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第百六十九話 実習先


 長いようで短かった夏休みも終え、俺たちは学校へとやってきた。


 前日はこの休みが終わるのかと絶望したが、沙耶と一緒に学校に行くと考えたら全く苦だと感じなくなった。


「おう怜、旅行ぶりだな」


「そうだね。翔夜は夏休み満喫した?」


「……ふふっ」


「あー、その顔でわかったよ……」


 怜も俺の顔を見てわかったことだろう。この夏休みは、とても充実したものだったと。


 なぜなら、ほぼ毎日といっていいほど沙耶と会って出掛けたりとかしたのだよ。


 いやもうホント楽しかった。付き合ったということで、今まで出来なかった『手をつなぐ』という幻の妙技を行うことができた。


 まぁ、陰から両親が見てきたときは流石に怒ったけれども。


「それで、キスはしたの?」


「……おい結奈よ、人のプライベートに首を突っ込むのはよろしくないぞ」


「顔真っ赤じゃん」


「うるせぇ! んなことできるわけないだろう!」


 手をつなぐことは、雰囲気と緊張と勢いでいけたのだ。


 だが、キスはマジで無理。嫌われたらどうしようとか、下手とか言われたらどうしようとか、そもそもキス自体を沙耶が嫌っているんじゃないかとか、色々なことを考えてしまう。


 俺と同じく顔を真っ赤にして隣で話を聞いていた沙耶は本当はどう思っているかわからないけどな。


「皆さんお久しぶりです。夏季休暇は謳歌できましたか?」


 俺と沙耶がはずかしさで逃げ出したい気持ちになっているところに、丁度タイミングよく先生が入ってきてくれた。


 先生が登場したことで、各々自分の席に戻り静かになっていく。


「そして皆さん、お忘れの方もいらっしゃると思いますが……」


「おいなんでこっちを見ているんだ?」


 何故か結奈が俺を見つめている。


 忘れていたと思っているのだろう。全く否定できないんだけどな。


「静かに。夏季休暇前にも説明しましたが、実習へ行くための準備をしてもらいます」


 先生は数枚が束になったプリントを学生たち全員に配った。


 それには、俺たちがこれから行く実習先が書かれていた。


「こんなに実習先があるのか……」


「そりゃあ、魔法師って職業の人が全員所属先が一緒ってわけじゃないしね」


「ふ~ん、医師や弁護士みたいなもんかな」


「そうだね」


 資格を持っていても、働いている病院や事務所は様々ということだろう。


 だから実習先で学べることは、その場所によって多少異なってくるのだろう。


 だからそこ、今自分が目指している場所で実習をすることが大切なのだろうな。


「休みの気分が抜けない方がいると思いますが……」


「おいだからなんでこっちを見るんだ」


 何故か再び結奈が俺を見つめている。


 全く誰が休みの気分が抜けていないと言うんだ。俺は休みの気分は抜けて沙耶とのデートプランを……あれ?


「静かに。えー、実習先で迷惑になるようなことのないように、これから私の方から詳しく説明したいと思います」


「あれ、先生もこっち見てない?」


 もしかして、先程から言っていたことは俺に向かって言っていたことなのだろうか。








 ===============








 俺が忘れていたことを仮定しての説明を先生がしてくれたため、今度こそ忘れないようにメモしながらしっかりと聞いた。


 とはいっても、俺たちはまだ高校一年生。危険なことのない体験実習であるため、そこまで難しいことは何もしない。


「翔夜はどこに実習に行くの?」


 話が終わり、配布された資料に書いてある実習先の中から、自分が行きたい実習先を先程書いて提供した。


 アンケート形式で第三希望まで書かれたものだったが、俺は第一希望しか書いていない。


「そりゃあ俺みたいな優秀な人材はヘッドハンティングだよ」


「優秀かはともかく、ヘッドハンティング……あー、ご両親のところ?」


「優秀だよ! 魔法だけだけどな!」


「翔夜のことだから、小間使いにされそう」


「おいおい結奈……まさか俺の両親がそんなことすると思ってるのか? 俺は思ってるがな」


「翔夜が思っちゃってるんだ……」


 母さん本人から楽できそうという発言が聞かれたため、俺は恐らく体験だけでは済まないだろう。


 確実に俺の魔法を当てにして、強大な魔物を狩ったりするのだろうと予測している。


「どーせ俺には力しかないから仕事押し付けることぐらい予想できるわ!」


「さ、流石にご両親でもそこまで……えっと……そのぉ……」


「沙耶も断言できないんだぞ! もう覚悟しているわ!」


 元々実習は退屈なものになるのだろうと考えていた。


 それが合法的に魔物を狩ることができるのだ。考え方によっては楽しい実習になりそうだ。


「そういう結奈はどこ行くんだ?」


「怜とエリーの三人で地元の楽そうなところ」


「うっわ実習を何だと思ってるんだよ」


「お触り程度の体験実習なんだから、楽なところでいいの」


「……確かにそうか」


「僕も楽がしたいみたいに言わないでほしいんだけど? ちゃんと選んだからね?」


「私も吟味してちゃんと決めましたからね?」


 三人にとって、というよりも俺たちにとって実習自体がそれほどビックイベントというわけではない。


 前もって中々の強さを誇る魔物を狩ったことがあり、ある程度肝が据わっている。


 そんな俺たちが実習で得られるのはそれほど多くないだろう。しかも体験実習ならば。


 なら結奈が楽をするのは強ち間違いではないのだろうな。



「土岐兄妹は?」


「俺たちは少々特殊なのでな。もうすでにどこに行くか決めてある」


「へぇ、どこに行くんだ?」


 土岐兄妹は、人間と魔物の間に生まれた存在だ。人造人間やホムンクルスといった類の存在になってくるため、学生でありつつ『とある組織』に管理されているのだ。


 俺は資料をとって名前を待つ。


「シスト」


「……あ~、そっか」


 シスト。正式名称は国家機密諜報制圧部隊。とある組織とは、まさにその組織のことだ。


 公には知られていない部隊であり、現在学生でありながらもそこで活動しているのだ。


 名前のとおりの活動を主なものとしており、俺も詳しく知っているわけではない。


 二人は管理されているが、俺も監視対象となっているため事前に実習先を決められたのだろう。


「では皆さん、実習を頑張りましょう!」


「翔夜は問題起こさないように」


「なんで俺だけなんだよ!」


 エリーが締めくくってくれようとしたのに、結奈は最後の最後まで俺をからかわないと気が済まないようだ。



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