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第百八十三話 監視とお土産


 イルカショーが始まる時間になり、俺たちは入口へと戻ってきた。


「宇賀神さん何処にいるんだろうね?」


「どこだろう……って、もしかしてあれか?」


 俺が指さす方向には、両手に抱えるほどお土産を買った宇賀神さんがいた。


「楽しんできたかい?」


「……宇賀神さんほどじゃないですけど、楽しんできました」


 よく見ると、水族館の売り場で買ったであろうリュックサックに、その口から飛び出している魚のぬいぐるみたち。両手にある袋にも様々なものが入っていた。


「これのどこが楽しんでいるというのだ?」


「いや何処からどう見ても!」


 この人はただ水族館が好きな人なんかじゃない。


 あれだ、オタクと呼ばれる人種だ。


 俺がすっげぇなぁと感心していると、沙耶は宇賀神さんに真剣な面持ちで問いかける。


「これから、私たちはどうするんですか?」


「イルカショーをみんなで見ようと思う」


「任務は!?」


「あまり大きな声で言わないでくれ……」


「あ、すみません……」


 宇賀神さんの発言に、思わずクソでかボイスでツッコんでしまった。


 いやでも、任務で来ているのにマジで水族館を満喫しようとしているじゃん。


 なら俺の発言も間違いではないだろうよ。


「一応半分くらいは冗談だ。イルカショーをただ見ているわけではない」


 冗談だということで少し安心したが、半分くらいはイルカショーを楽しむ目的のようだった。


 だが残りの半分は何をするのだろうか。


「というと?」


 俺が問うと、宇賀神さんは俺に顔を近づけ問い返してくる。


「君は確か、千里眼を使えたね?」


「はい、使えますけど……」


 俺が千里眼を使えること、そしてどの程度他の人たちより見ることができるのかも宇賀神さんは知っているのだろう。


 確認のため、という感じで聞いてきたそれに俺は肯定した。


「イルカショーをしている間は、館内は人が少なくなる」


「……だからイルカショーの間、三つ首の刺青が入った人を探せと?」


「正解だ」


 人が少なくなれば、それだけ人に見つからずに事を済ませることができる。


 つまりこのイルカショーを楽しむ人たちがいないときを見計らって、三つ首の刺青が入った者たちが何かをするのだろう。


 それを見つけるためには、俺の千里眼が打ってつけというわけだ。


「ただ、その探す人物はもうわかっているから、こいつを探して監視しててくれればいい」


 鮫の絵柄が入ったリュックからタブレット端末を出し、そこに映し出されている男性を見せる。


 この水族館で盗撮したであろうその男は、手の甲に三つ首の刺青があることが確認できた。


 この人、満喫してるだけだと思っていたけど、やることはしっかりやっていたよ。


「この男を監視して、俺はどうするんですか?」


「こいつが取引をするらしいから、その相手が来たら私に伝えてくれ」


「わかりました」


 


 いやでも、千里眼で見ている間は俺は動けない。二人はイルカショーの間何をするのだろうか。


「あれ、その間お二人は?」


「イルカショーを楽しむが?」


「おっとこの人学生に仕事任せて自分はイルカショー楽しもうとしてるよ!?」


 知ってたよ。


 知ってたけどさ、学生である俺が働いて社会人が平日の労働時間に労働しないでイルカショーを楽しむってどうなの?


「いや、君の実力なら千里眼で監視しながらショーを楽しむことくらいできるだろう。それなら問題ないだろう?」


「出来ませんけど!? 問題ありまくりですけど!?」


 この人は自分が楽しみたいからそう言っているのか、それとも俺のことを買い被りすぎているのかわからない。


 どちらにしても、俺は千里眼をしつつイルカショーを楽しむという行為は出来ない。少なくとも今は出来ない。


「……ふむ、ではこうしよう」


 顎に手を添え、少し考えた素振りを見えてそういうと、宇賀神さんは俺の手を握ってきた。


「「えっ……」」


 急に手を握られ、俺と沙耶は驚き硬直する。


「私に君の膨大な魔力をくれ」


 その発言の意味を理解するよりも、彼女以外の女性に手を握られたことに驚いてしまっている。


 ヤバい沙耶怒ってないかな。


 チラッと見ると、怒ってはないが複雑そうな表情をしていた。


「私自身、千里眼は使うことができるが、如何せん発動し続けるほどの魔力が無くてな」


「まぁ、それが普通ですからね……」


 神の使徒は普通とはかけ離れているからな。一般人には出来ない芸当が簡単にできるのだ。 


「距離も離れていると見えなくなる。しかし君のような膨大な魔力があれば見ることができるのだよ」


「……あぁ、なるほど、だから手を握ったわけですか」


「そうだ」


 宇賀神さん自身の魔力では千里眼を発動できないから、俺の魔力を使おうということだろう。


「彼女の前で心苦しいが、身体的接触がないと魔力譲受は出来なくてな」


 幸いというか、手でよかったなと思う。


 ライトノベルでは、よくキスをして魔力の譲渡を行っていたからな。


 流石にそんなことをしたならば、俺はどうなってしまうのだろうか。考えたくもないな。


「説明してからすればよかったな。すまない」


「い、いえ……必要なことですから」


 異性に対していかがわしい目的も一切持っていないことに沙耶は安心したようだ。


 俺もあり得ないとはわかっていても、彼女がいる手前内心ドギマギしてしまった。


「お詫びと言っては何だが、私が監視している間にお土産でも買うといい」


「……いいんですか、俺たちだけ」


「私はすでに満喫したしな。それに君らは学生だ、遠慮することはない」


「……じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」


「うむ、そうしなさい」


 宇賀神さんはそういって、手を離した。


「あの、魔力は……?」


「もうすでに受け取ったが?」


「いつの間に!?」


 普段魔法を使えばある程度くなる感覚がわかるものだが、今は魔力がなくなる感覚が全くなかった。


「普通は魔力がなくなっていけば気が付くものだがな……」


「翔夜は規格外ですから」


「それ褒めてる? 褒めてるよね?」


「褒めてるよっ」


「よっしゃ!」


「単純だな、君は」


「世の中単純に生きたほうがいいこともありますよ!」


 色々と考えすぎてしまって、悪い方向にばかり考えが行くことがある。


 そんなことをしていると幸せを感じにくくなってしまう。


「では、私の知らせを待って、君たちはデートを続行したまえ」


「もう任務じゃなくてデートでいいんだ……」


 その言葉を残して宇賀神さんはイルカショーへと向かった。


 その足取りはとても軽やかで、スキップまでしていた。


 恐らく千里眼をしつつ楽しめるのだろうな。


「じゃあ、お土産でも買うか!」


「そうだねっ」


 任務中ではあるが、俺たちはデートを続行することとした。



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