第百七十五話 出会い
転移魔法は、一度見たことがある場所、そしてしっかり覚えている場所でないと転移することができない。
そのため初めて転移する場所は、千里眼で見た後でしか行くことができない。
「よし、到着っ」
先程まで千里眼で視ていた場所に転移した俺は、辺りを見渡した。
魔物が出たということで簡単に見つかるだろうと思って、何も考えずにやってきた。
「あれ、魔物……」
魔物の姿はおろか、悲鳴すら聞こえてこない。
「いやでも通報あったよな……?」
魔物が再び出たと、そう通報があったからこそ俺は先駆けてやってきたのだ。
「千里眼でも…………いないよなぁ」
しかも千里眼を使って探してみるも、どこにも魔物の姿は見えなかった。
だが、ふと思い出した。同じ魔物ならば、風景に擬態して姿をくらませているのではないかと。
「……聞き込みか」
擬態するのは、得物を狙い定めている時。
ならば、それまでに何処にいたのかわかれば対処することができる。
少々苦手だが、俺は町の人に聞き込みをすることにした。
「あの~、ちょっといいですか?」
たまたま目の前を通りがかった人に、気さくに声をかけた。
「ひっ……な、なんでしょうか……?」
泣くな、俺。
怖がられるのなんていつものことだろう。
顔が怖いと思われているなんて日常茶飯事だったじゃないか。
最近は俺の顔に怖がる人はいなかっただけで、寧ろ急にこんな強面から声をかけられたらビックリするんだ。
そうだ、これが正常な判断なんだ。人の防衛反応なんだ。
よし、表情に出さずに会話を続けるんだ俺。頑張れ俺。
「こ……この辺で、魔物とか見ませんでしたか?」
えらい、俺。
泣かないでちゃんと聞くことができたぞ。こいつは表彰ものだな。
「ま、魔物ですか……。確か、あっちの方でそんな話をしている人たちが、いたような……」
「マジっすか!?」
「ひっ……! で、では私はこれで……!」
女性は怯えた様子で自身が来た道を指さし教えてくれた。
だが俺は、情報が直ぐに手に入って大きな声を上げてしまった。
それがいけなかったのだろう。女性は逃げるように足早に去っていった。
「ひっひっふー……」
泣かなかった、泣かなかったよ、俺。人前で泣かなかったんだよ……!
誰か褒めてよ。
「くそったれぇぇぇぇぇ!」
泣くくことはなかったが、とても悲しかった。
その悲しさを消し飛ばすために、俺は女性の言った方向に全力疾走した。
何故か地面が陥没してしまっていたが、気にしないでおこう。
「視線が痛いな……! 泣きそうだぜ……!」
決して、俺のせいではない。周りの人たちは俺のことを見ているが、俺のせいではない。
そんなことを考えて走り続けていると、大きな丁字路についた。
「……情報はデマだった?」
女性が指さした方向に走り続けてきたが、もう左右の道しか残っていない。
もしかしたら女性が聞き間違いをした可能性もある。
そう思い来た道を戻りかけた。
「いやちょっとまて、この臭い……」
先程魔物と戦った時と同じ臭いがした。
辺りを見渡すと、頭上に今にも女性に襲い掛かりそうな魔物が一匹いた。
「いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は姿を見たその瞬間、風魔法を放った。
「死に晒せぇ!」
襲い掛かろうとした魔物は、女性に触れることはかなわず木っ端微塵に切り刻まれた。
多少周りが臭くなるだろうが、襲われるよりはましだろう。
「おっし遠距離攻撃当たったぜ!」
もう臭くなるのは嫌だからな。
「お前、新しい魔法師か?」
そんな俺に話しかける男がいた。