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第百八十四話 お土産を選ぶのって時間かかるよね


 俺と沙耶は宇賀神さんと別れてお土産を買いに行くことにした。


 宇賀神さんはというと、スキップしながらイルカショーの方へと向かった。


 あれ絶対イルカショー楽しむつもりだろ。


「俺たち、実習中なんだよな」


「そうだね」


「俺が言うのもなんだけど、こんなに楽しんでいいのかな?」


「宇賀神さんが……指導してくれる人がいいって言ってるんだから、いいと思うよ」


「……そうだな」


 キーホルダーを手に取り、値段とにらめっこしながら何がいいか悩む。


「あまり高いのは買えないね~」


「……あっ、値段のことは気にするな。俺が沙耶の分まで買うから」


 俺には魔物を狩ったお金がある。


 それに沙耶にお金を出させるのは何故か男として許せなかった。


「えっ、いいよ! 自分のものは自分で買うから!」


「いいっていいって! ここは彼氏である俺に見栄を張らせてくれって」


「で、でも……」


「じゃあこうしよう! 次、どこか遊びに行ったら、その……お揃いのものを買ってほしい……」


「えっ、買わないの?」


「えっ……?」


 沙耶は少々落ち込んだ様子を見せる。


 俺はてっきり家族や友人に向けて買うつもりでいた。だが考えてみれば今二人で選んで買ってもいいじゃないか。


「あの、よろしくお願いいたします……」


「……ふふっ、喜んでっ」


 俺たちは何がいいか選び始めた。


「まぁ友達には食べ物を買えばいいとして……お揃いなら何がいいんだ?」


「無難にキーホルダーとかかな?」


「なら、この辺りになるけど……沙耶は好きな魚とかいるか?」


 クッキーなどは色々あったし、その中から適当に選べばいいだろう。


 だがお揃いのキーホルダーはしっかりと選ばなければならない。そのためには沙耶の好きなものを知るところから始めないとな。


「特にこれが好きっていうのはいないけど、やっぱりイルカとかかな~」


「イルカのキーホルダー全種類買えばいいかな?」


「極端すぎない?」


 金はあるから買えるんだが、流石に全部買うのはおかしいか。


「それより、お金あるの?」


「それなら気にするな。小遣い稼ぎ程度だが魔物狩ってゲフンゲフンちょっとバイトしているからな」


「えっと、魔物狩ってる———」


「そんな勝手に魔物を倒したら俺は怒られることになるんだぞ? そんなことを俺がするわけないじゃないか」


「怒られるだけじゃすまなそうだけど……」


 もう既にバレて怒られていることは黙っておこう。


 沢山狩ってかなりの額を稼いでいるが、逆にそういうことは言うとダサいと言われたことがあるから、それも言わないでおこう。


「と、とにかく! お金のことは気にしなくていいから、沙耶は何がいい?」


「え~……」


 沙耶はキーホルダーを眺めて、そして俺の方を向き、意地悪な笑みを浮かべて。


「……じゃあ、翔夜が選んで?」


「お、俺が?」


 俺がキーホルダーを選ぶのだと。


 俺が選んでしまってもいいのだろうか。沙耶の好みもまだしっかりわかっているわけではないのに。


「翔夜が選んだのが欲しいから……ダメかな?」


「全然だめじゃないです。でもセンスは期待しないでくれ……」


 そんな事を言われたら、選ばないわけにはいかないじゃないか。


「さて、どれがいいか……」


 沙耶に合いそうなもので、且つ俺が持っていても違和感のなさそうなもの。


 いやこの際俺が持つことは度外視して考えよう。沙耶に合うものを第一に考えて選ぼう。


 ちょっと待ってくれ、全部沙耶が持っていてもおかしくないし、何ならぴったりといっても過言ではない。


 つまりこの中ならどれを選んでも正解ということになる。


 だがしかし、それでは俺が選ぶ必要性はなくなってしまう。俺が選ぶからこそ意味があることなのだ。


 それでも、この中でいったいどれを選べばいいんだ……。


「翔夜、真面目に選んでるところ悪いんだけど……」


「なんだ?」


 顔は以前とキーホルダーに向いたまま、沙耶の言葉に耳を傾ける。


「あのね、ちょっとだけ、顔が怖いかなって……」


