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第百七十四話 魔物、再び


「まず、今回の実習では君たちには僕らの手伝いをしてもらおうと思ってます」


 剛力さんから、今日から俺たちが行う実習について大まかに説明される。


「質問いいですか?」


「なんでしょう?」


「手伝いとは、具体的に何をするんですか?」


 沙耶がおずおずと質問をしたが、それは俺も気になっていた。


 それに対し剛力さんは、少し考えた後父さんと母さんに耳打ちした。


「どこまでやらせます?」


「危険のないくらいでしょ」


「翔夜は危険があっても問題ないと思うのだけどね~」


「おいコラ聞こえてるぞ」


 何やら物騒な話が聞こえたが、咳払いをして剛力さんは説明を始める。


「まず、僕らの仕事は主に魔物を狩ることだ。だから、その補助をしてもらおうかと思ってます」


「さっきみたいなことをすればいいんですか?」


「確かにそうなんだけど、素手で殴ったりするような危険なことはちょっと……」


「……うっす」


 実習でも流石に超近距離で戦っていいわけではないようだった。


 安全にやれということだろう。


「まぁ私の子だし、別に大丈夫でしょ」


「なんか俺の扱いが最近雑だと思うんだ」


「気のせいよ」


 気のせいで片づけていい事じゃあないと思うのだけれども。


 神の使徒だし、多少無茶なことをしても問題はないが、それでも雑に扱われると悲しくなるぞ。


 信頼の表れかもしれないけど、それでももう少し優しく接してほしい。


「あっ、沙耶ちゃんは危ないことはしないようにね」


「そうだな、見学だけでもいいぞ」


「いや、それは……」


「それじゃあ実習にならないでしょう……」


 俺に危険なことはさせてもいいが、沙耶はダメらしかった。


 確かに危険なことをさせるのは反対だが、それでは実習の意味がないだろう。


「俺が危険な目に合わせないから一緒に戦ってもいいだろ」


 どんな強敵が現れようとも、俺が命がけで守ればいい話で。


 つまりは、俺と同じく魔物と戦わせろということだ。


「ひゅーひゅー」


「おあついね~」


「うっわこの両親腹立つ」


 だが両親には俺の思いは通じず、からかわれてしまった。


 緊張感の欠片もなく、いつも通りの日常風景になってしまっているが、本当にこんなことをしていていいのだろうか。


「電話が入ったのでちょっと失礼」


 二言三言話して、剛力さんは先程とは違い真面目な顔つきで母さんに向き直る。


「どうしたの?」


「先程の街中に現れた魔物、どうやら人為的に呼ばれたようなんです」


「やっぱり。普通あんなところに現れたりしないわよね」


 先程の魔物は自然に現れたのではなく、誰かの仕業ということだった。


「なんで人為的だと?」


「そりゃあ、普通街中に現れないでしょ」


「そうなの?」


 俺は基準がわからないため、沙耶に助けを求める。


「うん、そうだよ」


 沙耶がそういうのならば間違いないな。


 そして沙耶は続けて、俺のためにわかりやすく説明をしてくれた。


「魔物は魔力の多いところに発生して、分布してるの」


「街中は魔力が少ないのか?」


「う~ん、そういうわけじゃないんだけど……」


 その質問には口を濁し、どう説明したらいいか悩んでいた。


 そこに母さんが助け船を出した。


「あれよ、街中より自然だと空気がおいしいでしょ? なら自然の方がいいでしょ」


「ん~、何となくわかった!」


 汚いところよりかは綺麗なところを好むということだろう。


 後で調べておこう。


「原因はなに?」


 母さんが真面目に尋ねる。


「その場にいた警察官が、魔物を召喚した者を目撃したそうです」


「誰か特定できたの?」


「いいえ。ただ———」


 剛力さんはそう言って、懐から写真を一枚手渡した。


「全員が、この刺青が入っていたそうです」


「あ~……」


「こいつらか……」


 母さんはみんなの見えるよう、机にその写真を置いた。


 出された写真には、盗撮したであろう角度でガタイのいい男が写っていた。


 そしてその男首元に刺青があり、それは三つの頭のある獣が入っていた。


「なんだこれ?」


「えっと……ケルベロスかな?」


 沙耶の言う通り、それはケルベロスだろう。


 それは赤く、周りを威圧しているといっても過言ではないほど特徴的だった。


「俺たちは『三つ首』って呼んでる」


「最近現れた犯罪者集団よ」


「いろいろと問題を起こしているんですよ」


 ケルベロスだから三つ首というわけか。


 その犯罪者集団を表す、いわばシンボルのようなものなのだろうな。


「じゃあ全員逮捕すればいいんじゃないの?」


「そうもいかないのよ」


「なんで?」


 犯罪者集団ならば、逮捕すればいい話だ。


 だかそう簡単には行かないらしい。


「何故か証拠がなくってね」


「あ~、面倒だな」


「状況証拠としては絶対そいつらなんだけどね~」


 証拠がなければ立件することはできない。


 本来は警察の仕事だろうが、魔物がかかわってくるならば魔法師も関与せざるを得ない。


 魔物だけではなく、人も相手するというのはこういうパターンがあるからだろう。


「なら、現行犯逮捕すればいいわけだな」


「簡単に言うけどねぇ…………あっ、そういえば……翔夜は確か千里眼使えたわよね」


「使えるな」


「じゃあ、街中も視れるわよね?」


「もちろん」


 何となく話が見えてきたぞ。


「現行犯で捕まえたいから、こいつら探してほしいわね~」


「……あの、面倒———」


「あー早く捕まえないと沙耶ちゃんとデートできる場所が減っちゃうな~」


「ほう母さんはそんなことで俺が動くと思っているのか?」


 全く、俺がどれだけ単純で操りやすい人間だったとしても、沙耶の名前を出すだけで動くと本当に思っているのだろうか。


「ちょっとこいつら見つけ出します」


「ありがと~」


 俺は結構単純だったようだ。


「えっと、頑張ってっ!」


「おう、頑張る」


 俺は千里眼を発動させ、街中を視る。


 ついでに、沙耶とデートするにはどこがいいか考えながら探そう。


「あの、また魔物が街中で出たそうです」


「えっ……」


 俺が探し始めた矢先に魔物が出現するなんて。


 確かに千里眼でも魔物が現れて市民が避難しているのが視えた。


「……使えないわね」


「思ってても言っていいことと悪いことがあると思うんだ!? あと息子に対してそんなこと言うなんて、マジで俺泣きそうになるぞ!?」


「しょ、翔夜が転移して魔物を退治すれば、千里眼をやった意味があるんじゃないかな?」


「なるほど! じゃあ先に行ってくるぜ!」


「あ、私も———」


 その言葉を俺は最後まで聞かずに転移してしまった。



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