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第百八十六話 誘拐された理由


 俺は拘束されることなく、女性の後をついていっている。


 水族館から近くの山の中に進んでいき、現在登山をしている。


 勿論後ろから監視の目があるため、下手な行動はできないわけだが。


 だが俺がこいつらに大人しくついていくと思ったら大間違いである。


 散々引っ掻き回してやろうじゃないか。


「そんでさ~、そこで沙耶がさ~!」


「この状況で彼女の惚気話を話せるなんて、大物ね~……」


 俺は自分に対して拘束が緩いことをいいことに、先程の水族館での出来事をこいつらに聞かせてやった。


 下手な真似はできない。ならば今俺ができるのは、口による攻撃である。


 喋ることは禁止されていないわけであるし、俺が満足するまでずっと語ってやろう。


「おいお前、少し黙れ」


「おいてめぇ俺の沙耶が可愛くないのか黙って聞きやがれ!」


「すんごい理不尽だなこいつ……」


 俺の話を聞きたくないってことは、沙耶の話に興味を持っていないということ。


 つまり沙耶はつまらない女ということに繋がる。


 おいおい、沙耶を馬鹿にするやつは俺が許さないぞ。


「さっきの話の続きだが、沙耶は少し興奮気味に俺の手を握ってきたんだよ! もうヤバくね!?」


「もしかして連れてこられる前にお酒飲んでる?」


「うるせぇお前たちのせいで沙耶とのデートが途中でなくなっちまったんだよ! これくらい語らせろ!」


 本来であればもう少しデートを楽しめたかもしれないのだ。


 それなのにこいつらのせいで俺たちのデートがおじゃんである。


 例え敵であろうとも、これくらい話していいだろう。寧ろこれくらい話さないとイライラして魔力をまき散らしてしまいそうになる。


「お前、自分の立場がわかっていないようだな?」


「お前も俺の沙耶の可愛さがわかってないようだな!?」


「もうこいつ嫌……」


「コミュニケーションはとってほしいわね~」


 こうやって理不尽に話してみたが、男の方は俺とかかわることを避けるようになっていった。


 関わりが減れば隙ができると考えての行動であったが、うまくいったな。


 女性は相変わらず不気味な笑みを浮かべながら俺を横目に見てくる。あの目には少々嫌悪感を抱いてしまうな。


「これ以上無駄話をするなら、女の命は———」


「沙耶の命が、何だって?」


 その発言の直後、俺は魔力が身体からあふれ出してしまった。


 その直後、後ろに控えていた二人が飛びのき、臨戦態勢をとる。


「ダメよ、彼はあの子のためなら文字通りなんだってしようとする子なんだから」


「よくわかってるじゃん、おば———」


「私もね、怒ると何する変わらないのよ?」


「すんません」


 俺は怒りと魔力を収め、それと同時に後ろに控えている二人も臨戦態勢を解く。


 人には言ってはいけない禁句のようなものがある。


 竜の逆鱗に触れないよう、己に言い聞かせないと目の前の女性を本気で怒らせてしまいかねない。


 そう俺が内省していると、前を歩く女性が立ち止まり俺に近づいてくる。


「……因みに聞きたいんだけど、どこら辺が若いって思わないの?」


「……おぅ、えっと……そうですね、見た目は確かに若く感じるんですけど、仕草が少し腰を気にした行動だったり……やっぱり一番は匂いですかね」


「腰……は仕方がないとして、匂いって?」


「多分本人は自覚ないと思うんですけど、香水の匂いが結構きついっすよ?」


「……マジ?」


「マジっす」


「そう……気を付けるわ」


「なぁあんたら、敵同士だよな?」


 女性はいつまでも若くいたいのだろう。


 その気持ちを理解できないわけではないが、それでも客観的に見ていると無理をしているように見えてしまう。


 俺は無理をして若く見られようとするよりも、自然に歳をとっていく方が人間らしくていいと思うのだがな。








 ===============








 数十分ほど歩いただろうか、俺たちの目の前に三メートル四方の『闇』が鎮座していた。


「これは……」


「ゲートだ」


「いわば、あなたと同じ転移魔法を人工的に行うことができる装置ね」


 たどり着いたそこは崖のようになっており、そこに這うように闇が広がっているようだった。


 それがゲートと呼ばれ、別の場所に繋がっているのだろう。


 よく四方を見てみれば、幾何学的な魔法陣が刻まれた、手のひら大の杭が打ち込まれていた。


「そんなものがあるのか。知らなかったなぁ……」


「そりゃあ、一般的に知られていないものだしね~」


 一般的に知られていないものをこいつらが持っていること自体おかしなことだが、現に目の前にあるわけだ。


 財力があるのか、権力があるのか、発明力があるのか、はたまた魔法力があるのか。


 何にしろ、敵が思っていた以上に大きな組織であると認識せざるを得なかった。


「行け」


「わかっていたけど、ここを通るのかよ……」


 俺はゲートへと足を踏み入れる。


 中は暗かったが、前の女性は見えたためそれについていくこととした。


「安心して、あなたの身の安全は保証するから」


 ここに連れてこられる間にずっと感じていたことだが、こいつらは俺が出来る限り傷つかないように接してくる。


 後ろの男も乱雑な言い方をするが、俺に触れようとさえしてこない。まるで、ガラス細工を扱うかのようだった。


「……やけに優しんだな?」


「そりゃあ、大事な実験体だからな」


「あっ、やっぱりそういう目的で連れてきたんだ……」


 俺を連れてきた理由なんて限らてくる。


 天才的な知恵を持っているわけでも、周りを引き付ける容姿をしているわけでもない。


 他の人になく俺にあるものといったら、絶対的な魔法と無限にある魔力量だろう。