 悩みすぎて眉間にしわが寄ってしまっていたようだ。


 普段一緒にいる沙耶でも俺の顔が怖いと思うほどに酷かったのだろう。


 いけないいけない、気を付けなければな。


「凄い真剣なのは痛いほどわかるんだけど、ほら、キーホルダーを買うのは私たちだけじゃないから。翔夜がずっと睨んでいると、ほかの人に邪魔になっちゃうかなって……」


「……あー、なるほど……」


 周りを見渡すと、遠目に俺のことを見ている人が多数おり、俺が邪魔になっていることがいやでもわかってしまった。


 これでは沙耶に嫌な思いを抱かせてしまいかねない。もしかしたらもう嫌な気持ちを抱いている可能性だってある。


「……よし、これにしよう!」


 俺は直ぐに何を買うのか決め、その場を離れることにした。


 俺が選んだのは、二匹でハート形になっている、ペアキーホルダーだ。


 カップルはよくこういうのを持っているらしいし、判断は間違っていないはず。


 ただ判断するのが遅かったのが問題だな。これからは気を付けよう。


「あとは食べ物を何かかって、宇賀神さんからの連絡を待ちますか」


「うん、そうだね……」


「どうした、そんな暗い顔をして?」


「な、なんでもないよっ!」


 沙耶の顔を覗き込むと、少々暗い顔をしていた。


 なぜ今そのような表情を浮かべるのだろうか。


 まぁ当然俺が原因なわけだが。


「……俺が怖がられてるのは気にすんなよ?」


「えっ……」


「別にもうあの目には慣れたし、態々訂正させようとも思ってないしな」


 彼氏である俺が怖がられることがいやなのだろう。


 沙耶は優しい子だから、そういうことをほかの人よりも気にしてしまう傾向があるんじゃないかと俺は踏んだ。


「沙耶が俺のことをわかっててくれるなら、それだけでいいから」


「でも……」


「だから今は、楽しもうぜ!」


 今度は沙耶の前に出て顔を覗き込み、ニカッと笑った。


 それにつられる様に、沙耶も笑ってくれた。


「……実習中なのを忘れないでねっ!」


「わかってるよ!」


 これでいいんだ。沙耶は笑っている方が一番いい。


 周りの評価などいちいち気にしていたらキリがないのだから。


 俺がどう思われてようが、沙耶が俺のことを好きでいてくれるならそれだけで十分。


 

 食べ物のお土産を適当に選び、レジにて会計する。


「これお願いします」


 普通に沙耶と商品を渡した。


 だが店員さん、俺の顔を見て沙耶と俺の顔を見比べていたな。


 強面で悪かったな。もう少し表情に出さないようにしような。


 あと小声で「嘘っ」って言ったの聞こえているからな?


 隠す努力をしようか、接客業なんだからさ。


 会計を済ませ、ベンチに座り自販機で買った飲み物を飲む。


「あの店員さん、なんかヤダ……」


「いやまぁ、聞こえてたしなぁ……」


 人を見た目で判断するなとは一概には言えないけれども、店員なのだからもう少しさ、対応っていうものがあると思うんだ。


 せっかく沙耶が笑ってくれたのに、台無しじゃないか。


 まったく……沙耶を笑顔にしないとな。


「ほらほら、ブスッとしない。せっかくの可愛い顔が……いや怒ってても可愛いか」


「翔夜ったら、もうっ…………なんで顔隠してるの?」


「言ったセリフが恥ずかしくて……!」


 穴があったら入りたい思いだ。


 本音ではあるが、言った後に恥ずかしくなってきて顔が真っ赤になっているのがわかる。


「あっ、宇賀神さんから連絡が来たよ」


 ナイスタイミング! 宇賀神さん、こんな俺を救ってくれてありがとう。


 俺はその連絡が来た間に顔を仰ぎ、落ち着きを取り戻す。


 そして沙耶は宇賀神さんからの連絡を読んで、だが何故か怪訝な表情をする。


「宇賀神さん何だって?」


「一度外に来てほしいって……」


「外に?」


 何故外に出なければならないのかはわからない。


 だがそう言われたのならば従うほかないだろう。


「とにかく行こうか」


「そうだね」


 俺は先程買ったものをインベントリへと入れ、沙耶とともに外へと向かった。



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