第百七十七話 犯罪者じゃないもん
召喚魔法を使えるのはお前だけじゃないんだよ。
俺だって頼れる使い魔を召喚できるのだ。
「な、なんだ———ぐはっ!」
男の後ろに現れた鈴と未桜は、人質を傷つけることなく男を一撃で気絶させた。
鈴の首トン初めて見たけど、あれ出来るのって凄いな。
死んでないよな?
「二人とも、よく来てくれたな」
死んでいるかは兎も角として、まずは二人が来てくれたことに感謝しなければな。
正直、来てくれるかは賭けだった。だが二人なら必ず俺の呼びかけに答えてくれると踏んだ。
「いえ、呼ばれれば必ず参上します」
「あるじがよんだらくるよー」
「ありがとう! 大好きだぞ二人とも!」
俺は二人に駆け寄り、両手で抱き寄せた。
「こ、光栄です……!」
「おかしちょうだい?」
「あとで買ってあげる!」
未桜は何もしていなかったように見えたけど、来てくれただけ嬉しかったから後でお菓子を買ってあげよう。
「ですが、私たちが来なくとも問題なかったのでは?」
「いや、魔力の動きが見られていたらしいから、下手に動けなかったんだよ」
魔力の動きを見ていると言っていたし、ならば召喚魔法なら呼ぶだけで来てくれるから俺の魔力が減るだけで動きがあるわけじゃない。
そもそも膨大な魔力を持っているので、多少減ったところで相手にわかるわけもなかった。
それに、他の魔法を発動させては人質が怪我するかもしれなかったため、この場では最適解だろう。
「あるじなら、こいつがうごくまえにどーにかできたでしょー」
「いやいやいや、人質いる時に出来ないって!」
「あるじなら、できる」
「あら凄い自信だこと!」
それほどまでに信頼されるのは主冥利に尽きるけど、俺はそこまで凄い人間ではないんだよ。
ただ、ちょっとほかの人より頑丈で魔力が多くて魔法が使えるだけの神の使徒だから。
凄い人間って言うか、俺人間じゃなかったな。
「あの、主様……」
「なんだ?」
「その……人質はどちらに?」
「どこって……あれ?」
何やら不安げな表情で尋ねてくるので何事かと思ったら、先程までいた人質がいなくなってしまっていた。
「……確かにいたよな?」
「えぇ、私もこの目で見ましたし……。それに、この男のほかに匂いがありますし……」
鈴は倒れている男に近づき、実際に人がいたという匂いがあるらしい。
そういえばと、俺も思い返してみると、確かに女性が付けているようなフローラルな香りがあったのを思い出す。
「あー、そういえば確かに香水の匂いがしたな」
「そうだね、おばさ———」
「こらこらこらこら、いないけれどもそういうことを言ってはいけません」
俺も男の近くに行ってもう一度しっかり匂いを嗅いだが、未桜が失礼な事を言いかけたので慌てて口を閉ざした。
「付けていた人は嗅覚が鈍感だっただけだろうから、そういうことを他では言ってはいけませんよ?」
「はーい」
「主様も大概だと思いますが……」
シリアスな雰囲気があったからあまり気にしないようにしてたけど、匂い強いなとは思っていた。
だからそんな人がいなくなっていることに気が付かなかったことが不思議だ。まるで転移したような……。
「翔夜~」
「おっ、漸く来たか」
考え込んでいると、後ろの方から沙耶の声が聞こえた。
「もしかして……」
「おう、見てのとおりだよ!」
男が気絶して、俺たちが無傷でいるこの状況。
そして男には三つ首の刺青がある。誰がどう見ても俺たちがこの男を倒したと見れるだろう。
俺は誇らしく胸を張って見せた。
「翔夜、自主しなさい……」
「おっとこれは何か大きな勘違いをしてるぞ?」
母さんから自首を勧められてしまった。
どうやら母さんは俺が手をかけてしまったと考えているのだろう。
「この人生きてるよ? 俺殺してないよ?」
「健一さん、翔夜がとうとう……」
「そうか……」
「とうとうってなんだよ! いつかやると思ってた!? 残念俺は犯罪を犯すような極悪人ではありません~! 顔だけですぅ~!」
「言ってて悲しくないか?」
「剛力さんのような普通の顔の人にはわからないでしょうね!?」
「普通で悪かったな」
両親はどうやら俺を犯罪者に仕立て上げたようだな。人相で判断してはいけないからな。
もう少し息子を信用してほしい。
あと剛力さんは何をそんな怒っているのだろうか。普通の顔って俺からしたら誉め言葉なのに。
「ホントに死んでないよね……?」
「問題ありません。相手の魔力を乱しただけなので、気絶しているだけです」
「ちょっと何言ってるかわからないけど、生きてるならオールオッケー」
不安になって鈴に確認したけど、説明されてもちょっとわからなかった。
言っている意味は理解できるが、俺にそんなことは出来ないし初めて知った。
取り敢えず生きているなら、俺は犯罪者にならなくて済むな。
「あっ、この人……」
「おっ、沙耶は気づいてくれたか」