第百八十七話 牢獄の過ごし方
俺は通路を歩かされる。
監禁されているエリアは過ぎたようで、俺の精神衛生上よかったかもしれない。
あそこにいた人たちは助けるとして、どうにか隙が出来ないものか思案する。
だが現在、目の前に女性、後ろに二人控えているとなると、正直難しいだろうな。
あと海底という言葉を聞いて、正直なところメンタルが落ち込んでいる。
「誰か助けに来ると思ったのかしら?」
「思ってたよ、その話を聞くまでな……」
俺はこの場所はどこか人気のない廃屋とか、地下施設だと考えていた。
だから時間が経てば、誰かしら俺を探し出してくれるだろうと思っていた。
しかしだ、海底にいるのならば見つけ出すことは難しいだろう。
水深にもよるだろうが、そもそも海底に連れ去られるなんて誰が考えるだろうか。
「そうだ、転移魔法を使えるって聞いていたし、私たちの前からいなくなったら水族館爆破に加えて、ここを捨てるわね」
「……それは、いいことでは?」
ここを捨てるというのなら、アジトの場所を変更するということだろう。
何故それが脅しになっているのかわからなかった。
「何か勘違いしていそうだけど……ここを捨てるということは、こいつらは海の藻屑と化すのよ?」
「なっ……!?」
「理解したみたいね」
俺は自然と、ここにいる生き物全ても一緒に移動するのだと考えていた。
だが実際は、ここの施設と捕らわれの人たちも一緒に破棄するということだ。
「くそったれめ……」
「誉め言葉として受け取っておく」
「私たちは目的のためなら何だってするのよ」
ここに連れてこられてから思っていたことだが、人をさらっておいてまともなわけがない。
「……三つ首って、野蛮な連中だったんだな」
「野蛮だなんて失礼ね~」
「俺たちをあんな下の連中と一緒にしないでほしいな」
「……下の連中?」
「お話はそれまでよ」
三つ首には階級でもあるのかと質問しようとしたが、どうやら目的の場所に来てしまったらしい。
「お前はこの部屋に入れ」
「うっわ牢獄じゃん……」
「さっき見てきた奴らの牢に比べればいいだろう?」
「……俺は大事な実験体だもんな?」
「そうだ」
連れてこられたのは、囚人が入るであろう牢屋であった。
正直もう少し俺の扱いをどうにかならないものだろうか。こいつらの言うところの、大事な実験体なのだから。
「ここに入ったら、これに着替えろ」
「着替えるのか……」
男が渡してきたのは、薄く白い布製のものだった。
それを持って大人しく中に入り、どんなものかと広げてみる。
それは、俺の背丈でも引きずりそうなほど長いものだった。
ものしかもよくよく見てみれば、服ではなくただの布切れだった。
「……これは、服じゃないのか?」
「羽織れば立派な服だろう」
「服の概念が覆されたよ……」
「身につけているんだから、何だって変わらない」
確かにこれだけ長ければ身体に巻いたりしてある程度は隠せるだろう。
しかしだ、布を巻いていても服ではない。何かの拍子に取れてしまって、俺の聖剣エクスカリバーが御開帳してしまったらどう責任取ってくれるのだろうか。
「……せめてどこかに行ってくれないか?」
「何故だ?」
「……パンツ一丁を見られるのは恥ずかしいんだよ」
「パンツも脱げ」
「俺の息子に興味が!?」
「ねぇよ! お前が何かするかもしれないから見張ってるんだよ!」
「あぁ、なるほど……」
俺は少々貞操の危機を感じたが、どうやら俺の勘違いだったようだ。
そうだよな、何か怪しいものを隠し持っているかもしれないし、全部脱がせるのは普通のことか。
「でもあの、俺も一応思春期真っ盛りの男子高校生なんすよ。配慮ってないっすかね?」
「誘拐されてきた人間が何言ってんだ」
ぶっちゃければ、俺はこの理由を言い訳にしてこいつらを拘束しようと考えている。
魔法を無効にする魔法は既に使える。ならば水族館を爆破させられる心配もない。
「仕方がないわね~」
「おい、いいのか?」
女性は俺の顔を一瞥して、そして牢屋の前から離れていってしまった。
「いいのよ、もし何かすればわかるように監視カメラがあるし」
部屋の天井の隅に、あからさまなゴツイカメラがあるのを見つける。
「だがよぉ、魔法を使われたら……」
「彼女を置いていくから大丈夫よ。それよりも私たちは準備の方を進めましょう?」
「……そうだな」
一人を置いていくということで話がついたようだ。
おば———女性のあとに続くように、男も歩き出した。
そしてここに残されたのは俺と、目の前の外套を被った者だった。
「あまり女性に裸を見られるのは恥ずかしいんだけど?」
目の前の女性は、俺の一挙手一投足を見逃すまいとこちらを見続けている。
俺の恥じらいに動じることなく、彼女自身の目的を全うしている。
「俺の身体に興味あるとか?」
適当に話しかけてみる。
「それとも、仕事人間で仕方なくとか?」
話しかけては見るものの、返答が全くない。
「動揺もしてくれないなんて、俺自信なくすなぁ……」
どんな発言をしても全く反応を示してくれないため、俺は渋々着替えることにした。
「いやでもこれ、肌触りはなかなか……」
嫌々ながらも俺は服を脱ぎ、白い布をいい感じに服に見えなくもないように羽織る。
すると、以外にも肌触りの良いものだったようで、俺は内心喜んでしまった。
「さて、この後はどうするか……」
着替えてもすることがなければ暇な時間である。
「誰か来るまで暇だから、話し相手になってくれないか?」
暇をどうにか紛らわすために話しかけるも、見事に全てがスルーされてしまう。
「最後に話すかもしれないんだから、いいだろう?」
最後にするつもりは毛頭ないが、何かしら返答を期待しての発言である。
何かしら彼女から有益な情報を聞き出して、そして逃げ出してやると考えていた。
「……余計なこと、喋らないなら……」
「……サンキュー」
どうやら情けをかけてくれたようだ。