第百八十話 慰め
「いやぁ、ご飯美味しかったですね!」
「茅ったら、もう少し遠慮ってものを……」
「鈴はもう少し肩の力を抜いたら~?」
昼食を食べ終え、俺と沙耶、使い魔たちはくつろいでいた。
母さんたちは早々に仕事に戻ってしまったが、学生である俺たちはまだ休んでいていいと言っていた。
俺はその言葉に甘えてソファに寝転がっていたのだが、沙耶が隣に座って来た。
「翔夜、あんまり無茶なことはしないでね?」
「無茶……あー、遠距離が面倒になって近接戦したことか」
先程の戦いで俺は、魔物の体液を浴びるほど超近距離で戦ってしまっていた。
遠距離で戦うよりも、俺は近距離で戦うことの方が性に合っている。
「臭くなっちゃうし、それに心配だし……」
「あれくらいの敵にやられるわけないだろ?」
だがそのせいで沙耶に心配をかけてしまっていた。
独りよがりで戦ってしまう癖を直していかなければな。
俺は起き上がり、沙耶の頭をなでる。
「でも、心配してくれてありがとな」
「……もうっ」
こういう事をしても許されるって、やっぱりカップルっていいもんだな。
今までは視界に入ったカップルは全員くたばれとか思っていたけど、人の幸せを願うことの出来ないものに幸せはやってこないよな、うん。
「イチャついてるところ悪いんだが……」
「べ、別にイチャついてないし!」
「そ、そうですよ!」
沙耶しか視界に入っていなかったため、剛力さんたちが来ていることとに気が付かなかった。
「……お前らって、なんか、初心だな」
「例え母さんの部下だとしても、俺たちのプライベートに口出すのはやめていただきたい!」
「そうよ、二人には二人のスピードっていうものがあるのよ?」
「そうだぞ、例えカメのような遅さだとしてもだ」
「おっと父さん今のは馬鹿にしていないか?」
剛力さんは俺たちの関係について何か言ってきたが、両親から援護射撃があった。
俺たちはゆっくりでも関係を築いていっているのだ。外野から言われる筋合いはない。
「確かにそうですね。俺が何か言うことでもないですね」
「それにそんな事を言って、翔夜に続いて沙耶ちゃんまで非行に走っちゃったらどうするのよ!」
「ちょっと母さん、俺は非行に走ったことは一度もないぞ? あと話が飛躍しすぎてる気がするぞ? 沙耶が悪いことをするわけがないだろう!?」
「……それもそうね、沙耶ちゃんがわるいことするわけがないものね」
「そうだな、翔夜は兎も角沙耶ちゃんはそんなことしないだろう」
「な、何故かお母様とお父様の中での私が聖人君主になってる気が……」
「俺が非行に走ったことは否定してくれないの!? ねぇ!?」
沙耶が悪いことをするなんてことは誰も考えていない。
だけど俺だって別に非行に走ったことはないぞ。
山を消し飛ばしたり犯罪者集団を吹っ飛ばしたり勝手に魔物を狩ったり、まぁいろいろしてるけどさ……。それは必要なことであって、非行に走ったわけじゃないから。
「兎も角、先程の話した通り、この子たちには仕事を手伝ってもらいます」
「何をお手伝いすればよいのですか?」
「みんな、無視しないで……」
そんな俺の発言も空しく、またもや無視されて話し合いが始まってしまった。
しかも俺抜きで話し合いが始まり、俺は悲しくなり談笑している使い魔たちの下に向かった。
「ど、どうしたのですか主様?」
「なぁ鈴、みんな俺のことを無視するんだ……」
座っている鈴の膝に顔をうずめるようにして寝転がり、めんどくさい彼女のようにかまってちゃんを発動する。
「えっと、それは、信頼の証ではないでしょうか?」
「無視することが……?」
「主様がへこたれることのない強靭なお人だと、それをわかっているからこその対応ではないでしょうか?」
「そうかな……」
「少なくとも、私は主様を敬愛しております」
そういって鈴は俺の頭をなでてくれる。
「ですから、そうお気を落とされませんように」
「あるじー、ちょこたべる?」
「……二人とも、ありがとなっ」
「私も好きですよー!」
「茅もありがとな。あと妹のことをよろしくな」
「もちろんです!」
美少女たち三人に囲まれ、しかも俺のことを好いてくれているという。
彼女がいる身ではあるが、これはかなり嬉しいことだ。
それと同時に何故か背筋が凍るような視線を感じた。
どこだろうと体を起こして辺りを見渡すと、沙耶がこちらをゴミを見るような目で見ていた。
いや気のせいかもしれない。沙耶がそんなことをするはずが……いや目をこすって見ても間違いなかった。
それと両親も剛力さんもこちらを見ている。
やめてくれ、俺をそんな目で見ないでくれ。
「それじゃあ翔夜、行ってきてね」
「ごめん話聞いてなかったんだけど!? あとそのゴミを見るような目やめて!」