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第百八十五話 嵌められた

遅れてしまって申し訳ありません。



 外に行くと、そこに黒い外套を身に纏った人間が数人いた。


 まだ夏の蒸し暑さの残る昨今、フードまでかぶっていたその者たちは、男性か女性かも判断がしにくく、僅かに目元まで見える程度だった。


 こちらに敵意はなく、だがこちらを見つめてくるその双眸は、不気味というほかなかった。


「あの、なんでしょうか?」


 宇賀神さんに言われた通り、外に来てみれば直ぐに囲まれてしまった。


 念のため沙耶を後ろに下げ、いつでも行動できるよう、沙耶を守れるよう警戒心を高める。


「纐纈、翔夜だな?」


「だったら、なんですか?」


 外套を纏った奴らのうち、ひと際ガタイのいい男が声をかけてくる。


「君は転移魔法を使えるそうだな」


「……さぁな」


 状況がわからない。


 この人たちは宇賀神さんが言っていた仲間かもしれないと、最初はそう考えていた。


 だが味方だったら何故このような問答をするのかわからない。


 俺が転移魔法を使えるなんてことは知っていることであるし、それに尚且つ、何故自分たちが味方であるということを言わないのか。


「翔夜……」


「大丈夫だ」


 不安に思っているのは沙耶も同じようで、俺に寄り添うようにくっついてくる。


 俺は沙耶の手を握り、安心させようとする。


「お前たちは何者だ?」


 逃げるにしても、まずは情報を確保してから判断しよう。


 もしかしたら味方という可能性もあるわけだし。


「私たちが何者かなんてどうだっていいの」


 俺の問いに、ガタイのいい男ではなく隣の女性が答える。


 声から判断しているから実際の性別はわからないが、ねっとりしたような話し方をしていて気持ち悪かった。


 そしてその一人の女性がこちらに近づいてくる。


 僅かに口元しか見えないが、笑っているのが伺えた。


「あなたが纐纈翔夜で、転移魔法が使える人材で、魔力が多くて、そして———」


「それ以上近づくな」


 本人は嬉々として語りながら近づいてくるが、これ以上近づけてはいけないと本能が判断して制止させる。


 右手を前に突き出し、いつでも魔法を放つ準備をする。


「もう少し近づきたかったのに……」


「近づいたらぶっ飛ばす」


「怖いわね~」


 残念そうに肩をすくめ、だが以前として不気味に感じる笑顔は浮かべたままだ。


 手を伸ばせば届くという距離にいるわけではない。


 それでもこれ以上近づかれると気味が悪かった。


「まぁいいわ、私は話し合いが出来ればそれでいいの」


「そんな時間があるとでも?」


「あるわよ」


 その女性は辺りを見渡し、そして俺にもそれを促す。


 警戒をし目の片隅に女性を捉えながら、俺も辺りを見渡す。


「ねぇ、静かだと思わない?」


「……なんでだ?」


「たぶん、結界だと思う……」


「結界?」


 俺の疑問に、後ろにいる沙耶が答えた。


「あらあら、賢いわね~」


「いつの間に……」


 沙耶の考えは当たっていたようで、結界が張っているようだった。


 だがいつ発動したのかわからなかった。


 魔法が発動した気配もしなかったのに。それとも俺が気が付科なかっただけだろうか。


「最初からよ~? 発動したら気が付かれるから、元々巧妙に隠した結界を貼っていたのよ」


「人払いの結界か……」


「正確には違うけどね~」


 俺たちの疑問に嬉々として答えれくれた。


 恐らくこの結界は、ある時間になったら人がいなくなるような結界なのだろう。


 初めから発動し続けていれば、確かにそれでは気が付かないだろう。普通に水族館に使われている魔法かと思っていたし。




「そういえば、お仲間なんで来ないんだろうって思わない?」


 そうだ、この女性のいう通り、宇賀神さんから何もコンタクトがないのだ。


 指示を受けて来てみればこの通り、敵に囲まれた状態だった。


「まさか、裏切り……」


「いや、母さんの組織に所属している人がそんなことをするとは思えない」


 口ではそう言っているが、ただ俺もそう思いたいという願望である。


 連絡を貰ってのこれでは、俺も考えないようにしていたが裏切りを予感させてしまう。


「裏切りだったらよかったんだけどね~」


「ということは……」


