
「おいおい、そんな魔力をだだ漏れにしていいのか?」
「……何が言いたい」
普段は魔力を漏れないように抑えているが、こういう場合は牽制や脅しにも使えるため敢えて漏れさせている。
しかし目の前の男は、俺が魔力を解放することを遠回しに止めたほうがいいと言ってきた。
「そいつらな、魔力を吸って力を蓄えるんだよ」
「……それがどうした?」
たかが力を蓄えたところで、俺の魔力は実質亡くなることはないだろう。
それに例え力が増したところで、俺の敵ではないだろう。
だが俺の問いに対し、隣で臨戦態勢である女性が答えた。
「……増えすぎた力は、体に毒となる……」
「つまり、俺が魔力を出せば出すほど、こいつらが苦しむと?」
「そういうことだ」
「なるほどな……」
人間が目の前にいるということで、それを言えば俺が怯むと思ったのだろう。
だが残念だったな、俺がその程度で怯むような人間ではないんだよ。
「要するにだ、人間以外は始末しても問題はないわけだろ!」
俺は感じ取った魔力の中から、人間以外の、魔物の魔力しか発していない化け物だけを選別した。
そして一匹ずつ、俺は殴り飛ばした。
俺が殴るだけで化け物の頭部は吹き飛び、その身体を支えられなくなり倒れていく。
「はっ、普通の魔物より脆いなぁ!」
「……手伝う……」
隣にいた女性は、俺の攻撃に続く形で他の化け物を狩り始める。
どんな魔法を使うのだろうかと気になり、目の端で観察してみると、なんと彼女の左腕が爬虫類のような鱗で覆われており、まるで俺の使い魔の未桜と同じ、竜のようであった。
その鉤爪で化け物の身体を切り裂き、次々と絶命させていく。
「……あまり見ないでほしい……」
「あ、あぁ、すまんな」
あまり見られていいものではないのだろうな。
だがどうして、そんないいものを隠すのだろうか。
「綺麗だし、カッコいいと思うんだけどなぁ……」
「……告白?……」
「どうしたらそう捉えるかな!?」
魔物を狩りながらでも、軽口を言えるくらいは俺たちは余裕があった。
「じゃあ、とっておきを使おうかしら?」
「……なんだそれはぁ!?」
魔物を狩りながらも、女性が手に持っている者に目をやる。
それは筒状の、先端にスイッチのあるものだった。
「起爆スイッチか!」
「ご名答。これが押されたくなかったら———」
「あのなぁ、俺は今魔法を使えるんだぜ?」
俺は重力魔法と風魔法を同時展開し、女性の手元から俺の手元にスイッチが来るように魔法を発動した。
「なっ!」
「これで、俺を脅すものはなくなったな!」
手のひらにあるスイッチを握り潰し、これでもう俺を脅すことは叶わなく———
「なんちゃって」