 だからこそ、俺の身体を気遣ってくれるのだろうな。


「お前のような稀有な存在は滅多に見つかるものじゃないから、余計な」


「……俺だけってことはないだろ?」


「そりゃあな。だが、今回はお前だけだ」


「何故だ?」


 これほど手の込んだ誘拐をしたのだ。俺一人なわけがないだろう。


 勿論あの場では俺だけだったかもしれないが、俺の予想ではもっと誘拐をしていると踏んでいる。


 それでも、なぜ今回俺だけだったのだろうか。


 俺一人だけでも誘拐することにかなりの戦力を使っていると考えることが普通だろう———


「一番馬鹿そうで誘拐しやすそうだったからな」


「うっわ想像していたより遥かに酷くて泣きそう!」


「事実、簡単に誘拐できたわけだしな」


「くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 いや俺は別に簡単に誘拐されたわけじゃないし。


 言いなりになってついていったのは、こいつらの目的やアジトを突き止めるためにワザとついてきただけだし。


 決して、人質をとられて為す術なくついていくしかないとか考えていたわけじゃないからな。


 そんなことを考えていると、闇の中に光が差し込んできた。


「ここが目的地よ~」


 俺は突然のまぶしさに目を覆い足を止め、しかし直ぐに順応して何処に連れてこられたのか見渡す。


「これは、酷いな……」


 そこには、両サイドに檻がいくつもあり、そこに人から魔物、そして人ならざる者まで様々な生き物が監禁されていた。


 人までも監禁されているのを見るのは少々堪える。


「フィクションの、奴隷市場みたいだな。胸糞が悪い……」


「実際の奴隷の方がまだいい生活してそうだけどな」


「腐ってやがるな、お前ら……」


「一応言っておくけど、ここでも妙な真似をしたら水族館を爆破するからね~」


「……わかったよ」


 ここでバレずに檻を破壊してやろうかと思ったが、俺を見て何をしようとしているのか察したのだろう。


 人がいるということで少々魔力が漏れてしまっているから、怒っていることが丸わかりである。


 監視されているのなら、バレずに破壊するのは難しいだろう。これは機会を見て助けに来るしかないな。


「こいつがお前をずっと監視しているから、妙な真似はすぐばれるからな」


 大柄の男が、隣の人物を指さし不敵な笑みを浮かべる。


 少々小柄で、外套のフードを深々とかぶっているため表情を伺うことができない。


 だが、大柄の男よりかは強くはないのではないかと考えた。


「……つまり、そいつを最初に片づければいいわけだな?」


「こいつが死ぬ、ないしは意識をなくす事でも爆破させることができるように魔法をリンクさせている」


「チッ……」


 どうしたら打開できるか考え、俺は一応従ったふりをして少し試してみることとした。


 だがその直後、俺の一挙手一投足を監視している人物が俺を指さす。


 そして大柄の男が俺に詰め寄る。


「お前、何の魔法を発動しようとしたんだ?」


「おいおい、これもバレるのか……」


 俺は今、一般人なら気づくことができないほどの小さな魔法を発動させようとした。


 だがそれはバレてしまったようだ。


「答えろ」


「……答える必要があるか?」


「答えなければ、わかるな?」


 男は手に魔法陣を浮かび上がらせる。


 それは俺を攻撃するものではないことはわかる。水族館を爆破させるぞと言外に伝えているのだろう。


「……消滅魔法だ」


「それで俺たちを消そうとしたのか」


「そんなことするわけないだろ。するならここに来る前にもうしている」


 消滅魔法でこいつらを消し飛ばすことなど造作もない。だが俺は殺人なんてしたくないし、それにメリットがない。


 ならどんな理由で消滅魔法を使ったと言ったのか。


「デート中からすんごいトイレ行きたかったんだよ!!!」


「…………あー、なるほど」


 俺の発言で男は理解してくれたようだ。


 トイレに行きたくて消滅魔法を使うと言ったら、もうそれしかないだろう。


「そういうことは言ってくれ。融通は少しなら聞かせるからよ」


「そうよ、あなたの体は大切なものなんだから」


「やっぱり、俺の体が一番大事なんだな……」


 だが勿論、俺は消滅魔法を使わなくとも尿意や便意は我慢くらいできる。


 ならなぜそのような嘘をついたのか。


「問題は自分も使えなくなることだな……」


「何か言ったか?」


「いや、漏らしていないかちょっと不安になっちまってな……」


「……どうせ着替えるから気にするな」


 俺は考えただけで魔法を発動することができる。そのため、俺は『魔法を無効化する魔法』を新たに作った。


 ただ問題は、俺自身も使えなくなるということ。当然のことだが、身体能力は常人よりも遥かに強い。


 それでも、彼らから安全に逃げられるとは限らない。そもそもこの場所がどこかさえもわからないのだ。


 それを少し試そうとして、先程バレてしまったわけだ。


「あーそうそう、あなたのことを探している人たちはねぇ、来ないと考えたほうがいいわよ?」


「……何故だ?」


 俺のことを監視している人は常にいたはずだ。


 だからここにたどり着くのも時間の問題と考えていたのだが、女性は以前として不気味な笑みを浮かべて、まるで自慢するように俺に語った。


「私たちの本部はバレないように隠ぺいの魔法をかけてあるのよ? しかも~、ここ、海底にあるのよ~!」


 隠ぺい魔法のかけられた建物が海底にあると。


 つまり先程の魔法陣をくぐってくる以外に正攻法で来ることはほぼ不可能ということである。


「因みにあの転移門……さっき通ってきたところは、一度しか使えないから連中がくる心配もないわ~」


「万事休す……」



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