第百七十三話 オリエンテーション
「こいつで最後だ」
街中に現れた魔物の最後の一匹を殴り飛ばし、一息つく。
辺りにはカメレオンのような見た目の魔物が散乱しており、そして物凄く臭かった。
「早く帰ろう……」
ずっと殴り飛ばしていたため、体液が少々ついてしまって更に臭いのだ。
「流石お二人のお子さんですね」
「まぁ私の可愛い娘だもの!」
「そうだな、こんな可愛い娘なんだから当たり前だな!」
「あ、ありがとうございます?」
「いや待ってこっちこっち。可愛い息子こっちだよ?」
遠くから攻撃を仕掛けていた四人は、俺のように体液を浴びることなく、またこの匂いに苛まれることもなく無事だった。
「狩り終えたかしらね?」
「もう辺りにはいないぞ」
「そう、なら帰りましょうか」
「後始末とかしなくていいのか?」
魔物をすべて狩ることが出来たら完了、とはいかないだろう。
街中に魔物の死体を放置したままでは流石に住民に迷惑がかかってしまう。
「大丈夫よ、魔物の死体を回収してくれる人がいるから」
「回収班っていうところに後処理をいつもお願いしてるんだ」
「いろんな職業が絡んでいるんだな」
魔法師の仕事内容に魔物の死体を片づけることまで含まれていると思っていた。
だが実際は片づける専門の業者のような方がいることを知った。
実際に見て聞いて知ることは、実習ならではのことだよな。
「そうだ、一度家帰っていいかな?」
「どうしたの翔夜?」
「臭いから風呂に入りたい」
「あー、ずっと近距離で戦ってたからね……」
先程から会話するには少し遠いなと感じていたんだ。
狩り終わったから四人の所に行ったのに、何故か距離を感じていたんだ。
そうか、俺が思ってた以上に俺は臭かったのか。
「本部にシャワーあるからそこで済ませなさい」
「いや服も臭いぞ?」
「魔法でどうにかするわ」
「魔法って便利!」
俺たちはさっさとこの臭いエリアから離れるべく本部へと帰った。
正確には、俺は結界魔法で隔離された状態でシャワールームまで運ばれた。
周りからの視線が痛かった。
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「シャワーいただきましたー」
タオルを頭にかぶせて風呂上りかのような状態で戻ってきた。
「翔夜、ちゃんと洗った?」
「洗ったわ! 帰ってくる間誰も俺に近づかなかったからな! 念入りに臭いが残ってないかチェックしたわ!」
「ならいいけど」
何度も洗いすぎてちょっと痛くなるくらいには強く洗ったぞ。
もう沙耶から避けられるのは避けたいからな。
「じゃあ、来て早々に魔物を狩ることになってしまったけど、改めて説明でもしましょうか」
「ある程度はしてるわ。だから私たちが普段行っていることについて説明して頂戴」
「わかりました」
母さんから支持を受けて、剛力さんが話し始める。
「まず何について話すかな……あっ、俺は剛力一っていいます。これからよろしくね」
「「よろしくお願いします」」
「それで、メンバーは俺と纐纈さん二人を合わせて九人いるから、後で紹介するね」
所属している人数が多いのか少ないのかわからないが、全員母さんたちと同じくらいの強さを誇っているのだろう。
有事の際は頼もしいな。
「他の方々はどちらに?」
「今任務で出払ってるんだ」
「活動範囲が広いんですか?」
「そうだね~。他のところと違って、うちが担当するのは強大な魔物か早期解決するような事案が多いから、全国各地に行くことになるよ」
「大変ですね~」
任務で全国各地に行くのは普通の人は苦労するだろうな。
俺は転移魔法があるうえにジェット機以上のスピードで飛ぶこともできるだろうから問題ないがな。
「お茶だよ~」
「あっ、ありがとうございます」
「はい、翔夜にも」
「なんで俺にはお茶じゃなくてアイスなの? 食べるけどさ……」
母さんが俺たちに気をきかせてお茶を用意してくれた。
だが俺だけ何故かアイスだった。
美味しいからいいけど、なんでなの?
「食べたいの?」
「えっ、いや、その……」
そんな俺のアイスを沙耶はじっと見つめていた。
「ほら、どーぞ」
「えっ!?!?」
俺は自分が一口食べた後だが、スプーンですくって沙耶の口元に運ぶ。
「い、いただきます……!」
「美味しいよな」
「う、うん……」
「あっ……」
俺は沙耶が顔を真っ赤にしている理由に気が付き、そして気が付いてしまったために俺も顔を赤くして俯く。
「初々しいっすね……」
「見てて楽しいのよ!」
「これが若者の特権だよなぁ! 羨ましいぞ翔夜!」
うるさい外野を無視しつつ、どうしようか悩んだ。
カップルだしこれくらい普通だよな。うん、普通!
「そういうのは本人たちがいないところで話してくれ! あと二人は人目を憚らずにいちゃついてるだろうが!」
「話が逸れてるわよ。説明の続きをお願いね、りきちゃん」
「剛力です」
いや話を逸らしたのは母さんたちだぞ。元凶は俺たちだけれども。