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第百六十五話 勝ち組


 沙耶と二人で宿へと戻り、特に何事もなく夜が明けた。


 一緒に帰ってきて、そこで一緒に寝る勇気は俺にはなく、只々告白の興奮が冷めやらぬ状態で一夜を過ごしたのだ。


 告白に成功しただけでも御の字なのだ、添い寝という高望みをしてはいけない。


「ふへっ、ふへへへへ……」


 起床し、若干一名を除き全員揃って朝食をとっている。


 寝れば興奮が冷めると思っていたが、そんなことは一切なかった。起きてからずっと口角が上がりっぱなしだ。


「キモい」


「キモい言うな」


「事実じゃん」


「うるせぇ……ふふっ」


 雪先生に引かれながら苦言を呈されたが、それでも俺のニヤつきは止まらなかった。


「翔夜、流石にちょっと自重したほうがいいよ?」


「怜まで!?」


 今の自分はそこまで酷いものなのだろうか。


 両頬を引っ張ってどうにか鎮めようとするも、中々元には戻らなかった。


「ほれ、お前たちから何か報告があるんだろう?」


「えっ、そうなんですか師匠?」


「そうだよぉ?」


「てめぇじゃねぇ」


 俺と沙耶を指さし、雪先生はその場にいる全員に聞こえるように言った。


 あと師匠呼びについてはここで争わないでいただきたい。


「えー皆さん、ご報告が———」


「早く言え」


「せっかち過ぎない!? まぁいいけどさ……」


 ここにいる全員が俺たちに視線を注ぎ、だがそれに沙耶が顔を伏せてしまっているため、俺が恥ずかしながらも言うこととした。


「この度、俺たち付き合うことになりました!」


 隣の沙耶を見ると、顔を伏せてよく見えないが、俺と同じく口角が上がっているのが見えた。


 俺と同じく沙耶も同じ気持ちだと思うと、こう、込み上げてくるものがあるな。


「おめでとう!」


 誰だったか、最初に言ったのはわからないが、その声を皮切りにその場の全員から祝福の言葉をもらった。 


 こうしてみんなに祝福されるというものは、いいものだな。


 俺は隣にいる沙耶の手を握り、その幸せが本物であることを実感した。


「まー計画はなんも役に立たなかったけど、みんな色々と相談に乗ってくれてありがとう!」


「はっ? お前あれだけ徹底して話を詰めたのに……」


「おう、頭真っ白になった!!!」


 本番では失敗が許されず、またカンペを見ながら行うことは出来ない。


 またその時の俺は全くといっていいほど頭が回らず、実直に、素直に、只々思いをぶつけただけだった。


 正しかったかなんてわからないが、それでも結果オーライであろう。


「……まぁ、翔夜らしいか」


「俺らしいとはいったい……」


 本番で実力を発揮できないことを言っているのだろうか。


 だとしたら心外だ……と思ったけど事実だから何も言い返せないや。


「だがなぁ、アタシの時間を奪っておいて無駄でしたとは、どういう了見だ?」


「うるせぇマジで緊張して何言っているかさえもわからなかったんだからな!?」


「そういうことじゃねぇ、何か埋め合わせしろって言ってんだ!」


「えっ……俺には彼女いるから無理だな」


「ニヤニヤしながら言うんじゃねえよ気持ち悪い!」


「気持ち悪いは余計だ!」


 沙耶と付き合う前であれば、雪先生の埋め合わせに付き合っただろう。


 だが今は沙耶という彼女がいる。例え先生でも彼女がいる身でありながらプライベートで会うのは不義理というものだろう。


「しょ、翔夜……私も嬉しいけど、ずっとニヤニヤしてるはちょっと……」


「さ、沙耶まで……!?」


「お~? 破局か~?」


「なんで嬉しそうなんだよ!」


 俺が沙耶と別れることがあった場合、自害するしかないだろう。


 それは俺が間接的に死ぬことを喜んでいるのだろうか。


 だとしたら悪魔じゃねぇか。


「一応ニヤニヤするのは頑張って控えます。けどな……」


 表情については最善を尽くすよう努める所存でございます。


 ですが、俺の思いは以前変わりなく。


「俺はこれから、一生をかけて沙耶を幸せにすると誓ったからな!」


 例え俺が沙耶に嫌われたとしても、俺は俺自身の心に誓ったことに従って沙耶を守り通そう。


 その覚悟をもって俺は告白したわけだから。


「しょ、翔夜……恥ずかしい……!」


「翔夜って歯の浮くようなセリフを平気で言えるよね」


「あれだ、恥ずかしさとかないんだろ」


「失礼なことを言う奴だな!」


 本心を何も着飾らずに言っているだけなのに、どうしてこうまで言われなければいけないのか。


 いやまぁ、客観的に見たら、そっか……。


「で、でも! 私は嬉しいよっ」


「……ほら見ろ、みたいな表情すんじゃねぇよ?」


「な、何故分かった……!?」


「恋愛フィルターってすごいね……」


 どんなことでも、自分の好きな人が認めてくれているというのは嬉しいんだよ。


 表情で分かってしまうほどに感情が湧き出てくるんだよ。




「そういや結奈は?」


「あー、機能の戦いが疲れて寝てるよ」


「そうか、余裕そうだったが疲れてたのか」


 あれだけの戦いをしたのだ、俺たちに弱みを見せないようにしていたのかもしれない。


 後でねぎらいの言葉をかけてやるか。それともパフェとか奢ったほうがいいかな。 


「ん? どうした沙耶?」


「な、何でもないよ……」


「そうか……?」


 何か考え事でもしているのか、やけに険しい表情をしていた。


 だが俺には、その表情の意味が分からなかった。



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