「残念ながら裏切ってないわよ」


「じゃあ、あの連絡はいったい……」


 良かった、宇賀神さんは裏切ってなかった。


 ひとまず安心したが、それでは何故先程連絡が来たのだろうか。


「私たちの組織にもね、ハッキング技術を持った人間がいるのよ」


「なるほどな。まんまと俺たちは引っ掛かったわけだ」


「そういうことっ」


 声色から嬉しそうにしているのは察したが、俺はそんなことを相手がしてくると考えられなかった自分自身に苛立ちを覚える。


「ごめん、翔夜……」


「いや、これは沙耶のせいじゃない。誰だって気が付かないだろう」


 だが沙耶が申し訳なさそうにしていたため、ここで俺が苛立ってしまっては行けないと感じた。


 冷静になり、そして沙耶が罪悪感を抱かないようフォローする。


「監視していると思っていた方が監視されていたのよ。どういう気持ちかしらね~」


 苛立ちを抑え込み、そしてこれでは誰かが来ると考えないほうがいいだろう。


 俺たちでどうにかするしかない。


「俺たち今、実習中なんだ」


「知ってるわ」


「だから、無理に戦う必要はないんだよ!」


 どうにかするといっても、俺たちは学生で実習中である。


 無理をする必要はないのである。


 ということで、俺は沙耶とともにどこかに逃げてやろうと考えた。


「あっ、転移魔法で逃げたら水族館にいる人たちの命の保証はできないわよ」


「ずっる!?」


「賢いと言ってくれないかしら?」


 人質を取るのは常套手段だろう。


 至極当たり前のことであるが、俺はその可能性を全くといっていいほど考えてなかった。


「一応言っておくけど、助けも来ないわよ~」


 何を根拠に、と普通なら思うかもしれないが、今この現状で誰も来ていないのだから嘘ではないのだろう。


「なら———」


「攻撃を加えようとしても、遠慮なく水族館を爆発させるわ」


「くそったれ……!」


 俺の思考を先読みしているかのように女性は答えてくる。


 まぁ俺の考えが読みやすいのかもしれないがな。


「……何が望みだ?」


「漸くしっかりと話し合いをしてくれるようになったわね~」


 俺のことを指さし、そして声を高々に宣言する。


「あなたには、私たちと一緒に来てもらうわ!」


「……もし、断ったら?」


「爆破かしらね?」


「チッ……」


 どう転んでも、俺には人質がいるため下手な行動はできない。


「あー一応言っておくけど、午前中と同じように下手な真似したら……わかるわよね?」


「お前は……!」


 目の前にいる女性がフードを外した。


 そこに見えるのは、今日少し前に出会った、人質になっていた女性だった。


「あの時のおば———」


「ぶっ殺すわよ?」


「何でもないっす……」


 下手なことしなくても、下手な事を言ってしまってもダメなようだった。


 そして下手なことには、使い魔を呼ぶことも含まれるのだろう。


「こちらも聞くが、用があるのは俺だけなんだよな?」


「えぇ、その子はいらないわ」


「なら、沙耶……」


「……なに?」


 俺だけがいればいいわけで、沙耶が危険にさらされることはない。


「沙耶は宇賀神さんのところに行って、このことを伝えてきてくれ」


「そ、そんな……ダメだよ!」


「大丈夫、いざとなれば転移して逃げるし。それに心強い味方が二人いるしな」


「でも……」


「ありがとな。俺は今度こそ大丈夫だ」


 頭をなで、笑顔で安心させる。


 前科があるから安心させることができないことは百も承知だが、俺には是しかできない。


「彼女さんとの別れは済んだかしら?」


 女性が急かしてくる。


 だがこれは今生の別れではない。今は俺はこの選択しか出来ないが、人質がいなければ俺は転移魔法で逃げればいい。


 何なら辺りを破壊しながら逃げ出してしまえばいい。俺を止められる人物なんて、同じ神の使徒しかないのだから。


「さてと……じゃあ、連れていけよ」


「ふふっ、ついてきて」


 女性が歩き出したその後ろをついていく。


「翔夜!!!」


「すぐ戻るよ!」


 今にも泣き出しそうな沙耶を背に、俺は女性についていった。


「一応忠告しておくが、彼女に手を出したらぶっ殺す」


「わかってるわよ、私はあなたにしか興味がないのだから」



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